作品タイトル不明
次に二手三手。
自らに足りない身体能力を仲間で補い、商人としての経験や知恵を活かし予想できない方向からアプローチをしていく。
ポスター君の働きは実に素晴らしいものであり、彼は冒険者では紛れもなく稀有な存在だと言えよう。
商人特有のこびへつらう仕草も殆どなく、かといって無骨な態度は決してしない。
私をゴシュナイト家の者ではなく、ロービト=ゴシュナイトという一個人として扱っている。
権力に飲まれ、我儘で残念な性格となった娘も彼を息子として迎えられるのであれば育てた甲斐もあったというものだ。
彼には気の毒かもしれないが、彼ならば娘を立派に更生してくれるだろう。
「何か考え事ですかねロービトさん?」
「ああ、すまないね。君が娘をもらってくれることを諦めるつもりはないのだが、それとは別に娘と会ってもらえないだろうかと少々画策していたところだ」
「そういって逃げ場を奪っていくつもり――という感じじゃなさそうですね。何か娘さんに問題でも?」
「私はシュナイトの相談役、ゴシュナイト家を背負うものとして振る舞ってきた。だがそんな私に頭を下げる者達を、幼い頃から見てきた娘は自分にも権力があると自惚れてしまってね」
ポスター君は非常に察しが良い。私が何かしらの素振りを見せればそこから私の言いたいことや考えていることを間違うことなく推察してくれる。
彼をあの計画に加えることができたのならばより盤石となるのだろうが、それだけは我慢せねばなるまい。
ゴシュナイト家は嘗て魔王を相手に戦った王族の成れの果て。祖先はユグラから土地を任されることがなかった屈辱を噛みしめながら後世にその思いを託していった。
その風潮は他の権力者の一族が王族としての誇りを忘れ、貴族として優雅に振る舞いゴシュナイト家を揶揄する時代が終わってもなお続いている。
私も幼い頃からゴシュナイト家の復興を本心から望むようにと教育されてきた。
しかしそれも私の代で終わりを迎えようとしている。
血筋の高潔さを守ろうと親が用意した貴族の娘であった妻は、性格は悪くなかったが欲を持たない者だった。
妻としては申し分なかったのだがゴシュナイト家の想いを共に抱えるには不相応と言わざるを得なかった。
妻に任せて育った娘にいたっては……いや、男が生まれなかったからと私が学ばせることを怠ったのだ。こればかりは妻を責めても仕方がない。
これで終わるかと思えた矢先、最後の機会が訪れた。
きっとゴシュナイト家に生まれた者の定めなのだろう。だから私は決断をした。
国を取り、新たな王となり、ゴシュナイト家に縛られた人生を自ら切り拓いていこうと。
あの者達が用意する術は正攻法ばかりではない。私はこの手を汚してしまうことになるだろう。
だからこそポスター君にはこの計画に加わって欲しくない。
彼には綺麗なままでゴシュナイト家の血筋に加わって欲しいのだ。
「へぇ……苦労していますね。でもロービトさんがしっかりと目を掛けていればそんなことにはならなかったと思いますけどね」
「その通りだ。息子ではなかったからと私は娘への教育を妻に丸投げしてしまったのだよ。今更父親面をして説教する気ももはやない」
「今更という言葉を使うのは自分への言い訳ですよ! ロービトさんはまだまだ現役なのですから。娘さんも正面からぶつかってくれることを内心期待していると思いますよ!?」
「そういうものだろうかね?」
「俺も長男ではなかったので、今の状態になるまでは荒んだ時期もありましたよ」
なるほど、ポスター君もそういった過去があるから自信満々に言えるわけだな。
親に執拗に教え込まれた私と、親に相手にされなかったポスター君。
果たしてどちらが幸せな人生だと言えるのだろうか。
いや、人生を語るにはまだ早い。まだ私は何一つ成し遂げていないのだから。
振り返るのは玉座を取ってから、いや玉座を退いてからで良いだろう。
「君が言うのであれば信じてみるとしよう。今度娘と二人きりで話してみるよ」
「ええ、そのついででしたら俺も娘さんとお話くらいは付き合いますよ!」
「はっはっはっ! 是非そのまま親しくなって欲しいところだね! まあ今日は飲もうじゃないか!」
娘を蔑ろにしておきながら、私は今『息子がいればポスター君とのような関係になれたのだろうな』などとしみじみとしている。
娘も息子と同じように接する事ができるのだろうか。いや、きっとできるのだろう。
血の繋がらない相手ともこれだけ気楽に笑い合えるのだ。きっと大丈夫。
目が覚めるとそこは冷たい石床の上だった。
体中が痛い。ベッドの上で寝なかっただけではない、体の節々に打撲のような痛みがある。
体を起こし周囲を確認する。ここは……クアマ城の牢獄だろうか。
……まてまて、冷静に昨日のことを思い出せ。
ポスター君と一緒に飲み、そのまま酒場を後にして……そこからの記憶がない。
服も随分とくたびれている。それにこれは……血?
