軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次に気づくは。

ノラを庭園に連れ出し今ターイズや世界で起こっていること、『俺』が知る情報の大半を話した。

親しくしていた『金』が魔王だったこと、エクドイクが魔族となったことも包み隠さずにだ。

最後に無色の魔王とのやりとりも話したがノラは俯いたまま黙って聞いていた。

本当ならさっき事情を聞いた時にある程度話しておくべきだったのだが……『私』の時はあまり誰かをフォローする気にはなれないからな。

「ま、こんな感じだ。お前がルコの話を聞かなかったことは確かに悪いことだ。だけど本当に危険な事を正しく説明せずに隠していた『俺』達大人にも咎はある、悪かったな」

「……でもノラがルコ様の言うことをしっかり聞いていれば問題なかったのだ」

「それこそ『俺』がお前に禁忌のリストを説明して迂闊に研究しないようにきちんと縛っていれば済んだ問題だ」

「狡い言い方なのだ」

「おう、大人は卑怯な言い方を覚えるもんだ。特に『俺』についちゃ言葉で勝てると思わないことだな」

物陰でイリアスが『そんなことを自慢してどうする』とでも言いたげな顔をしているのだろうがそんなことは無視だ無視。

「にーちゃん、ルコ様はもう目を覚ましたのだ?」

「聞いた話だと目覚めたらしいな、だがそっちはもっと適任に任せている。『俺』にできるのは後々元気になったルコに恨み言を言われることだけだ。一緒に怒られようぜ?」

「……前ににーちゃんが言っていた半分の意味が何となく分かったのだ」

魔法研究の依頼を受けた大賢者バラストスが自分ではなくノラをターイズに送った理由。

ノラは魔法の修行のためだと言っていたが『俺』が半分正解だと言っていた時のことだな。

「感覚的な理解ができただけでも十分だがな、せっかくなら言葉に出してみろ。言語化は難しいぞ?」

「ええと……完成させるために頑張るのは大事なことなのだ、だけど完成した後のことも考えなければダメなのだ。ノラは研究する力はあってもその先を見通せる力が足りていないのだ。だから新しい魔法を国の未来の為に研究しているターイズの人達からそれを学んで欲しいと師匠は思ったに違いないのだ」

「ほぼ正解だな」

「ほぼ?」

「お前のお師匠さんがその答えを求めていたのは確かだろうけどな。答えはもっとシンプルだ。自分がまだ子供だってことを自覚して大人を頼ることを知って欲しかったんだろうよ」

「……子供扱いされるのはあまり好きじゃないのだ」

「そりゃそうだ、お前の魔法の才能は大人よりも優れている。だけどそうじゃない。ノラは魔法の才能が微妙なルコを未熟者だと笑うのか?」

「……そんなことないのだ。ルコ様はノラよりずっとずっと凄いのだ」

「ああ、ルコは凄い。その強さは鍛錬で培ったものではなく人として生きてきた強さだ。大人が持てる特権だな」

「にーちゃんも凄いのだ?」

「どうだろうな、ルコみたいに度胸があるかと言われると悩ましい。ただまあ別の点では凄いところもあると思うぞ?」

「濁されたのだ」

「魔法の才能だけじゃない。ノラはこれからいくらでも、多くのものが成長する。だから今は足りないものだらけだ、そこを補うために人を頼るのは悪いことじゃない。子供のころからそのことを覚えておかないと大人になった時に苦労するぞ?」

