作品タイトル不明
だから追い詰める。
友を交えた今後の作戦会議。部屋には三人の魔王に加え、ニールリャテスと呼ばれる碧の魔王の魔族が座っている。それにしてもこの魔族、俺に向ける眼がかなり熱い。
「いやぁ、まさかこれほどまでに我が王と瓜二つとは。人間も捨てたものではないということでしょうね!」
「そこまで似ているのか」
ターイズ魔界に向かった全員が満場一致で頷く。以前友が話していたドッペルゲンガーとかいう怪談を思い出す。出会ったらどちらかが死ぬのではないだろうか。
「あ、でも我が王の方が冷たい視線ですので、私的にはそちらの方がゾクゾクできますね」
「それは長所と取るべきなのか?まあ、それはいい。それで、大まかな話は聞いているけどレイティス……いや、ネクトハールを見つけ出す手段は何か案はあるのかい?」
「これは個人的な見解だが、ラーハイトやリティアル辺りはそのネクトハールの存在を知っていると思う。まずはそこからだな」
「その理由は?」
「あの二人は落とし子を集める目的を理解している。つまるところ落とし子に最も詳しいネクトハールと接点があり、その目的に同調しているからこそ協力していると読んでいる」
下っ端ならば落とし子の捜索を淡々とこなすだけだが、その両名は他にも様々なことで暗躍している傾向が見られた。組織的に見れば幹部のような立場であっても不思議はないだろう。特にラーハイトは緋の魔王の部下として行動をしていた。魔王復活の事実を知る者との接点は疑いようがない。
「二人の捜索か……ターイズやメジスの暗部の報告では今のところ目ぼしい成果は得られていないからね」
「その両国、国交の広いガーネとクアマにはいないと考えても良さそうだよな」
「辺境に隠れている可能性は否定できないけどね」
とはいえ国交のある国ならば、金の魔王の仮想世界を利用した手法で細かく捜索することが可能だ。そうなると仮想世界でも捜索の手を伸ばしにくいトリン、セレンデが濃厚となってくるだろう。
「いっそ仮想世界でトリンやセレンデに攻め込めば、何かしらの成果は得られるかもしれないがな」
「妾が言うのもなんじゃが、お主ロクな奴じゃないの」
友は仮想世界でこのターイズを滅ぼした。手段さえ問わなければという話だが、王としては複雑な気分にはなる。仮想世界の俺は精度が低いのではないだろうか、いやでも友だしなぁ。
「痕跡の一つでも見つければ交渉することは可能だね。ただ魔王の力で得た情報となると信憑性が薄い。現実世界の方でも何かしらの根拠が欲しいところではあるかな」
「そこなんだよな。トリンやセレンデがネクトハールと手を組んでいないのであれば、現地の王様の協力が得られて大分楽になる」
「なら手分けして同時に両国の捜索を行うかい?」
「二兎を追う者は一兎をも得ずって言葉があってだな、人員を割いた分だけ難易度が上がるんだよなぁ」
友も緋の魔王との戦いでエクドイク達をメジス側へと送り込んでいた。その結果緋の魔王の単騎特攻が刺さり、大惨事の一歩手前にまで追い込まれた。連携の取れる者達を分断することはそういった欠点もあるだけに悩ましい。
「それで?貴方の中ではもう方針は決まっているのでしょう?」
「ぶったぎってきたな『紫』。一応この会話も現状の確認を踏まえるために役立つんだよ」
「それはわかるのだけれど、貴方とターイズ王の二人で楽しく話しているだけにしか見えないのよね?どうせ私達は貴方の方針に合わせるのだし、細かい話は後で良いわよ?」
「そんじゃま、今後の方針だが……まずはセラエス大司教にしでかしたことの責任を取ってもらう。マリト、明日にでもエウパロ法王に連絡して動いてもらってくれ」
「それは構わないけど、エウパロ法王がセラエス大司教を捕らえてしまっては情報を得られなくなるとか言ってなかった?」
セラエス大司教は現在メジスにいる。エウパロ法王が今回の経緯を知ればその日のうちにセラエス大司教の包囲を済ませるだろう。
「仕込みなら直ぐに済むさ。マリトもそのつもりでハークドックをクアマに送り返したんだろ?」
