軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次に何を覚えよう。

朝を告げる小鳥達の囀りが耳に響く。

意識を覚醒させる為に目を開き、体をゆっくりと起こす。

体を伸ばしベッドから降りる。

窓を開き、本日の天気を確認。

文句のない晴れの日だ、今日も一日良い日になるだろう。

階段を降り、顔を洗う。

冷たい水が眠気と体をしっかりと切り離してくれる。

本日の私は休日だ。

そういう日の朝食当番はなし、各々が自由に食べる日だ。

それもあってか現在一階には誰もいない、彼もまだ寝ているのだろうか。

ラクラやウルフェは間違いなくまだ寝ているだろう。

「せっかくだし皆の朝食でも作るか……ふむ」

一人で作っても良いのだがそれも少々寂しい。

せっかくならば皆が満足のいく食事を作りたいし、彼を起こして一緒に作るとしよう。

彼の部屋の前に向かい、扉をノックするも反応はない。

昨日の彼はそこまで遅く寝たわけでもない、寝つきが良いだけだろうか。

そういえば彼を起こすのは久々、一緒に料理を作ることもだ。

内心少し浮かれている気もするが……こういうのもたまには悪くないだろう。

「入るぞ、起きているか?」

扉を開け、部屋に入る……いない。

部屋の様子を観察するに朝陽が昇る前に出かけたようだ。

ご丁寧に護衛にエクドイクを連れて行ったことを示すサインとしてベッドの上にポンと鎖が置かれている。

「この展開も懐かしいな……はぁ」

朝食は……何というか、やる気が削がれた。

ラクラ達が起きたら一緒に何か食べるとしよう。

せっかくの休日、寝なおすことにした。

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「ふあぁ……流石に眠いな」

朝日の昇ったばかりの街の中をエクドイクタクシーで移動する。

早朝だからこそ空を鎖の翼で飛ぶ鳥人間は目立たない。

それでもそのうち目撃証言くらいは出てくるだろうがこれ以上の早起きは辛いので許して欲しい。

「同胞の体力を考えれば睡眠時間が短い上にこの早朝だ、無理もない」

「今日のスケジュールは割とギッシリでな。早く終わらせられる箇所はささっと済ませたい」

最初に向かったのは『犬の骨』、ゴッズの店である。

到着したタイミングで丁度ゴッズが店から出て来た。

「お、兄ちゃんじゃねぇか。来る前に外を掃いちまおうと思ったんだが、随分と早起きじゃねぇか」

「ゴッズも大概早起きだろう」

「ドミトルコフコン夫人に叩き起こされるのと自分で起きるのとじゃ一日の心の安寧が違うんでな」

すっかりと鍛え抜かれておられますね。

顔つきも最初のころに比べると騎士に負けない凛々しさを感じている。

騎士団でもトップクラスの実力派であるラグドー隊の奥さん方に精神的に鍛え抜かれたならこうなってもおかしくないよな。

「そっちの鎖の兄ちゃんは店でたまに見るが……」

「お、そういえば紹介してなかったな。護衛のエクドイクだ」

「エクドイクだ、お前の食事には世話になっている」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。見た感じ冒険者といった風貌だな、兄ちゃんも顔が広いもんだ」

「それを言うならお前もそうだろう」

「違わねぇ、まあよろしくな」

早速店内に入り、ゴッズに持ってきた食材を渡す。

魔法研究の一環で作った装置から作り出したバター、バンさんから仕入れたクアマやメジスといった遠方の香辛料だ。

「ふむふむ、こいつがそうか。少し味見をさせてくれ……なるほどこれはこんな味で……こりゃ凄いな」

「香辛料に関して気に入った品種があればそれを多めに仕入れて貰えるようにバンさんに伝えておく。バターの方はウケが良いならもう少し大きめの装置を作ってちょっとした産業にでもできればなと思っている」

