軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから構える。

「お呼びでしょうかリティアル様」

私個人に宛がわれた部下、モラリとヤステト。この二人は私がこの眼で見つけ出した落とし子だ。モラリは転移魔法を使用できるほどの空間把握能力を持ち、ヤステトはあらゆる攻撃を阻む結界魔法を展開できるほどの集中力を持つ。単純な戦闘能力でみればかつて冒険者時代に連れ添った仲間の方に軍配があがるだろうが、利便性だけをみれば最高の部下と言える。

「つい先ほどセラエス大司教よりラーハイトへ連絡がありました。セラエスがユグラの星の民を監禁していた事実が公になり、彼は今逃亡中です。お二人にはその手助けをして貰いたいと思います」

「……お言葉ですがリティアル様、その話からしてセラエスは大司教の座を奪われたということですよね?そんな男を助ける価値があるのでしょうか?」

「もっともな意見ですねモラリ。ですがセラエスはアレはアレで有能なのですよ。この数十年、無能なゼノッタ王の代わりにクアマの治安を影で支えていたのは紛れもなく彼です。この世界の裏の住人のことをもっとも詳しく把握しており、それは今後の私達の活動に大いに役立つでしょう」

職を失ったからといって、その個人の価値がなくなるわけではない。その理論ではモルガナのギルドマスターでなくなった私もまた無能ということになる。

「わかりました。では――」

「ただ一つ注意を、今回の件は何者かによって仕組まれたものであるということです。そうなると合流先には既に刺客が送り込まれている可能性も高い。多少の交戦は認めますが、旗色が悪くなりそうに感じた場合には即座に二人だけでも撤退してください」

「心配いりません、無事に任務を果たしてきます」

「心配させてください。セラエスは欲しい人材ではありますが、私にとっては貴方達の方が大切なのです。落とし子としての能力もそうですが、何よりも私が信頼を置ける二人の忠義はそう簡単に代えがきくものではありません」

「……勿体ないお言葉です。私達を救ってくださったリティアル様の素晴らしさは、同じ落とし子ならば同じように忠誠を誓えるでしょう」

モラリは私に対し、常に畏まった態度を取る。それはそれで悪くはないのだが、時折グラドナのような馬鹿が懐かしく感じてしまう。

「勿体なくなどありません。二人にはそれだけの価値がある。私が貴方達を導いたのは道具として使い潰すためではない。共に同じ理想を目指すための同士として歩んでほしいからです。そのこと忘れぬように。では私は別の用事に取り掛かりますので、後は任せましたよ」

先に呼び出した部屋を出る。あの二人ならば生半可なトラブルならば十分に対処はできるだろう。しかし、これだけのきな臭さを感じる案件ともなれば、もう一手用意をしておくべきだろう。

「ああ、リティアル様!なんとお優しい!あんなお言葉を掛けてくださるなんて、ああ、ああ、ああ!」

「……モラリ、落ち着け」

「あん?私が悦に浸っている時に汚ねぇ音を響かせるんじゃねーよヤステト。ぶっ殺すぞ?」

「……リティアル様がまだ近くにいる。その奇声を聞かれたいのであれば止めないが」

「えっ!?嘘っ!?」

足音を出さないようにそっとその場を離れる。信用されるように接した自覚はあるのだが、どうも想像と違った形で依存されてしまっている。可愛らしいことには違いないのだが、どう接していくべきなのか。こればっかりは才能を見抜くこの眼を以てしてもわからない。

「さて、と。やはり彼を呼んでおくべきだろう」

ユグラの星の民がセラエスによって重傷を負わされたことは確実だ。そうなると今回の一件に関わっているのはターイズの王辺りと見るべきか。賢王ならばそれ相応の策は練っていることだろう。いや、もしかすれば既にあの男が介入している可能性も……。

