軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけでまだ続く。

セレンデはメジスの隣国ではあるが、ユグラ教の影響力は最も遠いトリンに次いで低い。その大きな理由として魔界による被害が少ないことが挙げられる。メジス魔界の悪魔が時折セレンデへと向かうことはあったが、知性を持つ悪魔は遠方のセレンデよりも近場のメジスを狙ったほうがより効果的に人を狩れることを理解していた。このことからメジスとセレンデは外交上の問題はないにせよ、何処か距離を持つような関係を保ち続けていたのだ。

「だからと言って自国に危険人物がいると知ってなお、まともな協力姿勢を見せないとはな……」

セレンデに魔族であるネクトハールが潜伏している事実は伏せられていた。ユグラの星の民がトリン側の拠点を叩いている間、セレンデに勝手な行動をされないようにと手回しをしてたからだ。ゆえに我々聖騎士団が現れ、事情を初めて説明することになったのだが……その結果はなんとも空虚なものだった。

捜索の自由は許可されたものの、セレンデ側は一切の協力姿勢を取っていない。小隊規模とは言え、監視の兵すら傍に付けないのはいかがなものだろうか。他国の領土で自由に動けることにケチを付けるのはどうかと思うが、国を護る者としてはやはり考えたくなるところではある。

「ヨクス様、間もなく目的地です」

現在向かっているのはセレンデの中規模な都市にある遺跡だ。比較的平和なセレンデには過去の遺物を重宝する意思と余裕があり、遥か昔に作られていた神殿や滅亡した国の名残を残す風習がある。現在向かっているのも、ユグラによってセレンデが建国される前に滅んだとされる国家の施設跡とされている。

「ああ。さて……鍵は機能するのか……」

手に握りしめている鍵へと意識を向ける。傍目から見ればこれが鍵だと思うものはいないだろう。なにせ複数の鉱石を加工し、取り付けられた立方体の物質でしかないのだ。原理は特定の魔力の波長に干渉すると言う物、ならば鍵の形状である必要すらないということだ。

遺跡へと到着し、周囲を見渡す。寂れた建造物が並んでいるが、ここに何者かが生息しているような気配はない。鍵を握りしめたままその先へと進むと、鍵が何かに共鳴したかのように不思議な音を発した。

「――こ、これは」

「静かにしろ。……なるほど、ツドァリと言う者は想像以上に厄介な人物のようだな」

つい先程まで目前にあった建造物は古びており、とても利用できるような状態ではなかった。しかし鍵が共鳴した直後にその光景は一変し、かつての姿を取り戻したかのような施設へと戻っていた。

ネクトハール達は遺跡のあった場所を修復し、拠点としておきながらツドァリの技で寂れた姿に偽装していたのだ。セレンデは過去の遺物を重宝こそすれ、その場所への過度な手入れは行わない。隠れ蓑としてはうってつけと言うわけだ。

何者かが利用している痕跡がはっきりと見て取れる。そうなれば近くに敵が潜んでいても不思議はない。部下達に剣を抜かせ、周囲を警戒させる。

探知魔法を使うべきか、既にこちらの動きが読まれているのであれば使うべきだろう。だが相手がまだこちらの侵入に気づいていないのであれば、折角の奇襲の機会を逃してしまうことにもなる。……相手の底が分からない以上、ここはより最悪の展開を考慮していくべきだろう。

手による合図で探知魔法の一斉使用の準備を指示する。部下達の緊張感が一気に増していくのを感じる。指折りで数えながらタイミングを合わせ、全員同時に探知魔法を発動させた。聖騎士の装備には魔封石が装着されている物もある為、仲間のいる箇所を避けつつ探知魔法の範囲を一気に広げていく。探知範囲がスムーズに拡張していくことから、施設内に魔封石が仕込まれている可能性はない。そしてすぐ近くの施設の影に一つ、高い魔力を持つ人物がいる反応があった。

