軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで一騎打ち。

ツドァリと言う名の落とし子が設置した罠の隠匿性は高く、全てを発見し対処することは例え罠の専門家がチームに含まれていようとも無理だと分かる。だけども発動した罠に対応できる者が大半を占めている突入メンバーからすれば、進むことはそう難しいことでもない。

「『紫』さん、大丈夫?」

「ええ、問題ないわよウルフェ?意識外からの奇襲ばかりだとしても、私に傷を付けるにはちょっと威力が足りないわよね?」

宝石へと変化している悪魔達には、それぞれの方向から迫る罠の脅威に対応するように命じてある。気づけば顔の横で毒矢が止まっていたり、壁から突き出された槍の残骸が目の前に転がってきたりするのはちょっと気分が悪くなるけども、特に問題はない。

「主様、ここはやはり私が矢面に……」

「貴方は自分の出番に備えてなさい?」

小声でいちいち囁いてくるデュヴレオリの過保護さには時折苛立ちも覚えたくなるが、溶け込んでいる自分の影を少しばかり強く踏むことで余計な感情を湧かせないようにする。

彼が言うには私達がこの場所を進んでいる姿は、あの時逃したリティアルと言う男に伝わっている。その情報を元にリティアルは私達に効果的な策を講じてくるので、可能な限りローブを被った者達の姿は見られないようにと言われている。

デュヴレオリが突入メンバーにいることは予想されているとしても、影に潜んでいるのかローブ姿の人物なのかで揺さぶりを掛けることはできる。例え私の傍にいることが当たり前だと認識されていても、だからこそと奇をてらう可能性を残せる。

「相手もローブを嫌っているみたい!ウルフェが護ります!」

「ええ、私の面倒は私で見るからお願いね?」

ローブを被る担当となった者は、基本的に中層まで主だった行動をしないようにと言われている。ラクラが結界による攻撃や防御を行ったり、ミクスがナイフを投げたりすればそこから素性が判明してしまう恐れがあるからだ。

だから可能な限り素顔を晒している者が前に出て、罠と敵の攻撃を引き受けなければならない。私に対して襲いかかる罠や敵の脅威ならば自前の悪魔でどうとでもできるけど、他の者達のカバーまでする余裕はない。

ま、そんなことを気にしても意味のないことよね。だってウルフェ一人がいればこの辺の罠や雑魚では何一つ問題にならないのだから。

「主様、前方の曲がり角に敵がいます」

「ウルフェ、その先に人よ?」

「はいっ!」

曲がり角から敵が飛び出すよりも早く、ウルフェの方が先に飛び込み敵を無力化する。罠ならば気取られないかもしれないけど、人なら臭いはどうしても残ってしまう。デュヴレオリの鼻と耳ならば、例え各国の暗部クラスの人物が潜んでいたとしても先んじて発見することができる。

「敵の中枢だと言うのに、随分と温い警備よね?彼が本気になり過ぎただけかしら?」

「ししょーは敵の脅威を見誤ることはしません!」

「……そうね?私自身がよく知っていることだったわね?」

「主様、あの人間はこの上層は時間稼ぎ程度の役割しか担っていないだろうと言っていました。敵にとっての本命は中層のはずです」

「知っているわよ?少しくらい調子に乗った言葉を吐く余裕くらい持てないのかしら?」

影をその場でぐりぐりと踏みつける。そんなわかりきったことをいちいち補足される必要なんてない。この悪魔はなんでもそのまま受け取り過ぎなのが欠点なのよね。

「……いえ、はい。申し訳ありません」

「『紫』、ウルフェとデュヴレオリで態度大分違う」

「これは私の道具で、貴方は彼の弟子であり大切な存在。同じ方がどうかしているわよ?」

ウルフェが彼のことを強く想っていることは知っている。自らの人生を『碧』に捧げてまで彼の命を救おうと選択する光景を見せられたのだから当然ではあるけど。それに彼が大切にしている者を大切にすると言うのも悪くない。見た目も可愛らしいのだから、簡単に楽しめる方を選ぶのは自然なこと。

「デュヴレオリ、ちょっと不憫」

「それくらいがいいのよ?その方がご褒美の価値も上がるじゃない?」

上層を問題なく進み続けると、やがて分かれ道に遭遇する機会がなくなってきた。罠の数も減り、人間の敵の姿も見えなくなっている。凡そ頭に入っている地図が間違っていなければ、そろそろ中層に辿り付く頃合い。

