軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次に動くは。

「本日をもってラッツェル卿の護衛の任を解く」

イリアスと共にマリトに呼び出され、本題に移って即イリアスの護衛の任務が終わりを迎えた。

当のイリアスは……固まっているな。

おや、だが少し思案顔に変わった。

そしてこちらを振り向き、真顔で口を開く。

「説明を頼みたい」

「マリトに言えよ。今話してるのお前の上司だぞ」

「説明を頼みたい」

わりと動じないようにしているが、どうやらいっぱいいっぱいらしい。

マリトも説明どうぞと言わんばかりにウインクしてくるので説明することにしよう。

「説明も何もないと思うがな。『俺』は人間達に害を与えないと宣言している魔王と手を組み第三陣営となった。マリト、いやターイズはその第三陣営を容認こそしているが陣営に加わったわけではないからな。そのターイズが第三陣営の重要人物の護衛を行うのはおかしい話だろう?」

「それは……そうだな。だが私には君を護ると――」

「だからと言ってターイズの騎士を辞めたら元も子もないだろ?」

イリアスが『俺』を護りたいと思っているのは原点に立派な騎士として生きたいという思いがあるからだ。

だが今はその騎士と言う肩書が護衛を行うのに邪魔になっている形となる。

「……」

「そう困った顔をするな、お前の言いたいことは分かる。マリトだってその辺を考慮したうえできちんと別の方法を用意しているんだ」

「そ、そうなのか?」

「そうだろう?」

「説明どうも。現段階でエクドイクやウルフェと言う強力な存在が身の回りにいる時点でラッツェル卿の必要性はほぼない」

「……」

「そういう顔をするな、友がにやけているぞ」

「あ、こら、告げ口するなよ。もちろんマリトだってイリアスの士気を下げるような真似はしたくない。イリアス個人をターイズの主戦力と見ているわけでもないから固執する必要もない」

「それはそれで引っかかるのだが……」

「ラッツェル卿の成長は見事だがターイズ騎士団は個の性能に拘る組織でないことは確かだ。無論よそにいかれるのは困るが友の護衛に固執してくれる程度ならば文句はない。そこで新たな任務を与えようと思っている」

「新たな任務……ですか?」

「そうだ、ラッツェル卿には第三陣営を名乗る派閥の重要人物の下に付いてもらう。言うまでもなく友のことだ。そして建前上の役割は監査役だ」

「監査役……」

「そう、ターイズとしては魔王を二人も抱え込んでいる第三陣営を軽視する真似はできない。なので実力のある者を労働力として提供する代わりにその人物による監査役を第三陣営に認めてもらうと言った形だ」

こちらは元々隠れて悪さを行うつもりはないが魔王が与しているともなれば人間達からすれば疑念を抱かれても仕方がない。

なのでターイズから監査役、格好よく言えばスパイを堂々と送り込みその活動内容を常に明るみに晒しておこうと言う話だ。

「あとはメジスからも同様の形に監査役を受け入れれば警戒は残っても即座に対処すべき危険組織と言う印象は薄れるだろうからな」

「その場合メジスからの監査役はラクラになるだろうけどね。ターイズからも常駐の監査役にはラッツェル卿を指名するが、さらにその監査役として複数の騎士を宛てがう予定もある」