「……あっれ、どこから情報漏れたの?」
「さっきジェスタッフに連絡したら、ハークドックが一度ターイズに来てからまた戻っている最中だって聞いた。ハークドックの性格からすればイリアスの家の掃除でもして待機してただろうからな」
「それだけで俺の計画を見破って欲しくないなぁ……」
いやまあ、友のあの姿を見て色々と怒り心頭で直情的に行動していたけどさ。ここまで見透かされると複雑な気分だ。理解してもらえる嬉しさと、底が浅いと思われそうな不安とかで。
「あのぅ、お二人でトントンと進められるのは良いのですが、もうちょっと私にもわかるように説明していただけないでしょうか?」
「ニールリャテス、この二人はいつもこうなんじゃ。外で聞いているとふわふわとした内容しかわからん」
「わかっているフリをしてすまし顔でいた方が賢く見えるわよ?」
紫の魔王の方法は俺もたまにやる。その間に考える時間を稼いで、正解を導きだせば瞬時に答えに辿り着いたようにみせられるからね。多分友もやってるんじゃないかと思う。
◇
「セラエス様!メジスの聖騎士達がこちらへと向かっています!」
慌てふためく弟子の報告、それだけで穏便な様子でないことは察することができた。聖騎士を私の元へ送り付けることができる人物には限りがある。恐らくエウパロ法王、用件はユグラの星の民だろう。情報が漏れぬように気を付けてはいたが、完全に漏れないと高を括っていたつもりはない。
「……あの男を運び出さねばなるまい。各自支度を済ませろ」
あれだけの重傷、下手に動かせば死ぬ可能性は高いがかといって手放すわけにはいかない。隠匿する手段も考えてはいるが、エウパロ法王が動くということは何かしらの確信があってのこと。半端な誤魔化しは通じないと考えて良い。
「セ、セラエス様!あの男がいません!」
「なんだと?」
あの男を寝かせていた部屋へと向かう。ベッドに寝かされていたはずのあの男の姿は影も形もなくなっている。これは……どういうことだ?先行した者が既にこの場所に忍び込み、救助を済ませた?いや、メジスの暗部といえどこの場所に忍び込むことは容易ではない。それができる者がいたとして、ここまで痕跡を残さずに動けない人間を運び出すことは至難の業だ。ならば考え得るのは……。
「魔力の残滓を感じる。これは……悪魔のものか」
真っ先に思いついたのは紫の魔王の配下、ユニーククラスの大悪魔。しかしアレと言えこんな日中に行動を起こせるとは思えない。ならば既に数日前には入れ替えられていた?それならば辻褄は合う。魔法による治療が施せない状態の人間ならば姿形だけ似せれば十分に可能だろう。
「ど、どうしましょう!?」
「これは前もって仕組まれたことのようだ。今向かってくる聖騎士達の目的はあの男の奪取ではなく、我々の身の拘束が目当てだろう」
奴らの捜索力を侮っていたことを反省するのは後だ。今はこの場所を切り抜けることを第一に優先しなくてはならない。聖騎士の狙いを先んじて把握できたことで、こちらには逃走に備える時間が多少用意されている。全員が逃げ出すことは叶わないにせよ、聖騎士の包囲程度ならばどうにかなる。弟子の一人には悪いが、時間を稼いでもらうのが最も効果的か。
「各自手分けしてこの場からの脱出に専念せよ。合流地点を経由し、クアマにある例の場所へと向かう」
「ならばこの場は私が残ります!」
「……話術による時間稼ぎは構わないが、戦闘沙汰は避けるように。そうすれば極刑は避けられるだろう」
エウパロ法王の性格からして、処刑する対象となるのは私一人だけだろう。弟子達もそれなりの刑罰を受けることにはなるが、激しい抵抗さえしなければ命は助かるはずだ。最低限の荷物をまとめ、地下に用意しておいた通路へと向かう。応対をする者と、裏口から逃走を試みようとするものだけが残っている。
「急ぐぞ。人員の少なさに気づけばこの通路の存在にも勘付かれ――」
施設の方から轟音が鳴り響く。聖騎士の攻撃によるものではない、あれは魔法による攻撃。それも複数の位置から聞こえてくる。
「セラエス様、今の音は……」