大賢者とその弟子、その関係は限られた関係だ。

子供としての人生をいかに送れるかで大人になった時の立ち回り方が大きく変わる。

大賢者として、師匠としてノラを甘やかすことができないバラストスはそのことを懸念していたのだろう。

相手は賢王マリト、子供を送りつければ悪いようにはしないだろうと。

「成長する多くのものっておっぱいとかなのだ?」

「流石にそれを補うのは難しいところがあるな、それに持ってない大人もいる」

「冗談なのだ、でも分かったのだ。しっかりとは分からないけど、分からないといけないものがなんなのか分かった気がするのだ」

「そうだな、そんだけできりゃ上できだ」

ノラの頭をポンポンと叩く。

正直こんな難しい話を『俺』の子供時代に理解したのかと言われたらノーである。

子供は大人を頼るものだとは言われたが細かい理由なんて聞かされたことなんてない。

確かにそんな難しいことは大人になってから気づけば良いのだ。

だが子供としては理由なき強制など反発したいだけでしかない。

その辺にどう折り合いをつけるのかは大人に課せられた大切なお仕事なのです。

「……にーちゃん、無色の魔王に食べさせたイトエラ蝶の幼虫ってまだ持っているのだ?」

「おうあるぞ、これだ」

ポケットに入っていた残りを取り出す。

ちなみに先程『冷静に考えるとポケットに芋虫を入れているのはどうかと思うよ』とマリトに酷いことを言われた。

まあ『俺』もそう思う、さっさと天日干ししてしまわねば。

「……あむ、――ッ!?」

「やると思った、割と貴重な薬なんだから齧ったら返せよ」

悶えているノラの手に残った芋虫の残骸をあまり見ないようにして回収し、布に包んだ後ポケットへ戻す。

クトウに別の水筒を取り出してもらいノラに渡す。

「蜂蜜を多めに溶かした水だ。取り敢えず口を濯げ」

ノラは水筒を手に取り口に含み、そして近くの花壇に吐いた。

食欲がなく食事をしていなかったのが幸いしたようだ、良くはないけどな。

ノラはボロボロと涙を流しながらこちらに戻ってくる。

「う、うう、に、苦いのだ……」

「無色の魔王も吐いたくらいだからな、もっと飲んどけ」

「……もういいのだ」

「泣くほど苦いんだ、無理するな」

「いいのだ、この苦さは覚えておかなきゃいけないのだ。ルコ様はもっと辛い思いをしたのだ」

ノラについてはもう心配はいらないだろう。

これほど強い子はそうそういない、道を踏み外すような心境の変化は簡単には訪れないだろう。

「――やれやれ、もう少し子供らしくしろっての。今日はもう飯食っても吐くだけだろうからな、明日にでも美味いもん食わせてやる」

既にルコは目を覚まし部屋の傍に待機させていた者から昨日の夜の顛末を聞かされている。

部屋をノックするが返事はない。

奥に気配はある、動いている様子はない。

扉を開けルコの部屋へと入る。

ルコの部屋には小さな鉢植えがいくつも飾られている。

どれもがクセのある植物で中には以前俺も挑戦してみたが枯らせてしまった物もあった。

……いや、今は置いておこう。

ルコは寝間着姿でベッドから体を起こしているが膝を丸め、そこに深々と顔を埋めている。

近くまで歩み寄るとようやくこちらの存在に気づいたのか視線を向けてきた。

「へ、陛下!? ど、どうして!?」

「様子を見に来たのだが……ノックをしても返事がなかったのでな、無作法ですまない」

「い、いえ! 私こそこのような恰好で――」

「それが正しい恰好だろう。ベッドに寝ていなければならない者に給仕服を着せることを強要するものがいるのならば私とて怒る」

「は、はい、そうですね……」

こうやって話している範囲ではいつものルコだ。

だが部屋に入った時の様子を考えればその心身への負担は言うまでもない。

「体の方はどうだ?」

「えと……はい、大丈夫だと思います……。その……陛下……ノラちゃんの事を任されたのにこのようなことになってしまい……ご期待に沿えず申しわけ――」

ルコの頭を引き寄せ胸で優しく抱きしめる。

きっとルコならばそういうだろうと思っていた、だがそれ以上言わせたくなかった。

「陛……下?」

「ルコ、何も謝るな。君はどの騎士よりも強く、恐ろしい力を持った魔王を相手に一歩も引かなかった。誰よりも勇気を奮った君に謝罪の言葉を口にさせるわけにはいかない」

「ですが私がしっかり止めていればあんな幼い子に怖い思いをさせずに……」

「それは君もだ。君も耐え難い恐怖に晒された、それでも君は役目を十分に果たしたのだ。今は何の責も背負うな、それ等は全て私が背負う。だから今はただその恐怖を吐き出せ」

「……う……うあ……」

胸の中でルコは震えて嗚咽する。

ルコは戦闘の訓練を何一つ受けていない。

ターイズに忠誠を誓う者であることに変わりはないがその心は鍛え抜かれた者達と比べあまりにも脆い。

死の恐怖に心が蝕まれながらも彼女は必死に立ち向かったのだ。

だがその代償はとても大きいものとなっている。

「ルコ、君は今後昨日の夜の恐怖を思い出し、未来にいつ死ぬかもわからぬ恐怖を想像しながら幾度となく悪夢にうなされることになるだろう。だが私はそれを認めない、見過ごすつもりはない。君の心に刻まれた脅威は全て私が払おう、悪夢にうなされぬよう君に幸せを与え続けよう。君の未来はマリト=ターイズの名に懸けて護ると誓う」

