軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第56話 2人の騎士様

「サチさん!!」

ヘンリー様に半ば強引に街に連れ出された私は、彼の意外な一面に触れつつも無事にギルドに送り届けられた。

倉庫の扉を開くと、中から血相を変えたアルフレッドさんが飛び出してきた。

「あ、アルフレッドさん! すみません、ご心配をおかけしまし、たっ!?」

突然のことだったので、行き先も告げずに街に出てしまったことを詫びようと一歩前に出て、力強く肩を抱き寄せられた。

「ぶっ」

そのままの勢いで意外と厚い胸板に鼻をぶつけてしまう。

ぎゅっと私の肩に腕を回して、ヘンリー様から隠すように身体をひねるアルフレッドさん。

敵意をあらわにするアルフレッドさんに対し、ヘンリー様はおかしそうに肩を震わせている。だから、そういう態度が誤解を生むのですよ。

「サチさん、無事ですか? 何もされていませんか?」

「は、はい。大丈夫です。強いて言うならば餌付けをされていたぐらいで……」

アルフレッドさんが私の両肩に手を置いて怪我がないか入念にチェックをしている。

ち、近いですな……! 真剣な瞳に見つめられて、気恥ずかしくて視線を逸らした。

「あ」

アルフレッドさんの肩越しに、ちょうど戻ってきたところらしいマリウッツさんを捉えた。

「……何をしている」

お、怒っていらっしゃる……!

冷気が漏れ出ているのではと錯覚するほどに凍てつく視線をヘンリー様とアルフレッドさんに向けている。

ズカズカと歩み寄ったマリウッツさんが、強引にアルフレッドさんの腕の中から私を攫う。後ろから腕を回されて肩を抱かれる体勢になり、途端に身体が熱くなる。

「ちょ、ちょっと……! 私は無事ですから……!」

慌てて両手を胸の高さで振ったのがまずかった。

袖の先から覗く手首を見たアルフレッドさんとマリウッツさんがビシリと固まった。

ん? と思って自分の手首に視線を落とすと、そこにはくっきりと手で掴まれた跡が残っていた。捕まった時に結構強く掴まれたもんね。うへえ、ちょっと痛々しい。一晩もすれば薄くなると思うけど。

「ごめん。少し強く握りすぎてしまったね」

ヘンリー様も私の手首に気がついたらしく、申し訳なさそうに手を伸ばした。

けれど、その手をペシンとマリウッツさんに払われてしまう。

「気安く触るな」

ヘンリー様は驚いた顔をして払われた手を見つめている。

そして小さく肩をすくめると、私に微笑みかけた。

「……やれやれ、君の騎士たちに随分と嫌われてしまったようだ。まあ過保護になるのも頷けるぐらい、君は可愛らしい女性だからね。ごめんね、手首はしっかり冷やすんだよ。また出かけようね、サチ」

「え、あっ……」

ヘンリー様はひらりと手を振ると、颯爽と立ち去ってしまった。嵐のような人だ。

呆然とその姿を見送っていると、私の肩を掴む手に力が込められた。

「……すまない。俺が留守にしていたばかりに」

見上げると、マリウッツさんは苦しそうな、自分を責めるような悲痛な顔をしていた。

「いえ、僕もほんの少しだからとサチさんを1人にしてしまいました。本当にすみません」

アルフレッドさんも項垂れてしまっている。

「お2人は悪くありません! 私がもっと警戒すべきでした。これからは少しの距離でも1人で倉庫から出ません。それに、ヘンリー様も強引で誤解されやすい人なだけで、話してみると意外と……」

慌てて弁明しようとしたけれど、ヘンリー様の名前を出した途端、マリウッツさんの手に更に力が込められた。

「サチはもっと男を警戒すべきだ」

「え……?」

はぁ、と頭上からため息が降ってきて、マリウッツさんが腕の拘束を解いてくれた。

戸惑ってアルフレッドさんを見ると、彼も神妙な顔をして頷いている。

「首尾はどうじゃ? アル坊は何か分かったことはあるかのう? って、何じゃあこの葬式のような雰囲気は!」

気まずい空気を破るように現れたミィミィさんが、ぎこちない私たちの様子を見て目を丸くしている。

「いえ……自らの不甲斐なさを噛み締めていたところです」

「俺もだ」

「何じゃ何じゃ? む、サチ、その手首はどうした? すぐに医務室に行って【治癒】の処置を受けるぞ!」

「えっ、わっ!」

目ざとく私の手首に気づいたミィミィさんが、有無を言わさず私の背中を押す。

私はそのまま医務室へと連行され、治癒師の方の治療で綺麗さっぱり手首のあざはなくなった。

◇◇◇

迂闊だった。

同じ建物内にいるからと、人目があるからと、ほんの少しだけだからと、油断した。

正直なところ、ドーラン王国ではあまり見かけない植物型の魔物の資料集めに没頭していたことは否めない。1日でも早く解決に向けて動きたいと気が急いていた。

けれど、一番大切なサチさんの安全を疎かにしてしまうなんて。ギルドのサブマスター失格だ。

「……マリウッツ殿は、毎日どちらに行っているのですか?」

自分の不甲斐なさを棚に上げて、少し責めるような物言いをしてしまった。

マリウッツ殿は深く眉間に皺を寄せて、ゆっくりと首を振った。

「サチの身の安全のためには仕方がないとだけ言っておく」

苦しそうに表情を歪ませるマリウッツ殿には、人には言えない理由があるのだろう。

今置かれている状況に最も苦悩しているのは彼なのだから、ここで責めるのも筋違いだろう。これは、ただの八つ当たりだ。なんとも情けない。

「そうですか……すみません」

「いや、責められても仕方がないと思っている。結局はサチの身を危険に晒してしまったんだ。……このままではいられない」

拳を固く握りしめたマリウッツ殿は、瞳に決意の炎を宿していた。