軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まず圧倒的。

「さてと、それじゃあ少し入れ知恵をしてくる」

駒の並びを見て絶句している紫の魔王を後にして仲間達の方へ移動しラクラとウルフェを呼び出す。

ラクラは平常、ウルフェはやる気満々といったコンディションだ。

ただこの勝負に関しては懸念事項がある、特にウルフェだ。

グラドナに鍛え上げられ強くなったという話は聞いている、しかしその程度が不明なのだ。

ある意味敵以上に謎な立場である。

以前はメジスの暗部相手に苦戦し、パーシュロには策によって会心の一撃が入った程度だ。

今回の相手はどうだろうか、『右脚』ならばパーシュロと互角と見るべきか。

しかし『耳』に関しては確実に『鼻』のラミュグレスカと同等だろう。

純粋な防御力だけならばエクドイクよりも高いだろうが、あまり無理はさせたくない。

「ウルフェ、ラクラ、一応お前等に作戦と言うか目的を教えておく。まずはそれを達成することを優先してくれ」

「りょうかいですっ!」

「それを達成できれば後はお前達次第だ、きつそうなら合図をすぐに送れ。即座に降参をする」

「だいじょうぶです、かちますっ!」

「その勝気は評価するがな、瀕死になられた状態での投了はしたくないんだ。身の安全を第一にな」

「あのあの、尚書様? 私には何か言うことはないのでしょうか?」

「ない、お前の実力や差配は無理をしないという意味では一番信用できる。こちらの目的とウルフェのことを頼む」

「嬉しいような寂しいようななんとも言えない気分ですね」

目的、そして初手に取るべき行動を説明する、それを快諾した二人は広場の中央へと向かう。

既に中央には二体の大悪魔が並んでいる。

『轟く右脚』ザシュペンフォッセ、そして嘗て最強と謳われていた大悪魔『聡き耳』バラグウェリンだ。

『聡き耳』バラグウェリン、現存する大悪魔の中で唯一ユグラの存在した時代から上級悪魔だった存在。

言うならば最古の大悪魔である。

悪魔の強さはその身に得た魔力の絶対量に比例する、最も長く生きる大悪魔ならば言うまでもなくその素質は最強クラスだ。

忠誠心の差からデュヴレオリに最強の座を奪われてもなお、その強さは揺るがないだろう。

既に大悪魔としての姿を晒しているザシュペンフォッセに対しバラグウェリンは人間の姿を維持し執事服をしっかりと着こなしたまま佇んでいる。

オールバックに尖った耳、人間の姿と言えど悪魔的に整った顔立ち。

実に強者オーラがひしひしである。

「女が二匹か、ラミュグレスカを打ち破ったベグラギュドの遺産とは手合わせ願いたかったのだが、あの様子ではそれも叶わぬか」

「そうみたいですね、あの人数日は動けないと思います」

「そういう巡り合せもあるだろうよ、だがベグラギュドを葬った君とはこうして戦うことができる。何も悪い話ばかりではない」

「皆さんそのベグラギュドと言う大悪魔関連でよく絡んできますけど、私からすれば実感がないんです」

「フォークドゥレクラを瞬殺した実力ならば致し方ないだろう、だがベグラギュドは私が眼をかけていた大悪魔の一柱であったのだよ」

「そうですか、興味はありませんから別に話していただかなくても結構ですよ」

淡々と答えるラクラに対しバラグウェリンは動じる様子もなく笑みを浮かべる。

ザシュペンフォッセは寡黙な性格なのか、それともバラグウェリンを恐れて口を挟めないのか静かなままだ。

ウルフェも敵と会話する様子はないと言わんばかりに静かにバラグウェリンを見つめている。

「そうか、では興味を引く話でもするとしよう。君達の首領、あの男はなかなかに頭が回るようだな。私のことも良く調べているようだ」

そういいながら視線をこちらに向けてくる、こちらを軽んじず評価してくるタイプのようだ。

正直そういう手合いは相手にしたくない、隙を突くのが難しいからだ。

「私の耳は多少他の悪魔より聞こえが良くてね、君達の会話は聞かせてもらった。『開始と同時にバラグウェリンを全力で狙え』、短期決戦を持ち込もうと言う話だったようだな」

