軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけではぐらかす。

「ヨクス様、どういう結果になると思いますか?」

「さてな……」

護衛としてその周囲を警戒しているのはメジスの大聖堂内にある会議室。そこでは現在法王様を中心として、各国でユグラ教を支えている大司教達が今後の方針を決めるべく、討論が行われている。

その結果次第では我々聖騎士も即座に武器を手に取り、ユグラ教の名の下に正義を執行することにもなる。悪魔を相手とした戦いならば命を投げ捨てることも躊躇わない部下も、相手が人間であることに思うところがあるのだろう。このやり取りも既に三回目ではあるが、それを叱責する気にもなれない。

「昔なら法王様の判断に満場一致で賛同していたというのに、最近では討論の時間も伸びていますよね」

「思ったことをそのまま口にすることは控えろ。何処で誰が聞いていても不思議ではないのだ」

その原因はユグラの星の民、彼の影響だろう。メジスと深い因縁のある紫の魔王を従え、彼は新たな勢力としての立場を取った。法王様は魔王を制御できるのであればと、その行動を監視しながらも強い干渉は行わないようにしている。しかしその行動はユグラ教の教えを自らの骨子としている者にとって、もどかしさを抱いてしまうのだ。

勇者ユグラが魔王を生みだしたという新説も、事態に関わった者ならば真実だと信じることができる。だがそれを人づてに耳にした者はその限りではない。信じられない、信じたくない、信じるわけにはいかないと個人差はあるが、信じることでこれまでに捧げてきたユグラ教への信仰が揺らいでしまうことを恐れているのだろう。

そういった者達にとって、ユグラの星の民の行動は異端なものとしか映らない。自分達の信じた勇者ユグラと同じ偉業を期待し、魔王をこの世界から根絶してくれることを望んでいる。しかし彼が魔王と協力関係となり、各国で理解に苦しむ行動を行っていると言う報告を受け取るのが現状だ。そのおかげで中には彼がユグラの星の民を偽る邪悪な存在だと言い出す声も上がっているほどだ。

「あ、終わったようですね」

視線を向けると、会議室の扉から次々とユグラ教における有力者が出ていくのが見えた。その中には法王様の姿もあるが、随分と疲れが溜まっているように見える。紫の魔王がターイズに現れた時でさえ、あそこまではなかったのだが……。

「ヨクス、少し良いか」

「――これは、オムサム様。如何なされましたか?」

オムサム大司教、ガーネにある支部を任されている方だが現在はメジスに戻ってきている。ガーネでは現在国王が魔王の一人、金の魔王であることが広まったことで武力の存在しない内乱状態となっている。ガーネ王を退けさせようと、権力を求める者達がユグラ教の力を利用しようとしている動きが見られた為、法王様はオムサム様をメジスに呼び戻したのだ。

「先程の話し合いで決まったことについてだ。詳細は食事を取りながらでもどうだね?」

「わかりました。それでは部下達に指示を出してからそちらに向かいます」

聖騎士団の長である私に声を掛けたということは、そういうことなのだろう。部下に午後の指示を済ませ、オムサム大司教と共にメジスにある食事所へと向かう。この店には個室が用意されており、よく権力者が内密に話をする為に利用されている。その例に倣い私達は個室に通され、既に用意されていた食事に手を付けることになった。

「それで、どのような用件でしょうか?」

「セラエスを拐かしたラーハイトの一味、その者達を追い詰める計画が進んでいる。ユグラの星の民はセレンデに向かう準備を進めているらしい」

セラエス元大司教、彼は自分の意思で暴走したはずなのだが、今でもこうして何者かの陰謀によって巻き込まれたと考えている者もいる。オムサム様が担当していたガーネとセラエスの担当していたクアマは隣国、それなりに交流もあったのだろう。

詳細を聞くに、ネクトハールと言う魔族がセレンデにて蘇生魔法を完成させようとしているらしい。そしてユグラ教としても新たな魔王が誕生することは防がねばならないと、協力をすることになった。目的が同じであるのであれば、暫くは無心で剣を振るうことができそうだ。

「それで我々聖騎士はセレンデにある他拠点の制圧を行えばよろしいのですね?」

「そうだ。だがそれはユグラの星の民と約束した内容の範囲での任務だ」

「……他にもあると?」

「君にはセラエスの身柄を確保してもらいたい。ユグラ教で起きた問題は我々ユグラ教の手によって解決しなくてはならない」

「それは……」

そのことの意味をわからないわけではない。セラエスは現在ラーハイト達と共にいると聞いている。そのセラエスを確保しろということは、ユグラの星の民が攻め込むだろう拠点に我々聖騎士も向かわなければならないのだ。それも彼らよりも先に、だ。

