作品タイトル不明
次に何を企むのか。
「出ろ、領主様が直々に尋ねたい事があるそうだ」
投獄から数時間後、兵士の一人が牢を開けて外に出るように促してきた。
エクドイクと一緒に立ち上がろうとすると兵士はエクドイクを制止する。
「来るのは一人だ、貴様は牢に残っていろ」
兵士達とてまるきり無能と言うわけではない。
エクドイクを見ればそれなりに腕の立つ相手であることを感じ取っているのだろう。
逆に完全に素人でしかないこちらならば情報を引き出しやすいと判断し領主へと進言したと見える。
「領主さんに会うならこれは置いて行った方が良いのか?」
そういって腰に下げているクトウを指差すと兵士は鼻で笑う。
好きにしろとのことらしい、日本なら当然置いていけくらいは言われるのだが……この世界で木刀を持つことは余程滑稽なのだろうか……その恰好で散々ターイズを歩いている身としては鞘の導入を検討すべき事案である。
エクドイクが視線でこちらを見てくる。
ここまでは予定通り、問題は無い。
もしも物騒な尋問に遭った場合はエクドイクから渡された鎖の一部に強い衝撃を与えればエクドイクが緊急事態だと判断し脱獄、こちらを助けに来る手筈だ。
それでも護衛として離れることになるのはあまり気が進まない模様。
多少は安心感を持たせるべきか、こちらも気合を入れていることを教えて置いてやるとしよう。
両手で自分の頬を軽く叩き気持ちを切り替える。
「おい、早く出ろ」
「――ええ、分かっていますよ。……エクドイク、『私』がいない間に暴れたりしないように頼むよ?」
エクドイクの目が丸くなっている、やはりあの時のことはそれなりに記憶に残っているようだ。
もっとも今はエクドイクのことを気にする必要はない。
今から出会う領主をどうするかを考えようじゃないか。
◇
「トクサド卿、件の捕えた者を連れてきました」
「ご苦労、通せ」
兵士達からの報告で奇妙な二人組がリルベに現れたと聞いた。
その者達の話ではユグラ教の頂点、法王様の依頼を受けクアマを訪れたとのこと。
しかし兵士達の話では風貌が明らかに怪しく、証拠らしい証拠と言えば今私の手元にあるこの依頼状だけとのこと。
それに目を通したが、容易く偽物だと判断することができた。
恐らくその二人組は盗賊か何かだろう。
大それた連中だが、この混乱時に何かを企んでいるのならばそれを暴いてやるのもリルベの統治を任された者としての責務だろう。
現れたのは若い青年、黒い髪に黒い目と非常に珍しい風貌だ。
伝承に聞く魔族なのではとさえ思ったが、明らかに動きが素人。
内在する魔力も子供と同程度……いやそれ以下だろうか、実力を隠し秘めている感じではない。
青年は多少そわそわした様子だが、この偽物の依頼状に多少なりとも自信はあるのだろう。
そういった顔つきをしている、ならばその自信を砕いてやるとしよう。
「私がリルベ領主、トラッファー=トクサドだ」
「トクサド卿と呼べばよろしいですか?」
「それで構わん。さて、単刀直入に尋ねよう、このリルベに何の目的で現れた?」
「兵士達にも説明したのですがね。そちらの手元に依頼状がある筈ですが」
「これのことだな?」
そういいながら先ほど没収した依頼状を青年に見せる。
青年は頷く、私はそれを開き大まかに読み上げる。
「現在発生している魔物の襲撃に対しユグラ教クアマ支部のセラエス大司教からユグラ教本部へ救援要請があった。それを受けたユグラ教本部はその対応としてこの依頼状を持たせた者をクアマへと正式に派遣することとした……意味が分からんな」
「依頼状の通りと思いますが」
「黒い髪に黒い目の怪しい男に、いかにも裏社会で生きていそうな男を送りつけることが魔物の襲撃になんの役に立つというのだ?」
「彼は腕の立つ男ですから、『私』は交渉役ですよ」
報告ではもう一人の男は非常に危険な気配がするとのこと、それなりの実力者なのだろうがこちらの男の言葉には従っている。
こちらの男が恐らくは頭脳担当といったところだろうか、確かに頭は回りそうだ。
「だがやはり信じられんな」
「依頼状にはきちんと法王様の署名もあるでしょう?」
確かにこの依頼状には法王様の署名が書かれている。