「馬鹿者が、戦闘は避けよと言っただろうに」
地上に残った弟子達はわざと抵抗を行ったのだろう。そうすることでこの通路の存在が気取られるまでの時間を稼いだのだ。
「しかし彼らの気持ちも理解できます。セラエス様を護るためならば……」
「私に命を賭してまで護る価値はない。お前たちは私がどれだけこの手を汚してきたかを知っているはずだ」
「知っております。だからこそです。私欲ではなく、この世のために手を汚す覚悟をもつ貴方を失うことは、この世界の秩序を失うことと変わりませんから」
「……それが馬鹿だと言っている」
「馬鹿で構いません。我々には手を汚す覚悟はありますが、貴方のように成果を上げる汚し方を知りません。それが馬鹿なりの命の使い方です」
そう言いながら弟子の一人は足を止める。
「……この場に留まる必要はない」
「いえ、万が一もあります。私はここに残って殿を務めさせていただきます。いざとなればこの通路ごと――」
そう言って弟子は笑う。私のために命を捨てることを厭わない弟子の存在、私が背負うべきものがまた一つ増えたことになるが、それを喜んだり嘆いたりする資格は既にない。
「お前の名は最期の日まで忘れない。私がお前にできることはそれだけだが、それだけは約束しよう」
「ありがとうございます。それで十分です」
残る者達と通路を進む。暫くして先ほどよりも鮮明に轟音が鳴り響く。その音に振り返る者はいない。振り返り、嘆くことはその散った命の価値を無意味にすることだと全員が理解しているからだ。
「クアマにいる者達への連絡は済ませたか?」
「既に。同様に聖騎士やクアマ兵の存在を確認しているそうです」
「そうか。クアマの教会に植えてある花を愛でることは、もう叶わないこととなったな」
「いざとなれば私が園芸を学びます。ご希望の花がありましたら、いつでもおっしゃってください」
「期待している。例の場所に着いた後、ラーハイトと連絡を取る」
この世の秩序を護るため、我々は多くの血でこの手を汚してきた。だがそんな汚れた手でも植えた花は美しく咲く。この手が血で黒く染まろうとも、護り通した秩序のある世界はきっと美しいのだろう。ならば止まる理由はどこにもない。
◇
「セラエス大司教は聖騎士の包囲を突破して、逃走に成功したか」
『ターイズ王、セラエスはもう大司教ではない。同盟国の要人を独断で監禁し、人道にあるまじき行為を行った。それが明るみになった以上、ユグラ教はそれを擁護するつもりはない』
水晶から聞こえてくるエウパロ法王の声は淡々としている。エウパロ法王とて過去にセラエス大司教がどれだけ手を汚し、秩序を保つために暗躍していたかは知っているだろうに。こういう汚れ仕事を受け持つ人間というのは、決して最期は報われない。それを哀れと思うことは彼らにとって侮辱ですらあるだろう。
「ではセラエスと。逃走先に見当は?」
『十中八九、自らの影響力が最大にあったクアマの何処かと見ていいだろう。だがクアマ本国の教会や目ぼしい施設はクアマの協力の下、既に取り押さえてある。考えられるのは今回そこにいる彼を監禁したような、表向きには知られていない施設だろうな。取り逃がしてしまって申し訳ない』
「報告から迅速に行動に移したことは把握している。ユグラ教を責めるつもりはターイズにも、他の魔王にもない。こちらでもセラエスの捜索を続ける」
『生死は問わないが、身柄を手に入れた場合は連絡をして欲しい。こちらには彼を裁く義務がある』
「義務……か。過去に尽力した者を裁かねばならないというのは複雑な気分だろうな」
『そのことには感謝をしている。だが今のセラエスは秩序に囚われた罪人だ。過去がどうあれ、過ぎたる罪を看過する理由にはならん』
通信を終了し、真面目な賢王としての顔をしているマリトがこちらに向き直る。
「君の目論見通りにセラエスは逃亡に成功したようだね」
「マリトの目論見通りでもあるけどな」
クアマでラーハイトを牢屋に捕らえていた際、ラーハイトを救出しようと現れる者はいなかった。このことから転移魔法を使う者はどこにでも転移ができるというわけではないという説が成り立つ。このことからセラエスが逃亡する際にいきなり協力する可能性は低い。
