軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして駆ける。

一匹、二匹、苦戦することもなく敵の上級クラスを始末していく。疲労の少ない上級の身体能力や戦闘での判断力はユニーククラスと同等を維持したままだが、所詮はその程度。こちらの敵ではない。

バトラー・アーミーは各員の能力でも各個撃破は十分可能だが、元々が上級クラス上がりのため戦闘経験はそこまではない。むしろ相手の方が僅かながらに高いと見て良いだろう。各個撃破よりも複数による戦力差で無駄な消費を抑えて殲滅させる。敵は上級を固めるような真似はせずに、広く展開しているのが仇になっている。

『状況を報告せよ。繰り返す、状況を報告せよ』

戦闘中だろうと、ハーピィのユニーククラスからの通信はこちらに流れてくる。報告の仕方などは『迷う腹』により、一度取り込んで得たハーピィの記憶をそのまま活かしているので問題はない。だが流石に突然戦場が変われば相手の焦燥も伝わり、何かしらの原因を掴もうとしている。

偽の情報を握らせようにもそれに見合ったイメージを用意する暇はない。こうしている間にもまた一体上級クラスの首を引きちぎったところだ。ありのままの情報を流し、これといった新情報は与えない。いっそ私が離脱後情報操作に専念し、敵が一時的に下がったと伝えれば緋の魔王が力を解除する可能性もあるが……それよりも敵の上級とユニーククラスの排除を優先した方が良いだろう。ありのままの情報を流させる。

「そろそろユニーククラスを狙わねばな」

周囲を『嗅ぎ取る鼻』で探知する。この場には数体のユニーククラスがいるようだが……最寄りの相手は既に戦闘中、いやこれは決着したか。ターイズの騎士の中でもより強者の匂いがする者が勝利を確信している。相手が力を解放した上でその確信ならば手出しは無用だろう。

人間は力で劣っていようとも技や機転により状況を打破することに長けている。それは他ならぬ私が身を以て味わった力だ。信用するだけの価値はある。ならば目指す方向はこちらだ。

「お前達は引き続き上級クラスを集中的に狙え。邪魔な中級はついでに始末しろ」

バトラー・アーミーへの指示を出し、戦場を駆ける。視界に映っていたコボルトの群れが徐々にリザードマンの構成へと変わっていく。つまりこちらの相手するユニーククラスはそういうことだろう。

適当に雑魚を蹴散らしつつ、リザードマン達が集結している中央を目指すと周囲よりも豪華な装備の個体を見つけた。

「貴様が悪魔共の司令塔か!俺の名はゲヘルテヘ――ッ!?」

こちらが『駆ける左脚』で接近し、間髪入れずに放った『轟く右脚』により兜は吹き飛ばしたが、奴の頭部は残っている。『闘争』の力を使う前に仕留められるのが最も効率が良いと思ったのだが、流石に早急過ぎたか。

「悪くない動体視力だ。及第点はやろう」

「ぐぅ……戦士の名乗りを邪魔するとは、何たる卑劣な!」

「そんなものは戦士同士でやれ。悪魔に名乗るのは命を差し出す時だけだ」

「ふん、単騎で飛び込んでくるとは命知らずもいいところだ。だが、分かる。分かるぞ!貴様はただのユニーククラスではない。その一段階上、いやさらにその格上の力を持っていると!」

「その自覚があるのであれば、さっさと逃げるか命を捧げろ。お前の雄弁さに傾けるほど私の耳は愚かではない」

「悪魔が、傲慢な態度もこれまでと知れ!このリザードマン隊の隊長、ゲヘルテヘルがその余裕の面を歪ませてやろう!」

突如奴の体が膨れ上がる。肉体的な限界を超え、より戦闘に向いた体つきへと変化している。『嗅ぎ取る鼻』からも危険度が増したことが十分に伝わってくる。しかし、聞く耳を持たないつもりだったが名乗られてしまったか。余計な情報を頭に入れることになるとは。

……なるほど、豪語するだけはある。確かにその個体能力はラミュグレスカやバラグウェリンにも匹敵し、戦闘における練度なども飛躍的に向上しているようだ。単純な身体能力だけならば私にも並ぶかもしれない。

