軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなわけで待ちぼうけ。

マリトへの報告を済ませ、イリアスとウルフェの姿を探す為に城内をふらつく。今日の鍛錬は既に終わっていたようで、現在は城の備品の整理をしているらしい。マリトの命令で特別な訓練を行ってはいるが、騎士としての仕事もやりたいのだろう。

「しかし見つからないな……」

パッと思いつく場所は巡ったのだが二人の姿は見つからなかった。とっくに済ませて帰っているのかもしれない。こう会えないと寂しく思い始めるのはホームシックを感じているからなのだろうか。試しに地球のマイルームの記憶を思い出せるか頭を巡らせて見たが、自室で焼いた手羽塩の味が恋しいと思った程度だった。

「未練なぁ……」

先にこの世界に現れた日本人、湯倉成也。この人物は元にいた世界への未練を捨てたことで魔力を得たという。そしてそのままこの世界の歴史に大きな名を残し、さらには余計な爪痕までしっかりと刻んでくれた。この世界の者では簡単に届くことのない理の極地へと達せた理由として、思考の差異があると結論づけてはいるのだが……。

「あ、にーちゃんなのだ。トリンから帰ってきてたのか?」

「おう、ノラじゃないか。大丈夫か、それ?」

城の通路を歩いていると、身の丈と変わらない大きさの木箱を抱えたノラと出くわした。普通小学生くらいの子供が自分と同じ大きさの荷物を運べるはずはないのだが、ノラは魔力強化や物質の重さに干渉できる魔法が使用できるのだ。

「重くはないけど、前が見えないのだ。五回ほどぶつかったのだ」

「持ってやりたい気持ちはあるが……重いのか?」

「厚めの鎧一式くらいの重さなのだ」

そりゃ持ってやれないな、腰が悲鳴を上げそうだ。代わりにノラの隣を進んで目になり、ナビゲートをしてやることにした。子供に重そうな荷物を持たせて手ぶらで歩く大人とか、本当に絵面が酷い。

研究室が目的地だったようで、扉を開いてやるとそこにはルコとデュヴレオリの姿があった。魔法研究の責任者且つノラの保護者的な立場のルコがいることや、その協力者である『紫』のお使いとして姿を見せるデュヴレオリがいること自体は不思議ではないのだが、この二人が一緒にいるというのはなんというか珍しい。

「助かったのだにーちゃん」

「礼を言われると悲しくなるってのもなんだかな……」

「あれ、お兄さん。トリンから帰ってきたのですか?」

「まぁな。今さっきマリトに報告を済ませてきたところだ」

マリトの名前を出した途端、ルコの顔が赤みを増していく。早速からかってやろうと思ったのだが、これは自重してやった方が良さそうだな。

「あ、にーちゃん。そう言えばルコ様が本当にルコ様になったのだ」

「ノラちゃんっ!?」

しかし子供とは容赦がないものである。ならば便乗してやるか……とはいかない。この手の話題は返されると面倒だからだ。

「ああ、マリトから話は聞いている。おめでとう。と言ってもその様子だとまだ受け止めきれてない感じか」

「うう……。何を言っても陛下が折れてくださらないのです……」

「そりゃあルコが他の男と結婚するつもりだとか言わない限りはな」

「そ、そんなことはないですけど!?」

そりゃあ自分を好きだって分かっている奴に求婚するんだ、折れる理由がないんだよな。今は王様から求婚されたメイドという立場が混乱を招いているだけだろうし、慣れれば色々と覚悟もできるだろう。

「急いで受け入れる必要はないのと一緒で、急いで断る理由もないんだ。じっくり吟味すればいいさ」

「は、はい……」

まあ時間が経てば経つほどマリトによって外堀が埋められていくんだけどな。どうやっても幸せにされるんだ、諦めてくれ。

「んで、デュヴレオリは何かのお使いか?」

「そうだ。ノラへの言伝と、対象の捕獲を命じられてきた」

「……ちなみにその対象って?」

「もちろん貴様だ。蒼の魔王が戻ったことで貴様の帰還も知ることになったからな。主様が会いたがっている。今日中に連れてこいとの命令だ」

そんな予感はしていた。断る理由もないのだが、イリアスとウルフェに顔くらい見せてやりたかったところではある。まあハークドックに夕飯は『犬の骨』で食べると伝えてあるし、そっちで合流すればいいか。

「わかった。ただマリトに一言伝えておかなきゃな。イリアス達と合流して帰るつもりだって言ったから、急に城からいなくなると騒動になりかねん」

「それもそうだな。では早速――」

「いや、そのへんの騎士に頼むから気にするな。ノラに言伝があったんだろう?」

「その件ならば問題ない。近いうち食事でもどうかとノラとルコを誘うと言った内容だ。ルコに伝えておいたので既に役目は果たしている」

食事か、『紫』も随分他人と接するようになっているな。いいことだ。

「もちろん行くのだ!今日でもいいのだ!」

「きょ、今日はちょっと難しいかな……。すみません、そちらの方に向かう際には最低でも一人以上護衛をつけるようにと言われていますので……手配が……」

ノラはターイズの発展に貢献する貴重な人材。ルコもその方面の責任者的な立場だ。仲が良いと言っても、魔王の住む場所に護衛もなしで向かうことは色々と問題が出てくる。

「承知している。護衛として後日ミクスを付けるようにとも言われているからな」

「ああ、仲良かったからなあの二人」

といってもミクスは王族、国王の妹だ。そのミクスを捕まえて食事に連れて行くのは、城のメイドであるルコには非常に高いハードルとなるだろう。明日にでも口添えしておくか。