「これを使って肉とか焼きゃ野郎共が喜びそうだな。賄いついでに何か作ってみるか」

そういってゴッズは持ち込んだ材料を使って手際よく料理を作っていく。

水を求めたくなった時の面影など微塵もなく、完全に職人の手つきとなっている。

間もなくして朝食にしては少々重い感じの食事がごとりとテーブルに並べられる。

「うっし、食ってみるか……やっぱ美味いな!」

こちらも自炊する手前料理に多少の心得があるにせよ、料理人が作った飯ともなればその比ではない。

こういった人を幸せにできる料理はしっかりと広めるべきですよ、本当。

「なんだエクドイク、兄ちゃんと違って全然肉に手を出していねぇが苦手なのか?」

「ああ、作って貰って悪いが肉は少しな……」

「好き嫌いがあるのは人それぞれだからな、しゃーねーよ」

「こちらのスープはとても美味い。お代わりがあれば貰いたい」

「おう、構わないぜ」

ゴッズがお代わりのスープにサラダを付けて持ってくる。

「む、気を使わせてしまったか」

「こっちは料理人だ、相手の食いたい物に関しちゃ気を利かせるのが仕事だ」

「――なるほど、参考になる」

「おう? まあ良いや。だが肉が苦手なんて男にしちゃ珍しいな」

「過去に少し肉を食って嫌な思いをしてな。それ以来苦手だ」

エクドイクが過去話をするのも珍しい。

ゴッズにもある程度気を許しているということなのだろうか。

「ははぁ、腐った肉でも食って死に掛けたか? アレを体験しちゃあ当面肉は食いたくなくなっちまうからなぁ」

「いや、鮮度は良かった。ただちょっとな……」

「何だ歯切れの悪い、別に遠慮する必要なんてないぜ?」

「食べさせられたのが人肉でな、ついでに加工前と後も見せられた」

突然の爆弾発言で空気が凍る。

口に運んでいた肉の味がガクっと落ちた気がする、自分の想像力を恨みたくなった。

忘れがちでいたけど、こいつ人間を凌辱していた大悪魔に育てられていたんだったな。

そりゃあ色々あったのも頷ける。

「やはり食事時に話す内容ではなかったな」

「あ、ああ。こっちも悪かった。残った肉は……俺が何とか食うわ」

「ゴッズ、こっちにも寄越せ。手伝う」

だらだら喋りながら飯を食べていたせいで間もなくカラ爺の奥さん達がやってくる時間になっていた。

そんなわけで食事を済ませ三人仲良く食器を洗う。

「後はドミトルコフコン夫人達にも相談してみる。いつも悪いな」

「美味い飯を食うためなら安い労力さ」

「確かにここの飯は美味い。この国だけにしかないのが勿体無い程だな」

「ははっ、俺でもそう思うぜ。兄ちゃんのおかげでこの店はガラっと変わっちまったからな」

『犬の骨』、元々はゴッズとサイラの二人だけで切り盛りしていた酒場だ。

料理は不味く、酒だけが美味い。

それが今や騎士団の奥さん達が大量に給仕をこなし、朝昼晩に美味い飯と酒を提供できるターイズでもトップクラスの料理屋となった。

こちらが提供した知恵などは切っ掛けに過ぎない。

ここまで成長できたのは腕のいい料理人であるマーヤさんやカラ爺の奥さん達、そして彼女達がしっかりと鍛えてやろうと思えたゴッズの人徳と努力の功績だ。

「だがサイラとの時間が減ったのは正直辛いんじゃないのか?」

「ぐっほっ!? な、何を言い出しやがる!?」

「いや、お前等が付き合っているのは知ってるぞ」

「サイラの奴……」

サイラは割とお喋りなのである、誘導尋問なんて余裕余裕。

いやまあ、言われなくても薄々気づいていましたけどね?

ゴッズの服、明らかにオーダーメイドなんだよな。

しかもすっごい丁寧に作られていて作った人の気持ちが滲み出る程度には良い品です。

「弄られるのが嫌だってんなら無理に弄らないさ。ただでさえカラ爺の奥さん達からメンタル鍛えられてんだしな」

「そうしてくれ……。だが二人の時間が減ったことに関しちゃ悪いなんて思ってねぇよ。アイツは自分の夢を追えるようになったんだ。だらだらと給仕だけを続けて若さと才能を無駄にさせるよりかはずっとマシだ。それに俺の稼ぎも増えたからな、アイツがここを辞めて服屋をこしらえる段階になったらたっぷり退職金をくれてやれるぜ」

