軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから大賢者なのだろう。

森の中にあるバラストスの屋敷はとても年季が入っており、立派な建物ではあるがどうも魔女の館のような印象が拭えない。中にある応接間のような場所に案内されると、そこにはお茶をのんびりとすするラクラの姿があった。

「あ、尚書様」

「随分と優雅にしてやがるな」

バラストスは視界の悪い霧の中でラクラにのみ視界に映るように接触し、『貴方達を試したいから協力して?』と話を持ちかけていたらしい。当のラクラはさくっと了承していたらしい。悪意を感じないとはいえ、少しくらいは危機感を持つべきなのだろうが問題なく御眼鏡にかなうことになったので不問にする。

「この中で一番のほほんとしていたからね?ちょっと遊ばせてもらったわよ」

「ハークドックの探知魔法に引っかからず、ラクラに巻かれているエクドイクの鎖にも反応されずにすり替わる。随分と手の混んだ悪戯だな」

「探知魔法は自分の魔力に触れた相手を解析することはできるけど、小さすぎる虫や動物まで丁寧に解析することはないでしょ?だから私自身の魔力を微力に感じるように細工していたのよ。鎖は常時繋がっている相手の情報を取得していたようだから、途中の位置に細工して変化の内容を誤認させた状態ですり替わったわ」

「やり方はわかったが、そう簡単にできることじゃないってのはエクドイク達の反応を見ればわかるな」

バラストスは悪戯心満載の笑みを浮かべているが、悪戯をされた方は気が気ではないだろう。エクドイクにいたっては戦闘態勢に入りそうだったからな。

「じゃあ改めて自己紹介、私の名はバラストス。バラストス=ザクザリフュアンシュリトン。『大賢者』の名でも呼ばれてるけど、気軽にバラストスちゃんって呼んでね?」

「呼ばないけどな。ところでノラと同じってことは血縁なのか?」

「ノラは養子よ。両親は健在だけど、私の元に引き取る時に養子として迎え入れることにしたの。あ、でも母親ってわけじゃないわ、どちらかというとお姉さんよね!」

バラストスはあざとい感じにアピールしているが、こちらとしてはなかなかきついものを感じる。他の連中はお茶菓子を美味しそうに食べているラクラ以外ぽかんとしている。

「『俺』より年上のくせに、よく言うな」

「む、そりゃあ魅力的な私だけどそういう言われ方はちょっとムカつくわね。私の年齢とかわかるのかしら?」

「六十五……いや、もう少し――」

「よし黙りなさい。それ以上真実を口にすることは君の舌が消えることと知りなさい」

バラストスの外見はどうみても二十そこらなのだが、その佇まいから実年齢はかなり高いことがわかる。こちとら若作りして年齢を誤魔化している地球人を散々見てきているのだ。

