軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから現れる。

ユグラ教の中で出世するには人格者だけってんじゃダメらしい。魔物に脅かされる力のねぇ連中のために、前に出れる強さも必要となってくる。セラエス、流石は大司教といったところか。基本的な能力がその辺の聖職者に比べて段違いじゃねぇの。

「そこあぶねぇぞマセッタ」

「ちょっ!?」

マセッタの服の首回りを掴んで位置をずらしたのと同時に、マセッタが立っていた場所の地面が大剣を叩きつけられたかのように抉れる。見えない攻撃、ミクスが雑魚を仕留めるのに使った水晶のナイフと違って、これは風の魔法を利用した刃だ。威力もそうだが発動から命中までの時間がかなり早ぇ。ラクラの結界魔法よか遅いんで、俺の探知魔法で感知してからの回避は間に合うんだが……マセッタの反応速度じゃぁちと厳しい。

「ラクラの話じゃ結界魔法を張ったまま魔法で攻撃できるって聞いたけどな?」

「強度が足りないの!私の張れる結界は高威力の魔法を防げるほどじゃないのよ!」

あーそういや結界の上から腕と足をぶった切られたって聞いたな。確かにセラエスの魔法の一撃は重い、ターイズの騎士さんらにも引けを取らないだろうよ。

「ならもうちょい回避を丁寧にだな」

「見えない攻撃なのよ!?探知魔法で対応しているけど、いくつものフェイントが混ざってて正常に判断できないのよ!?」

「あー、まあそうだけどな」

セラエスは俺達に攻撃する際に、一度に複数の刃を時間差で飛ばしてきやがる。こっちが避けそうな方向を考えながら飛ばしてるんだろうが、避け難いったらありゃしねぇ。探知魔法を発動しとけば方向は分かるんだが、マセッタは俺よりも探知魔法の扱いが下手だ。探知してから反応するまでが遅ぇ。

「魔封石は……持ってねぇよな?」

「ないわよ、あんなの持つと咄嗟に魔法使う時に失敗するじゃない」

ターイズの騎士さん並に訓練しなきゃ扱い難しいからな。ミクスなら持ってそうだが、貸してくれってでかい声を出したら意味がねぇ。

「となるとだ、俺が前に出るからお前はもちょっと後ろから適当に魔法を打ってくれ。俺が前に出てりゃ、マセッタの方にそこまで攻撃を飛ばす余裕もなくなるだろ」

「そんな適当で大丈夫なの!?」

「単純な強さで言えばセラエスは俺より強ぇ。だけどな、勝てない相手ってわけでもねぇ。その辺の差を埋めるのに必要なことってのはな、周囲にどれだけ他の要素が転がってるかってことなんだよ」

素手の殴り合いなら腕っぷしの強い方が勝つのは当然だ。だがその近くに椅子の一つでもありゃ、勝負は分からなくなる。戦いってのは要するにそういうこった。あとはどれだけ読み通りに事を進めるか、そのへんは兄弟みたいにどれだけ相手のことを理解できるかってとこだな。

「なるべく貴方に当てないようには気をつけるけど、当たらないでよね!?」

「手を抜かねぇでくれた方が避けやすい、全力で頼むぜ?」

旋棍を回しつつ、セラエスの方へと駆け寄る。奴さん、戦闘が始まってからほとんど喋んねぇ。集中すると寡黙になるタイプってのは油断しにくいから面倒なんだよな。

「そんじゃま、いかせてもらうぜ!」

飛んでくる風の刃をスレスレで回避しながら前へ、あと二歩も踏み込めばこっちの攻撃が届く……が、ダメか。本能様の警告で止まれと出やがった。素直に止まるのと同時に一歩先の地面が破裂したように隆起し、目の前に小さな壁を作る。いや、壁って言い方は適切じゃねぇな。こいつは俺を吹き飛ばす為のもんだ。俺を浮かせて、身動きができないところに確実に風の刃を当てにいく。奴さんの足元はどこもかしこも魔力が染み渡ってやがるな。

「ならこいつで――」

左腕を前に突き出し、奥の手を仕込む。これくらいの土壁ならセラエスまで十分衝撃はいくだろ。え、あ、止めろって?りょーかい!