「――随分と豪勢な扉があるわね?」

回廊を進み続け、目の前に扉を発見した。これまでに見かけたものとは一回りほど大きく、装飾も凝らされている。デュヴレオリの警告もないことから、ウルフェが静かに扉に手を掛けて開いていく。

扉の先にあるのは礼拝堂のような空間。ユグラ教のものではなく、遥か昔に衰退した一神教のもの。まあこの地下遺跡は魔王から逃げる為に造られたのだから、その後に繁栄したユグラ教の影響がここに及んでいるわけないのよね。ただ籠城用に備えているのか、壁には礼拝堂には不相応な槍がいくつも飾られている。

「――私にとって、全ての始まりの悪が目の前に現れ、そして私がその足止めを任される。これもまた、私に与えられた天命か」

礼拝堂の奥には十数人ほどの人影があり、その中央には禍々しい槍を携えたセラエスの姿がある。セラエスの格好はユグラ教の大司教の服装ではなく、まるで戦いに馳せ参じる騎士のような鎧を着ている。

それよりも警戒すべきは槍、あれは間違いなく魔槍の一振り。かつて『黒』の配下である魔族が携えていたのは覚えているが、生憎と関わり合う機会はなかったので能力までは判らない。

「あら、私ってくじ運がいいのね?現状一番殺したい相手に会えたわ?」

もちろん全員殺せるものなら殺してしまった方が良いと判断できる相手ではあるけど、このセラエスには特に恨みがある。味方の立場でありながら彼を死ぬ間際まで追い詰め、私にあんな思いをさせたのだから。

「(主様、あの槍は――)」

「(貴方はまだよ?私達はウルフェのおかげで手早くこの中層まで辿り付けたけど、他のチームはもう少し掛かるでしょう?ウルフェで対応できるうちは大人しくしていなさい?)」

セラエスは以前ハークドックに敗れ、あと少しで捕獲できる寸前まで追い込むことができた相手。ネクトハールやアークリアルと比べれば格下なのは間違いない。それならばウルフェだけでも十分、他のチームの有利を少しでも維持しておいた方が得策よね。

「セラエス……お前がししょーを……!」

「ウルフェ、落ち着きなさい?女の恨みは顔には出さず、体の奥底で煮え滾らせるものよ?」

「ユグラの星の民……か。あの男を調教さえすれば、貴様や他の魔王を一網打尽にできると安易な欲に正義の決断が鈍ってしまっていた。思えばあの大罪人を生かしたことが、そもそもの間違いではあったな」

「――やっぱり今のアドバイスはなかったことにしていいわ」

彼を純粋な敵として扱うのであれば、それは相対する者として当然の態度。だけどこの男は彼を道具や手段として、私を始末するついでのように扱った。それは彼を軽んじていると言うこと、到底許せない。

悪魔を展開し、左右と正面から同時に仕掛けさせる。爪、牙、角、あらゆる鋭利な部位を備えた異形の腕がセラエスとその取り巻きへと奔る。

「無駄だ」

しかしその腕はセラエス達の正面で見えない壁に阻まれるように弾かれた。大司教クラスなのだから、結界魔法は習熟しているのは想定済みだけども……感触が少し妙ね?

「ならこれでっ!」

異形の腕の影からウルフェが飛び込み、その拳をセラエスへと叩き込もうとする。しかしその拳もまた結界に阻まれ、セラエスの体までは届かない。……これはやはりおかしい。

「ウルフェ、貴方今手加減したの?」

「全力じゃないけど、ラクラの結界でも割れるくらいには思い切りやってる!あれ、とても固い!」

ラクラの結界はユグラ教の聖職者の中でも群を抜いて高い強度を持つ。その結界を容易く突破できるのはイリアス、デュヴレオリ、そしてウルフェくらいなもの。ウルフェからすれば目の前で私の攻撃が結界によって阻まれたのだから、それを突破する程度の威力を込めていたことには違いない。

だけどそれでもあの結界は破れなかった。セラエスがそれほどまでに高度な結界を張れるのであれば、事前に情報としてユグラ教側から説明の一つや二つあったはず。考えられるのはセラエス個人の実力ではなく、その手にしている魔槍の力――

「聞いたことがありますね。黒の魔王の配下には非常に好戦的な魔槍使いがいて、特に一騎打ち、それも同じ武器による技量比べを楽しんでいた者がいたと」

「ちょっと、貴方勝手に喋って――」

「情報を与えなければこのまま延々と時間を稼がれますよ?」

声を出したのはローブを被っていた者の一人、ニールリャテス。可能ならばこの魔族にはずっと姿を隠していて欲しかったのだけれど……でも今気になる情報が聞こえたわね?