良くできている、だからこそこの青年は自信を持って私に意見しているのだろう。
「そうだな、だがこちらを見て貰おうか」
そういって用意した別の羊皮紙を取り出す。
青年から没収した依頼状とは少し色の違う羊皮紙だ。
「私はユグラ教への寄付を行っているのでね、メジスからの手紙が来ることも稀にあるのだよ。これはユグラ教が正式な手続きを行った際に発行された物だ」
「その様ですね、それが何か」
「これにも最終確認を行った法王様の署名が書かれている。署名を見比べれば確かに非常によく似ている。だが君達の方は僅かに文字が歪んでいるようだ」
そう、筆跡も文字の特徴も非常によく似ているが文字が所々歪んでいるのだ。
必死に真似たのだろうが、歪さが滲み出てしまったのだろう。
目利きの優れている私にとってこの違いを見分けることなど容易いことだ。
「……法王様も人です、寸分違わぬ署名というわけにもいかないでしょう?」
無論そういう逃げ道はある。
だがそれだけではない、いや最も偽物であると言う違いがあるのだ。
「どうやら君は知識不足の様だな。ユグラ教が正式な手続きを行う際にはこのメジス製の羊皮紙を使う、ユグラ教だけが扱える特注の羊皮紙をな」
そう、ユグラ教が正式に発行する書面は偽物が出回りにくいように厳重管理された状態で製造されている特注の羊皮紙が使われているのだ。
このように若い青年程度ではどうあがいても入手できないほどの品だ。
似た物を探すことはできるかもしれないが、目利きを鍛えているものならば見間違えることはまずないだろう。
「……法王様は現在ターイズを訪れています。なのでターイズ製の羊皮紙を使われたのです」
「見苦しい言い訳だ、ターイズに法王様がいるいないに関係などない。ターイズにもユグラ教の支部は存在している。専用の羊皮紙を手配することなど造作でもないことだ。君はこのような偽の依頼状を持ってクアマで何を企んでいる?」
「ですが良く見てください、その署名は間違いなく法王様の――」
青年が強引に一歩前に出た瞬間、兵士の一人がその足を槍の柄で叩く。
青年はバランスを崩し倒れる。
「許可なく動くな!」
「っ! それは法王様が用意してくださった本物の依頼状です、間違いありません!」
「全く見苦しい、混乱に乗じてこのような賊が入り込むとはな。法王様の名前を騙り陳腐な偽物などを用意しおって」
実に罪深い、それでもなおこの青年はこの偽物を本物だと言い張ろうとしている。
当然だ、この青年にとってはこの偽物の依頼状だけが現状を打破できる武器なのだから。
だがそれは私には通じない、それを理解させるために青年の目の前で偽物の依頼状を破いて見せた。
青年は一瞬唖然とした顔をするがふっと表情が無くなった。
「目的を話すつもりが無いのならば当面牢獄で自らの行いを悔いると良い」
「それが貴方の決定ですか」
感情を感じさせない声で語り掛けてくる、それほどにショックを受けたのだろう。
「そうだとも、不服かね?」
「……いえ、それが領主様の決定ならば従いましょう」
急にしおらしくなったな、万策尽きたと言ったところか。
だが素直になるのであればこちらとしても言うことは無い。
どうせ何かしらの詐欺を働くつもりだったのだろう、まだ若い青年だと言うのに。
これで少しは反省し、まともになれば良いのだが……ん?
青年はゆっくりと起き上がり、膝を払う。
どこかしら妙な感じだ、何かがおかしい。
そう、何かが……。
「どうかしましたか? 話は終わりで良いでしょう、牢に戻って良いのですよね?」
「急に態度が変わったな、一体どう言う―」
「ああ、トクサド卿、一つ尋ねておきたいのですが……ユグラ教が使っている特注の羊皮紙とは こ(・) れ(・) のことですよね?」
青年は懐に手を入れ、一枚の丸めた羊皮紙を取り出してみせた。
……まさか。
「そ、それは――」
「はい、兵士さん。トクサド卿はこの羊皮紙を手に取って見たいようです。『私』が前に出てはいけないようなのでお渡し願えますか?」
兵士は怪訝な顔をしつつこちらに視線を向ける。
私が頷いて見せると兵士は羊皮紙をこちらに持ってくる。
……そんな、これは……まさか!?