「ユグラの星の民は我々に、ツドァリなる者が施した隠匿魔法を突破する鍵の製法を伝えてきた。鍵の製造には既に取り掛かっている。鍵の完成、移動の時間を計算したところ、君達聖騎士には三日ほどではあるがユグラの星の民よりも自由に動ける時間ができるはずだ」

「その間にユグラの星の民を出し抜けと?」

「人聞きの悪い言い方をするな。我々の問題を先に片付けるだけだ。もしもユグラの星の民がセラエスと遭遇すれば、セラエスはその場で死ぬことになるだろう。そうなってしまっては我々の立場がない。彼の罪を咎めることは、我々ユグラ教の手によって行わなければならないのだ」

ユグラ教の問題はユグラ教で処理をしたい、オムサム様の言いたいことも理解はできる。セラエスがユグラの星の民によって処分されてしまえば、その結果に不満を持つ者達が残ることになり、そのしがらみは法王様の周囲に残り続けることになる。中にはセラエスがユグラの星の民の策謀に巻き込まれたと言い出す者も出てくるだろう。

少しだけ先の展開を想像する。ここで断ることはそう難しい話ではない。このことを法王様は快く思っていないはずだ。もしかすればオムサム様の独断での依頼の可能性もある。法王様に相談すればオムサム様に私への要請を下げさせることもできるだろう。だがそれでオムサム様が諦めるだろうか?きっと私ではない他の聖騎士に声を掛けることになるだろう。

「……わかりました。それでは出立の準備を進めましょう」

私はユグラの星の民と直接話をしたことがあるからこそ、彼の能力を信用しても良いと考えている。だが他の聖騎士はユグラ教の正義の方を信じてしまうことになる。危険な任務を与えられるのであれば、それはメジスで最も実力のある私が引き受けることが無難な選択になるはずだ。

馬車に揺られながら空を眺める。これから決戦に向かうというのに、そんな気分になれなくなるほどの穏やかな空だ。

少人数で向かうのであれば『蒼』のダルアゲスティアや『紫』の悪魔達を使うという選択肢もあったのだが、今回はターイズの騎士の皆さんも一緒にセレンデに向かっているのだ。より確実にネクトハール達を包囲する為、ターイズの騎士達には国境付近で備えてもらうことになっている。

先にセレンデに向かう手段はもちろんあるが、他国に協力を持ちかけている以上足並みを揃えることも重要なアクションとなる。とは言え馬車での移動は、飛行での移動に比べ時間が掛かる。ターイズの軍馬は通常の馬車とは比較にならないほど早くはあるが、空を飛ぶことと比べればそりゃあね。

「空ばかり見ているな」

「こんな馬車でこの速度ってのは正直怖いんだよ」

速度が遅いと言っても空を飛ぶよりは、だ。馬も化物なおかげで今の心境は自転車で自動車の速度を出しているようなものだ。馬車の速度じゃないです、落下したら生きていられる自信がない。

「大丈夫ですししょー、ししょーが落ちてもウルフェがキャッチします!」

「それは嬉しいが、落ちないように気を配ってくれたほうがありがたいんだよな」

「なるほど!」

「そうよね?だから私はこうしてずっと彼を掴んで離さないのよ?」

空ばかりを見ている理由がもう一つある。それは片側にいる『紫』の視線から目を背ける為だ。デュヴレオリの治療のせいでトリンには連れていけなかったが、今回は総力戦だ。デュヴレオリが来るのであれば『紫』も同伴する流れになるのは避けられないことである。

ちなみにこっちの馬車には他にイリアスとウルフェがおり、デュヴレオリが馬車を操っている。

「どっちかと言うと一緒に落ちそう」

「それも悪くないわね?きっと私を庇うように落ちてくれるでしょうから、その上を悪魔で包むとするわ?」

「だから落ちる話をするなっての。さっきハークドックが向こうの馬車から落ちたのが結構精神的にきてるんだよ」

ハークドックはもう一つの馬車に乗って移動している。向こうの馬車にはラクラとミクス、メリーアとマセッタさんが乗っている。ターイズの軍馬を使った馬車の速度に感動していたのか、遠目でもテンションの上がっていたのが分かっていたハークドックだったが、つい先ほど小岩か何かに乗り上げた拍子で彼が馬車から落下したのである。

