軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから終わらない。

モラリはミクスの方へと向かっていった。ならば俺が相手をすべきはヤステトのみ。だがどう攻略したものか……。鎖に伝わった感触からして、その強固さはラクラの防御に特化した結界よりも優れている。俺の攻撃手段ではラクラの結界ですら突破することは難しく、隙を突こうにもこの男は結界を展開したまま攻撃を行える。

「……どうした、仕掛ける気がないのであれば俺からいかせてもらおう」

ヤステトは一直線に迫ってくる。体術の練度もそれなりにあることを考えれば、近接戦に持ち込まれるのは避けなければならない。まずは奴の身に纏っている結界のリーチを正確に把握することから始めなければ。自身の周囲に複数の鎖を浮遊させ、ヤステトの攻撃に備える。

「(右拳……拳二つ分長い。左側も同等!)」

ヤステトは僅かに浮遊しているように見える。足の裏まで結界で覆っているのだろう。その浮き幅から大よその伸びているリーチは把握できる。全身を覆う結界の厚さはほぼ一定と考えるべきだろう。

「…… 見(けん) に回っているな。冷静な男だ」

「それはお互い様だろう」

ヤステトは分析をされていることを承知で仕掛けている。それは攻撃の最中に相手を観察する余裕を残しているということだ。このまま観察を続けていてもこちらが不利なまま、ならばそろそろ反撃せねばならないだろう。拳をかわした後、鎖で拘束できないか試そうと鎖を揺蕩わせる。奴の拳をギリギリで回避し、そのタイミングで仕掛け――

「グッ!?」

間合いの把握は問題なかったはず、だが回避したと思った攻撃が腹部に命中した。防御用に纏わせていた鎖が粉々に砕け、殺しきれなかった衝撃が内臓にまで到達する。間合いが伸びた?失念していた、ラクラも結界を発動させたままその形を変えられる。ならばヤステトも自分の意志で結界の大きさを変えられるのだろう。

「エクドイク兄さん、私も手伝います!」

背後から聞こえたラクラの声と同時にヤステトが後方に吹き飛ばされる。新しい技、というわけではない。いつもの結界魔法を利用した斬撃の直撃だろう。それで切断されずに吹き飛ばされたということは……。

「……結界魔法を攻撃に用いる者が他にいるとはな」

「うわぁ、まるっきりの無傷ですね」

ヤステトは首の骨を鳴らしながら起き上がる。外傷らしいものは一つも見当たらない。ラクラの斬撃はデュヴレオリの肉体すら切断するというのに、奴の纏っている結界は大悪魔の強化された肉体よりも強固ということになる。

「ラクラ、お前から見てあのヤステトという男はどう見える?」

「結界の強固さもそうですけど、あの強度を維持したまま伸縮を変えて身に纏わせているというのは異常ですね。結界の維持だけでもそれなりに集中力を使いますし……」

「そうだな。やはりあの男、落とし子としての才能は集中力にあると見て良い」

「それよりも、凄く痛そうな一撃をもらっていましたけど、大丈夫ですか?」

「問題ない。肋骨が数本折れたが治療魔法である程度の応急手当は済ませた」

激しく動かなければもう暫くすれば完治させることができるが、それを待ってくれるほど甘い相手ではないだろう。今のところは応急手当の状況ですませるしかない。

「……結界の硬度というより、展開の速度が特徴か。回避し続けることは難しいだろうが、防げない攻撃ではないな」

ヤステトが駆け出し拳を振るうのに合わせ、ラクラが防御用の結界を展開しそれを防ぐ。結界は拳を止めることができたが、その一撃を受けただけで亀裂が入った。バラグウェリンやデュヴレオリが破壊していたことから純粋な威力で見ればマシな程度ではあるが、俺の攻撃ではビクともしないラクラの結界に亀裂を入れるというのは十分に化物だろう。

ヤステトはさらにその上から拳を叩きこもうとするが、ラクラはそれよりも早く結界を再展開し攻撃を防ぐ。そして解除と同時にヤステトに攻撃用の結界を命中させた。ヤステトは後方に大きく弾き飛ばされるが、今度は倒れることなく踏みとどまってみせた。