「ちっ、安易な攻撃手段じゃダメか――ってうおっ!?」

土壁から距離を取るより先に、土壁の方が先に爆発しやがった。てめぇの作った土壁で死角になったからな、範囲攻撃できちっと追撃を忘れねぇってことか。セラエスは自前の結界で爆破を防いでいた。その間にも奴さんの背後には風の刃がドンドン生成されていやがる。

「こりゃ回避に専念っと!」

停滞していた風の刃が一斉に襲い掛かってくる。この軌道、わざと空中に逃げ道を残してやがるな!?見え見えだがそこ以外まともに避けられねーし、仕方ねぇ。跳躍して風の刃を避ける。

「んで、浮いたら当然狙うよなっと!」

右腕の悪魔を操作、腕を伸ばして地面を掴む。そして一気に元の長さに戻して追撃の刃を避ける。普通の人間じゃ今ので詰みだったが、俺は普通じゃなくなったんでな!

「――魔物を仕込むか。汚らわしい右腕だ」

「そうかい、俺に取っちゃかけがえのない右腕でね!」

俺の回避に合わせてマセッタの放った炎が頭上を掠める。良い狙いだが、セラエスは難なく結界で攻撃を防ぐ。いやこれはアレか、複数の魔法を合成してやがるのか。マセッタの炎はセラエスの結界に張り付き、燃え続けている。一定の魔力を込めて、その魔力が尽きるまで燃え続けるってとこだな。結界を発動している最中にゃ動けねぇユグラ教の連中相手にえげつねぇ魔法だ。

「おっしゃ、これなら――あ、ダメだな」

飛び込もうと思ったが本能様の警告で右にステップ。俺が飛び込むのを見越した位置に風の刃が飛んできやがった。視界的に炎で見えねぇはずなんだが、いい勘してやがるぜ。炎は結界を包んで燃えていたが、徐々に鎮火していく。込めていた魔力はまだ残っていたはずだが、何かの魔法で消火したってとこか。同時に複数の魔法を使えるとか、羨ましいこって。マセッタが追撃の魔法を放った隙に一旦下がり、マセッタの近くまで戻る。

「やっぱり通用しないわよね。私の使える魔法の中で一番強い奴なんだけど……」

「そう気落ちすんなって。なかなか面白い魔法じゃねーの。おかげで勝機が見えたぜ?」

「そうなの?正直セラエス様、隙なんてどこにもないのだけれど……」

魔法の威力は高い、こっちの攻撃は読まれていて届けることができねぇ。姐さんくらいにもなりゃ力業で突破できるんだろうがな、俺は小細工しかできねぇんですよ。ただし、相手にとっちゃ致命的になる小細工だけどな!

「セラエスが回避できねぇよう、周囲にその炎をばら撒いてくれ。セラエスを狙う必要はねぇ」

「わ、わかったわ!」

セラエスは追撃の炎を消火しきっており、俺への攻撃を再開する。遠距離からの攻撃ならどうにかこうにか回避は可能だ。だが近づくと本能様の警告に従わなきゃ反応し切れねぇ。

「つっても、マセッタが仕込みを済ませるまでは時間を稼がなきゃならねぇからな!」

遠距離にいればセラエスはマセッタにも攻撃を仕掛ける。マセッタは遠距離からの攻撃もギリギリ、俺の方に攻撃を集中させなきゃならねぇ。

「まずはできる範囲で揺さぶってみますかね」

同じように飛び込み、近くまで寄るのと同時に後方へ飛ぶ。やっぱ土壁を作るタイミングは完璧だな。本能様の警告なしじゃもう二回死んでるぞ、おい。土壁の爆発に巻き込まれないように更に距離をとり、煙幕の中を再度仕掛ける。今度は後ろじゃなく、斜め前にステップ――はい、下がりますよ!

「かぁー対応しやがるかよ!?」

出現した土壁はさっきよりも範囲が広く、俺が土壁の発生を読んで回避することを察知していやがった。戦闘における駆け引きじゃ俺じゃ勝ち目ねぇな。ここは素直に負けを認めておくぜ。

「ハークドック、いくわよ!」

「おう、豪勢に頼むぜ!」

俺が下がるのと同時にマセッタが魔法の構築を済ませ、広範囲に広がる炎を放つ。炎はセラエスの前で左右に分かれセラエスを包囲するように円の形に燃え広がった。セラエスは結界を展開しつつ、冷静に風の刃を飛ばしてくる。だけどな、その余裕の面、そろそろ歪ませてやるぜ!

