軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第92話 冒険者の素養

「サチ! 無事でよかったぜ……」

「ドルドさん! ご心配をおかけしました」

ラーナの森を出た私たちは、四人揃って魔物解体カウンターに戻ってきた。

私の姿を見たドルドさんが、ものすごい勢いでカウンターを飛び出してきたからびっくりしちゃった。ナイルさんやローランさんも何事だって目を見開いていたもの。

クエストへの参加許可を出したことに責任を感じていたみたい。

最終的には私自身が参加すると決めたことだから、ドルドさんを恨んだり、責任を取らせようなんて微塵にも思っていないのに。

「それで? どうしてこいつはこんなことになっているんだ?」

「え!? ええっと……あはは」

ドルドさんが怪訝な顔で指差したのは、両手で顔を覆って蹲るアルフレッドさん。髪色と同じぐらい耳が真っ赤になっている。何やらブツブツ言っているのが聞こえてきて不気味ですよ。

森の外まで意気揚々と私を運んでくれたアルフレッドさんは、森の外に無事に出て緊張の糸が解けて我に返ったようで、自分の腕の中で小さくなる私を見て大きな叫び声をあげたのだ(危うく落とされるところだった。落とさないって言ったのに!)。

そっと下ろしてもらった後はもう謝り倒しで、運んでもらったお礼を伝えても聞き入れてもらえないほどにアルフレッドさんは狼狽していた。

『あわわわわ……ぼ、僕は一体何を……本当にすみませんっ!!』

『い、いえ……こちらこそ重いのに運んでいただいて……ありがとうございます』

『羽根のように軽かったですよ! あっ! うわぁぁぁあ』

顔を赤くしたり青くしたり、とにかく頭を抱えてクネクネと悶えていた。

合流したマリウッツさんも思いっきり顔を 顰(しか) めていたし。

『マリウッツ殿にだけは、どうかご内密に!!』ってすごい剣幕で口止めされたからその場は苦笑いをして誤魔化したけど、ドルドさん同様、未だに納得してないご様子。

「ま、とにかくお前たちが無事でよかったぜ。気軽にクエストに賛同したことを心底後悔した」

「いや、全て私のせいだ。サチ、本当に迷惑をかけた。すまなかった」

ドルドさんにレイラさんまで、眉を下げてしおしおとしているものだから、とても雰囲気が重い。まったく、みくびらないでいただきたい。

「んもう! 何度も大丈夫だって言ってるでしょう! ミノタウロスは怪我をしてましたし、そもそもCランクで【解体】経験もある魔物ですから、怖くありませんでしたよ?」

「いや、それは普通の感覚ではないから即刻捨て去れ」

「ええっ!?」

マリウッツさんから鋭く指摘され、私は思わず不満を漏らした。失敬な。

「はは……確かにサチの言う通り、ミノタウロスなんてものともしない姿勢には感服したよ。あんた、私よりもずっと冒険者に向いているんじゃないか? Cランク、いや、Bランク冒険者と同等の実力がありそうだがね。一介のギルド職員にしておくのは勿体無い」

レイラさんがまじまじと私の顔を見てくる。そんなに見つめられると照れてしまいますな。

「いやいや、流石にそれは無理ですよ〜。私はただの魔物解体師ですし」

あはは、と頭を掻くと、みんなが一斉に私の顔を見た。

え、なんでみんなして変なものを見る目で見てくるわけ。アルフレッドさんまで!

「……はあ、そうだな。対魔物の腕については相当な実力ということは認めよう。だが、とにかく危機管理能力が低すぎる。危機管理は冒険者の基本だ。サチは冒険者には向いていない」

「ガーンッ!」

マリウッツさんに容赦なく切り捨てられ、私は思わず膝をつきそうになった。

「うう……別に冒険者になりたいわけじゃないですもん。私は今の仕事に誇りとやりがいを持っていますし!」

プイッと顔を背けた先にいたドルドさんがちょっと感極まっている。

「サチィ……ああ、そうだな。明日からもバリバリ頑張ってもらうぞ。ところで、当初の目的だった薬の素材は無事に採取できたのか?」

「バッチリだよ。サチのおかげで必要な素材だけを回収することができた。この量を入手しようと思ったら、五回は森に入らないといけないからね。本当にありがとう。礼になるかは分からないけど、疲労回復薬ができたらいくつか持ってくるよ。面白い薬草も手に入れたし、今から調薬が楽しみさ」

スランプに悩んでいたというレイラさんの笑顔にはもう迷いも曇りもない。心から薬を作ることを楽しみにしているといった、そんな無邪気な笑顔だった。

「わあっ、嬉しいです! 楽しみにしてますね!」

レイラさん作の栄養ドリンク。話を聞いた時からとっても楽しみにしていたのよ。

あ、待って。大事なことだけ聞いておかなきゃ。

「あの、疲労回復薬なんですけど…………苦いですか?」

元料理人志望として、いや、人として食べ物や飲み物を粗末に扱うつもりは一切ない。でも、口に入れるものなのだから、美味しい方がいい。

「ん? いや、蜂蜜が入っているし、果汁で喉越しよく整えているから飲みやすいと思うよ」

「よかった〜……」

ほっと胸を撫で下ろしていると、レイラさんが呆れ顔になった。なんで。

「苦味が苦手なのかい?」

「あ、いえ。なんでも美味しくいただくのですが、美味しい方がいいじゃないですか」

そう答えると、レイラさんは一瞬キョトンと目を丸くしてから「あはは!」と豪快に笑った。

「まったく。魔物にも臆することなく、森で出た虫にも騒ぐわけでもない。なのに薬の味は気になるときた。サチ、あんたには怖いものや苦手なものは何もないのかい?」

レイラさんの言葉に、ビクゥッと肩が跳ねる。

みんなの顔に、「あ、あるんだ」と書いてある。ないですないです絶対にないですとも!

「あ、あははははは、そ、そうですね。怖いもの……ううっ、何もないですよ!」

いかん。想像しただけでブルリと寒気がした。多分今思いっきり目が泳いでいると思う。冷や汗までかいてきた。

「いや、絶対何かあるだろう。その反応は」

「あーっと、疲れちゃったからそろそろ部屋に戻ろうっと」

「あ、逃げた」

私はそそくさとその場から離脱して、部屋に戻ってから密かに胸を撫で下ろした。

ふう、なんとか隠し通せたわ。

だって、私が苦手なものは……うう、正直に話したらきっと子供っぽいって笑われるもん。

明日聞かれてもうまく誤魔化さないとね。

――そう意気込んでいたけれど、私の苦手なものが何なのか、ほんの数日後にあえなくバレることになるのだった。