「ダメですね。私の攻撃ではあの結界は突破できそうにありません……!」

「だがそれは相手も同じ……というわけにはいかないか」

ヤステトはまだ余力を残しているように感じる。ラクラの結界に亀裂を入れたのも普通に振るった拳によるもの、大技の一つでも持ち出せば突破してくる可能性は大いにある。

発生する物質の硬度が遥かに向上する真なる『 盲(めし) ふ眼』を使えばどうだ?いやラクラの結界では相手の大技を防ぐことはできても、あの防御を突破することは難しいだろう。攻撃の刃をいくら硬くしたところで放つ速度が一緒では切れ味はさほど変わらない。俺の鎖で動きを封じることくらいはできるだろうが、奴が結界を展開している限りダメージは与えられないだろう。相手に直接触れることができなければ鎖縛の六塔の封印効果は得られない。眼を長時間使用すれば、こちらの消耗が激しくなり不利になる。

「……埒が明かないな。型を変えるか」

ヤステトが構えを変化させるのと同時に腕に纏っていた結界の形も変化していく。先程までは拳全体を覆うさらに巨大な拳をイメージさせられていたが、今の形状は手甲剣のようだ。叩き壊すのではなく、穿ち貫くことを狙いとしているのだろう。

「注意しろラクラ、アレは一点突破の形だ。結界を貫いてくるぞ!」

「私は大丈夫ですけど、エクドイク兄さんはどうするんですか!?」

「どうにかするしかないだろうな」

ヤステトが飛び掛かる。固まっていてはどちらに仕掛けてくるか判断がし難い。ラクラと僅かに距離を取り攻撃に備える。仕掛ける先は……ラクラか!

「防御結界でダメなら……!」

ヤステトの振るう右拳が跳ね上がる。なるほど、攻撃用の結界による斬撃で受け止めたか。切断はできなくとも、ヤステト本人を吹き飛ばす衝撃ならば振るう拳の勢いを防ぐことはできるだろう。それも一撃だけではなく今の一瞬で三撃、迅速で精密な攻撃ができるラクラならではだ。

「……やるな、だが防御結界を展開しなかったのは不用意だったな」

「――ラクラッ!?」

ラクラの体が曲がる。ヤステトは右拳が跳ね飛ばされたのと同時に左脚先の結界を伸ばし、槍よりも長い射程を持った蹴りを放っていた。不味い、ラクラは俺と違って防具の鎖もなければ魔力強化による耐久力の上昇もない。生身の体で結界を破壊できるような男の蹴りを受ければ――

「それを待っていました!」

「――ッ!?」

右腕を弾かれた姿勢から無理に蹴りを放ったヤステトの体が浮く。ラクラは下側からの結界攻撃を行い、ヤステトの体を持ち上げたのだ。

「エクドイク兄さん!仕掛けます!あの人と私に鎖を!」

「――わかった!」

纏わせている結界の上からヤステトの体へと鎖を絡ませる。そしてもう一方をラクラに握らせる。ラクラは続けて二度三度、下側からの攻撃を行い連続してヤステトの体を宙へと運んでいく。結界の破壊は叶わなくとも、その衝撃はヤステトを空高くまで跳ね上げることはできる。そして鎖で繋がれていることでラクラの体も共に空へと引っ張られる。

『……無駄なことをっ!』

『いいえ、無駄ではありません。最初に貴方を弾き飛ばした時、貴方は首の骨を鳴らす仕草を取っていましたね。外からの攻撃は防げても、転倒などによる衝撃は防ぎきれていない!』

鎖を介して二人の会話を確認する。ラクラはヤステトへの攻撃を止めず、遥か上空の彼方まで運んでいく。そして地上から粒ほどの大きさにしか見えない高さまで到達した。ラクラがしようとしていることを察し、俺も地面に無数の鎖を這わせていく。

ヤステトは続けて繰り出される攻撃を防ぐための結界維持のために、他の魔法による対処ができない。そしてラクラは下側からでなく、上側からの攻撃を始める。当然ヤステトの体は降下を始め、追撃が放たれるごとに加速していく。ラクラは鎖を放さず、加速していくヤステトと共に落下していく。

