軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次に出逢うは。

「――ドック、ハークドック、聞いているのか?」

「えっ……あ、はい! いいえ! すいません! 聞いていませんでした!」

隣に座っているジェスタッフの兄貴の声に呼び戻され意識が目の前に戻ってくる。

いけねぇ、何か話をしてたっぽいけど何も頭に入っていねぇ。

兄貴はやっと気づいたかと言わんばかりに呆れている。

いや、今目の前のテーブルに座っている他の二人も白い目で俺を見てやがる。

チェニヤス=モルガナイズ、ロービト=ゴシュナイト、兄貴と同じく三大ギルドの相談役の有力者前で随分とやらかしちまった。

「周囲に意識を向けるのは護衛としての役割ではあるが目の前が見えずしてどうする」

「すいません……」

「ジェスタッフ、そんな護衛を側近にするとは随分と不用心じゃないかしら?」

チェニヤスのババアめ、俺のことはさておき兄貴を馬鹿にするとは!

思わず睨みそうになったがここはへらへらと笑っておく。

「何よその苛つく笑顔は、媚びを売りたいのなら毎日鏡の前で一時間は笑顔の練習をしてきなさい」

誰が売るかバーカ、兄貴のために喧嘩を売らないように抑えてんだ。

兄貴が許可を出せばお前なんざ一息だっつの!

「チェニヤスの言うことも一理あるね。この会合は表向きに知られて良い物ではない、不注意の過ぎる者はこの場に相応しくない」

ロービトのハゲまで……いや、別に兄貴を責めてるわけじゃないか?

あーでも俺を選んで連れてきたのは兄貴だしな、うん、やっぱこのハゲ!

「儂の護衛にケチをつけたくばもう少し目利きを学んで出直してこい。ハークドック、どうせ周囲の警戒をしていたのだろう。何か問題はあったか?」

「ないですね。屋根の上にシュナイトが五人、隣の隠し部屋にモルガナが四人、通路にはうちの者が二人といますがクソ真面目に警戒してますね。それ以外にはこの屋敷の使用人が七人言われたとおりに厨房にて待機中。屋根に野良ネコ一匹、倉庫にネズミが三匹いましたよ」

「……なるほど。訂正しよう、君が選んだだけのことはある。素晴らしい探知能力だ」

お、このハゲは非を認めるのか。

よしよし、その撫で心地の良さそうな頭を撫でてやってもいいぞ。

とは言え話の最中に探知魔法を使用していたのは俺が反省すべき点だよな、よし反省。

本題になかなか入らねぇからついいつものクセが出ちまった。

「探知魔法では所属や職業まで分からないと思うのだけれど、独自の手法かしら?」

「……まあそんな感じです。ユグラ教の連中が魔力の揺らぎから口にした言葉が嘘か本当か見抜けるじゃないですか。あれに近い感じで魔力の流れからその人物がどういった奴なのか大よそ分かるんですよ。俺自身もあまり詳しいわけじゃないです」

「そう、まあ手の内は明かしたくないものね。そういうことにしておくわ」

何がそういうことにしておくわ、だ! 嘘なんかついてねぇよ!

俺の探知魔法は探知した相手の大よその情報が感覚的に掴める。

性別、生まれの国、所属するギルド、職業、異性と寝たかどうか、大よその強さ、他にも色々と。

俺は普通の探知魔法を使っているつもりだが普通の探知魔法にはそんな効果はないらしい。

ただこの力はとっても便利、何せ敵味方中立の判断まで見ることができて裏切り者がいてもすぐに分かるからな。

今のとこ目の前にいるハゲとババアは兄貴と利害が一致しているのも確認済み、少なくとも兄貴を罠に嵌めようとかは思っていない。

ついでに言えば俺の探知魔法は探知された相手にもなかなか検知されない優れもの。

俺自身の魔力が影薄いだけなのかもしれないんだがな。

なーんてことを全部ペラペラ喋るつもりはない。

あーでも使用人の一人が妊娠しているのはおめでとうと言っておくべき?

