軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第95話 未練を断つ

「えっ、なんて?」

「サチさん、どうかしましたか?」

思わず頭を押さえた私を心配そうにみんなが見守っている。

遺恨って……忘れられない恨みとか、心残りとか、そういう意味よね?

それを解放するってことは、もしかして、この人を縛り付ける未練を断つことができるってこと?

え、でも、どうやって?

レイスには実体がないのに。アルフレッドさんだって物理攻撃は効かないって言ってたし……

うんうんと思い悩んでいると、腰に装備していたオリハルコンのナイフが僅かに揺れて、ホルダーがガコンと音を鳴らした。

「え? 使えって言ってるの……?」

私は促されるがまま、手を腰に回してオリハルコンのナイフを抜き取った。

とはいえ、一体どうやってスキルを使うというのか。

物は試しというのでナイフを手に持って構えてみる。

「えっ」

ナイフを構えてレイスに対峙した私は、思わず目を疑った。

驚くべきことに、レイスの体から一本の光の糸が出て漂っているのが見える。

目を擦って改めて見ても、やっぱり見える。

もしかして、これがレイスをこの世に縛り付けている未練――?

後ろを振り向いてみんなの様子を確認しても、固唾を飲んで見守っているばかりで、誰もキラキラと淡く光る糸が目に入っていないみたい。

私にだけ、見えてる?

レイスに視線を戻すと、光を失って昏く窪んだ目が懇願するように細められた……ように見えた。

……そうだよね。好きでこの世に縛り付けられているわけないよね。

私の頭には、両親とおじいちゃんの笑顔が思い浮かんでいた。

三人はきっと、天国で私のことを見守ってくれていると信じている。

大切な人たちの魂が、この世に縛られているなんて、とても悲しくて苦しいことだ。

この人も、苦しみから解放されて、どうか成仏できますように。

「ギャーギャー騒がしくしちゃってごめんなさい。今、解放してあげるね――【遺恨解放】」

きっと、私が切るべきは、目の前に漂う光の糸。

キラキラと淡い光の糸は、細く漂うように空き家へと伸びている。

この人の未練が何かは分からない。もう、話を聞くこともできないから。

でも、この糸を切ることで魂が解放されるのなら――

そっとオリハルコンのナイフを光の糸に向け、ゆっくりと糸を切った。

「……今、何か切ったの?」

「さあ……僕には何も見えませんでしたが」

「……おい、見ろ」

私の後ろで、三人が困惑したように息を呑んでいる。

糸は切り口から光を溢れさせ、レイスを優しい光で包み込んだ。

そして、レイスを包み込んだまま、光の粒子となってゆっくりと天に昇っていった。

成仏、できたのかな?

最後に見えたレイスの頬には、一筋の涙が伝っていた。

でも、その表情は晴れやかだった。

「よかった……わっ」

光が消えるまで見送った私は、ほっと息をついた途端にガクンと腰を抜かして尻餅をつきそうになった。

「大丈夫か」

「何が起きたのですか?」

崩れ落ちそうになった私を両脇から支えてくれたのは、マリウッツさんとアルフレッドさんだった。そしてアンが背中を支えてくれる。

「あのレイス、成仏したの? 最後に笑ったように見えたけど……」

「うん、多分……そうだといいな」

三人とも説明を求めるように私の顔をジッと見ている。うう、ですよね。

「えっと、とにかくお腹が空きましたし、食事にしながら話しませんか?」

そう提案すると、待ってましたとばかりに、グゥと腹の虫が鳴いた。

◇◇◇

「はぁぁ、またとんでもない固有スキルを獲得しましたね」

近くの酒場に入った私たちは、それぞれ料理と飲み物を注文して、お腹を満たしている。

私は天の声に告げられた固有スキルのこと、レイスから光の糸が見えたこと、その糸を切ることでレイスが成仏したことを説明した。

「まさか、レイスの未練を断つスキルを獲得するとはな」

「サチって感じよねえ」

「どういう意味よ」

アンの言葉の意図を問おうとしたところで、アルフレッドさんが「まあまあ」と仲裁してくれた。

「とにかく、これでサチさんも実体のないレイスに対抗する術を手に入れたというわけですね。それに、これまでは消滅させるしか倒す方法がなかったところを、その魂ごと救い出すことができるときましたか。ふふ、サチさんの優しい心が生み出したスキルなのでしょうね」

「アルフレッドさん……」

思わずジーンとしてしまう。

そんなことが言えるアルフレッドさんこそ優しいと思う。

「まあ、これでサチのお化け嫌いも克服できたんじゃない? 今度おすすめの本を貸してあげるわ」

「それとこれとは話が別! 遠慮しておくわ!」

レイスを解放できることと、お化けが苦手なことはまた別よ。関わらずに済むのなら関わりたくない。

そこで、大切なことを思い出した。

「あ、そうだ。今日はピィちゃんが居ないから一人なんだよね……アン〜今日だけ泊めてくれない? 一人じゃ怖くて眠れそうにないもの」

「やだ、サチったら。仕方ないわねえ」

両手を合わせて懇願すると、アンはどこか嬉しそうに頬を染めながら快諾してくれた。

「さて、では夜も遅くなってきましたし、明日に備えて今日は解散といきましょうか」

「はい、遅くまでありがとうございました」

私とアンは酒場の前でマリウッツさんとアルフレッドさんと別れてアンの家へと向かう。

ふと立ち止まって空を仰ぐと、冬の澄んだ空気の中、星たちが美しく瞬いている。

私は今、異世界で生きているけれど、お母さんとお父さん、それにおじいちゃんは今も私を見守ってくれているのだろうか。……ううん、きっと見守ってくれているわ。

「サチ〜、置いていくわよ?」

「わ、待って!」

私は手を振るアンを追いかけて、白い息を吐き出しながら駆け出した。