部下達もそのことを確認し、そちらの方へと剣を向けて構える。これだけの高い魔力を持つ者ならば、こちらの探知魔法に気づいているだろう。いや、そもそもこのような場所にいると言う時点で、我々が来ていることを知っていたに違いない。

「あー、そんなに警戒しなくていいぜ?驚かそうとか、そんなつもりは微塵もないんだ。どう姿を見せれば格好がつくかなーとか考えていたんだけどさ、いい案が出る前に探知魔法を使われちまっただけで、格好つかねーよなぁ……」

物陰から現れたのは一人の若い男。腰に携えている剣以外に装備らしいものは一切なく、多くの聖騎士に剣を向けられてなお飄々とした様子だ。橙色の長髪、人相書きにあった顔の特徴とも一致している。

「……アークリアルだな」

「おう。アークリアル=アイシアってんだ。ま、アイシアってのは死んだ師匠の名前をちょっと拝借したんだけどな」

「アイシア……まさか『剣鬼』アイシアの弟子か!?」

『剣鬼』アイシア、『真眼』リティアル=ゼントリーと時期を同じくして名を馳せていた冒険者。その実力はターイズ最強の騎士、サルベット=ラグドーにも引けを取らなかったと伝わっている。

「はは、やっぱ師匠は有名だったんだな。あんなに弱っちかったのに。それであんたは聖騎士団団長のヨクスで間違いないよな?」

「そうだ。……中心人物であるネクトハール、リティアルやラーハイト達は何処にいる?」

「それを言ったら俺がリティアルに小言言われるだろ。まあ引っ越ししたのはご覧の通りだ。リティアルからそろそろユグラの星の民がくる頃だって聞かされてたからな、ここにいれば挨拶の一つでもできるんじゃないかって思ったんだが。メジスの聖騎士が来たってことは……ははぁ、セラエスの奴でも捕まえに来たんだな?流石に俺でもわかるぜ」

ネクトハール達は既にこの場所から移動をしていたのか。だが様子を見る為にアークリアルがこの場所に残っているということはそう遠い場所ではない、セレンデ領内の何処かにいることには違いない。

眼の前にいる男を捕らえればネクトハール達が現在いる場所も掴めるだろうが……話が本当ならばこの男は勇者ユグラに匹敵する強さ、一筋縄ではいかないだろう。この状況をどう捉えるべきか。

「――ならばその場所を吐いてもらおう」

「お、やる気はあるんだ?」

強者であることは対峙していれば嫌でも伝わってくる。だが肌に感じる奴の魔力はそこまで規格外と言うわけでもない。それこそターイズで私が破れた大悪魔よりも……。

「お前の強さは聞いている。手段を選ぶつもりはない」

「それは構わないけどさー。ただそこにいる雑魚共は動かないでもらえるとありがたいんだけどな。あんまり弱い奴を斬るのはちょっとな、色々気落ちしちまうんだよ」

「なんだとっ!?」

「挑発に乗るな。散発的な攻めが通用する相手ではない」

侮辱されたことで部下達に怒気が溜まっているのがわかる。だがこの人数差を生かさずに無闇に仕掛けるのは自殺行為でしかない。合図を出し、アークリアルを囲むように展開させる。こちらの数は私を含め四十人、それぞれが前衛後衛の役割を担うことができ、魔法による支援にも長けている。

「挑発じゃないんだけどなぁ。……まあそうだよな、少しくらい実力を見せないと納得してもらえないか」

アークリアルは無造作に剣を抜く。特に変哲のない剣、異様な魔力も感じないことから魔剣などの類ではなさそうだ。

「掛かれ!」

私の合図と共に四方から八名の聖騎士達が仕掛けた。さらにその背後から八名の聖騎士が魔法による射撃を行い、残りはアークリアルの動きに対応できるよう備える。これだけの人数を相手に余裕を見せている以上、何か異様な力を使ってくる可能性も高い。一瞬も目を離すことなく、その力を分析する!