思い出せない、何も……。
「おい、誰かいないか!?」
「なんだ?」
声を上げると見張りの兵士が牢屋に隣接した屯所から顔を出してきた。
クアマの兵士、間違いなくここはクアマ城だろう。
「私は何故ここにいる!?」
「何も覚えていないのか? まあかなり酔っ払っていたから無理もないと思うが……。アンタは昨日の夜、道端でぶつかった相手と喧嘩になったんだ。互いに酒も入っていたしそういうこともあるだろう。死人が出なかったからよかったけどな、見回りの兵士が間に合わなきゃあんた相手を殴り殺していたぞ?」
「な……」
手の甲を見る。確かに皮膚は破れ、何度も何かを力任せに殴ったかのような傷と痛みがあるのがわかる。
服に着いたのは相手の返り血なのか……死んではいないらしいが……。
この大事な時に一体私は何を……。
「相手の治療は済んでいるらしい。訴える気もないそうだから拘留もそう長くはないだろうがな」
「そ、傍に私の連れがいたはずだ! 彼はどうなった!?」
「ああ、若い男だろう? 喧嘩に巻き込まれて綺麗にノされていたよ。一応喧嘩には加わったらしいから、喧嘩両成敗ってことでアンタと同じように牢に入れようと思ったんだが……あの若者の所持品を確認したところ、ターイズから来た商人であることが判明してな。今クアマはターイズとは揉めたくない状況でな。ターイズに向かう一団に身柄を預けて向こうで罰を受けてもらう事になった」
「そんな……」
傍にいたはずの護衛は……そうだ、彼が二人きりで男同士で飲みたいからと酒場で別れたんだった。
彼はもうクアマから外に……何と言うことだ。こんな形で巻き込んでしまうとは。
「一応手紙なら預かっているぞ。走り書きだがな」
「か、彼はなんと!?」
兵士から渡された手紙を慌てて奪い取り広げる。
『――ロービトさんへ、
お互い大変な目に遭いましたね。
でも酔っ払いに貧弱そうな奴だと侮辱された俺のために、拳を振るってくれたロービトさんには感謝の気持ちしかありません。
こんな形でお別れとなるのは残念ですが、ターイズでの罰を償った後は再びクアマの地を訪れたいと思いますのでその時にはまた一緒にお酒を飲みましょう。
追伸、貴方は良い父親になれます。娘さんをお大事に。
ポスターより』
「……ま、詳しい事情はその若者からこちらにも聞かされている。前科は付くだろうがそこまで重い罪にはならないだろうさ」
励ます兵士の言葉は耳に入らない。そうか、私は息子のつもりと思っていた彼の名誉のために……。
だがこれではもう……いや……これもまた運命なのかもしれない。
◇
「ロービトはこれで大丈夫でしょうね。一応慌ただしいからと少し拘留期間を伸ばしておけば憂いもないかと」
「私は今非常に君という存在が仲間なのか疑心暗鬼になっているよ」
ロービトの一件が終了後、変装を解除しゼノッタ王に経過報告を行った。
ちなみにロービトは実際のところ何もしていない。
酒場で遅効性の睡眠薬をお酒に混ぜて一緒に飲んだのである。
本来ならば『俺』も一緒にパタリと寝てしまうのではあるが、この世界の薬というのは大半が本人の持つ魔力に働きかける物。例によって影響はないのである。
酒場を出て眠ったロービトを外に待機させていたデュヴレオリの『迷う腹』に入れ確保。
その際デュヴレオリは『空目する背中』を使用しロービトに変身。そうやって一連の騒動を起こしてもらったのだ。
その後デュヴレオリはロービトの姿のままクアマ城の牢まで連行され、牢屋内にてロービトを解放。
全身に適度な傷を用意して撤退したという流れだ。
痛みについては『迷う腹』で脳裏に焼き付けたとかなんとか言っていたが詳しい仕組みは今度聞くことにする。
なお殴られた酔っ払い役もデュヴレオリが事前に用意した悪魔達の変装である。
その辺の酔っ払いを利用しても良かったのだが、もしもデュヴレオリが加減のできない男だった場合にロービトが殺人犯になってしまうので手配した。
何より巻き込まれた酔っ払いが可哀そうである。
徹底的にやるのであればそれも構わないと思ったのだが、そこまでやる必要もないと判断できた。
「既にクアマでは噂が広まっている頃ですね。クーデターが起こる直前に問題を起こし周囲からの評判を下げる。これでロービトが大義名分を語ったところでそれを支持するのは彼の派閥内の者だけでしょう」
こちらの使った手段、それはロービト達を国家転覆の罪以外で捕らえることである。
