軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ピィちゃんの1日 後編

マリウッツ同席の元、食堂で昼食を食べ終えたサチとピィちゃんは、再び魔物解体カウンターへと戻った。

「クアァ……」

お腹が満たされて眠たくなった様子のピィちゃんは、早々にカゴに滑り込むとスピヨピヨと寝息を立て始めた。

そして、魔物解体カウンターが賑わってきた喧騒により意識を浮上させると、夕刻を間近に、すでに魔物解体カウンターには冒険者の列ができていた。

「レッドボア5頭! ナイル、Dランクだがサクッと片付けろ!」

「はいっす!」

「コカトリス7頭か。ローラン、いけるな?」

「任せてくだせえ!」

「おっと、ブラックスパイダーに甲冑亀か。これはサチに任せるぜ」

「はいっ!」

昼頃までの穏やかな空気が一転、途端に戦場のように慌ただしくなる魔物解体カウンター。毎日のことではあるが、この時間帯の忙しさには解体の様子を観察しているピィちゃんですら目が回りそうになる。

さて、そろそろ所定の位置に向かうか、と伸びをしたピィちゃんが空いた作業台へと飛んでいく。

「ピィちゃん、これお願いね」

「ピィ助、頼むぜ」

「ピィさん、こいつもお願いするっす!」

「ピィちん、こっちも頼みますぜ」

魔物解体カウンターの面々が入れ替わり立ち替わりやって来ては、ピィちゃんの前に魔物肉の切れ端を置いていく。

魔物は肉や爪など、余すところなく使われているとはいえ、どうしても廃棄される部位は出てくる。ピィちゃんがやって来るまでは終業後にまとめて焼却して廃棄していたのだけれど、今はピィちゃんがペロリと平らげてくれている。環境にも優しく、余計な手間まで省けるので大変重宝しているのだ。

ピィちゃんとしても昼寝明けで小腹が空いている頃に食べ物にありつけるので、役得だと思っているようだ。

そうして終業時間の20時までひっきりなしに魔物が持ち込まれ、魔物解体カウンターの面々は、なんとか翌日への持ち越しなしに作業を終えることができた。

「はぁ、今日も疲れたぁ」

「ピィ、ピピィ」

「えへへ、ありがとう。ピィちゃんもお疲れ様」

借り物のナイフを綺麗に拭い、汚れたエプロンをバサリと叩いてから洗濯物カゴに放り込むサチ。作業着は各自で洗濯が必要だが、エプロンは毎日魔物の血で汚れるため、洗濯業者に一任している。

「よし、問題ない」

ドルドが今日の作業の記録を終え、今日の業務は終了である。

「お疲れ様でした!」

「お疲れ様っす〜。はぁ、今日も疲れたっす」

「まあ、明日への持ち越しがない分いい方ですぜい」

「おう、お前ら。この後時間あるか?」

心地よい疲労感を抱きつつ凝り固まった肩を回すサチたちに、ドルドが声をかけた。一同の注目を集め、ドルドはニヤリと笑うと右手でジョッキを握る仕草をしてクイッと傾けた。

「空いてます空いてます!」

「俺も空いてるっす! 奢りっすか?」

「ごちになります!」

「馬鹿野郎! ったく。ま、たまにはいいか」

「「「やった〜〜〜〜!」」」

ドルドからの飲みの誘いに、サチをはじめとしてナイルとローランも両手を上げて喜んでいる。比較的余力のある日にこうして皆で業務後に飲みに行くこともあり、もちろんピィちゃんも同席する。

ギルドに隣接する食堂はギルドが閉まってからは酒場として料理と酒の提供をしている。

食堂の一角に酒を提供するカウンターがあるため、その近くのテーブルに着席をしてメニュー表を開く。あれやこれやと品物を注文して、デン、と4人の前には大ジョッキが置かれる。ピィちゃんには深皿にミルクが用意された。