「この羊皮紙は間違いなくユグラ教の……」
そう、この羊皮紙はユグラ教の正式な書面を発行する際に使われる羊皮紙だ。
今手元にあるもう一通の物と比べても間違いない。
羊皮紙を広げ中の文字を確認し、その内容に背筋が凍り付く。
いやいや、そんな馬鹿な!?
こんなことがあって……いやだがこれは……!
「どうかしましたか? 難解な文章ではないでしょう、先ほどの依頼状と全く同じ文面なのですから。ああ、でも署名の数が少し増えていますけどね?」
「法王様だけでなくウッカ大司教やマーヤ大司教の署名まで……」
「ええ、クアマに持ち込む際に法王様の名前だけですと信憑性が疑われますのでクアマにも多くの書状を送っている顔の広いウッカ大司教の署名、法王様がターイズ在中であることを証明できるようにマーヤ大司教の署名も用意させていただいております」
ウッカ大司教は各国の貴族達と懇意にしており、多くの寄付を集めているお方だ。
私もクアマ支部への寄付とは別にメジスにある本部への寄付も行ったことがあるから知っている。
この筆跡は間違いなくウッカ大司教のものだ。
「な、ならばさっきの依頼状は……」
「 勿(・) 論(・) 本(・) 物(・) ですよ? ただ依頼を受けた場がユグラ教の施設ではありませんでしたから、ですが間違いなく法王様に署名を頂いた物です」
頭の中が真っ白になった。
◇
そう、これが狙いだ。
トクサド卿がそれなりに知恵の働く領主であることを利用させてもらった。
クアマの地方を収める領主の中でトクサド卿が最もこうなる可能性が高いと踏んでの行動だったが、綺麗に型に嵌ってくれたようだ。
ユグラ教の正式な書面が特注の羊皮紙を使っていることなどとっくの昔にマーヤさんから教わっている。
だからまずはエウパロ法王に『犬の骨』の無骨なテーブルの上で『私』が普段から使っている羊皮紙に仮の依頼状を書いて貰った。
もちろんエウパロ法王は仮の依頼状では効果がないと助言してくれたがマリトに見せ確認を取るためと説明しておいた。
まあエウパロ法王なら何かしらに使うのだろうと思ったことだろう。
その後正式な羊皮紙を用意してもらい正式な依頼状を作成してもらった。
正式な依頼状はクトウに飲み込んでもらい隠しておいてもらっていた。
普段は木刀の中に隠れ潜める特性を利用した隠しポケットとして早速の活躍だ。
そこ迄大きなものは隠せないが小物やこの程度の羊皮紙の一つや二つは容易く隠せる。
「ではこれで」
「ま、まま、待て! この正式な依頼状があるのであれば話は別だ!」
トクサド卿は青い顔で身を乗り出している、完全に動揺を隠しきれていない。
「話は終わりましたので、『私』は大人しく牢に戻らせていただきます。それが貴方の決定だと確認しましたからね?」
「それは撤回する、するに決まっているだろう!?」
「おや、先ほど転んで耳が遠くなりましたね。申し訳ありませんが少し牢で休ませてもらいます」
「なっ!?」
「いやー仕方ない。法王様直筆の依頼状は破られ、兵士に小突かれて怪我をし、弁明空しく牢に入っていろと言われ……後から来る仲間に事情を説明する時まで大人しくしておくとしましょう。きっとそうすればすぐに法王様にも連絡がつくでしょうからね?」
そういって一人で部屋を出ようとする、現状を理解できないほど兵士も愚かではない。
最早こちらの退出を強引に止めることは不可能である。
トクサド卿は慌てて立ち上がりこちらに駆け寄る。
「ま、待ってください! こちらの非は認めます、謝罪もしますので!」
「トクサド卿、安心してください」
服の裾を掴んでくるトクサド卿の肩にそっと手を置く。
