軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とりあえず決着。

「おいおい、マジかよ」

ドコラは現れた騎士達を前に、驚きの表情を見せたがすぐに笑みに変わる。

「嬢ちゃん、あんたがこの隊の隊長か」

「そうだ」

「ここを見つけた奴は今来ているのか?」

「……私が見つけた」

「嘘を言うなよ騎士様よ! 目を見りゃ分かる。お前はクソ真面目な騎士だ。そんな奴が仲間の騎士が襲撃している最中、逃げられることを前提で逃走経路に先回りなんざできるか? できねぇよなぁ!」

「……」

「わかっちまうんだよ。ここを探り当てた奴はお前のような誇りに生きている奴じゃねぇ。俺達のような生き方を知っている奴だ」

うーん、あのドコラという男……頭の回転が速いというより嗅覚が優れているのか。

経験則で培った感覚を妄信していると見るべきか。

「なあ、そいつと話をさせてくれよ。そうすりゃ真っ当に相手してやるからさ、なぁ? 隠れているんだろう?」

ドコラは周囲を見渡している。

――ここは出るしかないか。

イリアスさんは絶対に前に出るなと念を押していたが、ここで周囲に意識を向けられるのは避けたい。

「カラ爺さん、後は頼みます」

「おう、気をつけるんじゃぞ」

立ち上がり、草むらを掻き分け広場に姿を現す。

何か物申したそうなイリアスさんを制す。

「逃げずに戦ってくれるんだ、話に付き合うくらいは構わない。何かあれば護ってくれるだろう?」

「あ、ああ……」

「それに、必要なことだ」

最後の言葉はドコラに聞こえないよう小さく囁く。

そしてそのままイリアスさんの真横に陣取り、ドコラと向き合う。

ドコラにとってこの会話は時間稼ぎなどではない。自分の好奇心を満足させる為の行為だ。

それはこちらにとっても必要な事。とはいえ取り繕う相手でもない。

こちらも自由に応対させてもらうとしようじゃないか。

「ほぉ、お前がそうなのか? 見たとこ戦えるタイプって感じじゃねぇな」

「そうだな。この中の誰よりも弱い自信はある」

「良いね、その開き直り。だがお前が本当にそうなのか、いくつか質問させてもらおうか」

「構わない」

「ギドウの一味の拠点をどうやって見つけた?」

「山で遭難していたら偶然洞窟を見かけた。それだけだ」

「――マジかよ。即行否定した案だったのかよ。まあ奇跡や偶然は一個くらいあるもんだ」

偶然のでき事も考えの片隅に出る程度には思慮深いわけか。驚きは見せるが感情への揺らぎはない。

ドコラは自分の手法を信じているが、完璧ではないことを理解している。

それ故に次の手、その次の手を用意している。

用意周到な人間。ならば今の状況にも対策や用意がある可能性は高い。

「次の質問だ、どうやって情報を吐かせた」

「死後も恐れる理由から、死霊術が関与していると判断した」

「その辺は良い。騎士達にゃ縁が遠くても、聖職者ならピンと来る奴もいるだろうからな。だが聞いているのはどうやって奴らに情報を吐かせたかだ」

「死霊術士が死ぬまでの間処刑日を延長させた、先着三名でな」

「――なるほどな、生者にも使えると言うべきだったか?」

「実践できるならな、虚言はいずれ綻びが出るぞ」

「……最後の質問だ、何を以って俺を追い詰めた」

「理解」

ドコラはしばし沈黙する。

そして愉快そうに口を歪めた。

「分かった。お前で間違いねぇな。最初は疑ったが、今の眼をみて確信できた」

「それは良かった」

「何者だお前、そっちについて良い奴じゃねぇだろ?」

「失礼だな、善良な一般人だ」

「善良な一般人が俺みたいな奴を理解してんじゃねぇよ。

つかお前みたいなのが一般人てどんな魔境だ。悪人は何やらかしてんだ」

そう言われると返答に困る。

悪人なんてピンきりだ。歴史に名を残す暴君もいれば、一人の心にだけ傷を残すような奴だっている。

耳に聞いただけの存在もいれば、実際にこの目で見て、関わった者さえも。

長々と話をするつもりは無いが、それを上手く伝えるにはどうしたものか……。

「なんでもやっている、なんでもな」

「へぇ、そうかい。黒い髪、黒い瞳……俺が知ってる部族の地域ってわけじゃねぇな……いや、待てよ」

ドコラは何かを思い出したかのようにこちらを指差す。

「お前、チキュウの人間か」

「っ!?」

こいつ、知っているのか。

この言葉は予想外だ。

山賊の首領が地球の世界の事を知っているとは……。

しかしこうなるとイリアスさんに任せて殺されると困るよな、困るよね?

