軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 二度目の発動と【付与】の効果

ポイズングリズリーはBランク。

いつもであれば解体対象外の高ランク個体。

でも、私はこの感覚を知っている。

身体中の血が沸騰したように熱い、この感覚を。

あの日、スタンピードの最中に息を吹き返したサラマンダーを解体した時と同じだ。

私はチラリとアルフレッドさんと冒険者の皆さんに視線を流す。

「すみません……人前で【解体】を使わないって約束、守れそうにありません」

私は誰に言うでもなく誓いを破ることに謝罪をする。

私は約束を違えてでも、身を挺して庇ってくれたアルフレッドさんを守りたい。

腰に手を回し、ギュッとオリハルコンのナイフを握り締める。ナイフが私の覚悟に応えるように、ドクンと脈打ったような気がした。

『生命の危機を察知。エクストラスキルを発動します』

『エクストラスキルの効果により、瞬間的に【解体】可能な対象レベルを引き上げます』

「ポイズングリズリー。あなたを【解体】するわ」

「ガァァァァッ!!!」

ナイフを構えてポイズングリズリーに対峙すると、相手は威嚇するように大きく吠えた。ビリビリと鼓膜が震える。身体がすくみそうになるけれど、懸命に手を、足を鼓舞してポイズングリズリーを睨みつける。

あの時と違うのは、瀕死の状態ではなく、相手がほぼ無傷であるということ。

お互いに睨み合い、数秒の沈黙が落ちる。

ポイズングリズリーが鋭い爪を振り上げたと同時に叫んだ。

「【解体】!」

『【解体】対象、ポイズングリズリーを確認。スキルを実行します』

ブワッと身体を熱いものが駆け巡る。

大ぶりの爪は目を逸らさなければ回避することは難しくはない。巨体の体重をかけた一振りに、ぐらりとポイズングリズリーの身体が前のめりに傾いた隙をついて懐に飛び込んだ。

オリハルコンのナイフを真上に突きつけ、【血抜き】を発動する。ブシッと何かが弾けるような音がしたので、どうやらうまくいったみたい。そのままポイズングリズリーが倒れてくる重みを利用して深くナイフを突き刺し、押し潰されないように腹から足に向かってナイフを走らせた。股の下を潜って背後に回り、勢いを殺さずにナイフを振り上げる。

ポイズングリズリーの巨体が地面に伏したことを確認し、頭に流れ込んでくる解体の地図の通りにナイフを振るう。

どうやら脇の下に毒袋を持っているようなので、破かないように気をつけて取り除く。爪や牙にも毒がついているので誤って肌に触れないように切り落とす。

危険な部位を切り落としたらあとはいつものように解体するだけ。皮、肉、臓器、骨。スパパパァンと小気味よい音を響かせて解体完了した。

「はぁ……はぁ……」

『ポイズングリズリーの解体結果を記録しました』

やった……!

無事に【解体】することができた、と安堵の息を吐いてアルフレッドさんの方を向いた私は愕然とした。森の中からなんともう1頭のポイズングリズリーが雄叫びを上げながら突進してきていたのだ。

嘘でしょ……!? もしかして、2頭は番で行動していたとか!?

怒り狂ったポイズングリズリーが真っ直ぐにアルフレッドさんに向かっていく。このままだと、アルフレッドさんが危ない。とはいえ、走り来る魔物をどう【解体】すれば……と頭をフル回転させた時、ホルダーに下げた小型ナイフが私の手に触れた。