しばらくしてルコは泣きつかれたのか眠りについていた。

そっとベッドの上に寝かしつけ額を優しく撫でてから部屋を後にする。

角を曲がった先に友とラッツェル卿がいた。

「……ひょっとしてずっとここで待っていたのかい?」

「まあな、どの程度慰めるつもりだったのか判断に困ったから部屋に近寄りがたくてここで暇つぶしをしていたところだ」

「暇つぶしねぇ」

気まずそうな顔をしているラッツェル卿の足元の奥に騎士達が酒の席でやる賭け事の遊戯道具が転がっている。

知略よりも心理戦を重視する簡易的な遊戯、どうやら友が圧勝しているようだ。

まあラッツェル卿には賭け事は無理だろうね。

「思ったより早かったな」

「疲れが抜けていなかったんだろうね、泣き疲れたらそのままグッスリだったよ」

「ノラの方はまあ今日一日唸っているだろうが問題ない」

「唸るって何したのさ」

「ノラが幼虫を齧った」

「うわぁ」

子供の覚悟は無謀が過ぎる、これでは追々叱ることもできないね。

俺も今後の反省として一度経験してみるべきか、友もやったんだし共有することは大事だよね。

「ちなみに強制はしてないからな?」

「容赦ない時はやりそうな気がしないでもないけどね」

「相手によるさ、ノラには必要なかった」

「必要な相手が可哀そうになるね」

「ルコが落ち着いたら呼んでくれ、今後の話をしておきたい」

「わかった……でもどうする気だい?」

「場合によりけりだな。ノラは引き続き頑張ってくれるだろうがルコは……ま、その辺も含めて話すさ」

ルコの性格からすれば引き続き残ることを希望するだろう、だがそれは彼女に負担を与えることになる。

しかし無理に引き離すこともまた彼女から奪う行為となり得る。

友ならばその辺の線引きを見誤ることはないだろう。

「彼女の未来を護ると約束したんだ、しっかり頼むよ」

「なんだ、プロポーズしたのか」

「流石にそこまでは――」

うん? でもある意味ではそう聞こえても不思議じゃない気がする。

いやールコの性格的に『いや、まさかそんな筈は』と否定されるのは目に見えるけどね。

「どうした?」

「いや、せっかくだからこのまま距離を詰めるのも悪くないかなって思い始めてね」

「便乗とか不純だな」

「元々その気はあったから良いだろう? ルコから歩み寄って来ることがない以上俺が近寄るしかないんだから」

「過程を散々楽しもうとしていた奴だからなお前は」

なかなかに痛いところを突かれるなぁ、例のアレ俺にも使われているんじゃないかな。

ま、それはそれでとても嬉しいのだけれどね。

「それでもう帰るのなら少しばかり晩酌でもどうだい?」

「まだ口の中に苦味があるからな、今日はもう寝る」

「それは残念。明日はシュナイトとしての情報収集に戻るのかい?」

「ああ、こっちの方は滞りなく進んでいる」

流石だと言いたいけどラッツェル卿が白い目で友を見つめているところを見るに、一見では情けないように映るようだね。

過去の話から察するに、雑用を繰り返して地道に信用を獲得しているといった所だろう。

それでも何かしら布石を打っているのが友だ、期待して待っておくとしよう。

「朗報を待つよ。――それでラッツェル卿からはいくら巻き上げたんだい?」

「――ッ!?」

「来週までの『犬の骨』の食事代は確保したな」

「あまり賭け事に弱い真面目な騎士から金品を巻き上げるのは程々にね」

「人の金で食う飯は違った美味さがあるからな」

「それは興味あるね。今度ラグドー卿にでも一局挑んでみるかな」

「お、強制的接収か」

酷い言われようだ。

リオドのギルドメンバーが請け負う仕事の大半は戦闘が絡む。

表向きとしては用心棒や護衛、危険地帯にある希少品の確保などだ。

裏では諜報や工作活動、時には暗殺の依頼も舞い込むこともある。

当然ながら犯罪行為を依頼すればリオドにその事実を握られるというリスクがある。

リオドは仲介役として依頼内容だけを冒険者に伝え秘密裏に事を進める。

その仲介料として多額の金額を懐に貯めこんでいる。

ラーハイトの様に依頼者が顔を見せて交渉する例は稀なのだ。

体こそ変えていたがこの着目点からその存在は浮かび上がっていた。

だからこそギリスタは冒険者に直接接触を行った人物の情報を比較的容易に仕入れることに成功していたわけだな。

現在はギリスタの用意したリストに載っていた冒険者、接触したと思われる人物から情報を引き出そうとしている。

リストには接触を受けた冒険者の名前、接触者の特徴、場所や日時が書かれている。

「……お……あ……」

「こいつも外れか」

冒険者に直接接触した人物を魔法で検査してみたが収穫はなし、乗り移られただけなのだから情報など残っている筈も無い。