「……知っていることを話しなさい?」

「私もそこまで詳しくはないですよー?確か……色々と複雑な条件を満たした場合のみ、互いに戦うことができるって地味に嫌らしい能力を持った槍です」

よく分からないけど、条件を満たさなければ戦闘行為自体が行えないと言うこと?そう言えばセラエスから仕掛けてくる様子もない。……考えていても埒が明かないわね?ならその話に合わせてみるしかない。

悪魔を一体手の上で変形させ、槍の形状を取らせる。そしてそのままセラエスに向かって投擲を試みる。

「――ふん」

セラエスは手にした槍で、飛んできた槍を弾いて見せた。なるほど、そういうことね?

「そう、その槍は『槍を使った戦闘しか認めない』のね?」

恐らくこの壁に掛けられている沢山の槍は条件を満たす為なのだろう。『相手が槍を手にすることが出来る状況』を満たしたことであの槍は能力を発動している。能力が発動してしまっている条件下では、私達は相手の用意したルールに沿わなければ戦うことすらできないと……。

「流石は紫の魔王ですね!じゃああとは頑張ってください!」

「もう、貴方も戦ったらどうなの?」

「私槍は苦手でして!」

「それを言ったら、ここにいる全員槍なんて使わないわよ?」

投げた槍を弾いたセラエスの槍捌き、それはかなり洗練された動きだった。聖職者の中には棍棒や槍を習熟する者がいるとは聞いていたし、セラエスが過去に槍の鍛錬を積んでいたとしても不思議じゃない。とは言え以前ハークドック達と戦闘を行った際は魔法を主体に戦っていたのだから、槍が一番得意だと言うわけでもないわよね。

「ウルフェが行きます!」

「そうね、でもその槍は使わない方がいいわよ?敵が用意した武器なんて、不良品や罠が仕込まれていても不思議じゃないもの?」

壁に飾られていた槍に手を伸ばそうとしていたウルフェを引き止め、宝石の悪魔で模った槍を手渡す。ウルフェは数度槍を振るい、感触を確かめつつ頷く。

「業物!」

「ありがとう、でも貴方の全力に耐えられるかは微妙だから気をつけてね?」

上級悪魔を圧縮させて造った槍。鉄製と比べ遥かに固くはあるのだけれども、デュヴレオリならば簡単に曲げてしまえるはず。ウルフェの速度や打ち込みに何処まで耐えられるかちょっと心配よね。

ウルフェは数度小刻みに跳躍し、足回りの魔力を爆発させて一気にセラエスの正面まで飛び込む。セラエスはその速度に反応しきれておらず、槍で防御を試みようとするもウルフェの突き出す槍の方が速い。

「――ッ!?」

「――どうやらこの槍の能力は正しく機能しているようだ」

しかし突き出された槍はセラエスの喉元で弾かれた。これはセラエスが防御したわけではなく、槍の影響?……ちょっと待って、ニールリャテスはなんて言った?色々と複雑な条件?

「一騎打ちも条件に入っているの……!?」

セラエスの背後にいる見守るだけで加勢する気配のない取り巻き達、これもまた魔槍の能力を発動させる条件の一つなのね。『一人だけが戦える状況』を満たし、強制的に一騎打ちを引き起こさせている。そうなると今こちら側でセラエスと戦える状況を満たした者、それは最初に槍で攻撃を仕掛けた……私と言うことになる。

「その顔は状況を察したようだな、紫の魔王。これは最初に打ち合った相手と槍による一騎打ちを成立させる魔槍。この場で戦えるのは最早私と貴様の二人のみ、その勝敗が着くまでは何人たりともこの礼拝堂を出ることすら叶わん」

開きっぱなしである背後の扉の外へ悪魔を一体向かわせるも、扉の外には結界が既に発生していて阻まれた。この様子なら当然セラエスの後方に見える扉の先も同じようになっているわね。一騎打ちを成立させると言うことは、逃亡させることすら防ぐことができるのね。見事に術中に嵌ってしまったようね、困ったものだわ。

衣服から宝石の悪魔を一つ取り外し、槍へと変化させる。ウルフェのように数度振るい、感触を確かめる。確かに業物、自分で褒めるのもあれだけど良い槍よね。

「いいわ、貴方のルールに合わせてあげるわ?でも槍を使って戦うなんて、人間の時に戯れで触った時以来なのよね?……だから生かす技術なんてないのだから、期待しないことね」