いや、知らない筈の他人からおめでとう言われても気持ち悪いか。

一応この力にも弱点が存在すると言えばする。

ぶっちゃけ俺の頭が悪いってこと、その点に尽きる。

探知魔法で得られた情報を頭で覚えるのに時間が掛かる上にそのことに集中するとすーぐ目の前が見えなくなるからな。

「では本題に移るとしようか。ラーハイトは今クアマ城に囚われている。今どういう状況かはこちらが送り込んでいる内通者にも掴めてはいない」

「役に立たない内通者ね、給料分くらいは働かせたらどう?」

「ラーハイトの周囲を警護しているのはクアマの兵ではなくセラエス大司教の息が掛かった者達だ。モルガナやリオドに内通者として活動できるユグラ教の者がいるのならば是非代わってもらいたい」

「いるわけないでしょ、そんな危険な存在を身内に入れたらどれだけのリスクを背負うと思っているのよ」

まーそりゃそうだよな、俺達は間違いなくユグラ教の敵だ。

ユグラ教を陥れるためにユグラ教の信者を取り込むメリットはない。

真偽を容易く見抜けるユグラ教に内通者として潜り込めるのなんざ余程の精神干渉に優れた魔法の使い手くらいなもんだ。

ほんと、ラーハイトって奴はすげーよな。

ま、案内役のハッサの奴みたいに畏怖する程じゃねぇけどな。

「ラーハイトには十分動いて貰った。助けてやる義理くらいはあるがそれはクアマを奪ってからでも十分間に合うだろう」

「それまでに生きていればの話だがね」

「死ぬようならばそこまでの奴だったと言うことだ」

「その件で一つ確認することがある。今日うちのメンバーの一人、ハッサの定時連絡が途絶えた。お前達にラーハイトの接触があったかを確認したい」

「ないね、うちも一人消えている」

「モルガナも一人、今日は酒場に滞在する予定だった案内役がいなくなったわ」

「ハッサもそうだ。ロービト、消えた奴は酒場担当か?」

「そうだ、三人とも揃って酒場担当が消息を絶ったようだね」

何やら不穏な話だな、ていうかハッサの奴行方不明になってたのか。

噂をすればなんとやらとは言うが噂をしたら消えていたってのは新しいな。

しかもモルガナ、シュナイトの案内役も消えたのか……ハッサが偶然事故に巻き込まれたとかじゃなさそうだ。

「一人が消えるだけなら事故、あるいはラーハイトと接触時に何かしらに巻き込まれたと見るべきよね。でも三人同時ってどう言うこと? 符丁はそれぞれ違うのだからラーハイトが現れても反応するのは一人だけよね?」

「そうだ。ハッサが消えたことから儂はラーハイトが現れハッサと共に行方を消したかと判断した。そして行く先ともなればお前達の所かと思ったが外れのようだな」

「その辺はお互い様と言ったところだね。だけどこうして三人で確認し合うことで何者かが我々とラーハイトのやりとりに気づいたと言う仮説が生まれた」

「そうね。符丁が違っていても冒険者に接触を行う人間がいれば注目してしまうのだし、どちらのギルドにラーハイトが合流したのかを確認するために言葉にも耳を傾けていたでしょうから……その辺を見極められる者がいるとすれば可能性はあるわね」

第三者と会話を行わせそれを観察する方法ならば魔力による探知やらが一切通用しない。

そして仕組みを理解したからとしても案内役の連中だってこれ見よがしに観察や聞き耳をするわけでもない。

一人だけなら符丁を一致させておびき寄せて捕獲……てのはありかもしれない。

だけど三人とも捕捉って……そんな達人おるの? 会いたくねーわー。

「それでどうする? 仮に捕らえられたのならば情報を聞き出される危険は多少なりとも出てくるだろう」

「精神干渉の魔法も拷問にも耐えられる駒は用意してあるのでしょう?」

「物事は最悪を想定するくらいが丁度良いと思うけどね」

「儂もロービトの意見と同じだ。ハッサ程の男が捕まったともなれば他の案内役も同様に捕らえられる可能性がある。ラーハイトとの連絡は奴が城から抜け出したという情報が出てくるのを待ち、それを確認するまで控えておくべきだろう」