「人の会話を盗み聞きするなんて趣味の悪い悪魔ですね」

「そう非難してくれるな、私の耳は聞こえが良いだけで他の大悪魔の様な特異な力を持たないのだ。これくらい披露しておかねば『聡き耳』の名が泣くと言う物だ」

そう、バラグウェリンは『聡き耳』の名を持つがその耳は高い聴覚を持つと言うだけだ。

だがそれでも最強と謳われる理由は純粋な強さがあるからだ。

紫の魔王によりさらに強化を受けている単純なスペックの化物、それが奴だ。

「さて、それだけではないな。あの男は君達にそう話しながら筆談で別の指示を出していた、内容はそう『最大限時間を稼げ』であっているかね?」

手元の羊皮紙に眼を移す、羊皮紙の端っこに書き込まれている文字と一致している。

ほんと、どんな聴覚だよって話だ。

「凄いですね、人間の文字すら理解しているんですね貴方は」

「悪魔を従えるだけならば不要な知識ではあるのだがね、長年生きていれば人間への警戒心も多少は育つと言う物だ。私の情報を可能な限り得て、可能なら後続で攻略する。無理ならば避けると言った作戦なのだろうな。いまだ原理は不明だが主の駒の配置を読みきる能力があるのならばそれも可能だろう」

「私は言われたことをこなすだけです」

「それで構わない。小細工は露呈した、精々楽しむとしようではないか」

「では始めるとしよう」

デュヴレオリが間に現れ開始の用意を促す。

互いに構える、空気がチリチリと乾燥していく感じだ。

超人眼鏡を掛け、こちらも見守る準備は十分。

傍には割り込めるようにミクスをスタンバイさせている。

互いの用意を確認し、開始の合図が投げかけられる。

「勝負――始めっ!」

開始の合図と共に動いたのはウルフェ、魔力放出を活かした突進を行う。

その先は――ザシュペンフォッセ、『俺』の 指(・) 示(・) 通(・) り(・) だ。

「――何?」

意表を突かれた顔をして出遅れる二体の大悪魔達、対応しようとしても既に遅い。

両者の間にはラクラが結界を張っている、破壊して割り込むにしても僅かなラグは存在するだろう。

再び羊皮紙に眼を向ける、確かに『俺』はラクラ達との会話の際に『最大限時間を稼げ』と書いた。

だが『聡き耳』と言われているバラグウェリンがその音を聞き逃さないであろうと言う可能性は考慮済みだった。

だから事前に『右脚を速攻で倒せ』と書かれた羊皮紙を見せながら茶番を行っておいたのだ。

ウルフェの突進の速度は想像よりも遥かに速い、ラミュグレスカにも負けないであろう速度だ。

これならば初手の攻撃は取れる、ザシュペンフォッセが回避や防御を行えば続いてラクラが追撃を行える。

一体を速攻で倒せればバラグウェリンに対し二対一で挑むことができ、より確実に多くの情報を引き出せ――

「どうやら裏を掻かれたようだ、いや見事。だが足りん」

超人眼鏡で最大限に集中していた、ウルフェの突進もどうにか視野に捉えられていた。

だがそれでも見えなかった、ザシュペンフォッセの目の前にラクラの結界を破壊して現れたバラグウェリンの動きを。

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ターイズの商人にして富裕層の住む地域に立派な商館を営む男、バンは嘗ての旧友の看病をしていた。