いや、ひょっとしてドコラも地球人なのか?

「その様子じゃ当たりの様だな。いやぁーまさか本当にいるとは、それも会えるとなぁ」

「こちらは質問に答えた、ならこちらも聞こう。何故地球を知っているんだ」

「そりゃあ俺の立場で知らねぇわけがねぇ、俺の人生を狂わしてくれた死霊術、そしてこの世界に最悪の歴史を生み出した蘇生魔法。禁忌を生み出す原因を持ち込んだ異世界の事をなぁ!」

どうやらドコラ地球人説は無さそうだ。

イリアスさんに視線を移す。驚きの様子から彼女も知らない事実だったようだ。

それにしても地球人が蘇生魔法を作った。そんな事がありうるのか?

確かに世界の歴史の中には、錬金術師や魔女と言ったファンタジー世界の基盤を作ったとされる逸話は存在している。

ならばそういった者達が過去にこの世界に来て、禁忌と呼ばれるほどの魔法を生み出した可能性は否定できない。

しかし現代では魔法なんて想像の世界でしか存在し得ない幻想だ。

にわかには信じがたいが、ドコラの様子から嘘には見えない。

そもそも嘘を吐く必要も無い場なのだ。

「他に知っている事はないのか?」

「なんだ、お前さんも口封じをしたいのか? あの時のようによ!」

「知りたいだけだ」

「そうかい、だが残念だったな。俺が知ったのは深淵の入り口に過ぎねぇ。死霊術もそのおまけみてぇなもんさ」

「……」

「どうしても知りてぇってんなら手前で調べるんだな。取っ掛かりとしちゃ十分だろ?」

そう言ってドコラは腰につけていたナイフを抜く。

「俺としちゃ良いモンを見させてもらった。商売としちゃあがったりだが、色々溜飲が下がったぜ。ありがとうな」

戦闘態勢に入ったドコラを警戒してイリアスさんがこちらの前に出る。

お話はこの辺で終了か。正直な感想もう少しばかり会話を続けたかったが仕方ない。

こちらの目的も果たした。後は彼女達を信じるだけだ。

「さー、お前ら! 相手は俺達よりちーっと多い! ついでにさっき来た騎士共よりだいぶ強ぇ! だからちーっとばかり気張れよ。腑抜けた奴はアンデッドにしてやるからよ!」

『うおぅっ!!』

以前の山賊達と違い、士気が高く騎士達への恐怖心もない。

包囲網を抜けたのは逃げられるから、今立ち向かおうとしているのは戦うしかないからだ。

顔を見れば分かる。死霊術に怯えていた山賊達とは違い、こいつらはドコラに純粋に信頼を寄せている。

今の生き方を満喫している。

悪党だが、少し羨ましいとも思った。

先に出会うのがイリアスさんで無く、ドコラだったら……いや、そういうifの想像は今すべきではない。

この乱戦、自分の身を守ることに専念しなければならない。

「イリアスさん、どこにいれば良い?」

「その場から動くな、必ず私達が君を護る」

「わかった」

できることなんて無かった。言われたのは信じろとだけ。

なかなかに難しいことを言ってくれる。

今山賊達の殺気はこちらにも向けられている。

自分を容易く殺せる相手が、今襲い掛からんとしている。

その恐怖は熊やスライムにも負けない。

いや、同じ人間だからこそ感じる恐怖もある。

震える顎を押さえるために左腕の袖を噛む。

冷静さも失い始めているせいで、その力は必要以上に強い。

だが腕への痛みが心の平静を、辛うじて保たせてくれる。

「じゃあ、いくぜ!」

ドコラがナイフをこちらに向けて投擲する。

それをイリアスさんが叩き落す。

地面に刺さるナイフが二本、二本!?