「いっそ治療と偽って刺客でも送り込めば良かったか」

これまで殺したいと思った相手はそれなりにいる。だが死んで欲しいと願った相手は限られる。ユグラの星の民の眼、あれは私の才能に近いものを持っているが落とし子としてのものではない。他の才能ならばユグラに匹敵する落とし子の才能の方が優れているだろうと高を括ることができるが、あの眼はどうも不穏だ。その死が確認されるまでは気を抜くべきではないだろう。

「そっかー、兄弟は無事に完治したのか。そりゃなによりだ!」

エクドイクから兄弟の経緯を聞かされ、心の底からホッとする。そりゃあジェスタッフの兄貴にとっての弊害になるかもしれねぇってんなら、いつかは超えなくちゃならねぇ相手ではあるけどさ。今はその時じゃねえってのは俺でも分かる。それに兄弟が死んじまったら、姐さんやウルフェが悲しむだろうしな。

「ただセラエス様がそんなことをしていたなんて……はぁ……」

「マセッタはクアマ支部の司祭だったよな。あれ、てことはセラエスの部下ってことなのか?」

「今更な質問ね。確かに私はセラエス様の下で働いていたけど、派閥でいうならウッカ様の下にいるわよ。モルガナとしての活動を重点的にやりたかったからクアマにいただけ」

「そういうもんか」

「そういうものよ。だから私には何の連絡もこなかったの。セラエス様の弟子以外のユグラ教徒は今ごろ大慌てでしょうね」

クアマにあるユグラ教の関連施設は全てクアマ軍とエウパロ法王から直接命令を受けた聖騎士達によって取り押さえられた。マセッタも俺と合流してなきゃ今頃軽い軟禁状態にあったかもしれねぇな。ついてる女だ。

「雑談はその辺にして、そろそろ目的の場所だ。これ以上は探知魔法の範囲に入りかねないな。望遠の魔法で様子を伺おう」

「俺それ使えねぇんだけど」

「仕方ないわね。ほら、ちょっと顔貸しなさい」

マセッタが俺の眼に手を当てて、魔法を使用してくれる。うお、距離感が気持ちわりぃ。そのまま遠くへと視線を向けてセラエスの弟子達が向かった先を見る。

「いるな。数は三十ってとこか?お、セラエスも発見だ。よっしゃ、なら早速――」

「待て。我々の目的はラーハイトの一味だ。そいつらが現れる前に殴りこんでは逃げられる恐れがある」

「っと、そうだった。それにラクラもまだ来てないしな」

「なんであいつ買い出しに行っているのよ……」

「同胞から『張り込みには軽食が不可欠』という奇妙な鉄則を聞かされたのが原因だろうな」

「食べ物の匂いでバレたらどうするのよ、それ」

「……そこはまあ、魔法でどうにかできるだろう」

「空腹で腹の音が鳴るよりかは対処できるんじゃね?」

「それは……うーん」

マセッタは何か腑に落ちねぇって顔をする。まあ俺はわかるぜ、暇過ぎると何か噛みたくなるからな。そうこうしているとミクスとラクラが食い物をもってやってきた。

「おまたせしましたー」

「エクドイク殿、セラエスの様子はどうですかな?」

「何かを待っているといった感じだな。だが時折周囲に警戒している素振りもあるから、これ以上近づくことはできん」

そう言いながら各自用意された食事を口にする。ラクラ、酒は飲むなよ?なんで用意されてるかは聞かねぇでおくからさ。

「実は既に到着しており、準備している――とかだと元も子もありませんからな。ハークドック殿は転移魔法の発動を察知とかできないので?」

「俺に害を加えようとした転移魔法ならどうにかできるかもだがな。宿屋で寝てるときに受付で殺し合いがあっても起きねぇ自信はある」

「自慢にはならないわよ、それ」

しっかし、実際のところどうなんだろうな。本能様は俺に命の危機が迫れば直ぐに背中やケツを蹴ってくるんだが、どうにかこうにか応用できねぇもんか。

「ならこういうのはどうでしょう?転移魔法で誰かが来たらミクスちゃんが何も考えずにハークドックさんを刺す。そうすればハークドックさんにとって危機的状況なのではないでしょうか?」

