軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 14歳 17

庶民になって三か月。

今日はマンチェス学院の入学日だ。

私はその日を市場で迎えていた。

この時期は秋が終わり、北風が吹き寒さが増してくる。市場は三か月前に比べて、人通りもまばらになっている。けれどクレープ屋は繁盛していた。

「それも雪が降るまでなのよ」

サラが後片付けをしながら呟く。三か月も一緒に働いているせいか、自然と敬語なしで話すようになった。

風が強くなったようで、飛んでいかないように軽いものから素早く片付けなければならない。

私は古着屋『アルヴァー』で買った厚手の服にコートを着ている。コートは働くときの邪魔にならないものを選んだので、丈が短い。その分寒さが身に染みてくる。でも森に薬草採りに行っているマルとフリッツの方が寒いはずだと手をこすりながら我慢する。

マルとフリッツは足首が隠れるズボンとコートを着ているはずだ。私とマリーが選ぶつもりだったのに、なぜかわざわざ付いてきて自分たちで選んだ。

三か月たった今も、家族との距離は変わらない。一緒に暮らしているのに彼らとの間には壁がある。

「雪が降るまでにはひと月くらいかしら。サラは雪が降ってもクレープを売る予定なの?」

「売れるようなら売るつもりだけど、雪が酷くなると道が通れなくなるから屋台を運べないのよ」

この屋台は借りているものだけど、車輪があっても雪道では埋まってしまうらしい。

「じゃあ、雪が溶けるまでは休業することになるのね」

「そうなると思うわ。クレープがたくさん売れたから、春までの家賃と生活費も何とかなりそうよ」

クレープ屋と違って母の裁縫の仕事は家でするものだから雪は関係なさそうだけど、マルとフリッツの方は収入が減るって言ってたから結構大変なのかもしれない。

「私は裁縫が苦手だから冬は何をしたらいいのか悩むわ。どこか働ける場所はないかしら」

「職業紹介所があるけど、あまりお勧めはしないわ。女の人の募集は食堂の売り子が多いの」

食堂の売り子? それなら私でも出来る気がする。

「だめだめ、ほとんどが酒場なのよ。夜の相手もさせられるそうよ」

夜の相手! 箱入り娘でもメイドたちの話からそれがどんなことなのかは知っていた。確かにそれは無理だ。

「キチンとした職につきたければ学校を出ていないと難しいわ」

サラが言っているのはマンチェス学院のことではない。普通の庶民が通っている学校のことだ。

私の方がその辺の学校に通っている子より学んでいるけど、それを証明ができない。

「私の魔法がもう少し役に立つものだったら、冒険者にだってなれたんだけどこればっかりは仕方のない事ね」

「そうね。私も魔法でも使えたら置いて行かれることもなかったんだもの。仕方がないのよ」

サラの故郷は東の国だ。そこからこの国まで幼馴染みの冒険者たちと一緒に旅をしてきたと聞いている。三か月の間にたくさんのことを話してくれた。

サラのいた村で風邪が流行して死者が出た。その中にサラの両親と幼馴染みの両親がいて、子供だけで暮らすには冒険者になるしかなかった。幼馴染みと違ってサラには得意とするものがなかったので初めは断ったが何度も誘われて重い腰を上げたのは出発する二日前だったそうだ。

サラは幼馴染みだった男の言葉を勘違いしたのだと言っていた。

「お前のことは俺が守るから、心配するな」

二つ上の兄のような存在だったロックの言葉に頷いてしまったのだと。そしてこの街でしばらく暮らしていたけど、指名依頼が入った時に置いて行かれたらしい。その仕事にサラが邪魔だったのか、ここでなら一人でも暮らせるだろうと考えたからなのか幼馴染はサラだけを置いて行ってしまった。

「戻ってくるまでここで待っていてほしい」

置手紙にはその一言しか書かれていなかったそうだ。侯爵家の仕事を世話してくれた貴族はロックに頼まれていたので紹介状を書いてくれたけど、会ったのは一度だけでどこの誰かもサラは知らなかった。

たぶんその貴族の依頼でどこかに行ったってことだと思うけど、もう一年以上も経つのに戻ってこないのは、サラの言うように置き去りにされたってことなのだろうか。

「サラはここでずっと待っているつもり?」

「まさか。私はいく所がないからここにいるだけよ。待っているわけではないわ」

女の一人旅は厳しいと聞いたことがある。サラが故郷からここまで旅してこられたのは幼馴染みの冒険者がいたからだろう。一人では故郷に帰ることもできない。

「故郷に帰りたい?」

「両親もいないし…あの村には帰りたいとは思わない。でも両親がいたあの頃に戻りたい時はあるわね」

サラの言葉が胸にしみる。私も長年暮らしたあの家に帰りたいとまだ思う時がある。それはあの家にいれば楽ができるとかではなく、思い出がたくさんあるからだ。

しんみりとした空気を追い払うかのように、態とらしく音を立てながら後片付けの続きに取り掛かった。