「これで良いのよね!?って何やってるの!?」

後ろで叫ぶマセッタを無視し、炎の中に飛び込む。見よう見まねで覚えたターイズ式の身に纏う結界を展開しちゃいるが、炎は俺の全身にベットリと張り付いていやがる。つか熱ぃ!俺の魔法の腕じゃ厚手の布を被ってるくらいだからな畜生!

「だけどな、これで良い!」

炎の中を走りつつ、仕込みを済ませる。マセッタは相手の結界に張り付かせ、視界すら奪うことを意識してこの魔法を作っていたようだが、それが最高なんだ。炎の先が見えねぇってことは、セラエスは全身が燃えてる俺の姿を捉えられねぇってことだ。判断できるのは足音だけだが、奴さんは結界を張ってるおかげで音もほとんど聞き取れていねぇ。炎の中で止まり、左腕をセラエスのいる方向へと向ける。距離はまだまだあるが、構うもんか、この位置から奥の手を放つ!

「いっけぇ!」

炎を吹き飛ばし、セラエスの結界を破壊する。威力は十分なんだが、射程が足りてねぇ。奥の手の衝撃はセラエスまで届いちゃいない。

「――間合いを見誤ったか」

だが、だからこそ結界を砕けたんだ。奴さんは俺の奥の手の間合いを察していやがった、なら間合いの外からその奥の手を撃つとは考えねぇだろうからな!

「見誤ってなんかいねぇよ。届かせるのは俺の技じゃねぇ、マセッタの技だからな!」

「何――ッ!?」

砕け散る結界の中、人間の頭くらいの大きさの火の玉がセラエスの足元へと転がっていく。火の玉ってのはマセッタの炎に焼かれてるってことなんだが、その程度の火じゃ大した威力はねぇ。だけどな、その中にある量ならどうだ?

「結界の間合いの内側、だぜ!」

炸裂した火の玉から溢れ出す炎がセラエスを包み込む。火の玉の正体、それは俺の右腕の悪魔の一部だ。マセッタの炎の中を走りながら、その炎を汲み取って包み込んでおいた。普通の炎なら密閉した空間じゃ直ぐに燃え尽きちまうが、マセッタの炎は込められた魔力が残る限り燃え続ける。いっぱい集めて圧縮しておいたからな、てめぇを焼くには十分だぜ!

「ぐっ!?」

「いくら戦闘慣れしていても、燃えながら戦った経験はねぇだろうな。俺の方は生憎と酔っ払いに強ぇ酒をぶっかけられた時に一回経験してるんでな!」

セラエスは自分に纏わりつく炎を魔法で消火させていく。だがこうなりゃ俺の動きを読んでる余裕はねぇ。いい加減踏み込みたかった旋棍の間合い、躊躇なくいかせてもらうぜ!

「俺は消火の仕方をしらねぇからな!迷わず殴りに行けるぜ!」

旋棍の一撃をセラエスの腹に叩き込む。この感触、肉体の魔力強化もそれなりにやってやがるな。俺の旋棍の攻撃だけじゃ何発いるか分かったもんじゃねぇ。なら右腕だ、俺の魔力を餌にしてんだ。きっちり働いてもらうぜ。

「とりあえず、思い切りやっちまえ!」

単純に『目の前の奴をやっちまえ』という意志だけを込め、右腕の悪魔をでたらめに変化させる。右腕の悪魔は俺の意志に応え、角や爪のような刃に雑に変化し、セラエスの体に突き刺さる。精密な変化をさせることができねーなら、悪魔の好きにさせりゃいいってこったな!