「魔法で姿を変えているのか?」

「違うわよ。私は半分エルフの血を引いているの。ほらほら」

バラストスは髪をかきあげ、耳を見せてくる。確かに以前見たセレンデ出身のエルフ、ワシェクト王子によく似た耳だ。

「なるほどな。それにしても大賢者がこんなのとはな」

「こんなのとは酷いわね?ノラを世話している君のことを試すのと同時に私の実力を理解してもらう上で効果的な挨拶だったと思うのだけれど?」

「そういう意味もふくめた『こんなの』だ。他の弟子はいないのか?」

「私自身も自分のことに専念したいし、それぞれには独自の課題を出しているわ。屋敷に籠もっているだけじゃなんにもならないわよ」

「言えてるな。それじゃま、本題に入ろうか」

バラストスの前に持ち込んだ魔界産の鉱石や植物を並べていく。やはりこういった研究職の連中は希少な品を見ると非常にわかりやすく興味を示してくれる。

「あー!これこれ!この鉱石欲しかったのよねー!」

「町娘が小物を見つけた時のような言い方だな。こちらの要求としてはこれらの物の中で、一般市場に流れても大丈夫そうなもの、その用途と価値などを見出してもらうことだ」

「うーん。できなくはないけどー」

「もちろん調査費は払うし、物の用途は一つじゃない。ある程度の数は無償で提供させてもらう。余る物に関しては好きに扱ってもらって構わない」

「さっすが!わかっているわね!」

「ただ過度な要求にはそれなりの金銭を要求することになるからな、ほどほどに頼む」

バラストスからすれば研究に必要な材料がタダで舞い込み、更に調査費も貰える。魔界に出向いて仕入れるよりもずっと効率的で安上がりな交渉内容だ。断る理由もないだろう。

「ところで用途を教えるのはいいのだけれど、いくつかは市場に出さないほうが良いものもあるわよ?」

「その辺は大賢者の裁量で判断してくれて構わない」

「あら、随分と信用されているのね」

「可愛い弟子をターイズに寄越した真意を考えれば信用できるさ」

「……ま、賢王と呼ばれている王が統治している国だもの。あの子にはいい経験になってるでしょ」

ノラの話では色々と酷い噂を聞いていたのだが、わりといい師匠のようで何よりだ。バラストスは既にいくつかの鉱石や植物の使用法を独自で調べてあり、ノラの調査した品と合わせてそれなりの数が市場に出せるようになった。

「後は相場の調整か。『蒼』に頼んでそれぞれの採取ができる頻度とかを調べたほうが良さそうだな」

「鉱石はともかく、植物になると相当珍しいものね。魔界の領地を好きにできるのなら栽培とかも試行錯誤してみて良いんじゃない?」

「そこまで事業を伸ばすのはなぁ……。まあその辺はジェスタッフに相談するとしよう」

「それはそうと、君達随分と珍しい組み合わせじゃない?私としてはちょーっとその辺を色々調べたいのだけれど……」

バラストスはエクドイクに視線を向けている。まあ、魔物のサンプルを欲しがるような女だ。眼の前に魔族がいれば興味を引くのは当然だろう。

「俺か?」

「ええ、魔族を直接見るのは……二度目だけど、じっくり調べられるような状況じゃあなかったし。それに君、魔族以外にも何かあるわよね?そっちのラクラちゃんと同じで妙な呪いのような力を感じるわ」

「……この『盲ふ眼』か」

「そういう名前なのね。どれどれ……メジス地方にいる魔物、悪魔が使う呪いに似ているかしら。ふむふむ……幻を見せる以外にも効果があるのね。空想の具現化……本来ありえない想像の物質を視界に宿し、この世界に干渉させるってところかしら?」

「そこまでわかるのか……」

この世界の住人じゃなくとも、バラストスの凄さはよく分かる。以前エクドイクに眼のことを聞いて似たような推論を立てたが、バラストスは確信を持って分析をしている。なおラクラは『なんとなくできる力』くらいにしか考えていない。

「ただちょっと使い方が悪いわね。手軽に修復できる悪魔の眼ならまだしも、人の眼で使ってたら負荷も大きいでしょ。あ、でも魔族なら問題もないか。あーでもこれだけ負荷が掛かっていると……うーん」

バラストスはエクドイクの瞳を覗き込みながらうんうんと唸る。顔をべたべたと触っているのが原因か、メリーアが心配そうな顔をしているな。

「俺は魔族になってから治癒能力も高まっているからな。多少の負荷は平気だ。何か対策を考えてくれるのであれば、ラクラの方を先に頼めないか?」

エクドイクはベグラギュドから受け継いだ『盲ふ眼』が妹のラクラや母親であるナトラに伝染していることを簡単に説明する。

「血の繋がりで呪いが広がっていると考えられるけど、その辺の仕組みも調べなきゃね。もしかすれば血を相手に与えればその眼が広がる可能性もあるわけだし……。あ、いっそ私で試してみる?」