そして同時に、存在を確認したときには使い方が分からなかったスキルの効果を突然理解した。

私は素早くホルダーから小型ナイフを取り出すと、身体を大きく捻って投擲の構えを取った。迎え撃つ形で、ちょうど正面に向かってくるポイズングリズリーの額を狙う。

腕だけで力任せに投げるのではなく、身体全身を使って勢いよく、押し出すように。

何ヶ月もかけてマリウッツさんに教えてもらったことを思い出す。

そして、ナイフが手から離れる直前に、叫んだ。

「【解体再現】を――【付与】!」

『固有スキルの発動を確認。対象に【解体再現】の【付与】を実施します』

ブン、と小型ナイフが淡く黄色い光に包まれた。

最後に思い切り腰を捻って、【解体再現】の効果を【付与】した小型ナイフを投げた。

「いっけぇぇぇ!」

「ギャァァァァァァッ」

ナイフは見事にポイズングリズリーの眉間に突き刺さる。

そして、ナイフがカッと光って目にも止まらぬ速さで動いた。

あっという間に先ほど同様、危険な部位と肉、素材に瞬く間に【解体】され、仕事を終えたナイフはこてんと地面に転がった。

やっぱり、思った通り【付与】のスキルは道具に【解体】のスキルを付与するものだったんだ。

アルフレッドさんの昔話を聞いたときに、もしかしたら? と思っていた。

アルフレッドさんの【鑑定提示】のように、固有スキルはその人の特徴に合わせて独自に獲得するものなのだろう。

私が解体作業以外に練習していたことといえば、ナイフの投擲。その技術を生かすことができるとしたら、投げるナイフに【解体】の力を【付与】できたら、本当に便利になるな、とそう思ったのだ。

「サ、チさん……さすがです。今のは……?」

少し放心気味に考えに耽っていると、アルフレッドさんが呻き声をあげた。

「アルフレッドさんっ!」

腕を押さえるアルフレッドさんに急いで駆け寄り、断りを入れてから袖を裂いた。

「っ!」

もしやとは思っていたけれど、傷口から毒が入り込んでいて、じわじわと皮膚が赤紫色に変色していっている。

「はは……爪がかすったようです」

そう言って力無く笑うアルフレッドさんはびっしょりと脂汗をかいている。

解毒薬は全部マンティコアの咆哮で吹き飛ばされて使い物にならない。

治癒師は傷を塞ぐことはできても、身体を蝕む毒を除去することはできない。

このままにしていて、どれだけ保つ?

この皮膚の変色が心臓にまで届いたら……

「すみません……っ! 私が、私のせいで」

あの時、咄嗟に動けなかったから。ううん、そもそもこの状況下で結界の外に出るべきじゃなかった。今更ながらそう思って、浅はかな行動を猛烈に後悔した。じわりと込み上げる熱いものを必死に押し込めようと眉間に力を込める。そんな努力も虚しくポロポロと涙が溢れる。くそう、引っ込め。泣いてどうにかなるわけないのに。

「そんな……僕が自分の意思で、したことです。責任を……感じないでください」

「でもっ」

恐る恐る触れたアルフレッドさんの身体は炎を纏っているかのように熱い。必死に毒に対抗しようとしているのだろう。

身を挺して守ってくれたこの人を救う力は、私にはない。

「私が、毒も【解体】できたら――!」

アルフレッドさんの手をギュッと握って叫ぶようにそう言った瞬間、頭の中で機械的な声が凛と響いた。

『固有スキル【解毒】を獲得しました』

「えっ――!?」

私の願望が強すぎていよいよ幻聴が聞こえたの!?

いや、きっと、幻聴じゃない。

「アルフレッドさん! 少し痛むと思いますが、我慢してください」

「え……? 何を……?」

悩んでいる暇はない。試してみる以外の選択肢はないのだから。

オリハルコンのナイフを逆手に持ち、先端をアルフレッドさんの傷口に向ける。アルフレッドさんは驚いたように目を見開いている。ナイフを向けるようなことをして、ごめんなさい。

「【解毒】……!」

お願い、アルフレッドさんの身体を蝕む毒を解体して……!

願いを込めてナイフの切っ先をアルフレッドさんの腕に触れさせる。ナイフが触れた場所から、ジュワッと紫色の煙が立ち上った。

「え……」

煙が晴れると、赤紫色に変色して動かなかったアルフレッドさんの腕が、元の血色を取り戻していた。

「よ、よかった……!」

私はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。

「すごい……」

元の血色に戻った腕を、アルフレッドさんは信じられないとばかりにグルグルと回している。

それから駆けつけた冒険者の皆さんの手を借りて、私たちはピィちゃんが守る結界の中へと急いで身を寄せた。

ラフレディアとポイズングリズリーは全て片付いた。

あとは、マリウッツさんがマンティコアを討伐することができれば、今回の討伐は全て完了となる。

私たちは固唾を飲んでマリウッツさんの戦闘に見入った。