選挙中、立候補者が逮捕されるようなことがあればその立候補者が国民から支持されることはまずない。
相当なカリスマ性でも持ち合わせていれば話は別だがロービト達にはそういったものはない。
大切なのはその罪を大々的に公表させること。
そうすればどんなに人々を唸らせる大義名分を口にしたところでその効力が正しく発揮されることは難しくなるだろう。
「牢屋からの情報ではロービトは暴れることもなく大人しく裁きを待つ所存とのことだ。当人のやる気もしっかり奪っているようだな。恐ろしや恐ろしや……」
「ロービトは根っからの悪人というわけでもありませんからね。適度に良心を刺激させて、人生の分岐点を演出すれば後は良い方向に流れてくれますよ」
「国を転覆させようとしていた者を改心させるというのは、そう楽な話ではないと思うのだがな……」
「そこはロービトの御しやすさが彼の身を救いましたね。彼がもう少し意固地に立ち回る人間だと判断していた場合は殺人者として投獄されていたでしょうし」
ロービトには国を奪うということが『悪』だと自覚できる弱点があった。
『俺』に手を汚して欲しくないと仲間に引き入れようとしなかったことからも、その人の好さは残っていたのだ。
「それもそうだな……。しかし無実の罪で国民を捕らえるというのはあまり良い気分ではないな……」
「国家転覆の罪で捕らえることになれば問答無用の死罪でしょうし、軽犯罪で目を覚まさせられるのならマシですよマシ」
「うーんこの懐柔されていく感覚、クセになったらどうしてしまおう」
「悪い顔をしたら一番似合っていると思いますよ」
「そ、そうか? ……こうかな?」
鏡相手にニヒルな顔をしてみるちょいワル親父に憧れるお年頃なゼノッタ王。
このまま見ていても面白いが話を進めるとしよう。
「あとはチェニヤスとジェスタッフですね」
「おっとそうだな。直ぐに行動を開始するのか?」
「チェニヤスの方はもう仕込みを終えています。今頃通報を受けた何も知らないクアマ兵達がチェニヤスの屋敷で盛り上がっていますよ」
「通報? 一体何を仕込んだのだ?」
「『チェニヤス=モルガナイズの屋敷から叫び声が聞こえた』という通報ですね」
「……本当に何を仕込んだの?」
「みすぼらしい格好の少年を少々」
「何やってるの!?」
おっさんの変顔に惹かれる日が来るとは、でも良い顔だ。
ただこのままだとこちらが牢屋に入れられかねないのでネタばらし。
「ご安心を、悪魔の変身ですよ。堂々と運び込むのは無理があったので、隙間から忍び込める悪魔を個室に配備。あとは兵士が家宅捜査に来たタイミングで指定した姿に変身し発見してもらうといった手筈です」
「……ちなみにどんな感じなのだ?」
「どこかの田舎から誘拐されてきた少年を買い取り、趣味に勤しんでいた光景に見えるように」
「いやいや、そんな、当人が否定するに決まっているだろう!?」
「実はチェニヤス=モルガナイズ、そういった趣味があったんですよ。実際に少年を購入したりはしていなかったようですが道具を買って妄想の中で悦に浸っていたようで」
チェニヤス=モルガナイズを一度目撃した際、僅かながらにそういった趣味を持っている印象を受けた。
そこでチェニヤスが留守の際に悪魔達に忍び込ませ、家の内部を隅々まで調べさせたところ素敵な道具の数々が発見された。
なのでノータイムでこの方法を思いついた所存です。
「いや、でもなぁ……」
「道具の全てにチェニヤスが触れていたという痕跡が残っていますからね。『そういう趣味はあるが子供は誘拐していない!』なんて台詞、誰が信じますかね?」
「私の趣味、編みもので良かったなぁ……」
「後は子供に変身している悪魔を保護という名目で回収できれば大丈夫ですね」
そして噂をすればと伝令の兵士がチェニヤス=モルガナイズを捕らえたとの情報を持ってきた。
当人は子供のことは知らないと言い張っているが道具については黙秘したままだそうな。
子供は後から追いついた応援の兵士が連れて行ったとのこと。
ちなみにそれがデュヴレオリ、無事に回収したようだ。
「嘘を吐けばユグラ教の聖職者にバレますからね」
「だが子供を誘拐していないという発言に嘘がないことも証明できてしまうではないか」
「ええ、ですからチェニヤスは結局罪に問われませんよ。ただそういう趣味が明るみになっただけです」
「……ああ、そうね」