「ガッ、ハ……」

身を屈めたセラエスの頭に旋棍を叩き込む。セラエスは地面に叩きつけられ、動かなくなった。

「死んでねぇとは思うけどな、まあ、死んでたらごめんな?」

「燃えながら格好つけてるんじゃないわよ!?」

真横からものっそい衝撃、気づけば全身が水浸し。寒い。

「ああ、マセッタか。すっげぇ雑な消し方だな、おい」

「一応その炎を消すための専用の水よ。というより、あの炎に飛び込むって正気じゃないわよ!?」

「お前ならこの炎を消す手段くらい持ってるだろ?って思ってな」

「持っていなかったらどうするつもりだったのよ!?」

「いいや、あると確信してたぜ?マセッタは色々器用で用心深ぇ。その炎を構築する練習の際に火事とか起こしたら大変だろってんで消す手段は用意してるだろってな」

「……その通りだけど。火傷、痛くないの?」

「くっそ痛ぇ、治療してくれ」

「はいはい……」

マセッタが治癒魔法を掛ける。あー、染み渡るわぁ……。久しぶりに風呂に入るくらい気持ち良い。

「……でも凄いのね貴方。セラエス様を倒してしまうなんて」

「何言ってんだ、お前の魔法がすげーから倒せたんだぜ?俺一人じゃエクドイク達が応援に来るまで時間を稼ぐので精一杯だった。ありがとな!」

「そう……そういうことにしておくわ」

いや、そういうことなんだけどな?って、忘れてた、セラエスの部下は……あ、もう全滅してるな、おい。

「ハークドック、そっちも終わったようだな」

「おお、元大司教を倒してしまうとは……やりますな!」

「いや、お前らは落とし子に加えて雑魚の掃除も終わってんじゃねぇか……」

セラエスとの戦いに集中していてまったく見えてなかったからな。こいつらが強くてほんとよかったぜ。セラエスと戦っている最中に落とし子も乱入とか、考えたくもねぇ。

エクドイクの見立てではセラエスは生きているとのこと。落とし子と同じように縄で縛り魔封石を埋め込んだ錠を装着させる。オマケに麻痺毒も与えられた。瀕死の連中に容赦ねぇよな。セラエスの部下はエクドイクの鎖で十分だろってんで、その辺に転がっている。クアマの兵が回収してくれるだろうとのこと。

「でもまあ、これで無事に目標達成ですね」

「そうだな。……そういえばデュヴレオリが応援に来ると聞いていたのだが」

「む、そういえば来ませんでしたな。思ったより時間が掛かっているのでしょうかな?」

あのデュヴレオリが間に合わないというのも変な話だ。兄弟に別の用事でも頼まれたのか?でもそうなら兄弟から連絡がこないのはおかしい。俺達がデュヴレオリの増援を期待して戦いを引き延ばす可能性だってあったわけだし……。

「……ねぇ、誰か飛んできてない!?」

指を向けるマセッタの言葉に、全員がその指した方向に視線を向ける。すげぇ速さでこっちに飛んでくる人影……お、デュヴレオリじゃん。なーんだ、結局遅刻か。生真面目そうな奴なのに意外と……あれ?

「――どうした、デュヴレオリ!?」

エクドイクが慌てているのも無理はねぇ。俺達の目の前に着陸したデュヴレオリの全身はズタズタに切り裂かれていて、無事な箇所の方が少ねぇ。これが人間なら生きているのが不思議なくらいだ。

「お前達の方は……終わったようだな。時間がない、急いで撤収する!」

「そ、それはどういうことですかな?」

「説明は後だ、奴がくる!」

「――空を飛べるってのは羨ましいな。足をシャカシャカ動かさずに素早く移動できるんだもんな。って、あらー……モラリはともかく、ヤステトまでやられたんだ?やっべ、リティアルに小言言われるなぁ……」

腰よりも長い橙色の髪、戦場にいるってのに少しも緊張感を感じさせない柔らかい表情。デュヴレオリの少し先、一人の男が血に濡れた剣を片手に立っていた。馬鹿な俺でも、こいつがデュヴレオリをここまで追い詰めたってのは理解できる。なんせ、本能様が異様なまでに逃げろと背中を蹴ってきやがる。反射的に探知魔法を使用し、目の前の男の――!?

「皆、逃げるぞ!アレはダメだ!俺達全員でも勝てねぇ!こいつ、ユグラと同格だ!」

騎士として、冒険者として、聖職者として、相手がどれだけ、どのような強さを持っているのか、俺は探知魔法で相手の魔力に触れることでその特徴や傾向とかを掴むことができる。目の前にいる男は過去に一度だけ見たことのある、わけのわからねぇ強さを持った存在と同じ質だった。クアマにある『勇者の指標』、ナリヤ=ユグラの魔力と。