「賛成だね、捕まったと見られる三名が口を割らなくても新たに捕まるものがいれば危険は増える一方だ。ラーハイトなら脱出に成功すれば何かしら新しい方法で接触することもできるだろうからね」

「わかったわ、私の方も案内役を下がらせてもらうわね」

「しばらくはこうして裏で会合することも避けるべきだろう。蒼の魔王がクアマへの侵攻を失敗したのはある意味では丁度良かったのかもしれないね」

「蒼の魔王が攻め入ってさえいればそれこそ既にクアマは我々の手に落ちていた。喜ぶべきことではないな」

「良いじゃない、抜け駆けされてたら私達が動きにくくなっていたのだからね?」

会合はこれで終わり、各々が時間差でこの場所を去って行く。

いやあ流石は兄貴、一度も言い負かされることなく三大ギルドの相談役の会話の主導権を握ってたなー。

「それで兄貴、この後どうするので?」

「まずはリオドにハッサへの指名依頼を第三者に行わせる。その後は事情を知らん奴等にハッサを探させる」

「なるほどー、俺達が動いちゃハッサを捕まえた奴等が見ているかもしれないですからね!」

「準備はほぼ済んでいる。 レ(・) イ(・) テ(・) ィ(・) ス(・) 側の動向も監視する必要があるだろう、目立つ動きは避けていく」

「ガッテンです!」

兄貴の危機回避能力は野生の獣並。

亜人って皆こうなのかね、いや兄貴が特別なんだろうな。

入手し難い情報を容易く得られる俺、その情報からすげぇ洞察力を見せる兄貴。

俺が言うのも厚かましいがお似合いの上司と部下だと思う。

誰かは知らねえが兄貴の邪魔をするってんなら容赦はしねぇ、俺がぶっ飛ばしてやんよ!

……ん?

なんか見覚えのある奴と見覚えのない奴が視線の先を歩いている。

たしかありゃああのパーシュロと組んでいたっていうエクドイク……。

最近じゃクアマに姿を見せていなかった奴がなんでまた……一応探ってみるか。

探知魔法を起動、エクドイクとついでにもう一人の男を対象に情報を……。

「なんだ……ありゃ……」

「どうしたハークドック」

「え、あ、いや……その……目の前に二人組の男いますよね?」

「ああ、あれは……一人はエクドイクだな。奴は確か以前ラーハイトとも接触があったと聞いている」

「え、じゃあ味方なんですかね?」

「そう考えるのは早計だ。だが意味がないとは考えにくい。それで呆けていた理由はなんだ?」

「そのですね、俺の探知魔法が狂ってなきゃ……エクドイクは人間じゃないです」

「なんだと?」

「それとその隣にいる男……何も読めません」

俺の探知魔法は相手の魔力に少しでも接触すれば相手の情報を読み取れる。

その結果がエクドイクは人間ではないと言っている。

それだけでも理解が追いつかないってのに、もう一人の黒髪の男はさらにおかしい。

死体にでも探知魔法を使ったかのように何一つ情報が読めない。

魔力は微々たるものだがないわけではなく、子供と同じように読み難くても読めないということはないはず。

「迂回するぞ。奴等の動向は別の者に探らせる」

「……了解で――ッ!?」

男と俺の視線がぱたりと合った。

俺の直感が告げている、こいつは何かがヤバイ。

戦闘力の有無とかではなく、奴が関われば間違いなく多大な被害を……。

どうする、ここは兄貴を逃がして俺は残るべきか。

そうだそれがいい、エクドイクの相手ともなれば俺でなきゃ務まらないし兄貴がいれば巻き込みかねない。

「兄貴、兄貴は逃げてください。俺は奴等を食い止め――?」

男はエクドイクに声を掛けたかと思うとその場から踵を返して去っていった。

その理由は定かではないが、俺はあの二人を相手にせずに済んだようだ。

「大丈夫かハークドック、異常な汗だぞ」

兄貴に言われて手で額を拭う。

べったりと気持ちの悪い汗が掌についている。

一体何者なんだあの男……。