「……なるほど」

真顔で頷くイリアスだが、この顔はあまり理解できていないサインだ。

「イリアスやミクス、ラクラがこちらの周りにいることの言い訳みたいなもんだ。いつも通りのことだから気にしなくて良いぞ」

「なんだ、ただの言い訳か。そんな回りくどいことをする必要があるのか?」

「あるんだよ、世の中にゃはっきりとした体裁を保っていることを説明しなきゃ付け込んでくる連中がいるからな」

「とりあえずターイズからはラッツェル卿、後はミクスを派遣する形だね。書類等の準備は後日整えておくよ」

「おう、こっちはこの後エウパロ法王と話を付けてくるつもりだ」

「俺が付いていなくて大丈夫かい?」

「問題ないさ。こう言った交渉の場なら得意分野だ」

その後マリトの元を離れ、エクドイクと合流。

イリアスにはラグドー隊での報告処理を済ませて貰い別れる。

そして向かった先は『犬の骨』である。

そこでエウパロ法王、ウッカ大司教を交えた会食の場を設けさせてもらった。

本来なら活気あふれる酒場兼食堂はあまりお勧めできないのだが仕入れた情報によるとエウパロ法王はここの食事を大層気に入ったとのこと。

塩という嗜好品を使ってこそいるが素材は質素であり、味もとても良いのが気に入ったらしい。

ターイズ滞在中、隙あらばこの店を訪れていたとゴッズやサイラから聞かされていた。

「なるほど、この店の料理は一味違うと思っていたが君が関与していたか。ユグラの星の食生活はなかなか興味深いものがあるな」

「法王様は質素を好むそうで、この世界では塩は嗜好品なので少し気にはなっておりましたが」

「確かにその点は多少なりとも気がかりではあるが、味としては質素でありながらしっかりと素材の良さを出してくれておるからな。美味いことに罪はないとも」

「確かに、ならアレも良いかも知れませんね。少々お待ちを」

そういってゴッズの所に行き、こっそり作っていた試作品を皿によそってもらう。

そしてそれをエウパロ法王のいるテーブルに出してみる。

「これは……野菜だな?」

「ええ、地元の国では定番の料理です」

「ただの輪切りにされた野菜にしか見えん……それも少し萎びた」

「まあまあ、ウッカ大司教も騙されたと思って一口どうぞ」

興味ありそうに口に運ぶエウパロ法王、そして怪訝そうな顔で口に運ぶウッカ大司教。

しかしそれを口に含み、ポリポリとした触感と共に広がる程よい塩味と野菜の旨味にほうと頷く。

「これは野菜を塩に漬けた物か、それだけではないな」

「酢が少々入ってますね」

そう、漬物である。

できれば日本で普及している酢が欲しい所ではあるのだが残念ながらないものはないのでワイン製造と同じ工程で作られる酢、バルサミコ酢を使用している。

昆布があれば浅漬けやぬか漬けも提供できるんだけどなぁ。

「まるで飾らない料理……されどその味は奥深い、なるほど……」

「家庭によって色々味が変化するのも魅力的ですね。レシピを渡しますのでよろしければ自分で漬けてみてはいかがです?」

「ほほう、手軽に作れるのか……自らの手で熟成させた野菜をひっそりと食べる……うむ、味がある」

やはり質素と言えば漬物だよねってことで受けは良いようだ。

味噌とか作れたらきっとドハマりするんだろうなぁ。

外交対策に研究するのも悪くないのかもしれない。

食事を楽しんだ後にターイズから監査役を受け入れることにした旨を話す。

「ふむ、ならばメジス側からも人材を送れると言うことだな。ラクラは引き続きよろしく頼むとして、他の人材を送り込めると言うのは他の者達の説得には効果的だ」

「できれば穏やかな方が好ましいですけどね」

「セラエス大司教は苦手なようだったな。終始目を逸らしておったのは見えていたぞ?」

「あそこまで睨まれ続けるとどうも……」