「お疲れ様でーす!」

チン、とジョッキを軽くぶつけて喉を反らせて冷たいエールを流し込む。

「カーッ! このために仕事しているってもんだなぁ」

「はぁ、幸せっすねぇ」

「これで明日も頑張れますぜ」

「ピィッ!」

皆は上機嫌でエールを飲みながら、次々運ばれる料理に箸をつけていく。ピィちゃんも先ほどまで魔物肉の切れ端を食べていたはずなのに、山盛りのコカトリスの照り焼きを前に涎を垂らしている。

「ふふっ、食べていいよ。これはピィちゃん用に頼んだから」

「ピィィィィィッ!!!」

サチに最大限の感謝を伝えながら照り焼きに齧り付く。ピィちゃんは生でも魔物肉を食べられるが、こうして人の手が加わった料理の方が好きなのだ。

野生で生きていた頃には味わえなかった料理を噛み締めながら、ピィちゃんはサチを盗み見る。

「あはは! それはナイルさんが悪いですよー」

ほんのり頬を染めながら同僚と和気藹々と歓談している様子に、ピィちゃんも嬉しい気持ちになる。美味しい料理やお菓子をもらう時ももちろんだが、サチが楽しそうに笑っている時が一番幸せを感じるのだ。

突然発生したスタンピードで興奮したサラマンダーに襲われたピィちゃん。

いつもは居ない外敵の不意打ちに為す術なく丸呑みにされてしまった。

防御魔法を得意としていたことが幸いして消化されずに済んだものの、結界ごしに攻撃することもできず、魔力が切れてサラマンダーの肥やしになるものだと半ば諦めていた時、視界がパァッと明るくなった。

暗い肉壁がこじ開けられ、ピィちゃんの目に飛び込んできたのは、驚き目を見開くサチの姿であった。サラマンダーは一人の人間の手によってバラバラに解体され、そのおかげでピィちゃんは再び外の空気を吸うことが叶ったのだ。

命の恩人であるサチに保護され、一緒に生活するようになってからというもの、ピィちゃんは毎日充実した日々を過ごしている。

魔物解体カウンターの面々をはじめ、アルフレッドやマリウッツ、それにアン。ギルドの職員やギルドに出入りする冒険者もみんなピィちゃんを可愛がってくれる。人間は魔物を狩る恐ろしい存在だと教え込まれてきたが、まさか人里で暮らすことになろうとは。

今は幸福を享受するばかりであるが、いつか大好きな主人の身に危険が迫った時には、身を挺して守ろうと、そう決めている。もちろんそんな日が来ないことを祈ってはいるのだが――

サチの秘めたる力や可能性は、これからもどんどん増していくのだろう。

その時、大きな事件や依頼に巻き込まれないとも限らない。

今は非力な子竜だけれど、サチを守る力をつけるためにたくさん魔物肉を食べるように努めている。当のサチにはただの食いしん坊だと思われているのが解せぬところではあるが、今のピィちゃんにできることといえばこれぐらいなのだ。

「あー! みんなだけ狡い! 私も誘ってよ!」

その時、頭上から降ってきた明るい声に顔を上げると、そこにいたのは頬を膨らませたアンだった。

「おう、アンか。お疲れさん。同席すっか?」

「もっちろん! すみませーん! エールお願いします! 大ジョッキで!」

空いた席にちゃっかりと腰掛けて、すぐさま注文するアンにドルドは苦笑している。アンが加わってますます賑やかになった場は、和やかな笑い声に溢れていた。

◇◇◇

「はぁ、お腹いっぱい」

「ピィ〜」

明日も仕事ということで、日付が変わる前に解散となった。

ピィちゃんはサチの腕に抱かれながらウトウトとまどろんでいる。

「眠い? 部屋に着いたら先に寝ててね」

この後サチは共有スペースの風呂へと向かう。

ピィちゃんもたまに一緒に入って温まるのだが、今日はもう眠気の限界だ。

「ピィ……」

温かなサチの腕に抱かれながら、ふわふわと雲の上にいるような心地で眠りの国へと誘われていく。

「おやすみ」

月の光だけが青白く照らす室内に入り、ベッドの端へとそっと下ろされる。

風呂の準備をするサチを横目に、ピィちゃんは眠りの世界へと落ちていった。