聖騎士の到着を見てからラーハイトに連絡を取り、助けを願うことは時間的に無理もあるだろう。考えうるセラエスの行動は一時的な避難場所へ逃走し、そこでラーハイトに連絡を取り、ネクトハールとの合流を果たそうとするだろう。
「聖騎士とひと悶着が始まる前にデュヴレオリの用意した偽の君を消して、セラエスの逃亡率を上げる。あとはセラエスがラーハイトに接触するのを待つ。上手く釣れると思うかい?」
「ラーハイトの性格からして、セラエスが助けを求めれば拾うだろうよ。有能な協力者として囲えるわけなんだしな」
「俺としては見限るかどうかで半々ではあるんだけどね。そこはラーハイトの人格を分析している君を信じるしかないね」
「落ち合う場所から転移魔法で移動する可能性があるとしてもだ、その場所に先回りしておけば捕らえられる算段は十分にある」
リティアルが『紫』と対峙した際、逃走を始めるまでにタイムラグが存在していた。その時に転移魔法の使い手が『準備ができた』と話していたことも確認済みだ。つまるところ転移魔法の使用には相応の準備時間が必要と考えられる。その隙を狙うのが今回の目的だ。背後に控えていたデュヴレオリが口を開く。
「バトラー・アーミーから連絡があった。クアマで逃走に成功したセラエスの一派の一人の尾行に成功した。ハークドックを含め、クアマに向かっているエクドイクとの合流も間に合うだろう」
「ゼノッタ王に包囲網の何ヶ所かを緩めさせた甲斐があったな」
セラエス本人を尾行することは難しいかもしれないが、セラエスと合流する人物を尾行することはバトラー・アーミーなら容易だろう。あとはエクドイク達と合流すれば戦力としては申し分ない。
「それでは私もこれよりクアマに向かう」
「間に合うのか?」
「誰に言っている。私の全速力ならば、お前がこの城からあの家に戻るよりも早く辿りつける」
できるというのならばできるのだろうが、距離感というものをもう少し大事にしてほしいものだ。既にクアマに向かっているのはエクドイクとラクラ、そしてミクスだ。一応ギリスタにも連絡は飛ばしたが、あいつ徒歩勢だしな。
「そうだ、先に返しておく」
「ん?」
デュヴレオリは『迷う腹』を開く。腹部がぱっかりと割れ、無数の歯が付いた口のようなものが見える。フェイビュスハスのものより数段にグロテスクだな、うん。これに格納されていく光景を見なかったのは幸運なのかもしれない。デュヴレオリはその中に腕を突っ込み、一本の木刀を取り出す。
「アルジサマ!アルジサマ!」
「お、クトウ」
そういえば緋の魔王の拠点に行く前に、ガーネ魔界に放置していたのを今の今まですっかり忘れていた。
「クトウ、ワスレラレテナイヨネ!?」
「すまん、ちょっとだけ忘れてた」
「私も今しがた思い出した」
「ヒドイ!デモ、アルジサマ、ブジデナニヨリ!モウオイテッチャ、ヤーヨ!」
「ああ、もう意図的に置いていくようなことはないさ。盗まれそうなときは勘弁な」
「ボウハンキノウアルカラ、ダイジョーブヨ!」
クトウがいればこちらの移動手段も問題なくなる。デュヴレオリの移動速度には程遠いだろうが、そんな速度での移動は飛行機のような乗り物に乗って行いたい。
「よっし、それじゃあこの前に逃がした雪辱を晴らしてこい」
「言われずともそのつもりだ」
デュヴレオリはそう言って扉から出て行った。窓から飛び出すかなと思ったが、その辺は礼儀正しい。誰かさんを巡って『紫』に逆らう結果となったわけだし、早いところ戦果を挙げて明確な許しでも与えてやってほしいところだ。
「それじゃあ『俺』も出掛ける支度をするか。イリアスも準備はいいか?」
「私はいつでも問題ない。ウルフェを呼びに行く程度だろう。いつもの相方は必要だからな」
「そうだな」
「ソンナナカデクトウ、アルジサマノベストパートナー!」
「いや、私の方がより――」
イリアス、木刀相手に争うなよ。いや、一応悪魔ではあるけどさこいつ。