「むぅ……魔王の住む館とか興味が尽きないのに……」

「後日にきちんともてなすから心配する必要はない。そもそも今日の主様はそこの人間を最優先にするだろうからな」

「それもそうなのだ。『紫』のねーちゃんの邪魔をしたらノラの方も邪魔されかねないのだ」

ん、ノラとデュヴレオリの距離感が前よりも近いな。デュヴレオリがアークリアルに負傷させられた時に、ノラが『紫』と一緒に治療したと聞いていたが、その時に何かしらデュヴレオリからの好感度を上げることに成功したとかか?ちゃっかりしてるからなぁ、ノラは。

「これもバラストスの教育のおかげかね……」

「そう言えばにーちゃんは師匠と会ったと聞いたのだ。師匠は元気にしてたのだ?」

「ああ、若い騎士を捕まえて離さなかったな」

「お兄さん、子供に話す話題じゃないですよ!?」

「むむ、師匠に気に入られる男がいるとは驚きなのだ。あの師匠いい年のくせに理想が高くて絶対に一生独り者だと思っていたのだ」

バラストス、お前弟子にこんな風に思われているぞ。いや、そう思われても仕方のない奴だけど。

「バラストス様の話はノラちゃんからよく聞きますけど、色々な男性から求婚されても次々と跳ね除けていたってほどなのに……。凄い騎士の方がいたのですね」

「……ケイールって奴でな」

その名前にルコが固まる。そりゃそうだよな。なんせケイールはルコの――

「お、お兄さん……。ケイールって……レアノー隊所属の?」

「おう、お前の弟な」

「し、知ってたんですか!?」

「まぁな」

知らないわけないだろうに。イリアスの環境を良くする為に騎士のことは調べたし、ケイールの隊長であるレアノー卿とはたまに食事をする関係だ。トリンではケイールと一緒に行動していたのだから、家族の話とかも時折聞いた。ルコから身内の話を一切聞いていなかったとしても、結びつけるだけの要素はいくらでもあるのだ。

「ケイールが……大賢者バラストス様に見初められた……?一体どうして……」

国王に見初められたお前が言うのか、とツッコミを入れたかったがここはグッと我慢。この件では弄らないと決めたからな。

「陛下から求婚されたルコ様の弟だからなのだ。やっぱりルコ様は凄いのだ!」

「ノ、ノラちゃん……」

しかし子供とは容赦がないものである。便乗……いや、我慢だ我慢!この手の話題から逃げてる本人が他人を弄るとかカウンターを入れてくれと頬を差し出すようなものだって!

「にーちゃんが物凄く便乗したそうな顔をしているのだ。だけど色恋の話を自分に振られたくなくて我慢してるって顔なのだ」

「こいつ、人の顔を見るだけでそこまで……!?」

「お前が言うな人間」

よもやデュヴレオリにツッコミを入れられるとは思わなかった。

多くの騎士の協力によって、私の剣の腕は今まで一人で鍛錬していた時とは比べ物にならない程に成長している。だが剣の腕を磨くだけが騎士の仕事ではない。街の警邏や武具の管理、やるべきことはいくらでもあるのだ。私一人に多くの騎士の時間を割いてもらっている以上、少しでも仕事を手につけるべきなのだが……。

「よもやレアノー卿に見つかって帰れと言われるとは……」

もちろん思ったことは言ったのだが、『我々の鍛錬のあとに余裕たっぷりに仕事をしているところを皆に見せつけたいのか?』と言われ、何も言い返せずに帰路につくことになった。

「でもイリアス、最近ほとんど疲れてない」

「まるでないというわけでもないのだがな……」

それこそ始めのうちは歩いて帰ることすら辛く、家に帰ったら家事も満足にできないまま爆睡してしまっていた。それが今ではある程度の余裕がある、慣れとは恐ろしいものだ。

「ウルフェもまだまだ元気!ご飯まで二人で特訓する?」

「いや、レアノー卿に体を休めることも騎士の仕事だと言われたのでな。これで明日の朝にふらついていたら何を言われるか……」

相手の力量を見極める感性も鋭くなってきており、ウルフェから感じる強者としての圧力が日に日に増しているのもわかる。グラドナだけではなく、ニールリャテスが何かしらの手助けをしているそうなのだが……まっとうな方法なのだろうか?

