軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから戦うだけ。

エクドイク殿の仕掛けは不発に終わったようですが、そのおかげで落とし子の二人の手の内を確認することができました。モラリという女は短い距離、自分自身だけという制約はあれど瞬間的な転移魔法による間合いの調整が可能。ヤステトという男は全身に結界を展開し攻防どちらにも流用できる格闘家。

「ミクスちゃん、どうしましょう?」

「ご友人の予想した通り、あの二人はかなりの手練れのようですな。ラクラ殿はエクドイク殿と一緒に男性の方を。私は数を減らしてから女性の方を相手にします!」

一度目の攻撃を外したセラエスの部下が既に次の攻撃の準備に入っている。まずは彼らを無力化してからでないと、満足に戦うことはできない。できれば強敵用に残しておきたい物だったのですが……ここは皆が行動しやすくなることを優先しましょう。両手で八つの『イロナシ』を掴み、同時に放る。

「何を――ッ!?」

放った『イロナシ』は全部で八本、八人の体へと命中する。金属ではなく透明な水晶を加工して作った『イロナシ』は、それなりの実力がなければ目で追うことすらできない初見殺し用の武器。全てに麻痺毒が塗られており、刺さりさえすれば数時間は立ち上がることもできなくなる。モラリの方には使えそうでしたが、ご友人の推察を信じるのであれば通じない可能性も見えますからな。次は『ハッパ』を二本、動じずに魔法を放とうとしている左右の者達の足元へ投げて爆発魔法を起動。今度は見えているナイフ、反応する余裕はあっても足元で爆発されては回避することは難しいでしょう。

「ハークドック殿とマセッタ殿はセラエスの方へ!」

「おうさ!」

爆発の煙幕ごしに相手が無事なのを確認。攻撃を止め結界を張りましたな。両足の魔力強化を増強、低い姿勢のまま右側へ飛び込む。結界を張っている者は無視し、その奥にいる相手を一人、近接戦用のナイフ『エンブ』で斬りつける。

「ぐっ!?」

「後ろか!ちょこまかと――!?」

結界を張っていた者は私の姿を認識し、魔法を放とうと構える。しかし魔法は構築段階で解ける。すれ違う際に結界の上に落ちるように魔封石のナイフ『フウジ』を放っておきましたからな。その隙を逃さず、投擲に特化したシンプルなナイフ『ウガチ』を膝上へと投げる。煙が晴れきる前ならば目視できる『ウガチ』でも反応が鈍るでしょう。

「これで十一人、そんでもって――十二!」

投擲に使う体の部位に施してある魔力強化を増強し、二本目のウガチを飛び込む前に左側にいたもう一人の結界を張っていた人物のいる方向へと力強く投擲。

「がっ!?」

命中、やはり奥で別の人物が攻撃されたことで結界を解き、魔法の狙撃に切り替えていましたな。煙が晴れ、私がその合間に仕留めた三人が毒で動けなくなっているのを確認。

「一度に半数近く……!気をつけろ、この女戦闘に長けているぞ!」

「見ればわかる!……待て、まさかこいつ『殲――」

「申し訳ありませんが、その二つ名はあまり好きではありませんので。呼ばないでいただけると嬉しいですな」

叫んでいる男の後ろ側に届くように『テツヨセ』を放る。自分を狙わない攻撃、かといって何かあるであろうナイフを目で追わずにはいられない。男の視線が揺らいだ頃合いを計って『テツヨセ』に仕込んでいた魔法を発動。周囲に散らばった『イロナシ』以外のナイフがその男の方向へと吸い寄せられる。

「アガッ!?」

この『テツヨセ』は一定範囲の特定の鉱石を引き寄せる性質を持った魔力を生み出す魔法を仕込んであり、大抵のナイフには先端にその鉱石を埋め込んである。鞄や衣服は特注でその魔力干渉を受けないようにしてあるので手持ちのナイフ以外、つまりは使用済みのナイフだけが引き寄せられることとなる。

「ふむ。数を減らすのはこの辺で良いでしょう。では私は本命をば」

視線をモラリの方へと向ける。モラリは私の動きを観察していたのでしょう、互いの視線がピタリと合いました。

「ナイフ使いか。私の相手をしたいそうだな。いいぜ、ぶっ殺してやるよ」

「口の悪い方ですな。もう少し丁寧に喋ってはいかがでしょう?」

「お前が言うな。変な喋り方しやがって」

む、別に変と言うほどではないと思うのですがな。『エンブ』を構え、動きを見守る。背後ではハークドック殿達がセラエスの部下と交戦に入ったようですな。これなら目の前の相手に専念しても良さそうですな。ではお手並み拝見!