ハークドックは咄嗟に右腕の悪魔を伸ばし馬車に巻きつけて、地面に叩きつけられるのを防いでいたがその時の絶叫はこちらまで届いていた。

ちなみにエクドイクは『蒼』と一緒に空から追従している。おかげでメリーアは少しだけ寂しそうな顔をしていた。

「クトウでも同じことはできるわよ?」

「クトウに命令をする『俺』の反射神経を甘く見るなよ。クトウに命令する頃には三回くらいバウンドしている自信がある」

「クトウに自動的に身を護る機能を付与してもいいのだけれど、やっぱり嫌なの?」

「自動化ってのは思いもしない挙動をすることがあるからな」

以前提案されたのは周囲から何かが投擲された場合などにクトウが反応し、自動で防衛行動を取ると言ったものだった。試しにと導入してみたのは良かったが、挨拶代わりにと背後から飛びついてきたミクスに凄まじいカウンターを入れてしまったのでお蔵入りとなっていた。

クトウにはある程度の意思を持たされているのだが、思考能力はそこまで高いわけではない。判断をすると言うよりも反射的な行動を取ってしまうので『こうきたらこうしろ』的な命令が限界なのだ。追加する命令を多くすれば柔軟性も生まれるだろうが、それだけの命令を覚えきれるほどクトウのスペックは高くない。一応しっかりと戦わせることができれば大悪魔クラスともいい勝負らしいのだが、司令塔が素人ではどうしようもないのである。

「まあそうね?下手に戦えるようになったと思われて、無茶をされるのは困るものね?」

「そういうこった。個人的にはクトウの容量を増やしてくれただけでも大助かりだ」

小物数点しか隠せなかったクトウではあるが、こいつもなんやかんやで強化を施され、今では十キロくらいの荷物までは持てるようになっている。特に素晴らしいのはその重さをクトウ自身が魔法で軽減してくれている為、持っている本人への負担は十分の一で済むと言う点だ。

「喜んでもらえるのは嬉しいのだけれど、もう少し実戦向けに役立つ能力を増やしたかったのよね?」

「身の丈にあった改良が一番だ。戦いは全部任せるからよろしく頼む」

「潔さには感心することの方が多いのだが、君のその潔さにはなんとも言えない気持ちになるな」

現在馬車はガーネを横断中。『金』の様子の方も気にはなるのだが当人が問題ないと言っている以上、もう暫くは静観していても大丈夫だろう。まあマリト経由である程度の内情は聞かされているわけだしな。

「金の魔王が気になるのか?」

「多少はな。イリアスが暫くターイズを留守にするからと、マリトの安否を心配する程度だ。元気にしているならそれで何よりってくらいさ」

「そうか。それなら何も心配が要らないな」

魔王達が湯倉成也から与えられた力は、この世界の基準ですらチートと呼びたくなるような反則級のものばかり。その中で『金』に与えられた『統治』の力は内政に特化したものだ。普通なら国王が魔王をやっていると分かれば暴動や難民が発生し、国の運営などまともにできるわけがない。それを国王の退位を画策させる程度に抑えている時点で、『金』がどれほど暗躍しているかは十分に想像できる。

「でもあの尻尾は恋しくなるな」

「ししょー、ウルフェの尻尾です!どうぞ!」

「物凄くわかりやすい対抗心を燃やしているな……」

ウルフェの尻尾も負けず劣らずではあるのだが、ウルフェが相手だと悪戯心が湧いてこない点が物足りない。『金』の尻尾は嗜虐心を駆り立てるあいつの性格を込みで優秀なのだ。

「そう言えばトリンでは尻尾や耳を生やしていたのよね?私も見たかったわ?」

「ターイズには黒狼族がちらほらいただろ、黒い方の。あんな感じの耳と尻尾がついただけだ」

「色違いだけど、ししょーとお揃い!」

この話を喜べることにウルフェの成長を感じられる。ウルフェにとって黒い耳と尻尾を生やした黒狼族の出で立ちには、過去との因縁を彷彿させるものがあるはずだ。それを『そんなことよりも』お揃いだから嬉しいと思う余裕がウルフェにはあるのだ。

「私ならどのような姿になったんだろうな」

「案外そのままだったりするかもな」

「何故だ?」

「――魔力抵抗とか強そうだしな」

これは話題に出す必要のない余談だが、ゴリラに尻尾はない。