『拳聖』グラドナ、多くのユニーク種である魔物を討伐した歴史に名を残す英雄だ。

とは言え今は飲んだくれの爺、ついでに腰を痛めて寝込んでいる。

「バーン、酒くれー」

「あのなぁ……、怪我人なんだからじっとしてもらえませんかねぇ?」

いつもの温和な口調とは違い、多少砕けた喋り方でバンはグラドナの無様な姿に溜息を溢す。

腰に大量の湿布を張りベッドの上で半裸で転がっている『拳聖』、情けなさに呆れるばかりだ。

「うるせー、飲んでなきゃやってられんのよ」

「新しい弟子との稽古で腰を痛めておいてよくもまあそんな態度を」

どうせ言っても聞かないのは昔から、さっさと酒を飲ませて寝かせるのが一番だろうとバンは酒を用意してグラドナに渡す。

「いよっし、これで痛みも飛ぶぜ」

「今彼は色々大変な状況、貴方も『拳聖』として手助けくらいして上げれば良いのに」

「――俺なんてもういらねーよ。ウル坊がいりゃ十分だ」

「随分とあの子を買っているようだな」

バンとて最初にウルフェに魔力放出のいろはを教えた立場として彼女の成長を期待している。

クアマに勇者ユグラが残したその過去の映像、『勇者の指標』の記憶から比較してもその才能は顕著だった。

誰もが彼女の才能の高さを知っていた、だからこそ『拳聖』の指南を受けることすら当然の成り行きだろうと思っていた。

「……」

グラドナは酒を一気に飲み込んでいく、そして大きなゲップを吐く。

バンは嫌な顔をしつつ、次の酒を取り出す。

「俺はな、歴史に名を残す程度のことはして見せた。それができたのは他の奴より才能があったからだ」

「そりゃあな」

「無論努力だってしたさ、自分の才能を余すことなく完全に開花して大成してみたんだ」

「知ってるさ」

「――だがな、この年になって初めて知ったんだわ。俺に才能なんて無かったってな。歴史に名を残す程度でしか無かった、伝説になったユグラみたいな化物と比べりゃ、俺は凡夫だったってこった……」

「それはどう言う――」

「ウル坊な、とっくの昔に俺を超えてんだよ。俺の全盛期すらもな」

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何が起きたのか、それを理解することは『俺』にはできなかった。

確認できていたのは奇襲を仕掛けたウルフェの進路をバラグウェリンが妨害したと言うこと。

だが次に状況を目視した時にはそれらの認識が却って思考を混乱させてくれた。

「……何をした小娘」

驚愕の表情を浮かべているバラグウェリン、奴の立ち位置は一切変わっていない。

ラクラの位置も同様だ、驚いた表情のまま口を開けている。

違っているのはウルフェの立ち位置、そしてザシュペンフォッセだ。

既にザシュペンフォッセは死亡している、頭部が胴体から引き千切られていた。

ウルフェの手の中にその頭部が握られている。

「じゃまだったので、まわりこみました」

ウルフェはザシュペンフォッセの頭部をいらない物として雑に放り捨てる。

同時に佇んでいたザシュペンフォッセの胴体が地面に倒れた。

「それは眼で追えた、私が聞いているのは今の異常な加速のことだ」

「これをこうしました」

ウルフェはガントレットから少量の魔力を放出、次の瞬間爆発的に放出して見せた。

その勢いで一瞬ウルフェの手が視界に映らなくなった。

「魔力を放出して推進力にしていた、しかし突如その魔力を破裂させさらに加速したと言うことか……なるほど面白い技だ。名前を聞かせてもらえるか?」

「ウルフェ、です」

「ウルフェか、その名覚えたぞ」

――そろそろ冷静に現状を分析しよう。

分かるのはウルフェが一瞬でザシュペンフォッセを仕留めて見せたということだ。

誰もがそのことに唖然としてる。

ああいや、イリアスだけは喜んでいる感じだ。

グラドナの修行の成果がどれ程かと考えていたが想像以上、と言う他ない。

超人眼鏡を一旦外す。

「ミクス、今の動き見えたか?」

「いえ、全く……ウルフェちゃん……ですよね、アレ」

「おう、ビックリだな」

「いやいや、ビックリどころの話では……」

おや、ラクラがこちらを見ている、口をパクパクさせている。

ミクスもそれに気づき、読唇術で翻訳をしてくれる。

「しょ、う、しょ、さ、ま、こ、れ、ど、う、す、る、の、で、す、か、だそうです」

そんなもん、こっちが知りたい。

エクドイクの真なる『盲ふ眼』もそうだったが人の知らない情報をポンポン出してくれるなよなって感じだ。

とは言え今の動きからしてウルフェの今のスペックは想像以上、バラグウェリンの情報を引き出すにはこれ以上ないチャンスだ。

「ミクス、ここはウルフェに任せる。ただし少しでも圧され始めたら即座に投了で良い、判断は一任する。ラクラには 見(けん) に努めろと」

「わ、わかりました。ラクラ殿にもそう伝えます。ご友人はどうされるので?」

「選択肢が増えたからな、少しプランを練り直す」

嬉しい誤算だが、誤算は誤算だ。

綱渡りである紫の魔王との本気の勝負に誤算のままでの利用は危険だ、修正せねばなるまい。

超人眼鏡も役立つか分からないが取り敢えず掛け直し、ウルフェを見守るのだった。

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勇者ユグラが主を敵として処理しに現れた際、多少聡かった私は主を見捨てて逃げた。