「牢屋生活も慣れたものですから」
トクサド卿の表情は実に良いものとなっていた。
◇
「それで……これはどういう状況だ?」
彼とエクドイクが先行して情報収集を行うと言い、先にクアマに向かっていたのを馬車で追っていた最中、伝令の馬が慌ててやってきた。
話を聞けば彼とエクドイクはクアマに近い街、リルベに滞在しているとのこと。
私達は首を傾げつつもリルベに向かうと領主であるトクサド卿がわざわざ出迎えてくれた。
非常に複雑な表情で歓迎され、彼の居場所を尋ねると泣きたそうな顔で牢屋へと案内された。
そして牢屋の中にいる彼とエクドイクに再会することとなったのだが……。
「ああ、拠点を用意しておこうと思ってな」
牢屋の中には不相応な高級家具が持ち込まれており、彼は多くの書類を眺めながら優雅に待ち構えていたのだ。
「何故牢屋に……」
「いやぁ、トクサド卿にお前は牢屋に入って行いを悔いろと言われたからかな?」
「そんなことは! そんなことは!」
詳しい事情を聞くと彼はわざと兵士たちに捕えられ、トクサド卿を罠に嵌め二枚あった依頼状のうち一枚を破らせたらしい。
そして現状を理解させたのち、嫌がらせとばかりに牢屋に居座ったとのこと。
私達後続がそのことを知り、ユグラ教へ報告することを恐れたトクサド卿はどうにか彼を牢獄から出てもらおうと交渉したが全て決裂。
苦肉の策として牢獄内を快適な一室へと改装したのだとか。
手口が見事に悪人のそれである。
後で部屋を移動すると約束するとトクサド卿は非常に不安そうな顔のまま去って行った。
相当彼に心を揺さぶられてしまったようだ、不憫な。
「君という奴は……このために先行していたのか?」
「セラエス大司教は反第三陣営の筆頭だ。真っ直ぐにクアマに顔を出していたら難癖付けられて行動に制限を与えられる可能性が高かったからな。だから近場であるここリルベを仮拠点として確保しようと思ったわけだ」
「まさか領主に牢を出てくれと泣きつかれる日が来るとは思わなかったぞ」
エクドイクは非常に複雑な顔をしている。
私もそんな日が来たら同じ顔をするだろうな、うむ。
「ここまでする必要があったのか?」
「当然ながらクアマの貴族たちはセラエス大司教と連絡を取れる関係にある、生半可な協力を得たところで寝返られたら元も子もないからな」
トクサド卿はエウパロ法王直筆の依頼状を破ってしまう失態という弱みを握られた、セラエス大司教とエウパロ法王どちらの威光が強いかは語るまでもないだろう。
「直接クアマに向かわないのであれば私達も一緒に連れて行けば良かっただろうに」
「まともな騎士の風貌であるイリアスや装飾品にターイズ王家の家紋が入っているミクスを連れていたら信憑性が上がってしまうだろう? ラクラに至ってはユグラ教の聖職者用の服だしな」
「尚書様、実はこれオリジナルなのですよ? サイラさんの手により通気性や軽さが既存品よりも遥かに良いのです!」
「それがどうした」
「酷いっ!?」
確かに彼の風貌は初見の者ならば怪しいと思うだろう。
同伴しているのがエクドイクだけならばその怪しさはさらに増す。
「ししょー、ウルフェも一緒に行きたかったです」
「ウルフェはなー、可愛いから怪しさが別方向になりそうだったからな」
「そうですか……ウルフェももっとエクドイクさんみたいに怪しくなれますか?」
「なるななるな」
「なるななるな」
彼とエクドイクが綺麗に同じセリフを言っている。
そこは私も同意だ。
「一応保険も他にはあったんだけどな、これとか」
そういって彼は指輪を一つ取り出す。
……んん!?