たとえ無実だとしても目の前に犯罪現場が広がっていれば事情を確認するため拘束せざるをえない。
そしてそれは公に広まってしまう。ついでにその趣味も一緒にだ。
悪魔が変身した子供を用意したのは騒ぎを大きくするためのものだ。その効果は十分に発揮できただろう。
「これでチェニヤスの評判もガタンと落ちますね。少しは様子見が必要だと思いますが、彼女の性格を考慮するに、恥ずかしい趣味が明るみになったことで表を歩けなくなるでしょう」
「ロービトに比べると精神的に酷い感じのようだな」
「チェニヤスは多少の問題くらいなら気にしないタイプです。ただ内に秘めた隠し事に関してはそうでもなかったようなので、こういった手段を取らせてもらいました」
「よくもまあそんなに相手の急所を的確につけるものだ。これで残るはジェスタッフだな!」
ロービトは良心、チェニヤスは羞恥心といった弱点が見えたのでそういった手段をとった。
だが弱点がなければそれこそこちらも手段を選べなくなってくる。
そう、ジェスタッフのようにだ。
「実はそのジェスタッフが裏で手を回して、ロービトやチェニヤスの素性が調べやすいよう両者に隙を作っていたようなんですよ」
「なんと!?」
「ジェスタッフの右腕と一度接触しましたからね。その情報を共有せず、他の両者を狙いやすくするよう工作を行ったとみるのが妥当ですね」
「……ロービトやチェニヤスが邪魔だったというのか?」
「三国で同時にクーデターを起こせばその抵抗力も減らせます。ロービトやチェニヤスもまたジェスタッフにとっては協力者のはずです」
「ではどうしてそんな真似を?」
「恐らくは拘りでしょうね。ギルド創設の理由を今の代まで語り継いでいるのならば、ジェスタッフも他ギルドへの嫌気を受け継いでいることでしょう」
「嫌気……か」
「湯倉成也によって国が新たに生まれ、その枠組みに入れなかったヘリオドーラ家はそれでもと抗ってギルドを創設したはずです。国という枠に捉われず、領土がなくともその影響力は最も広い存在となる。そう夢見たヘリオドーラ家にとって、その影響力を阻害する後続で生まれたギルド達へは良い印象はないでしょう」
「確かにな。冒険者ギルドが一つに統一されていれば、その影響力はユグラ教にも負けなかっただろう」
「そして今回、ラーハイトの一味による接触で国を奪う機会を得た。だけどもそれにも他のギルドが加わっている。ジェスタッフはそのことに憤りを感じていたのでしょう」
そのためならば敵すら利用する。それがジェスタッフ=ヘリオドーラ。
完全に屋敷に閉じこもっており、分析するための情報を殆ど読ませちゃくれない。
「それでもどうにかできるのだろう?」
「人間としての弱点らしい弱点がなく、さらにはあのハークドックがいます」
「件の探知魔法に優れた者か……」
「屋敷が見張られているからと定期的に屋敷全体を覆う探知魔法を使用しているようですね。間隔もランダム、その間にこちらの者が探知されれば即座に対処されるでしょう」
隙間があれば忍び込める悪魔達も大抵酷い手段ではあるが、ハークドックの探知能力はそれを防げる独立防犯システムのようなものだ。
ジェスタッフの情報が掴めない以上、奴に対して効果的な手段を用意することができない。
「で、ではどうするのだ?」
「ゼノッタ王、正直残り一人ですしクーデターを起こさせて自力で鎮圧できません?」
手を用意していないわけではないのだが恐らくこの手を使うと戦闘とかが起きる危険性がある。
無難に済ませたい身としてはそろそろゼノッタ王に投げ返したいところである。
「それは……がんばれ……ないことも……でも緋の魔王が攻めてくる最中だろう? ちょっと大変かなぁ……」
チラチラこちらの顔を期待しながら見るのは止めなさい。そんな顔されてもしょうがないなとはなりません……仕方ない。
「ギリギリまで情報収集を行って、ジェスタッフに効果的な手段が見つかれば使わずに済んだって方法を使うしかないですね」
「おお、あるのか! では私は何も知らなかったということで吉報を待つとしよう!」
「残念ですがゼノッタ王には少しばかり働いてもらいますよ」
「なんと……私に出番があると言うのか!? 私には心にもない台詞は言えんぞ! 台本は用意してくれるのであろうな!?」
「別に演説とかはありませんよ」
「そうか……そうか……」
意気消沈しているゼノッタ王。行きたくないとか言っておいて実は行きたかったとか思ってる系男子か貴方は。