そんな心配を頭の中によぎらせながら帰宅すると、家の中に人の気配がある。剣に手を伸ばそうとしたが、気の抜けたハークドックの鼻歌が聞こえたので手を下ろした。

「お、姐さん!お早いお帰りで!」

「ハークドックか。トリンを出たというのは聞いたが、今日だったのか」

家の奥に視線を向けるが、彼の姿はない。ウルフェも同じことを考えているのか、鼻をすんすんと動かし匂いを探っている。

「ラクラの匂いはあるけど、ししょーの匂いがほとんどない……。ししょーはどこ?」

「兄弟ならターイズ王に報告するとかでミクスと一緒に城に向かったぜ。会わなかったのか?」

「いや……すれ違いになっていたのか」

もう少し城に残っていれば彼と会えていたのかもしれないと考えると、レアノー卿に見つかった自分の落ち度を責めたくなる。レアノー卿を責めるつもりはない、断じて。

「しっかし……姐さんもウルフェも見ないうちに大分強くなってんな……」

「ハークドック、分かるの?」

「そりゃあな。俺の探知魔法は相手の力量だって計れるんだ。なんて言えばいいのか、戦いに慣れてきてんな」

的確な言い方だ。身体能力で言えばそこまで成長したわけではない。肉体の鍛錬はそう簡単に結果が出るというわけではないからな。だが今の私なら一ヶ月前の私自身を圧倒することができるだろうと自覚している。

「客観的に見ても成長していると確認できるのは嬉しい反面、少し恥ずかしいな」

「じゃあハークドック、早速手合わせしよう!」

「長旅で疲れてるんで勘弁してください。ああ、そうだ。兄弟は夜に『犬の骨』で飯を食うって言っていたから、そこで落ち合えるんじゃねぇの?」

暫くターイズを離れていたのだ、『犬の骨』の味が恋しいのだろう。こう言う時に料理ができていれば、『イリアスの料理が恋しい』とか言うのだろうか。……どちらかと言えば私とウルフェの方が彼の料理を恋しいと思っているのだが。

「一度こっちに帰ってくる可能性もあるのではないのか?」

「あー……その辺は詳しく聞かなかったからな。ちょっと判断できねぇな」

「ならハークドック達は皆で『犬の骨』に向かっていてくれ。私は家で待つことにする」

彼のことだ、家に誰もいなければすぐに察して合流しにくるだろう。だが久々に帰ってきたのに誰も家にいないというのは、少しばかり寂しい思いをさせてしまうかもしれない。

「でもよ姐さん。それだと兄弟が直接『犬の骨』に向かってたらどうするんだ?」

「エクドイクの鎖がある。ラクラがこれに遠隔で合図を送ることができる」

エクドイクはこれを通信用の水晶のようにすら扱えるのだが、そこまでの機能は必要ない。彼が『犬の骨』へと現れた際に、軽く揺らしてもらえるだけで十分だ。

「はぇー。ユグラ教の水晶といい、遠くとやり取りができるってのはすげぇよな」

「彼のいた世界では誰もが水晶に近い機能を備えた道具を持っているそうだ」

ユグラ教の水晶は一つ一つがかなり高価だ。大量に普及しようともそれを購入できるものとなれば財を多く持つ貴族だけになるだろう。村人の誰もが持てるようにするには、どれほど大量生産の工程を用意すれば良いのやら……。この世界で実現するには人も資源もとてもじゃないが足りないだろう。

「うげ、それはそれで嫌だな。それって面倒な相手や避けたい奴も手軽に連絡してくるってことだろ?どこにいても休まる時間がなくなるじゃねぇか」

「私も同じことを言ったよ。そしたら彼はこう言った『壊れたことにしておけばいいのさ』と」

「兄弟らしいや。でもま、嘘をつかなきゃならねぇってのは嫌だな」

「まったくだ」

彼の世界の話を聞けば想像するのも難しいほどの利便さを誇っているが、その反面その利便さによる問題も発生している。その果てに彼のような生き方しかできないというのであれば、この世界の文明には過度に発達して欲しくないとさえ願いたくなる。彼が元の世界の知恵を提供することを最小限にしているのは、こう言った理由も含まれているのだろう。

「それじゃあイリアス、先に行ってくる!」

ハークドックと寝ぼけ顔のラクラを背負ったウルフェを見送り、静かになった我が家を振り返る。両親が亡くなったあと、屋敷を引き払いこの場所へと移り住んだ。始めのうちは家事もまともにできず、よくマーヤが世話を焼いてくれた。一人暮らしにも慣れてくると、今度は一人でいるのだと感じる余裕が出てきた。

「慣れたつもりだったんだがな……」

誰もいない家に一人でいる。それを寂しいと再び感じるようになっていた。だからこそ彼に同じような気持ちになってほしくないと、留守番を名乗り出てしまった。心も強くなったはずなのに、それでもこんな気持になってしまう。

「強さとはまた別なのだろうな」

それを未熟とは思わない。何も感じなくなるような人間になることを成長と認めたくないからだ。痛みに耐えられるようになっても、痛みを知らない人間にはなりたくない。負の感情を受け止めた上で行動できるような、そう彼のような――

「――いや、あれは少しばかり偏屈過ぎるな」

そう言えばこうして彼の帰りを待つのは久しぶりだ。異世界の異国にやってきたばかりだと言うのに、彼はすぐにあちこちと飛び回っていた。おかげで私は丸一日……いや、まさかとは思うが……まさかな?