「だがそれにしても不格好だ。もっと容姿に気を配ったらどうだ?」

「フン、虚勢モソコマデトモナレバ見事ナモノダ。コレデ身体能力ノ差ハ互角。ダガ俺達ハ魔王様ノ指南ノ元、戦闘技能ヲモ鍛エテアル!陳腐ナ魔王ノ配下トノ違イヲ見セテヤロウ!」

「――世迷言にも限度があることを知らぬようだな」

元々殺すことは決まっている。ここで怒りに任せて息を乱す必要はない。怒りは内面に留め、ついでに拳と蹴りに込めれば十分だろう。

「者ドモカカレッ!」

号令と共に周囲のリザードマン達が愚直に突進してくる。名乗りを妨害したことで憤怒していたわりに、正々堂々という言葉も知らぬようだ。

数を数えるまでもない。『焦がす角』を出現させ、周囲を雷撃で一気に焼き払う。中級までは即死、上級も多大なダメージを受けその場で揺らめく。もう一撃放てば上級も始末できるだろう。

「――下らぬ真似を」

「トッタゾッ!」

崩れゆく焦げた兵の亡骸から槍が飛び出し、こちらの腹部を貫く。炭が地面に落ちるとそこには不敵な笑みを浮かべ、槍を握っているゲヘルテヘルの姿がある。兵士を目隠し代わりに使い、私の攻撃の合間の隙を突いてきたのだ。

「……」

「何トモ他愛ナイ!」

ゲヘルテヘルはそのまま槍を押し込み、傷口を広げようとしてくる。なるほど、心臓の位置を的確に穿つ技術に関しては見事なものだ。だがそれがどうした。私は大悪魔デュヴレオリ、心臓など存在しない。そもそもこのような小細工、私の『嗅ぎ取る鼻』と『聡き耳』で雑魚を焼き払う前から露呈している。

右腕をダラリと下げ、『繋ぐ右腕』を発動。杭を地面に無数に打ち付け、奴の影を大地と繋ぐ。遠距離ならば回避もできただろうに。自分から身動きの取れない形に持ってくるとは不用心にも程がある。

「ナッ、コレハッ!?」

「何とも他愛ないな」

驚きの表情をしていたゲヘルテヘルに『轟く右脚』を叩き込む。本来の衝撃ならばゲヘルテヘルの体ごと吹き飛ばせるが、地面に固定されている以上その衝撃は全て体へと伝わる。

「ゴッ!?」

「流石に頑丈だな」

二撃、三撃、四撃、轟音と共にゲヘルテヘルの全身が浮かび上がりそうになるも、奴の体は固定されており、動くことを許されない。変化があるとすれば奴の口から夥しい血が噴き出していることだけだ。

「ガッ……ア……コノッ!」

強引に魔力を放出し、地面の杭を地面ごと抉り取ってくる。過半数が破壊されたことで、力業でその場から脱出できる状態となった。それを確認するや私の体から槍を引き抜き、後方へと跳躍する。だがそんな動きを眺めているだけで済ますつもりもない。既に後方に展開していた『削る尻尾』で即座に地面に叩きつける。

「ヅァッ!?」

「離れたいのか。なら希望通りにしてやろう」

奴の頭部を『轟く右脚』で蹴り飛ばす。本来ならばこれで終わっていたのだが、流石は『闘争』の力と言ったところか。咄嗟に槍を盾に衝撃を緩和して見せた。とは言え直撃は直撃、後方へと数度跳ねて転がっていく。

追撃がくると踏んだのだろう。ゲヘルテヘルは転がり切った先で素早く体制を立て直し、防御の姿勢に構えた。しかし私はそもそも動いておらず、傷の修復を済ませている。魔力強化を施した一撃により多少のダメージは負ったが、その衝撃は体の中を突き抜けている以上軽微だ。対するゲヘルテヘルの方は鼻と口から夥しい血を流し、呼吸も荒い。