「そ、それは……まさか……」
「おお、それはターイズ家の家紋が入った『親愛の指輪』ではないですか!」
そう、ミクス様の言う通り彼が今見せている指輪は『親愛の指輪』。
その功績がターイズに真に貢献したと認められた者、つまりは歴史に名を遺す程の騎士や貴族に対して当代のターイズ王が授与されると言われた非常に貴重な褒章の一つである。
ターイズのために身を捧げている騎士や貴族達にとって憧れの目標の品である。
無論私もターイズの騎士として憧れている物、それをまさかこんな場で見るとは。
いや、それよりもだ。
「ど、どうしてそれを!?」
「なんかマリトがくれた」
「なんかって……」
その指輪を与えられている者で今もなお現役なのはラグドー卿くらいのものだろう。
それ程までに貴重な物をなんかって……。
「まあ確かに兄様にしか与えられないものですからな」
「これを見せればターイズ王家と懇意にしている証明になるって言われたからな。これを見せてミクスと懇意にしていますとか言いつつ後続でミクスが来れば十分効果があるだろう?」
「ご、ご友人、その指輪は王族と懇意にするだけでは貰えませんぞ! その説明でその指輪を出すと婚約者と宣言するようなものです!」
「まじかよあぶねぇ」
「ただ王家と仲が良いだけで貰える品ではない、それこそ王族に加わる程の関係になるか、それと同義の働きをするかでしか与えられない物なのだ」
「うっかりマリトと懇意にしているって説明したらターイズ王家の家系図が凄まじいことになりかねんのな」
「兄様とご友人が婚約関係と言うのはある意味歴史に残りますな。まあご友人ならば私と懇意にしていると言われても私は口裏を合わせましたが!」
「後で色々責任を取らされそうな嘘は控えさせてもらおう」
「つれませんなぁ!」
「痛いて」
ミクス様は彼の背中を笑いながら叩いているが指輪に関して当然だと思っているのだろう。
私個人としては非常に複雑な気分である。
だが彼の功績を冷静に考える……ターイズを苦しめていた山賊討伐の立役者、ユグラの星の叡智を与えターイズの文明の底上げを行い、世界の脅威となる魔王の復活を証明し果ては仲間に取り込んだ。
さらに言えば孤高であった陛下の心の拠り所とさえなっている。
「……君がその指輪を与えられたことはそう不思議ではないのかもしれないな」
「あまり物に執着するタイプじゃないから何とも言えないが、イリアスにとっては重要な物なんだな」
「無論だ、それを使って悪事を行っていたのならば拳の一つや二つでは済まさん」
「……肝に銘じておこう」
指輪の価値を知ってもなお彼は指輪にそこまでの想いを持っていないようだ。
彼にはその指輪の正しい価値が分からないのだろうか、それとも私のような騎士が指輪の価値に囚われているだけなのだろうか。
……何はともあれ、その指輪が彼の悪巧みに使用されるのは避けて欲しいのは事実だ。
手に取って見てみたいが……いや、私にはまだ早い。
「しかし同胞の口調が変わった時はヒヤリとしたぞ」
「む、今の発言は聞き捨てならんな」
エクドイクの反応を見るに、彼の様子が変わったのだろう。
今回のでき事からするに、トクサド卿を罠に嵌めた際に彼は悪の立ち位置で動いたのだと理解できる。
そうすると彼がアレを使ったのではないかと心配になるわけだが……。
「別に理解行動は使っちゃいないさ。トクサド卿の情報は『紫』から貰っていたからな」
「むう、君がそういうのならば信じるが……」
「今回の場合は自分の在り方をスイッチしただけだ。自分を捨てたりなんかしてないさ。エクドイクには心配するなって意味で変わった状態を見せただけだ。しっかりやるんだから安心して待ってろってな」
彼はそういってトクサド卿に用意させたクアマの情報を読み漁る作業に戻った。
私達は蒼の魔王の侵攻を止めるためにクアマにやってきた。
だが彼が最初に仕掛けたのはクアマの領土内にあるこのリルベの領主だった。
依頼状を複数用意していることからも既にこの展開を想定していたのだろう、ならばこの先の展開も……。
彼は普段通りの彼だ、だが何かが違う気がする。
こういう時はアレだ、多分ろくでもない事を企んでいるのだろう、うん。
隙を見て聞き出すことにしよう。