「いくぞ」

モラリはナイフを構え、真っすぐこちらへと駆けてくる。転移魔法を使用してこないのは既に一撃必殺である転移魔法を使用した奇襲を見られたからでしょう。私が相手をしようとしていることから何かしらの対策を考えている……といったところでしょうかな。

モラリのナイフを受け止め、数合斬り合う。やはりナイフを使った戦闘になれているようですな。ただ純粋な力比べでは私の方が上、まずは転移魔法を使用させることから始めるとしましょうか。

「ちっ、馬鹿力め」

「ターイズ出身者ですからな」

「――そうか、お前があのミクスか。ゲッシュヴァ盗賊団を壊滅させたっていう」

「おや、懐かしい名が出ましたな。知人でもいましたかな?」

「いいや、そのうちぶっ殺す予定だった連中だ。手間が省けた」

クアマ地方で活動していた盗賊団の名が出るということは、モラリはクアマ出身でしょうか。ナイフ捌きも我流ではありますが、どこかクアマ地方でよく見られる型が混ざっておりますし、なら都合が良い。

「仕掛ける気がないのであれば、こちらから行きますかな!」

モラリの攻撃を跳ね上げたのと同時、空いた手で『ウガチ』を手首の力だけで投擲する。力量からして回避できるとは思いますが……。

「それを待ってたんだ」

モラリは『ウガチ』が命中する瞬間、目の前から姿を消した。視界内にいないということは、つまりはそういうこと。こちらもその動きに合わせ、腕に隠していたもう一本の『ウガチ』を後方へと放る。

「そうくると思ってたさ」

殺気を上方から感じ、素早く受け止める。ふぅ、ギリギリでしたが防御は――

「――たっ!?」

ナイフは受け止められましたが、上空からの奇襲ついでに蹴りを放っていましたか。なかなか良いのが入りましたな、頭がクラクラしますぞ。

「小奇麗な戦い方をしやがって。そんなのに引っかかると思ってるのか」

「罠を張ることに小奇麗もないと思いますがな」

「自分の後ろに魔封石をばら撒いて、私が再度距離を取るのを防ごうとしたようだけどな。甘いんだよ」

「ありゃ、バレていましたか」

転移魔法は自身を中心として発動する魔法、ならば足元に魔封石が転がっていれば妨害できるとは思いましたが……小粒の魔封石にも目ざとく気づきましたな。ただこれでご友人の推測はほぼ確実と見て良いでしょう。

『転移魔法ってのは移動先の座標とかを正しく調整しないとできないらしい。落とし子の才能でそれが使用できるというのであれば、そいつの秀でた才能は空間把握能力である可能性が高い』

私の背後、死角に転がる小粒の魔封石を認識できるというのは正直ビックリですがな。ただそうなると転移を先読みしてナイフを死角へ放っても飛ぶ前に勘付かれますな。

「蹴られてもヘラヘラしやがって、イラつく女だ」

「戦いの最中に感情が動くようでは半人前、そう教わりましたからな」

モラリの戦い方はこちらの技に合わせて転移、死角からの攻撃を浴びせるといったシンプルなもの。視界内に転移したところで飛び込みが早いのと変わらないでしょうし、こちらの動きの方が早ければいくらでも対応はできますしな。

「自分は恵まれていますって面しやがって、殺し甲斐ありすぎだろ」

ニールリャテスと言い、身に覚えのないことで怒りを買われるのはご勘弁願いたいところですな。まあ、折角の嫌悪感、利用させてもらいましょう。

「酷い言い草ですな。リティアルからの扱いはそんなにも酷いのですかな?」

「――死ね」

モラリが一瞬で目の前に現れ私の眼へとナイフを突き立てようとする。それを『エンブ』で受け止め、『ウガチ』を投擲する。だけどその瞬間にはもうモラリは視界から消えている。位置は――背後!

「捕まえましたぞ」

「ッ!?」

背後から迫っていた刺突を、空いた手で掴んで止める。『エンブ』を手放し、モラリの伸びた肘を掴む。

「ナイフの技は我流のようですが、急所を狙う刺突の仕方はクアマでよくみるものと類似していますな。反撃に即反撃を仕掛ける積極性は良いのですが、くる方向が分かっていれば体術でどうにでもなりますからな」

「刃を手で止めるとか正気か!?」

「ナイフ使いは刃の部分を握ることも多いですからな。手袋くらい防刃仕様の特注にしていて当然ですぞ?流石に手のひらで真っ直ぐ受け止めれば刺さりますが……さて」

掴む力を強め、一気にモラリの肘を砕く。これでこの腕でナイフを操ることはできないでしょう。

「アッ、ガッ!……こいつ!」

「引きちぎられないだけ感謝して欲しいところですな。正直なところ、貴方達のせいでとても大切なお方が傷つけられた。私としても思うところはあるのですぞ?」

もう片方の手に力を込め、握ったナイフの刃を曲げていく。もしもご友人が無事でなければ、掴んでいたのは肘ではなく首だったでしょうな。既にモラリの手から離れていたナイフを捨て、モラリの腹部に拳を叩き込む。声にならない声を出し、モラリはそのまま力なく崩れる。

「まずは一人、さて他の方はっと……」

やっぱミクスはやべぇな、一瞬で十人以上再起不能にしやがった。リオドの冒険者でやべー奴の筆頭がパーシュロやギリスタだったように、モルガナのやべー奴と言えばミクスだったしな。