「そうなると平均年齢が格段に上がるんだよな、この店」

「若い子も雇わなきゃならねぇんだけどな……アイツ結構焼きもち焼きなんだよなぁ……」

いっそデュヴレオリでも働かせるのはどうだろうか……流石にないか。

そっかーサイラに嫉妬されるかー……これ惚気話か。

まあ良いや、踏み込んだのはこっちだし、少しは惚気られるとしよう。

その後『犬の骨』を後にしてバンさんの商館へと向かう。

受付に挨拶をしていつもの客室へ案内される。

「朝からすみませんねバンさん」

「いえいえ、贔屓してもらっているのですから当然ですとも。お茶を用意させますのでエクドイク様もお掛けになってください」

「いや、俺は護衛――」

「常に気を張り巡らせるのも護衛の務めですが、余裕を見せるのも護衛の貫禄を示すには重要なことですぞ?」

「む……一理あるな」

そしてキザな雰囲気を醸し出しつつお茶を貰うエクドイク。

バンさんもエクドイクの性格を良く把握しているようだ。

今まで裏で色々と交渉させていただけあってか、この両者の関係はしっかりと構築されている。

エクドイクの活躍によりターイズには新たな資源が増加した。

山塩、鉱石もそうだが山の深い場所では宝石の原石まで見つかっている。

エクドイクにはその場所までの道の開拓、削岩による拠点の作成等色々やって貰っていた。

「こちらがエクドイク様への報酬です。明細も用意しておりますが確認されますか?」

「いらん。冒険者としておおよその相場は知っている。これが十分な報酬だと理解している。無駄な手間だ」

「商人としては信用が第一ですから、こういったひと手間は必要なのですよ」

「そんな手間を惜しまないといけない職業をよく続けていられるな」

「慣れると楽しいものですよ。このまま持っていかれますか?」

「いや、一部だけ貰う。残りは預かっていてくれ」

「承知いたしました」

バンさんは金貸しの副業も行っている。

無論闇金のような物騒な話ではなく、きちんとした相手にのみ貸している銀行のようなものだ。

金を預けていれば銀行の利子のように多少のオマケも付くし、何よりバンさんの商館での買い物の際に発生する手数料が無しになるのだ。

物を売り買いする以外にも儲ける方法を見つけたりと商人は多彩である。

その後はこちらの商談も何点か進め、円満にまとまったところで商館を後にする。

露店で適当に昼食を買い、徒歩で移動する。

既に街並みには人が増えてきたのでエクドイクタクシーは自重しなければならなくなった。

エクドイクがその気になれば姿を隠すこともできるのだが、熟練の騎士や聖職者の中には感知できる者もいるので不要な警戒心を与えたくないのだ。

「そういえばグラドナを見なかったな」

「奴なら適当に酒場を練り歩いているからな。今頃適当な路地裏で寝ているころだろう」

「酒だけなら『犬の骨』でも十分だろうに」

「曰く『美味い酒ばっかり飲んでちゃ人間ダメにならぁ、微妙な酒を美味く飲めてこその酒飲みなんだぜぃ』だと」

『拳聖』の肩書よりもプロの酔っ払いだよな、あの人。

そのうち用事ができるし、見つけられたら声を掛けるとしよう。

次に向かったのはターイズ城にある騎士団の兵舎だ。

ただしラグドー隊ではなくレアノー隊のだ。

レアノー隊の騎士に軽く挨拶をしてレアノー卿のいる部屋まで通して貰った。

「おお、君か。良く来てくれた……そちらの男は確か――」

「エクドイクだ、同胞の護衛を行っている」

「ああ、話は既に伝わっている。ターイズで暴れてくれたことに関しては色々と文句も言いたいが、さほど被害も出ていない上に陛下から恩赦を頂いた相手に噛みつくほど私も暇ではない」

「そうか、その節は迷惑を掛けた。これからはこの男の為に身を捧げていくつもりだ」

うーん、地味にエクドイクの信頼が重い。

だがその言葉にレアノー卿は口元を緩め頷く。

「うむ、犯罪者あがりにしては良い心掛けだ。騎士であれ冒険者であれ、貫く信念の固さは男の価値を示す上で明確な指標となるからな。――それで君は何用で来たのかね? 昼食の誘いにしては少々遅いようだが」

「できれば誘いたかったのですが商人の方との商談が長引きましてね。それは今度ということで。今回は以前の件でのお礼を言いに」

レアノー卿は紫の魔王とのひと悶着があった際に表立って活躍したターイズの騎士団長だ。

聖騎士団達と揉めた際にも無理に干渉せずにこちらの自由にさせてくれた。

おかげで話をスムーズに進めることができた。

それら諸々を含めた謝礼といったところだ。

イリアスとレアノー卿との確執は多少なりとも緩和しているがレアノー隊の騎士達を含めるとまだイリアスには抵抗感が残るだろう。

そういったわけでエクドイクが護衛のうちにやって来たのだ。

「貴族のような立ち振る舞いだな。殊勝な事ではあるがな」

「あの場で聖騎士団だけでなくターイズの騎士団にも囲まれていたら大変でしたからね」

「君のことは陛下から凡その事情は聞かされていたからな。勇者ユグラと同じ星に生まれた異なる世界の旅人、知れば知るほど最初の時に登用できなかったのが悔やまれる。もっとも私が登用したところで結局は今の状態になっただろうがな」