「フーッ!フーッ!」

「貴様の身体能力、確かに私と同等に近いと言っても良いだろう。だがどうした?とても同格と戦っているようには見えんな?」

「グ、グオオッ!」

ゲヘルテヘルが大地を蹴り、こちらに突進を仕掛ける。狙いはこちらの喉、もしくは頭部。追い詰められたことでこちらの急所を自覚できたようだが、捻りがまるでない。

カウンターを入れようとすれば、その極まった闘争本能により咄嗟の回避行動が成立するだろう。ならば取る手段は簡単だ。

突き出した右腕を肥大化させ、奴の槍を正面から受け止める。当然威力を防ぐことはできず、槍は右腕に深々と突き刺さっていく。しかし私の右手はそのまま奴が槍を握る手にまで到達し、そのまま掴み取る。奴の槍は根元まで私の右腕によって取り込まれた。いや、刃先が少しばかり肩から突き出してしまっているか。

「これで防御に使う槍は封じられたな。飛びのくこともできず、どれだけ蹴られようとも回避することもできない。――折角だから間違いを正しておこう。確かに私は貴様と似て、主様によりユニーククラスの身からさらなる上位の存在へと引き上げられている。しかしそれだけではない。私の中には、自らの境遇の中で身につけた私を含む大悪魔十一体分の戦闘技能も含まれている。人間のような繊細な技はなくとも、魔物に対する戦闘の術は十二分に心得ているわけだ」

「ッ!?」

奴は咄嗟に空いた手で腹部を防御する。この状況でもこちらの狙いが分かるのは流石と言うべきか。もっとも、適切に防御したところで腕の一本程度、何の問題もないのだが。

左腕に魔力を込め『穿つ左腕』を発動。本来ならば膨大に膨れ上がりその勢いで敵を穿つ力だが、今回は少し変化をつけた。膨れ上がる肉体を強引に抑え込み、密度を強化。生まれる衝撃を全て腕の可動域を弾けさせることへと調整。そして先端のみ鋭い刃のように変化させる。発動する力の全てを短い距離の一点突破へと費やし、その貫通力を向上させた。

その一撃はゲヘルテヘルの腕を容易く貫き、私の左腕は奴の胴体へと槍のように深々と突き刺さった。

「……ゴボッ!……マ、マダ――」

「ついでにこれも覚えておけ。人間ならば今の刺突の一撃で殺せるだろうが、魔物を確実に殺すのであればこれくらいは必要だ」

再び『穿つ左腕』を再発動。今度は従来通り、左腕を一気に膨張させ、遥か先の標的を穿つ一撃を放つ。いかに頑丈であっても、内側から圧倒的物量でこじ開ければ傷は簡単に広がる。奴の胴体に刺さったまま膨張した左腕は奴の体を無理やり引き裂き、そのまま胴体を分割した。

奴の体が事切れていることを確認し、魔法を使用して全身に浴びた返り血と肉片を剥がす。そのついでに魔力で構築されている服もある程度修復することで外見だけは戦闘前と同じ条件となる。

「――む、一つ失言があった。この状態で覚えておけと言っても流石に無理があるな。無理難題を言ったことは許せ」

いかんな。どうもあの人間の減らず口に感化されてしまっているようだ。早いところ次の標的を探すとしよう。

『ハーピィ部隊に告げる。半数を残し残りは帰還せよ。繰り返す――』

ハーピィのユニーククラスからの指令がハーピィ達に飛んできた。ここで半数を帰還させる理由……あの人間曰く『気づく要素は多い。ハーピィが命令に背けばそこから直ぐにばれる』と。緋の魔王もハーピィに何かしらの異常があるのではと推測を持ち始めているのだろう。ここは人間に言われた指示に従うとしよう。

ハーピィのユニーククラスからの返事を了承させ、半数を帰還させる。ただしここで素直に帰還させてしまっては、頭部に植え付けてある悪魔を発見され、仕組みが判明してしまう。なので道中にそれぞれへ自害命令を与え、処理していく。敵の司令塔には空中に現れた悪魔達の伏兵により奇襲を受けたと伝える。

「これでもう暫くもつか。次の詮索まで……いや、ハーピィが帰らなければ相手も仕込みがあったと想定して行動を選択してくるだろう。つまり残り時間はあとわずかと言ったところだな」