「第三陣営を名乗る者が怯えてどうする。その上にいるわしとは平然と話すくせに」

「怯えているわけじゃないです。ああ敵意を向けられると……こちらも反応してしまいまして」

「――なるほど、君は鏡のような人物であったな」

セラエス大司教の敵意を受け続けると本能的に敵意を向け返すのは自分の在り方の癖なのだが、ああいった場で敵対心を見せつけるわけにもいかない。

視線を逸らす以外に取るべき対策も無かったのである。

「ユグラ教も当面は揺れる。わしの意志としては穏便に事を進めたいとは思っておるがな。身内のこととは言え、油断せぬことだ」

「人数の規模も違いますからね」

セラエス大司教は現状人間サイドで最も警戒すべき人物だろう。

上にはエウパロ法王が控えているにせよ、彼個人の権力の広さも絶大だ。

今後揺れるユグラ教の中に新たな派閥を作り暗躍してくる可能性も十分にある。

「表立って君に害を成すような真似はわしがさせん。不用意な争いを生み出すのは世の為にならんからな。無論君個人の心配もあるにはある」

「心強い限りですよ」

金や紫は仲間になってくれているがその手綱を完全に握っているわけではない。

特に紫は『俺』がいなくなれば再び人間に敵対する魔王になる可能性が高い。

うっかり死ぬこともできないわけである。そもそもうっかりで死にたくはないけども。

「それで、君は魔王側の動きを何か掴んでいるのかね?」

「ええ、無色の魔王がユグラの不在やらを他の魔王に伝えたようです。恐らくは緋の魔王辺りを焚きつけたのだと思います。そう遠くないうちに動きはあるかと」

「ふむ……ああも容易く情報を吐くのであれば魔王達にも同様の情報が渡っていても不思議ではないと踏んでいたが、直接伝えに来たか。それで君の見解はどうかね?」

「緋の魔王が動く際に他の魔王も動くでしょう、恐らくはクアマにいる蒼の魔王が」

「クアマか……使者は既に送ったのだが、返答は保留のままで反応がない。クアマ支部はセラエス大司教の管轄、信憑性に関しては彼が保証できる筈なのだが」

クアマには一度足を運びたいと思っているのだが、そういう話を聞くとちょっと悩ましくなってくる。

行くにしても日帰りプランだろうか、エクドイクタクシーあるし。

「緋の魔王にはこちらの勢力に金の魔王、紫の魔王が加わったことは知れ渡ってしまったのであまり情報らしい情報は今後落ちてこないと思います」

「その辺はさほど期待しておらんよ。魔王もそれぞれが一己の王、抱えているものを全てひけらかすわけでもあるまいしな。ところで話は変わるのだが、エクドイク。君はラクラの兄だと言うではないか」

「それがどうかしたか」

この会食で初めて口を開くエクドイク、黙々と食事を取っていたがラクラの話題の際には少しだけ反応を見せていた。

この情報は恐らくマーヤさん経由だろうか。

「いやなに、奇妙な運命もあったものだと思ってな。あのラクラが功績らしい功績を上げた際に倒していたのが大悪魔、それも実の兄を攫い悪魔の技を教えていた相手だったとはな」

「稀有と言えば稀有だがな。勇者と同じ異世界の住人が数百年ぶりに現れたことと比べれば些細な事だ」

そりゃそうでしょうけど、起きた事例で言えばエクドイクの方が希少な気もしないでもない。

「ウッカ、ラクラの師としてお前の見立てはどうだ?」

「技を教えたのは事実ですがな、アレは天才でしたから。私が教えられることなど微々でしたよ」

「ユグラ教においてラクラの評価は低かった、ウッカ大司教はそれでもラクラを評価していたのか?」

「無論だとも、司祭としての業務は軒並み残念な結果だとしても戦う術を教えた身としてはアレの才能に気づかぬ筈もない。私がもう少しラクラを立てていれば君が味わったであろう苦痛も和らげたかもしれないと思えば申し訳ないばかりだ」