「それでも寛容な振舞いがありがたかったのは事実ですから」

「私はユグラ教の信徒ではあるが熱心ではない。真に心を捧げるのは陛下とこの国の未来だからな。その陛下が認める者を頭ごなしに否定する気はない。とは言え魔王を仲間につけたと聞いた時には流石に絶句したのだがな」

「その顔は是非見たかったですね」

「言ってくれる。……勇者ユグラとは違った形で魔王という脅威を排除する君の行動は後に評価されるのか、大罪として語り継がれるのか今は判断がつかん。だが私は良き結果を導き出してくれるだろうと期待しているよ」

「ありがとうございます。ああ、これお土産なので後でお茶菓子にでもしてください」

「賄賂にしては些細過ぎるな。置忘れならば傷まぬ内にこちらで処理しておこう」

そこかしこに微妙な皮肉を入れてくれる人だ、イリアスからすればその皮肉がざっくざくとメンタルに刺さったりで容赦なく感じられるのだろうが慣れれば面白い人ではある。

「そこの、エクドイクだったか。君の実力も聞かされている。暇があればうちの隊の訓練に付き合いに顔を出してくれたまえ」

「……ああ、鍛錬相手にはいつも困っているからな。利用させてもらおう」

こうしてレアノー隊の隊舎を後にし、時間を確認する。

良し、順当なペースだな。

次の予定まで少し余裕もあるし休憩しよう。

「次はマリトとエウパロ法王に会って『無色の魔王』との相談だが、ちょっと休んでいくか」

「ああ。それにしてもあちらこちらと飛び回って大忙しだな」

「エクドイクの採掘作業に比べりゃ楽なもんだ」

「肉体的疲労で語るならそうだろう。だが常に人との接触だ、精神的疲労は同胞の方が多い筈だ」

「そうでもないさ、皆良くしてくれているからな」

「それは少し違うな。同胞が良くしてもらえるように立ちまわっているのだろう? 朝に出会ったゴッズ、バン、そして先ほどのレアノー卿。誰もが異なる性格、職種、立場の人間だ。それに同じように気に入られるというのは明らかに自然に作られる展開ではない」

「そりゃ人間皆一緒だったらつまらないからな。でもそんなに難しいことじゃないんだエクドイク」

「俺には難しい技に見えるのだがな。決まった型があるわけではない、寸分違わぬ精度等生み出せぬ。霧の中を歩くようなものだ」

エクドイクの様子が少々変だったがどうやらこちらのことを詳しく知ろうと分析をしていたようだ。

これはエクドイクにとっては良い傾向だ、少しばかり助言を入れるとしよう。

「人と仲良くなる簡単な方法は相手の良い所を理解してやることだ。自分の長所を認めてくれる相手ってのは心を許しやすくなるからな」

「それが簡単にできないことだと言っているのだがな」

「簡単にできなくて良いんだよ、難しくてもできれば結果は同じだ」

「……確かにそうだな」

今の表情には多少の含みを感じた。

恐らくはラクラと自身との比較をしてしまったのだろう。

だが納得がいったのならば深く掘り下げるまでもない。

「今日会った3人はエクドイクにとってもとっつきやすい人達だ、暇な時に話し相手になってみると良い。きっと今お前が持っていない技術が身につくぞ?」

「そうか……同胞が言うのならば愚直に信じてみるとしよう」

「おう、駄目だったら恨んでくれりゃ良い。そんときゃしっかり詫びるからな」

エクドイクは人生の大半を人間と過ごしてこなかった。

その過去を詳しく聞けばウルフェと同等な程に悲惨なものなのかもしれない。

だが、だからこそエクドイクは変われる、成長できる。

今は妹であるラクラへの劣等感を拭えていないだろうが、それを払拭できたのならばきっと凄い奴になるな。

「さて、そろそろ行くか。エウパロ法王はちょっと苦手なんだけどな」

「安心しろ同胞、俺は人間の大半が苦手だ。それに比べれば楽だろう?」

「なるほど、そりゃ自信を持たなきゃな」