「別に技なんて使わないけどな」

「――ッ!?」

最初に斬り掛かった聖騎士の首が飛んだ。次に剣が届きそうだった聖騎士の体が両断された。続く者達も次々と一振りでその生命を落としていく。放たれた魔法による射撃は全て造作もなく回避している。一拍置いた時には斬り掛かった八人全てが斬り殺されていた。

「あと一回だけ忠告な。雑魚は動くな、そうしたら殺さないでおくからさ」

今のアークリアルの攻防は目で追うことができないものではなかった。恐らくこの場にいた全ての聖騎士がその動きを視認することができていただろう。アークリアルは何の工夫もなく、相手より少しだけ早く剣を振るっていただけだ。

「各自魔法攻撃に切り替えろ。私が前に出る!」

アークリアルの速度は他の聖騎士には対応できそうにない。四方から攻めても苦も無く対応されてしまっている以上、近接戦闘を行えるのは私しかいない。確かに厄介な速度ではあるが、私ならば十分に対応することができる範囲だ。

「援護射撃かぁ、まあそれくらいはいいかなぁ……。意味ないことには違いないんだけどさ」

接近してもアークリアルは剣を振り上げようとしない。この間合、先程の速度のままならば横に払う私の剣の方が早い、このまま――ッ!?

「ヨクス様っ!?」

「――ッ!」

振り払う剣の動きを止め、後方へと体を反らす。しかしそれでも間に合わず、胸元と腕に熱い感触が伝わってくる。少しして真っ赤な鮮血が前方へと吹き出した。

アークリアルの追撃はない、四方から放たれた魔法を無駄のない動きで丁寧に回避していた。

「お、生きてた。浅く済んだな」

そんなことはない。前側に出ていた右腕は骨まで切断され、胴体も肺まで届いている。今の一撃は魔力強化を施した鎧の壁を、まるで紙のように無視し深々と裂いていた。もしも体を反らしていなければ胴体は完全に両断されていただろう。

辛うじて視線で追えたが、アークリアルは私よりも早く剣を振るっていた。その速度は先程よりも遥かに速く、部下が斬り殺される光景を見ていたからこそギリギリで反応ができた。

距離を取り、治療魔法を掛ける。だがこれほどの深手、直ぐには治せない。後方に控えていた部下も治療魔法を掛けようとしているが、それでも奴が仕掛ける方が早いに決まっている。

「治せるのか?じゃあ待ってやるよ。一瞬で終わったら興醒めだったしな」

「……っ!」

アークリアルは動かない。本気で仕掛けるつもりがないようだ。強者としての余裕、驕りを見せていることに憤る感情はあるが、これは好機だ。本来ならば取り返しのつかない敗北だったのを見逃されているのだ。部下に視線を送り、治療を急がせる。

「さてと、この場所じゃちょっとやりにくいな。横にずれるぞー」

そう言ってアークリアルは地面に横たわる部下の死体を避けながら進み、立っている位置を変えた。

「遊びのつもりか」

「遊び――って言うのはちょっと相手に失礼だろ。そりゃあ俺からすればあんたらの相手は遊び感覚でできるけどな?別に俺は人の命を何とも思わないような奴じゃないんだぜ?」

「ならば何故私の傷が癒えるのを待つ。ただお前が愉しみたいだけではないのか」

「おう、それは間違ってないな。人の命は尊重するが、するだけだ。俺の欲求を抑えてまであんたらの誇りを汲んでやる義理はないからな。それが嫌だってんならさっさと掛かってくればいい。全員を斬り殺してハイ終わり、去り際に手を合わせるくらいはしてやるよ」

アークリアルは屈託なく笑う。そこに人を陥れたいと言った悪意などは微塵も感じられない。この男はただ事実だけを述べているのだ。相手を揶揄する気はないが、気を使うつもりもないと。