「何その不条理!?」

「なるほど、ハークドックの命の危機に関連付ければもしかすればということだな。だがそれではミクスが視認した瞬間に反応することになる。転移魔法に気づくのが遅れた場合に刺すことにすれば先に感知できるのではないか?」

「無茶苦茶じゃねぇ!?そんなこじつけでできりゃ苦労はねぇよ!?って、おい?」

ミクスが静かにナイフを抜く。あ、こいつ目がマジだ。

「大事なのはそれが事実になるという思い込みかと思いますな。そういうわけで私は本気でそう思ってみましょう!」

「それ、俺が感知できなきゃ刺されるってことだよね!?」

「問題ありませんぞ、ダメならダメで回避すれば良いだけではないですか」

「刺すことは確定なんだな!?」

「同じモルガナの冒険者なのに、なんでこの人こんなに血生臭い性格なのかしら……」

うおお、マセッタも止める気が感じられねぇ!?本能様、できるの?やればできる子なの?間もなく不条理な暴力が俺を襲うんですが、それは防げるんですか!?え、あ、はい?

「――そろそろくるっぽい」

視線をセラエス達の方に向けると、僅かな光が見えた。そしてその光の発生源のところに見知らぬ人影が二人、マジで本能様察知してくれましたよ!?

「ぷすっと」

「いてぇ!?」

脇腹にナイフが刺さる。こいつ、本当に躊躇なく刺しましたよ!?本能様なんでこっちには警告してくれなかったんですかね!?来るのがわかってるなら自力で避けろってことですか!?

「あ、すいません。手が反射的に」

「本当に反射的に刺す準備してやがったな!?」

「本気にならなければと思い込んでいましたので……治療魔法掛けますぞ」

「ともあれ、これで見逃す心配はなくなったな。いくぞ!」

「あ、ちょっと待てよ!?せめて治療が終わってから――」

「そうですな、軽い刺し傷ですからあとで治療しましょう!」

「親指の先くらい入ったんですがね!?」

つっても、相手は直ぐにでも移動を始めるだろうし、仕方ねぇ。この鬱憤は連中にぶつけて晴らしてやる!

鎖を解きつつ距離を詰め、探知魔法を発動させる。正確な数は三十四人、この場で逃がしてはならない人物は落とし子の二人とセラエスを含めた三人。こちらの探知魔法に反応し、視線が一斉にこちらに向けられる。より接近したことで、新たに現れた二人組がデュヴレオリから聞かされたリティアルの側近と一致したのを確認する。

「ちっ、本当に刺客がいやがったか」

「……数は……五人か、どうする?」

「私に聞くな。おいセラエス、お前が招いた客人だろ。私の準備が済むまで相手してろ」

「了解した。各員、戦闘準備!時間を稼げ!」

セラエスの声に合わせて周囲の者達が臨戦態勢となる。全員それなりに腕は立つようだが、厄介と思えるほどではない。しかしこの数を馬鹿正直に相手にしていては転移魔法を再発動する時間を稼がれるだろう。ならば狙うは転移魔法の使い手一人……!鎖を放ち、転移魔法の使い手へと一直線に攻撃を仕掛ける。しかしその攻撃は横にいた男の展開した結界により阻まれる。

「いきなり私を狙うとか、女に飢え過ぎだろ」

「……モラリ、お前は準備に専念しろ」

「命令するな、ぶっ殺すぞ」

デュヴレオリの話によれば、あの結界はラクラが張るものよりも遥かに強固なもの。正面から破ることは難しいと考えていいだろう。こちらの初撃が外れた間に、周囲の者達がこちらへの攻撃準備を済ませ、攻撃魔法を発動してくる。防御、回避、いや、更に飛び込む。

「ぐあっ!?」

飛び込むことで左右の敵からの攻撃を回避、避けられないのは正面の敵だけだがその敵には既に後方から飛んできたミクスのナイフが刺さっている。ナイフの命中により狙いが逸れ、攻撃魔法は頭上を通過していく。