「試すと言われてもな……」

「血を抜いてもいいし、体を重ねて見ても良いんじゃない?」

「そ、それはダメです!」

メリーアが割って入るがこの大賢者、メリーアの反応を愉しむためにわざと言ったな。エクドイクはピンときていないようだが。

「さて、ラクラちゃんを優先するのは構わないけど、その為の実験には君が付き合ってくれたほうが効率いいわ。失敗したら大変でしょうし」

「なるほど。それは言えているな」

「じゃあ君は当面私とのやりとりの使いっ走りになりなさい。その時にちょこちょこ試しちゃいましょ。子犬ちゃん、構わないわよね?」

「子犬って……。まあエクドイクは飛行できるからな。移動を伴うお使いを担当してもらうつもりだし」

「じゃあ決まりね。あと見ておきたいのは……そこの頭の悪そうな子」

「いや、悪いけどな!?ハークドックってんだ」

バラストスはハークドックの傍によって頭の上から足の先までをまじまじと眺める。平然としていたエクドイクと違って、こちらは緊張しているのがよく分かる。

「探知魔法の精度がいやに高いと思っていたけど、やっぱりそうなのね。君が報告にあった落とし子ね?」

「お、おお。流石大賢者……」

「バラストス、落とし子かどうか見分けがつくのか?」

「うーん。なんていうか、魔力を生成する器官が不自然なのよね。リティアルを見た時もそうだったわ」

リティアルの名を出したことで何人かがピクリと反応を見せる。だがまあ、そう不思議なことではない。

「知り合いだったのか」

「そりゃあね。私は世界で有名な大賢者、リティアルは最高クラスの冒険者。接点の一つくらいできるわよ。あ、でも敵味方って意識はないわ。君達がリティアルと殺し合おうが、それは君達の勝手。私が関わることはしないわよ」

「今回のことも間接的には関わるんだけどな」

「私は研究するだけだもの。優先順位は変わらないわ。まあでも以前声を掛けられたことはあったけどね」

「落とし子の研究のことだろ」

バラストスはユグラに次いで魔法の頂点にいるとされる人間だ。リティアルの目的が落とし子を集め、その先にある目的を果たすためならば確保しておきたい人材の一人に違いない。

「ええ。断ったけど。ちょうどその頃は酷く物騒な奴に釘を刺されたばっかりだったのよね」

「無色の魔王か」

ノラが禁忌に触れようとした時、無色の魔王が姿を現して警告を行った。その話の中にバラストスの名前が上がっていた。バラストスもまた過去に禁忌に手が届きそうになり、無色の魔王によって警告を受けた一人なのだ。

「その時は名乗らなかったけどね。でも流石にヤバイのはわかったわよ。魔法の真理を極めたい気持ちはあるけれど、一つの禁忌の為に死んじゃったらその先がないもの。その禁忌に関する記憶を消して、その分野の研究は後回しにすることになったわ」

禁忌に到達すれば殺されるとわかっているのに、後回しといっている時点で大概な人物だ。無色の魔王がいなくなったりすれば、バラストスは喜んで禁忌に手を出すのだろう。

「あーノラの件に関しちゃ謝らなきゃな。『俺』の監督不行きが原因でノラも命を狙われることになったし……」

「生きてくれてさえいればそれでいいのよ。報告を聞いた時には驚いたけど、あの年齢で禁忌に辿り着いたことの方がショックだったわ。やっぱり異世界の人間の知識に触れると色々触発されちゃうのね」

「かもしれないな」

異なる世界に生きるということは、その者が持つ常識や発想が異なることになる。その差異を知ることで人は新たな発想に気づくことになる。もしもバラストスが地球に転移することになれば、きっと今以上に恐ろしい存在になるのだろう。

「そんなわけで今後ともよろしくね、子犬ちゃん」

「ほどほどの範囲ならな」

「えー、もっと色々スキンシップとかとりましょ?」

そう言ってバラストスは抱きついてくる。こいつ、距離感のとり方が下手くそだな!?引き剥がそうとすると、バラストスは『俺』の耳元で小さく呟いた。

「――君の中にある魔王の魔力については、また今度ね?」

「……わかったから、離れろ。ぐいぐいくるな!」

「可愛くないわねー」

個別で話をしたいのだろう、そのうち時間を作っておくとしよう。