投げたのは一本――隠しナイフだ。

大き目のナイフの陰に小さいナイフを混ぜての投擲、そんなそぶりは微塵も感じなかった。

それを当然の如く両方叩き落すイリアスさん、頼もしい。

ナイフの投擲と共に山賊達が散り、周囲で乱戦が始まった。

素人目でもラグドー隊の騎士達の方が格上だと思えるのは以前と変わらない。

だが圧倒的に違うのは山賊達の動きだ。

不用意に攻めて、返しの一撃で倒されるような真似はしない。

互いに牽制を繰り広げ、不用意に攻めない。

ドコラも新たなナイフを取り出し、イリアスさんと打ち合う。

その動きは他の山賊を遥かに凌駕している。

下手をすればラグドー隊の騎士達にも後れを許さないほどだ。

自分の周囲に二人、騎士達が護りに入ってくれる。

この人員を攻めに使えればより確実に勝てるだろうが、隙を狙われれば即終了の場違いな一般人がいることが欠点だ。

足手まといであること実感しながら、感謝する。

「はっはぁーっ! 嬢ちゃん強ぇな。ガーネでもお前ほどの奴は然う然う見なかったぜ!」

ドコラは額に汗を浮かばせながら、イリアスさんの剣戟を捌いている。

まともに受けようものなら、ナイフを持った腕ごと吹き飛ばされるであろう剣圧を器用にいなす。

それも隻腕でありながら、そのプレッシャーは尋常ではないのだろう。

対するイリアスさんは汗一つ無い。楽しそうに戦う素振りも無い。

粛々と剣を振るい、追い詰めていく。

「腕は良いが口下手なのが残念だなぁ。もっと楽しもうぜ? 鍛錬に明け暮れた日々の鬱憤を晴らす、絶好の機会なんだぜ?」

「悪人を喜ばせる必要は無い。その気も無い!」

「かぁーっ! つまんねぇ女! そっちの男の方がよっぽど抱き甲斐があるぜ!」

別の意味でゾクりとすることを言うもんじゃない。

しかしその打ち合いも徐々に均衡が崩れていく。

「なるほど。その若さで、女でありながらこいつらの頭張ってるだけはあるな。いい加減腕が壊れちまいそうだ」

わざとらしく腕の疲労をアピールするドコラ。そしておもむろに持っていたナイフを投擲する。

イリアスさんは顔色一つ変えることなくそれを叩き落す。

「ま、俺の実力じゃここまで楽しめただけ十分だな。ぼちぼち奥の手使わせてもらおうか」

新たに取り出したナイフ。それは先ほどまで見たナイフと違い刀身まで禍々しい黒。

イリアスさんもそのナイフに何かを感じ取ったのか、改めて剣を握りなおす。

「んー、警戒心も一級品だな嬢ちゃん。だが安心しな、こいつはお前に使う物じゃねぇ」

そう言ってドコラは大きく振りかぶり、

「こーやって使うのさ!」

真上の方向へ、空高く投げた。

ナイフは目視できないほどの高さに到達し、破裂した。

黒い靄のようなものが凄まじい速度で広がり、降りてくる。

一瞬にして戦場が黒い靄に包まれた。

「結界を彼に!」

そう叫ぶと同時に、こちらの体が光の膜のような物に包まれる。

傍にいた騎士の一人がこちらに何らかの魔法を使用してくれたようだ。

周囲の視界が僅かに暗くなる。

視野を奪う為の物には見えない。結界を張らせたということは毒、いやもしかするとこれはあれか。

「おう、いい判断だ。魔力のねぇ奴にゃそれなりの害があるからな」

「死霊術か……!」

「ご明察、つっても死霊術を使ったわけじゃねぇ。死霊術で生み出した魔力をさっきのナイフに込めておいたもんだ。あほみたいな量をな。だからお前らが持ってる魔封石は意味ないぜ?」

魔封石を多用するだけあって、その特性を掻い潜りながらの魔法行使はお手の物ということらしい。

今死霊魔術をしようした理由はなんだ? ここにいる仲間の死体を再利用する為?