『……お前も無事では済まないぞ!』

『そうでしょうけど、貴方は一人で私達は二人です!』

タイミングを見誤ればラクラとて無事では済まない。二人の落下してくる速度の加速具合、方向をギリギリまで見定め足元の鎖を構築していく。

「――今だラクラッ!鎖を放せ!」

地面へと叩きつけられる瞬間、展開した鎖をラクラに搦めその衝撃を吸収させる。鎖の硬度を限界まで下げ、肥大化させた。そしてヤステトが落下する地点の鎖を大地と絡ませ限界まで硬度を上げる。ヤステトの落下の衝撃でラクラが弾き飛ばされたのを体で受け止める。

「無事か、ラクラ!?」

「な、なんとか……」

落下の衝撃によるダメージはほとんど受けていないが、加速していくヤステトについていくために鎖を握っていた腕はかなり酷いことになっている。

「あの蹴りを受けた時はヒヤリとしたぞ……」

「あの方が拳を弾かれた時、攻撃を仕掛けてくるというのは目でわかりました。ですから全身にターイズの騎士様達が纏うタイプの結界を展開していたのです。強度も通常の結界より大分脆いですし、どこを狙ってくるかまでは読めませんでしたので集中的な防御はできませんでしたが……ゲホッ」

ラクラが吐血する。先程の蹴りで内臓まで負傷しているかもしれない。ラクラを地面に寝かせ、鎖を巻きつけて回復魔法を掛ける。

「……ぐっ」

ヤステトが体を動かし、仰向けからうつ伏せへと姿勢を変える。意識はあるようだが、目に見えて深手を負っているのが分かる。頭部から血を流し、ラクラとは比べ物にならないほどに重傷だ。全身も無事ではないだろう。

「お前の負けだ、ヤステト。魔力の残量はあっても体力はほぼ限界だろう」

「……何を、言っている。まだ俺の結界は破られていない。その女はもう戦えない、ならば俺の勝機は残っている!」

ふらつきながらも立ち上がるヤステト。結界の維持は続いており、目に宿る闘争心は消えていない。だがもう練度の高い体術を繰り出す余裕はないだろう。

「いいや、終わりだ。お前を倒す方法をラクラが教えてくれた。硬いだけで動くことも満足にできないお前なら、俺一人でも十分だ」

ヤステトの全方位から鎖を這わせ、巻きつけていく。ユグラ教の結界は空間に固定されているために持ち上げることはできないが、ヤステトの結界は自身を中心として展開されている。今のヤステトに自分を持ち上げようとしている鎖を断ち切る力は残っていないだろう。

「……っ!」

「弱った相手だからと手を抜くつもりはない。その結界が解除されるまで、何度でも叩きつける!」

鎖を操作し、ヤステトを空に投げる。そして一気に引き寄せ地面に叩きつける。鎖を介してヤステトの展開している結界が維持されているのを感じる。再び投げ、叩きつける。二度、三度、四度、ラクラが行った技と比べればその衝撃は弱いが、何度も繰り返し続けていく。そして十三度目の叩きつけの時、ヤステトの展開していた結界が解除されたのを確認した。

「はぁ……はぁ……。ようやくか……」

気絶したフリの可能性を考え、ヤステトの素肌に直接鎖を撒きつけ全身の自由を奪う麻痺の魔法を掛ける。もしもこれが一対一ならば、並の拘束では鎖を千切られていただろう。真なる『 盲(めし) ふ眼』で創り出す鎖を使えば拘束し、今のように投げることはできたかもしれないが、奴の体力が尽きるまで俺の眼が持つことはなかっただろう。

「どうにかってところでしたね、エクドイク兄さん……」

「ラクラがいなければ負けていたかもしれないな」

「正直ドン引きするような勝ち方ですけどね……」

「結局俺達ではこの男の結界を正面から破ることはできなかった。これだけの強者を相手に勝てたのだから、勝ち方までに拘るのは贅沢というものだ」

他の者達はどうだろうか。ミクスの方へと視線を向けると既にモラリを拘束しており、こちらに手を振っている。ハークドックの方は未だ戦闘中のようだ。だが加勢に行こうにも、こちらが手負いなのを良いことにセラエスの部下が向かってきている。まずはこちらをミクスと合流して対処しなくてはならないだろう。