「んじゃま、残りは俺達で片付けますか!」

「ちょっとハークドック、相手は魔法を主体に戦うのよ!?不用意に飛び込んだら良い的よ!?」

「問題ねぇよ!」

そりゃあ相手が全員ラクラ並だったら俺でも気を付ける。てか逃げる。だけどよ、探知魔法で周囲の連中の程度はとっくに把握した。この場で警戒すべきなのは落とし子の二人とセラエスだけだ。一人に向かって突進し、相手が狙いを定め魔法を使うタイミングで右に重心をずらす。

「このっ――」

相手が偏差射撃をしようとしたタイミングで逆側に方向を切り替える。戦いなれてねぇような連中にはこのフェイントだけで十分。放たれた魔法は真逆の方向へと撃ち込まれ、俺は何事もなく懐に飛び込み旋棍を叩き込む。そんで気を失って倒れようとしている奴を掴んで、せーのっ!

「んなっ!?」

突如味方を投げつけられた敵さんは動揺して対応が遅れる。魔法で撃ち落とすことはできねぇ、結界で防ぐか受け止めるか、下がってくれても問題はねぇよ?どっちにせよ詰めるだけだからな。

「おっ、結界で弾くか。痛そうじゃねぇの、ひでぇなぁ?」

展開された結界の前に立ち、足元で気絶している奴を見ながら軽く笑う。結界を張るってことは壁を作るってことだ。つまり俺の攻撃が届かねぇのと同じで、奴さんの魔法もこっちにゃ届かねぇ。この場合取る行動は二つ。結界を解除して魔法を撃つか、結界を維持して仲間に攻撃させるかだ。撃たせるようなら奥の手を結界の上から叩き込むだけだが、魔力の消費が惜しいからな。

「貴様っ!」

「おうおう、勇ましいな。ほらよ」

奴さんが選んだのは魔法による攻撃。構築を済ませてから結界を解除するあたり、器用ではあるが煽り耐性は弱えな。足元に転がっている奴を蹴り上げ、目の前に出してやる。

「っ!?」

「いやぁ、聖職者上がりな連中は泥臭くねぇからやりやすくて助かる。悪党には容赦ねぇくせに身内には優しいんだからよ」

蹴り上げた奴の下から潜り込み、旋棍を叩き込む。あと結界だよりなせいで肉体的な防御力が低いってのもやりやすい。これくらいの加減じゃ、姐さんやウルフェ相手だと涼しい顔されちまうからな。マセッタもすぐそばまで合流し、数人を挟んでセラエスの顔が良く見える位置まできた。

「無茶苦茶な戦い方ね……」

「喧嘩慣れしてるって言って欲しいもんだ。おい、セラエス。雑魚の後ろで高みの見物か?大司教の力を今振るわなくて、いつ振るうんだ?」

「貴様っ!」

「……そうだな。どうやらこの場を切り抜けるにはその必要がありそうだ」

お、ノッってくれたね!ミクスと合わせて雑魚の半数はぶっ倒したが、まだ半分も残ってやがるからな。減らしている間に逃げられちゃ戦力を分断しちまうし、雑魚と言っても魔法の威力は確かなもんだからな。セラエスが戦うことになれば、連携が取れない雑魚は見守ることしかできねぇ。実質雑魚はこれで片付いたってことだ。まあこれでセラエスを倒しても、残った雑魚を倒す余力を残さねぇといけねぇのは辛いとこだが。

「セラエス様、どうしてこのようなことを……」

「マセッタ=ノイチスか。知れたことを、世の秩序のためだ」

「あの人は人の為に戦っています。魔王と協力していたとしても、それはより争いのない平和のためを思ってのことです」

「やはりウッカの弟子ならではか。水面の美しさだけを語り、その奥に沈殿する泥や石のことを考えない。大罪を犯し、人ですらなくなった者に頼って作り出す人の世に何の意味がある。人の世の平和は人の手によって維持されなければならない」

「ですが――」

「あーわりぃ、そういう問答は後にしてくれね?」

話が長くなりそうだったんで割り込む。落とし子の確保も考えりゃ長々と話す余裕なんてねぇんだよな。

「貴方ね……」

「マセッタ、お前の立っている位置はどこだよ?セラエスは既に力ずくで取り押さえなきゃならねぇ相手だ。言葉で通じてもらえるって時期はとっくに過ぎちまってる。それともお前はセラエスを説教して改心させられるほど説法が上手いのか?なら任すけどな」

「……そうね。今は戦う時だったわ。セラエス様、事情はともあれ今は貴方を止めさせてもらいます」

「ならば抗わせてもらおう。それが私の示す道だ」

さて、と。やり合うのは良いんだが、大司教ってなるとやべー連中が多いんだよな。どいつもこいつも魔物のユニーククラスを単身で討伐できちまうような化物だ。聖騎士とやり合う以上に危険な相手ってのは探知魔法で探った時から実感している。この男は実戦経験もかなりある。ただ姐さんのように超人的な身体能力があるってわけじゃねぇ、どっちかと言えばラクラのような魔法を駆使して戦うタイプだ。まずはどう隙をつくかを考えなきゃならねぇな。