視線を周囲に向ける。

既に事切れている山賊もいるが動き出す気配はない。

同じことを他の騎士やイリアスさんも考えているのだろう。

乱戦の中でも死体への警戒を忘れない。

「ああ、こいつは逃走用に使ったアンデッドを増やす奴とは違う。本来の正しい死霊術の使い方だ。死者を使役する為のなぁ!」

周囲から叫び声が上がる。

山賊達のものでも、まして騎士達のものでもない。

ならば、それが意味するのは――。

「気をつけろ! 囲まれているぞ!」

周囲の地面から手が這い出す。

映画で見たワンシーンを思い出す。

墓場からゾンビが蘇る、あの定番の恐怖映像。

状況を理解したとき、二十の山賊を囲んでいた三十の騎士達は五十を超えるアンデッドに包囲されていた。

「こいつらは俺の魔力に応じて動き出す。ただ暴走してその辺を襲う雑魚じゃねぇ。俺の命令を忠実に守る駒だ」

アンデッド達は武器を携えている。

武装し指揮者に従うアンデッド。

そして森の奥からひときわ大きなアンデッドが飛び出した。

「――――――っ!」

巨大なアンデッドは咆哮する。その姿には見覚えがある。

先日倒した山賊の一味のボス、たしかギドウといったか。

以前装備していた石槌にも負けない大きさの大剣を携え、イリアスさんの方へ突撃を開始する。

「ああ、こいつは素材として優秀だったからなぁ。それにお前らに恨みもありそうだ」

豪腕から繰り出される大剣をイリアスさんは受ける。

防ぎきったようだがその剣圧はイリアスさんの体を突きぬけ、大地に亀裂を生み出す。

以前見たときよりも遥かに速く、そして力強い。

肉体を超えた力を使った反動でギドウの腕が破裂する。

だがその腕は瞬く間に再生していく。

これが不死のアンデッド……ただ動くだけの死体ではない。無尽蔵に戦い続ける最悪の兵士。

それらに囲まれている状況、騎士達の表情に焦りなどは感じないが、緊張感は増している。

「なるほど、これは少しばかり同情したくもなるな」

そう言って剣を振るい、ギドウを頭の先から両断する。

しかし、ギドウは再生を開始する。

「さて、武装を見たとこ洗礼を受けた聖武器は無いようだが、どうする騎士様よぉ? 逃げても良いんだぜ? 俺達は去るものは追わねぇからよぉ?」

「戯言を。たかが死なない程度、何を恐れるか」

アンデッド化した山賊達。そしてそれに続き攻撃を開始する山賊達を相手にしても、なお騎士達は圧されない。

「我らはターイズ最強のラグドー卿率いる騎士団! この程度で怯むと思うな」

「おうおう、すげぇな。だがその威勢どこまで持つかね?」

覇気を飛ばす騎士達を前にドコラは涼しい顔だ。

その余裕も分かる。

迫り来るアンデッドを捌ききれるとはいえ、そこまでだ。

相手は次々と再生し、要所要所で動きの良い生きた山賊が奇襲を仕掛ける。

この持久戦、不利なのはこちらだ。

逃げることも視野に入れる必要がある。

「術者を倒せば――」

「生憎こいつらにはもう命令を下した。俺の魔力がこの一帯に存在する以上、俺を殺してもこいつらは止まらねぇ。殺されてやるつもりもないがな」

なんつー傍迷惑な、そりゃ禁忌扱いもされるわな。

聖職者であるマーヤさんがいれば何かしらの対応策を知っていたかもしれないが、彼女はこの場にはいない。

事前に確認したが、死霊術への対抗策を持った騎士達はこのラグドー隊にはいない。全員が脳筋ゴリラだ。

何か策は無いのか、今自分にできることがないか考える。

だが死霊術への知識が足りなさすぎる。

このアンデッドは周囲に充満している魔力で動いている。

魔封石は効果がない。つまり現状これらを解除する術はこちらには無い。

現状取れるのはこの場を離れるか、周囲に充満した魔力をどうにかする事だ。

だが周囲には魔封石が大量にある。魔法でどうにかするという選択肢は無い。

ここは撤退し、再度奴らを追い詰めるしか――、

「そうか、この煩わしい魔力をどうにかすれば良いのか」

イリアスさんが深く腰を落とした構えを取る。

握り絞めた剣の刀身が輝きだす。

「魔法なんざ使わせねぇよ!」

ドコラが魔封石をイリアスさんの周囲にばら撒く。どれだけ持ってるんだあいつ。

しかし剣の輝きは消えない。眼の眩むほどまで輝く。

「魔法じゃねぇのか!?」

「総員、飛べ!」

イリアスさんが叫ぶと同時に体が宙に浮く。騎士の一人がこちらを抱え上げ跳躍したのだ。

高っ! 何で人担いだ垂直ジャンプで五メートルも跳んでるのこのお爺ちゃん!?