ようやく居場所を突き止めても無駄に終わる可能性が非常に高いのも辛い所だ。

冒険者の方も今の所は不発、確かに直接接触してきた者はいたらしいがそれぞれの冒険者の相場などを確認していた程度だった。

10人ほど調べ4人は多少手荒くかつ魔法を使っての精密検査も行ったが得られる情報はなかった。

記憶の操作及び解放の準備をしていると買い物袋を抱えたウルフェが姿を現す。

「ウルフェ、戻りました!」

「買い出しを任せて悪いな。こちらも一区切りついたところだ。食事にするとしよう」

「はい! ところでエクドイクさんの方はどうでしたか?」

「ダメだな、違和感こそあるが具体的な情報は何一つない」

「違和感はあるのですか?」

「ああ、接触者はどれも冒険者達にそれぞれの依頼をどの程度で受けられるのかと言った相談を持ち掛けている。その時の言葉遣いはどれも同じ、ラーハイトが乗り移っていたと見ていい」

そう、肉体は変わっていても奴の中身は同じなのだ。

だからこそその喋り方、感じる印象などはどれも似たり寄ったりだった。

俺もラーハイトと交渉した経験がある、だからこそ感じ取ることができた。

しかし他に何も目ぼしい情報がない。

「挨拶をして、さよなら?」

「そうだな、少なくともこのリストに載っている冒険者達に魔法による干渉は見られない」

「でもししょーはこのリストは大事だと言っていました」

「ああ、言っていたな『リストを起点に調べておいてくれ』とだけな」

だがどう大事なのかを同胞は言わなかった。

意地が悪いというわけでない、恐らくは何かしら意味があるのだろう。

ただ俺達の今後のため、自力で何とかして見せろという意味が含まれている場合は悪いがお手上げ状態だ。

……ありそうなのが辛い。

「戻ったわよぉー」

「ギリスタおかえり!」

「やーん! 出迎えてくれる可愛い子がいるのって素敵ねぇー!」

情報収集から戻ったギリスタが出迎えたウルフェに抱きついている。

この両者はなんだかんだ打ち解けているようだ。

時折ギリスタが手合わせを挑み瞬殺されていることを除けば悪いことではない。

「ギリスタ、何か目新しい情報はあったか?」

「微妙ねぇー、時折リストに載っているようなでき事があったって情報は出てくるのだけどぉー?」

「その辺の情報は接触者も冒険者も調べたがほとんど手掛かりがない」

「でしょうねぇー。私もたまーに接触があった冒険者を襲ってみたけど駄目だったわぁー」

「殺してないだろうな? お前が戦闘狂なのは勝手だが同胞の下で動くのなら自制は持て」

「大丈夫よぉー、貴方レベルでもない限り殺し合いに進展することはないわぁー?」

殺し合いはなくとも殺しはないと言い切れないのがこの女の危険なところだ。

相場などを冒険者に尋ねることはそこまで珍しいわけではない、料金を浮かせたい商人が交渉する時もあるからだ。

だが見ず知らずの冒険者ともなれば話は別となる。

相手のことを知らない上に相手からも警戒される、普通はある程度顔見知りになってから相談する内容だろう。

冒険者の知名度が高ければその限りではないがリストの冒険者に有名な者はあまりいない。

そもそもギルドを介さずに冒険者を雇う行為はギルドからの悪評を買い、目を付けられるリスクもある。

意味などないのかもしれない。

ラーハイトが接触を行ったという情報で混乱を招く、それだけでも効果はあるだろう。

いや、だがあの尋問からしてただのフェイクとは考えられない。

「エクドイクぅー、リストに追記するから貸して貰えるかしらぁー?」

「ああ、頼む」

「ええとぉ、接触された冒険者の名前はこうでぇー、接触者の情報はぁー鶏のとさかが哀れになったような髪型でぇー……」

「どんな髪型なんですか?」

「さぁー?」

「おいおい、お前が聞いて来たんだ――待て。ギリスタ、お前はこのリストをどうやって調べた?」

「どうって、普通に聞き込みよぉー? あまり冒険者と関わらないような人物があの冒険者と会話をしていたーとかそんな感じぃー」

「……そうか、そういうことか」

俺達は接触者と冒険者を意識していた、だが着目点を見誤っていた。

そもそもここまで頻繁に同じ内容の情報が流れるというのが不自然なのだ。

「ギリスタ、出るぞ」

「えぇー、ご飯食べてからにしましょぉー?」

「ようやく進展の兆しが見えたところだ、今までの時間を取り戻すためにも――」

振り返るとウルフェが買い物袋から取り出し並べていた食材を名残惜しそうに眺めていた。

ウルフェには好きな物を買わせた、好物もあるのだろう。

「ごはん……抜きですか……」

「……食べたら急いで行くぞ」

「はい!」

「なんかウルフェちゃんに甘くないー?」

言うなギリスタ、それは俺も自覚している。