軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 2

その部屋にはキッチンがあった。

どういうこと? 私は首を傾げた。どうもよくわからない。

「やあ、よく来てくれたね」

目の前には確かにこの国の王子がいた。金髪に青い瞳の絵姿と同じ顔をした、見目麗しい青年だ。

私が戸惑ったのはこの部屋の様子だった。どう見ても客間ではない。キッチンとうか厨房だ。

「アンドリュー王子これはどういうことですか?」

「ふふふ、そう怒るな。エドの奥さんが料理上手だと聞いたのでな。ぜひ作ってもらおうと用意したのだ。エドの胃をつかんだとされる料理を食べたいのだ」

「な、何をおっしゃっているのかわかっているのですか? 王子の料理を許可なく作ったりは出来ません」

「固いことを言うな。お忍びで城下に行ったときは屋台の物を食べていたではないか」

「あれは反対しても王子が、買って食べただけの話でしょう」

「城の食事は確かに豪華だが、冷めたものばかりだ」

「そうなのですか?」

冷めたものばかりと聞いてかわいそうになる。

「アンナ騙されるな。そうやって同情を引こうとしているだけだ。スープは温かいまま食されている」

「騙すとは人聞きが悪いではないか。それより食材も用意しているのだ。作るまでは帰らせないからな」

アンドリュー王子は子供のようなことを言う。扉の方を見ると騎士が立っている。

このままでは帰らせてくれそうにはない。エドが言っていたように、噂と違ってアンドリュー王子は変わっているお方のようだ。

「それでどのような料理が食べたいのですか?」

食材を用意していると言うことは食べたい料理があるのだと思った。そしてそれは間違ってはいなかった。王子は目を輝かせて、

「うどんだ。うどんが食べたい」

とうどんを所望した。

「うどんですか? それは無理ですね」

目を輝かせているアンドリュー王子には悪いけど、今からうどんを作るのは無理だった。

「な、何故だ?」

私が断ると目に見えて王子はショックを受けた顔になった。

「時間がありません」

「時間だと?」

「王子様との面会時間は二時間と決められております。もうすでに数十分過ぎていますし、とてもうどんを作る時間はありません」

昨日のうちにでも言っておいてくれたら、麺を用意して来たけれど反対されることを恐れて、エドには言わなかったことが裏目に出た感じだ。

「そ、そんな…、ずっと楽しみにしていたのに…」

アンドリュー王子はショックのあまり椅子に座り込んでしまった。

そこまでショックを受けるとは思っていなかった私は慰めの言葉も出ない。エドの方はいつものことだとあまり気にしていないようだ。

私はテーブルの上の材料を見た。うどんを作るための材料は調べたのか、確かに揃っている。

「それではすいとんでも作りましょうか」

「すいとん?」

「うどんとは違いますが材料が似ているので、今からでも間に合います」

「すいとん? 私も食べたことがないぞ」

「そうねえ、エドには作ったことがなかったかも」

「なんと、エドも食べたことがないのか。それは良い。ぜひ作ってくれ」

『すいとん』とは小麦粉の生地を手でちぎって、スープに入れるだけの料理で、うどんのように麺を作らなくてもよいので時間がかからない。そしてうどんと違ってスープの中に野菜をたくさん加えるので栄養も考えられていると思う。

この料理もサラに教わったものだ。手抜き料理だと笑って言っていたけど、我が家ではうどんのように手がかからなくて力がないベラでも作れるから定番の料理になっていた。特にジムが大好きで、『すいとん』を作るとお代わりを何杯もしていた。

アンドリュー王子の命令で私は久しぶりに『すいとん』を作ることになった。

腕まくりをして『すいとん』の生地から作りだす。

アンドリュー王子は料理をするのを見るのも初めてのようで、私の周りをウロウロするので、はっきりいて邪魔だった。

どうしたものかとエドに目で訴えるとニッコリと笑って余計な一言を言った。

「アンドリュー王子も手伝ったらいかがですか?」

なんと王子に料理の手伝いをさせようと言うのだ。

「おお、それは素晴らしい!」

しかも王子はやる気に満ちている。こ、断れない。

う~ん、邪魔なのに……。

「そ、そうですねぇ、それでは『すいとん』に入れる生地を丸めてもらいましょうか」

ちぎって入れる予定だったけど、邪魔にならないように丸める作業という仕事を与えることにする。入れる前に丸めた生地を平たくすればいいだろう。

エドも手伝いたかったようで、アンドリュー王子と一緒に生地を丸めだした。

「王子それは少し大きいのではありませんか?」

「このくらいの方が多く食べられていいだろう」

「ですが一口で食べるのには難しいですよ」

「うむ、そうだな。それは困るなぁ」

ナイフとフォークが使えない料理だから、一口で食べられないのは貴族として困るのだ。うちの家では別に問題ないので大きい『すいとん』も普通にあったけどね。

それにしても二人は本当に仲が良い。二人とも小麦粉が顔についているけど気にならないらしい。笑ってお互いの顔を指さしている。