驚愕と同時にイリアスさんが剣を真横に振るう。

同時に膨大な光が放たれ、黒い靄は吹き飛び、大地に逃げ遅れたアンデッドや山賊達は目に見えぬ一閃に両断された。

着地の衝撃に咽せ、咳き込みそうになりながら周囲を見る。

戦場となった広場は疎か、周囲の木々も倒壊している。

巻き込まれたアンデッドも肉塊へと変貌し、再生しない。

咄嗟に飛び上がったドコラは、初めて焦りを含んだ顔を見せ着地する。

「なんつー力技だよ、おい。魔力を込めまくった一振りで強引に吹き飛ばしやがった」

ゴリラ極まる方法だった、開いた口を手で塞ぐ。

イリアスさんが剣先をドコラに向ける。

「どうやらもう再生することも無さそうだな。他に手があるなら早く使うと良い」

「そう言われちゃ見せないわけにはいかないな。こいつだけは使いたくなかったが」

そう言ってドコラは黒い玉を取り出す。

まさかまた魔力を込めた奴とか言わないよな?

「そらよ!」

ドコラはその玉を地面に叩きつける。

今度は濃い煙が周囲に充満し始める。

って煙幕かよ!

「逃げるか、卑怯者め!」

「逃げるさ、正直者め!」

ドコラは踵を返し、その場を立ち去ろうとし――その場に倒れた。

「――は?」

倒壊した森のさらに奥から飛び出した槍が、ドコラの両足を吹き飛ばしていた。

槍が飛んできた方向には、カラ爺さんが自慢げな顔でこちらを見ている。

その状況にイリアスさんも驚きの表情を見せている。

「……あー、誇りはねぇのか騎士様よ」

「彼女の指示じゃない、こちらの作戦だ」

ドコラに声を掛ける。ドコラの視線はこちらに移る。

その表情はとても物静かな顔だ。

「最初からこのつもりだったのか」

「一度逃げたんだ。今回も隙を作り逃げ出すだろうと考えていた」

「そりゃそうだな、良いタイミングだったぜ」

「逃げ切れると確信する瞬間を演出したからな」

――計画通りだ。

そう、この一撃はカラ爺さんとだけ相談していた。

イリアスさんには逃走への備えと称し、カラ爺さんには隠れてもらっていた。

カラ爺さんにはドコラがいずれかのタイミングで逃走を開始するだろうということを伝え、常に槍を投擲できる状況を保ってもらったのだ。

隠れるのをやめ姿を現したのも、ドコラが周辺を見渡すことでカラ爺さんが見つかるリスクを避ける為だ。

純粋な奇襲でも騎士が行う行為という盲点を突けるため、成功する可能性はあった。

だがドコラの実力の程が分からなかった為、より成功率の高い手段をとった。

カラ爺さんに投げるタイミングとしてこう指示した、

『誰かが逃走を始めたドコラに非難の言葉を浴びせた瞬間を狙ってくれ』

イリアスさんが言う形になったが、誰も言わなければ自分で言うつもりはあった。

こちらの非難の言葉を聞いてドコラは隙を突けたと確信しただろう。

その確信をした瞬間は自分の行動の成否を確認し、評価するプロセスが含まれる。

常に周囲に気を配っていたとしても、幾分もその精度は下がる。

自分の技術を信じているドコラにとって、策の成功の瞬間は満足せざるを得ないだろう。

だからこそ、そこが最も付け入れる隙なのだ。

その状況を作る為、他の騎士達には何も言わなかった。

きっと彼らなら策を用いて逃げようとするドコラを非難するだろうと信じて。

「理解か、分かってんじゃねーか。してやられたがこうもハメられるとかえって嬉しいもんだ」

「そうか」

同じことを考えていたのだろう、ドコラは溜息を吐き笑う。

「ひょっとすればお前とは良い仲になれたかもしれねぇな」

「そうかもな。でも略奪行為で人の命を奪うのは好みじゃないな」

「お前ならすぐ慣れるさ。俺が保証する」

「じゃあ道を外さない様に気をつけるよ」

「ああ、それが良い」

背後からイリアスさんが剣を手に歩み寄る。

「――俺の所持品に地図がある。俺しか知らない拠点の場所についてもいくつか描かれている。一番見つけにくい拠点を調べろ、餞別だ」

ドコラは笑う、イリアスさんの掲げる剣など既に眼中にない。

「よく笑えるな、凄いよあんた」

「名前、聞いてもいいか?」

「……ああ」

名前を名乗る、同時に剣が振り下ろされる。

ドコラの口はこちらの名前を音無く反芻し、最後にもう一度笑った。