そしてどの悪魔よりも先に大悪魔へと成長した。

他者よりも先んじて行動したが故に、今の自分がここにある。

初めての大悪魔となった時に感じたのは優越感よりも孤独だった。

誰も同じ視点に立つものがいない、それはなんと退屈なのだと思った。

しばらくして新たな大悪魔が生まれた、その時は随分と心が穏やかになったのを覚えている。

ようやく私の隣に並ぶものが現れる、対等な者と語り、戦い、価値を競える。

そう思っていたのだがどの大悪魔も私を敬遠していた。

這い寄ろうとしていたのはベグラギュド程度だろうか、だが奴は成長しきる前に滅びた。

そして今回の一件が起きた。

主から過度な力を与えられた時は正直溜息が漏れた。

只でさえ退屈な魔界での人生、これ以上の力を得てどうしろと言うのだと。

しかし忠義を尽くしたデュヴレオリが私を超えた、これはとても楽しみだった。

事が済めば戦いを挑んでみたい、私と同じ高さを通過した者ならばと。

そのためならば主を裏切ることも計画に入っていた。

だがここに来て嬉しい誤算が舞い降りた。

この目の前にいる亜人、ウルフェと言う存在だ。

取るに足らぬ存在、そういう評価を聞いていたがとんだ嘘もあったものだ。

コレは私を殺しうる、全力で立ち向かわねば死ぬのは間違いなく私だ。

たった一瞬の出来事だったが、私の動きに反応し、なおかつ私を無視して任務を遂行してみせた。

何と言う強かさ、実に心が躍る。

さあ、さあさあ、私を昂ぶらせてくれ!

「我が名は『聡き耳』バラグウェリン、私を倒せたならばそれを誇りに思うと良い」

「いきますっ」

再び奴が前に出る、両手と両足に備え付けられた装備から魔力が放出されている。

それらが速度の助けになっているのだろうが、あくまでこれは予備動作に過ぎない。

必要な間合いに入れば確実に――そら魔力が破裂し急加速したぞ!

「そこだっ!」

視界から消えようとした奴の動きを先読みし真横に拳を打ち出す、感触はあった。

しかし軽すぎる、首と眼球を動かし状況を確認する。

同時に自分の体が宙に浮いていることに気付く。

これは――いかなる方法か、私の拳の威力を殺し、その勢いを利用し私を投げてみせたのだ。

「面白いっ!」

空中に投げられた程度で支障は生まれない、それを超える速度で蹴りを放てば良い。

放った脚が奴に命中するかどうかと言った瞬間、奴が再び視界から消える。

どこだ、視界から消えたならば視界の外のいずれかだ。

感覚を研ぎ澄ませ、いた、背後に回りこんでいる。

空中にいる私の背後に回りこんだと言うことは奴は飛んだことになる、空中ならば満足に移動はできまい。

行き場を失った脚を無視し、悲鳴を上げる体を黙らせ強引に右腕を背後に振るう。

これで命中――しない。

裏拳の勢いで体が回転し視界も背後を向く、いた、奴は確かに背後にいた。

しかし遠い、すぐ背後にいたはずが体二つ分は離れている。

浮いたとでも、そうか空中でもう一段階加速したというわけか。

視線が合う、間違いない、次に取りうるのは空中から私に向けての加速及び攻撃だ。

既に蹴りと拳を外して体勢が崩れている私に回避行動は不可能。

残った腕を盾に防御の用意を行う。

掴めれば良し、それが無理でも片腕を破壊させればその隙を付いて立て直せる。

加速し突撃した後ならば更なる移動は容易にはできない、そしてその勢いがあれば私の体は地に着く。

奴と密着した状態ならばこちらの攻撃も容易に届く、そこを狙う。

さあ来い、その振りかぶった右拳を私に打ち込め!

加速が行われた、見事な速度だ、ああこれは左腕を折られるやもしれん、だが必要な犠牲だ。

あ、それは速過ぎ――

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ウルフェが突進し、一瞬の攻防があったようだが眼で追うことも叶わず結果だけが映し出される。

地面に右拳を打ち下ろしたウルフェ、その拳は深々と地面に突き刺さり穿たれた大地には亀裂が走っている。

バラグウェリンの頭部は見えない、地面に埋まったとかそんなシュールな話ではない。

首から上が弾け飛んでいる。

最後に抵抗しようとして左腕を伸ばした痕跡が見られたがまもなく力なく地面に降りた。

最強と謳われた大悪魔の最後は何の盛り上がりも見せずにあっけなく終わった。