「エクドイク殿!これを!」

ミクスが投げたナイフを受け取り、形状を確認。なるほど、そういうことか。鎖の先端にナイフを括り付け、再び女へと攻撃を仕掛ける。

「こりないな」

「……いや、これは」

先程と同じように男が前に出て結界を展開するが、それに衝突するよりも早く鎖の軌道を変え、地面に潜り込ませる。あの男の結界は非常に頑丈なようだが、発生時に地面が割れている形跡はない。つまりは足元には結界が張られていないということ。鎖を潜らせ、女の足元から出現させナイフに仕込まれた魔法を発動させる。魔力によって起動したナイフは爆発し、周囲に煙をまき散らす。

「咄嗟に結界を解除して距離をとったか」

もしも結界を張ったままならばこちらまで爆発の衝撃が届くことはない。こちらの仕掛けに気づいた男が素早く行動したのだろう。煙が晴れた先には二人が無傷のままこちらを睨んでいる。

「おい、汚い手で触んな」

「……どうやら転移魔法の準備をゆっくりとする余裕はないようだ」

「ヤステト、お前の結界は硬いだけで穴だらけなんだよ。ちゃんと展開しろっての」

「……できなくはないが、モラリ、お前の長距離転移魔法は地面との接続が必要不可欠だろう。転移魔法を使用できないお前を護るためだけに展開していては意味がない」

「ちっ、なら私を護んな。さっさとぶっ殺すぞ」

敵からの殺意を感じる。どうやら逃亡よりもこちらの殲滅を優先するつもりのようだ。相手の得意な手段は予想に容易いが、攻撃に転じるとなるとどの様に――。

「よし、死ね」

「――ッ!?」

目の前にいたモラリという女が消えた瞬間、背後から殺気を感じた。咄嗟に振り返った時にはモラリの振るったナイフが目前に迫っていた。鎖を巻いた腕を盾にし、首を守る。

「転移魔法だと……発動時間に制限があるのではなかったのか!?」

「私一人、かつ短距離なら瞬間的に使えるんだよ。足を引っ張る他人の面倒を見なけりゃ十二分に戦える」

「……それだと普段リティアル様を転移させているのは――」

「リティアル様とお前らを一緒にするな。あの人をお運びする際には細心の注意を払って丁寧に発動しなきゃならないんだ」

距離を自在に詰められるというのは厄介だが、今の一撃を受けて確信した。モラリの純粋な戦闘能力はさほど高くない。ハークドックと同格とみていいだろう。だが落とし子の才能を戦闘に余すことなく動員できることを考えれば、決して油断できる相手ではない。ならば先に狙うのはヤステトの方、鎖を放ち攻撃を試みる。

「……モラリより俺を優先するのか。言っておくが俺はモラリより強いぞ」

結界の発動を確認してから軌道を変化させようとした矢先、ヤステトは前に踏み込み鎖を掴んだ。鎖には魔法で触れた相手に呪いや毒を付与するようにしてあったが、それが発動した形跡はない。ヤステトはそのまま一気に鎖を引っ張り、俺を強引に懐へと飛び込ませる。体運びからして、この男は肉弾戦を行うようだが……いや、待て。この攻撃を受けるのは不味い。引っ張られた鎖を切断し、横へ別の鎖を突き刺す。俺の体はヤステトの少し手前で止まり、振るわれた拳は空を切る。

「……っ!?」

拳に触れていなかったはずの鎖が粉々に砕け散る。両腕に魔力を付与しての攻撃だけではない。この男、腕に、いや全身にその強固な結界を纏わせている。今の攻撃は視界で捉える本来の腕よりも遥かに長い射程を以て行ったものだ。飛んでくる鎖を造作もなく掴んだことからも、相当な技術を持っていると考えていいだろう。

「おい、誰が私より強いって?」

「……客観的な事実だ」

「よし、あとでぶっ殺す」

捕まえることが困難な相手、捕まえられたとしても傷つけることが困難な相手。なるほど、一筋縄ではいかないということか。