ラクラに倒された大悪魔ベグラギュド、その存在は人間達に認知されていたが倒された事実が発覚したのは最近のことである。

倒した当人が大悪魔であると気づけなかったのだ。

そのベグラギュドに育てられたエクドイクはラクラの評価の低さにショックを受けた。

偉大だと思っていた父を倒した相手が残念な奴だと知れば気持ちも分からないでもない。

「気にするな。ラクラが評価されていなかったからこそ俺が奮起できたと思えば悪い事だけではない」

「君の実力も良く聞いている。魔力の操作に関しては兄妹だけあって互いに言うことなしに素晴らしい才能を持っているようだな」

「素質の有無に関しては生まれ持ったもの、そこをとやかく言うつもりはないが俺は努力を重ねてきた。才能で片付けて欲しくはないがな」

「気に障ったのならば謝ろう。だが戦闘技術においてはラクラも尋常ではない努力を行っていた。いや、それ以外にできることを私が見いだせなかったのだ」

ラクラは複数の行動処理が致命的に苦手だ。

それ故に複数の工程が含まれる日常の労働では上手く作業ができずに大事な仕事を任されることが無かった。

だからこそ一人で黙々と打ち込める戦闘訓練に没頭していた。

才能ある者が一つのことに集中すれば伸びるのは言うまでもない。

戦闘センスに絞ればイリアスですらラクラには及ばないとも溢していた。

もっとも肉体鍛錬は嫌いだったからと身体スペックはイリアスとは雲泥の差なのだが。

「そうだな。ラクラの魔法の構築速度は怖気が走るほどに速い。あれは一つの境地と言っても良い」

「それが理解できるなら君の実力も十二分にあるだろう」

「具体的にラクラに教えた訓練とはどう言ったものだ?」

「おお、興味あるかね? 良いとも、酒の肴には少々堅苦しいが時には乾物も味があると言うものだ」

エクドイクとウッカ大司教はこちらそっちのけでラクラの修行の話で盛り上がり始めた。

少し寂しい気もしたがエウパロ法王はエウパロ法王で漬物について色々尋ねてきたので暇になることは無かった。

当のラクラは今頃何をしているのだろうか、家にある酒でも飲んでグダグダしているのだろうか。

それとも……どうだろうな、うん。

クアマとクアマ魔界を隔てる境界線、そこには人間達が長きに渡って作り上げた防壁が存在している。

クアマ魔界に出現する魔物には自我らしい自我はない。

知恵も無く、生者の方向へと静かに侵攻するのだ。

それ故に作られたこの防壁の効果は大きい。

防壁の上からの弓の射撃、投石、魔法による攻撃、その全てが一方的に行える。

魔物達は防壁をよじ登ろうとするが常駐しているクアマ軍によりその都度安全に処理されている。

兵士達も生まれた時から繰り返されているこの単純作業に大した脅威を抱くことも無く、仲間と談話しながら魔物の処理を行っている。

「よしこっち方面はあらかた片付いたな」

「北の連中はもうとっくに酒盛りを始めてるらしいぜ?」

「最近魔物の数がさらに減ったからな、あいつら子供生めねぇからそろそろ頭打ちなんじゃねぇのか?」

「なんだよ、魔物は勝手に生まれるって話知らねぇのかよ」

「知ってるけどよ、こう減っていると何か原因があるんじゃねーのかって思うわけよ」

十数年前から防壁に流れてくる魔物の数が減り始めている、このことはクアマ軍に所属する兵士達ならば周知の事実だ。

この数年はさらに減っている、頻繁に悪魔退治を行っているメジスと比べ楽な仕事だと多くのクアマ兵は思っていることだろう。

兵士の一人が片付けを始めながらふと視界をクアマ魔界に向ける。

すぐ背後のクアマの大地には草木が見えると言うのに、防壁の先に見えるクアマ魔界には草木は一本も見えない。

ひたすらに枯れ果てた大地、アンデッドが蔓延るに相応しい世界だ。

「クアマも魔界の浄化作業をもうちょっとやれば土地も余ってんだがな」

「この防壁は動かせねぇからな。これ以上の安全を確保できなきゃ畑仕事する連中も嫌がるだろうよ」

クアマの防壁は長年魔界からの魔物達を退けてきた。

それ故に誰もがこの防壁への信頼が揺らがない。

この先に向かうのは魔物から得られる希少な素材を求めて狩りを行う冒険者達くらいだろう。

物好きな連中もいるもんだと思いつつ視界の先に違和感を覚えた。

「うん……なんだありゃ」

見慣れたはずのクアマ魔界、だが奇妙な太い線が地平線を塗りつぶしている。

多少なりとも魔法の知識があった兵士は望遠の魔法を使用する。

近距離が全くと言っていい程に見えなくなるが遠くの物を見るにはもってこいの魔法、なお覗きに使った場合には割とキツメの罰則がある。

遠方まで見えるようになり、発見した奇妙な線を凝視する。

「……冗談だろ?」

「なんだ、どうした?」

「あれ……クアマ魔界の地平線の先に線が見えるだろう?」

「んん? ……あーそういえば見えるな」

「望遠の魔法で見てみろ」

「なんだよ一体……な、なんだありゃ!?」

二人の兵士は目撃した。

地平線を塗りつぶす線の正体、それは地平線を埋め尽くし防壁へと進む無数のアンデッドであった。