治療の時間を稼ぐ為に部下に魔法による牽制を仕掛けさせるか悩んでいたが、ここは素直に時間を貰った方が良いだろう。待機の指示を出して治療に専念する。

「……よし」

「へぇ、早いな。流石は聖騎士、治癒系の魔法の習熟は大したもんだな」

完治はしていないが、体を動かすのに必要な部位の修復は行った。血も未だ滲んでいるが、戦闘続行に支障はない。剣を握り、再び前に出る。

「待たせたな」

「いいさ、今日は暇だからな。腹が減るまではいくらでも待ってやるよ」

アークリアルの一撃を受けたが、剣を振るう速度とその切れ味が異常であるということが分かった。つまるところ生半可な牽制は意味を成さない。様子見で剣を振るって、返す一撃で終わらせられては意味がない。次の一撃で確実に仕留めるつもりで仕掛けなければならない。その手段は……ある。

「――ふぅ」

呼吸を整え、剣に魔力を込める。ターイズで敗れたあの日から、自分よりも格上の相手を倒す術を身につけるべく鍛錬を続けてきた。そして編み出したこの技……再生を繰り返す悪魔を殺し切るだけの威力には未だ満たないが、相手が人間ならばその刃を届かせるだけで十分!

構えは先ほどと同じ、踏み込みのテンポも変わらない。されどその間合いは一歩遠く、普通なら剣の届かない距離。だが剣を振るう直前、剣に込めた魔力を解き放ち構築を行う。

「なんだ、そりゃ届かな――」

剣を主軸に結界を発動させる。ラクラ=サルフが得意としていた結界による切断術を応用した薄く、鋭さを持たせた不可視の刃。ラクラは結界の発生速度を利用し切れ味を増していたが、私は剣を振るう速度を加えることで同等以上の切断力を身に着けた。

目に見える刃よりも長く、太く、想像よりも速く相手へと到達する高速の一撃。初見でこの技は見切れ――

「よっと」

今度は止めることをしなかった。それ故に回避行動は間に合わず、代わりにアークリアルの動きをこの目に焼き付けることとなった。アークリアルは私の剣を見てから回避していたわけではなかった。最初から剣の軌跡に存在しないような位置へと滑り込んでおり、そしてその体捌きのついでと言わんばかりに剣を振るっていたのだ。

「かっ、ふ」

剣の幅が増加したことでアークリアルとの距離が離れていたのか、アークリアルの一撃は私の体を両断していなかった。しかし先程よりも遥かに深い。右腕は切断され、胴体も皮一枚で繋がっている程度。当然そんな負傷で剣を振った勢いを殺せるはずもなく、地面へと倒れ込む。

「面白い技だったな。結界を刃にして間合いをずらしてきたのか」

「馬鹿な……剣を……振るうまで……読まれては……」

「ああ、驚いたさ。斬った後にようやく仕組みが分かったしな」

その言葉が本当ならば、奴はこちらの手の内を理解していないまま、回避すべき位置に回避を行い、攻撃すべき位置に剣を振るっていたということになる。

ユグラの星の民がクアマで出会った落とし子の話が脳裏に浮かぶ。その落とし子は自分ですら反応できない脅威を、その異質な生存本能で感知して避けることができると言う。

ならばアークリアルもそれに倣い、本能で最善の反撃手段を取ることができるということなのか。そんなことがありえるのだろうか。

深手のあまり意識が飛ぼうとしている。できる限りの延命の治癒魔法は使用しているが、とても一人でどうにかできる状態ではない。

「ヨ、ヨクス様!」

「来る……な……」

「いや来いよ。即死してないんだし、総出で治療すれば間に合うだろ?ほら、早く治してやりなよ」

「な……」

アークリアルは数歩下がり、部下に私を治療しろと言っている。部下達はアークリアルを警戒しつつも、駆け寄って治療を開始する。その様子をアークリアルは食事を待つ子供のような笑顔で眺めていた。

「今のは悪くなかった。久々に体がいい感じに動いた。だからもう少し付き合ってくれよ。お前が即死するまで、いくらでも治療はまってやるからさ!」

「ふ、ふざけるな!勝負はもう――」

「別に治療しないってんなら、それで終わりだ。そん時は全員斬り殺すだけだからな。ま、頑張れよ!」

アークリアルを非難しようとした部下は言葉を失う。そしてすがるような眼で私へと視線を逸し、治療を再開した。