うーむ。コガギョッスの頭の行き先を確かめようと思ったのじゃが、見失ってしもうた。なんじゃ今の雷撃は。つい視線がそれたわい。まあ恐らくは坊主の仲間じゃろうけど。

物言わなくなった奴さんの体をチラリと眺め、死んでいるのを確認。よく見ればわし以外にも同じように眺めておる者が一名。傍でちょくちょく声を出しておった者じゃな。

「そ、そ、そ、そんな……コガギョッス様が……これからどうすれば……。いや、違う。私がやれば良いのだ。そうだ、コガギョッスがいなくなった今こそ、副隊長である私がコボルトを指揮する立場となるのだ……!」

何やら不穏な気配がするんじゃが、別の意味で。見立てとしては上級、僅かながらに他個体よりも知恵は高そうじゃが。

「少しくらい上司を偲んだらどうじゃ」

「私が、私こそが新たな魔王様の側近となり、数多の魔物を従えるのだ!そうこの――ぎゃぷぃっ!」

一瞬にして副隊長の頭部が地面に埋まりよった。体だけが埋まっているコガギョッスと丁度逆じゃな。ピクリとも動かんことから間違いなく死んでおるの。

「――って何じゃ。ウル坊か」

「あ、ボル爺!」

結局名前を知ることはなかったが、このコボルトは上空から飛んできたウル坊によって着地の衝撃緩和のついでに頭を地面に叩きつけられた。一応こいつもユニーククラス相当の強さはある筈なんじゃが……哀れなもんじゃ。

「なんでまた上空から降ってきたんじゃ」

「この辺に敵の隊長がいそうって思いました!どこかにいますか!?」

「あー、一応ウル坊が潰した奴が暫定的にそうじゃ」

ウル坊は自分が仕留めたコボルトを少し眺めた後。物凄く微妙そうな顔を浮かべる。そういう顔をするものではないぞ、ついでに仕留められたこいつの方が虚しいんじゃから。

「では次行ってきます!」

「おう、頼むぞい」

わしの言葉を待たずしてウル坊は恐ろしい速さで移動し、敵から敵へと弾けるように飛び掛かっていった。どの敵も反応すら許されず、一撃で頭部を確実に破壊されておる。あの子が敵だったら気付かぬまま死んでいるだろうと、つい想像してぞっとしたわい。

などと戦場ですべきではない想像を、頭を振って切り払うとウル坊を追う一人の人物の姿が。

「ウルフェちゃーん!ちょっと速度落としてくだされー!距離が延びると結界の維持がー!」

「むむっ!?ミクス様っ!?何故にこのような戦場に!?」

「あ、ゴファゴヴェールズ卿。私はウルフェちゃんのサポートに来たのです!」

「陛下の妹君であられるミクス様が前線に出るなど――」

「固いことは抜きですぞ。私は兄様の妹でもありますが、同時に冒険者でもありますからな!」

ミクス様は自信満々に言いながら背後に迫っていたコボルトの頭蓋にナイフを投擲し、音もなく仕留めた。視線すら向けず、投げる動作もまるで無駄がない。今の上級相当の中級なのじゃが、その頭蓋を一撃で貫くナイフの威力たるや……。ターイズを離れ、冒険者として成長したとは聞いておったが……うーむ。

「せめて護衛の一人でも……」

「それでしたらウルフェちゃんと言う最強のパートナーがおりますからな!心配ご無用ですぞ!」

眩しい笑顔のまま、颯爽とミクス様は走り去っていった。戦場だというのに微塵も臆さず、非常に逞しく……いや、逞しすぎやせんかの?

「――む、敵兵の一部が戦場を離れておるな」

逃走のための移動ではない。恐らくはこの場で戦えば敗北で終わるだけだと判断し、近くの村などを襲うつもりじゃろう。ターイズの騎兵で追えないこともないが、残った兵の方が数は多い。ここで主力を失えば折角の好機を失う。

……ま、ええか。この辺の最寄の村はおおよその避難は済んでおるし、何より少数で攻め込めば酷い目を見るのは敵さんの方じゃしな。

「さて、わしももう少しばかり働くかの」