軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第88話 二度目のクエスト

「やあ、サチ」

「あ、レイラさん!」

マリウッツさんとの街歩きから数日後、ちょうどドルドさんがお昼休みに入っていたので、私が代わってカウンターに立っていた時のこと。

カウンターに解体依頼にやって来たのは薬師のレイラさんだった。

「こいつのツノが必要なんだ。あとの素材や肉は買い取りに回してくれるかい?」

そう言ってレイラさんがドサリとカウンターに乗せたのは、ぐるぐるとぐろを巻いたツノが特徴的な羊に似た魔物だった。ツノは新緑のように鮮やかな緑色をしている。

「グラスシープですね。承りました!」

グラスシープは草原に生息するEランクの魔物で、草原に生えた薬草をたっぷり食べているため、そのツノには薬効があるとされている。

お肉には少し癖があるけれど、一部の好事家に好まれている。

私はグラスシープを作業台へ移動すると、【解体再現】で素早く素材別に解体する。ツノ以外は買い取り用の箱に入れ、ツノだけ布に包んでレイラさんへ返却した。

「お待たせしました。ツノです!」

「ありがとう」

薬といえば、やっぱり薬草といった植物から作るイメージが強いけど、ツノをどうやって使うんだろう?

「それはなんの薬になるんですか?」

時間的にカウンターに人もいないので、レイラさんに尋ねてみた。

「ん? ああ、疲労回復薬だよ。いくつかの薬草とハーブ、それにこいつと蜂蜜を混ぜて作るんだ。一日の終わりに飲むと翌朝スッキリ目覚められるよ」

栄養ドリンクのようなもの? ちょっと、欲しいかも。

私の表情から、薬に興味を示したことを察したらしいレイラさんの目が光る。商売人の目だわ。

「なんだい? 気になるかい?」

「気になります」

「ははっ、正直でいいね。今度作ったものを持ってこよう。試してみて、気に入ったら買いに来ておくれよ」

「わっ、いいんですか!」

「もちろんさ。それで常連さんになってくれたらこちらとしても嬉しいしね」

レイラさんは爽やかな笑みを浮かべながら、快活に笑った。商売上手でいらっしゃる。

「あ、レイラの姐さんじゃないっすか!」

その時、ちょうど休憩から戻ったナイルさんがレイラさんに気づいて駆け寄ってきた。

なんて言った? レイラの“姐さん”?

「ん? ああ、ナイルかい。チビの加減はどうだい?」

「お陰様で元気いっぱいっすよ! レイラの姐さんの解熱薬がよく効いたみたいで助かったっす!」

「そうかい」

話を聞くところによると、妹弟の多いナイルさんは、頻繁にレイラさんの薬のお世話になっているのだとか。小さな子供はよく風邪を引くし、熱も出す。レイラさんの薬はなくてはならないものなのだと熱弁してくれた。

「熱が下がったからって無理しちゃダメだよ。また困ったことがあったらいつでも訪ねておいで」

「姐さん……!」

ナイルさんの目が憧れの色を濃くしてレイラさんを見ている。うんうん、レイラさんって姉御肌っていうか、女の私でもドキッとしちゃうぐらい素敵な女性だものね。

「レイラの姐さんの薬は本当によく効くんっす! サチさんも調子が悪い時は姐さんの店に行くといいっすよ! 症状に合わせてあっという間に薬を調合しちゃうんっす!」

へえ、それはすごい。熟練の技というものだろうか。

私もナイルさんと並んで尊敬の眼差しを向けると、レイラさんは困ったように眉を下げて笑った。その笑顔に、どこか寂しげな影があるようで、僅かな引っ掛かりを感じた。

「私の【 天恵(ギフト) 】は【調薬】だからね。薬を作れるのは当然さ」

なるほど。レイラさんにピッタリの【 天恵(ギフト) 】なのね。

薬師としても一人前で、なおかつCランク冒険者だなんて本当に尊敬してしまう。

「あ、でも、戦闘向けの【 天恵(ギフト) 】ではないのに、どうやってCランクまで上り詰めたんですか?」

「ああ、それは工夫次第でどうとでもなるのさ。確かに私は他の冒険者と比べると力もないし剣の腕も立たない。だけどね、麻痺薬、対魔物の毒薬なんかを 鏃(やじり) や剣先に塗って隙をつけば、私にだって魔物は倒せる。慎重に罠を張ることだってある。無茶はせず、堅実に、確実に。身の丈に合わないことはしない。そうして着実に成果を積み上げていったのさ」

得意げな顔をしてみせるレイラさんの表情からは、先ほど抱いた違和感はなくなっていた。

「すごい……!」

自分の技量を過信せず、冷静に戦況を見極めて対応する。そうしてレイラさんは技術と信頼を積み上げてきたのだろう。

少し照れくさそうに語ってくれたレイラさんは、「ああ、そうだ」と何かを思い出したように私を見た。なんでしょう?

「あんた、マリウッツ氏とクエストに出たことがあるんだろう? 今度、私と薬草採取に出ないかい?」

「ええっ!?」

そういえば、この間薬屋で会った時に、近いうちに訪ねるって言ってたような気がするけど、まさかクエストのお誘いだったの!?

「大丈夫。せいぜいDランクのクエストさ。目的はもちろん薬の素材採取。重たい魔物を倒してここまで運んでくるのが大変でね。狩ったその場で解体できれば必要な素材だけをたくさん持ち帰れるじゃないか。実に効率的だと思わないかい?」

まるで名案だと言わんばかりに目をキラキラと輝かせるレイラさん。少し頬を紅潮させている様子から、よっぽど薬の素材集めが楽しくて仕方ないのだと察することができる。

ううーん。確かにレイラさんの言う通り、必要な素材だけをその場で【解体】して持ち帰ることができたら、何度もクエストに出ることなく、一度にたくさんの素材を集めることが叶う。

でも、クエストかあ……

クエストに不測の事態がつきものだということは、痛いほど知っているつもりだ。

とはいえ、隣国で相対したような脅威となる魔物がその辺りにウジャウジャいるわけでもないから、心配しすぎと言われればそうなのかもしれない。

うーん、となかなか返事ができずにいると、誰かが私の肩に手を置いた。

「おう、サチ。心配することはねえぞ」

「ドルドさん!」

安心させるようにポンポンッと肩を叩いてくれたのは、いつの間にか休憩から戻っていたらしいドルドさんだった。話に夢中で気づかなかった。

「まあ、薬草採取なら王都の近くの森だろう」

「ああ、ラーナの森だよ」

「なるほど。あそこには高ランクの魔物もいない、Dランクまでの魔物が出る初心者向けの森だったな」

「そうさ。気性の荒い魔物も少ないし、距離も歩いて一時間ほどだよ」

「ふむ、よく持ち込まれる魔物の生態を知ることも、仕事に活きてくるかもしれねえな。レイラはCランク冒険者としての経験が十分にあるし、信頼に足る。おう、レイラ。くれぐれもサチを頼むぞ」

「任せておくれ」

「えええ!?」

戸惑う私を置いて話がまとまってしまった。

「というわけだ。サチは私が守る。どうかついてきてくれないかい?」

そう言われて爽やかに手を差し出されては、その手を払うわけにはいかない。

「う……で、では、よろしくお願いします……」

こうして私は、ドルドさんの許可を得て、なんと二度目のクエストに出ることになりましたとさ。なんで?