軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【コミックス2巻発売記念SS】サチは仕事脳

「では改めて〜……サチの無事の帰還を祝して、かんぱぁい!」

「乾杯!」

チン、と軽やかな音を響かせながらジョッキを合わせる。

なみなみと注がれた琥珀色のエールがとぷんと揺れ、慌てて口をつけてグッと煽った。

マリウッツさんとの鉱石採取クエストを終え、ガンドゥさんにオリハルコンを預けた翌日の夜、仕事終わりのアンと合流した私は行きつけの酒場に来ていた。

今日はお休みだったから、ピィちゃんと昼過ぎまでたっぷり寝て疲労も残っていない。明日からまたバリバリ働けそうだ。

「ぷはあ〜! おいしいわあ〜……で、初めての王都の外はどうだったの?」

お通しに箸を伸ばすアンに尋ねられ、私は王都の外に広がっていた景色に思いを巡らせる。

「すっごく広かった! あたり一面草原で、マルニ山脈に入ってからは景色も一変してゴツゴツした岩場になって……ピクニック気分ってわけじゃなかったけど、正直ちょっとワクワクしちゃった」

「うふふ、まあ仕方ないわよお。私も何回か隣町まで乗合馬車で行ったことがあるけど、城壁の外に出る時はどうしても心が浮ついてしまうもの。魔物が出なければねえ」

「そうだね」

実際、アルフレッドさんに貰った魔除けの腕輪と、大陸一の実力を誇るマリウッツさんの同行があったからこそ、こうして何事もなく無事に帰還できたのだから。

よほどの用事がない限り、城壁に守られた安全な王都を出ることはないだろう。次に外に出るのはいつになることやら。

「それで? 大冒険の話を聞かせてよお」

続々と運ばれてくる料理を楽しみつつ、既にほんのり頬が赤くなってきたアンにおねだりされる。合わせた両手を頬に添えてコテンと首を傾ける甘えた仕草があざといけど可愛い。

「大冒険ねえ……マルニ山脈に入るまでは基本的には草原と森だったかな。魔除けの腕輪の効果なのか、マリウッツさんが怖かったからか、低ランクの魔物は遠目にこっちを見てたけど襲ってくることはなかったわね。交戦……というかマリウッツさんが倒してくれたのも出会い頭に遭遇した個体ぐらいだったよ」

「へええ、さすがマリウッツ様! よっ、Sランク冒険者様!」

ふにゃりとした笑顔でジョッキを掲げながら、アンが陽気に声を上げる。

「ふふ、本当にすごかったよ! 私が認識する前に倒しちゃってるから、気づいた時には魔物は討伐されたあとだったしねえ。それで予定通り日が暮れる前にはマルニ山脈に到着して、山の麓で野宿したの。アンは受付嬢だし、【圧縮】の魔道具のことは知ってる? 初めて見たからびっくりしちゃった!」

「【圧縮】ね! 便利よねえ〜! あれ、本当に高価な魔道具なのよお。【圧縮】の魔道具を買うことを目標に頑張っている冒険者もいるぐらいなんだから! でも、やっぱりマリウッツ様は持っていたのねえ。お買い物にも便利そうだし、私もお金を貯めて買っちゃおうかなあ」

アンはポンポンとハンコを押すような仕草をしながら真剣に悩み始めた。確かに、アンは買い物が好きだから両手が買い物袋でいっぱいになるまで買うものね。私は今のところ困ってないけど、あの便利さを目の当たりにしちゃうと欲しくなってしまう。

「マリウッツさんが野宿の道具を一式【圧縮】で持ってきてくれていたから、快適に眠れたよ。それで、二日目は朝から探索。なかなか目ぼしい鉱石が見つからなかったんだけど、ピィちゃんが怪しい洞窟を見つけてくれてみんなで中に入ったの」

「やだ、洞窟!? 真っ暗だしジメジメしてそうだし虫も魔物も多そうじゃない!」

いやああ、とアンは大袈裟に顔を顰めながら両手で自分の身体を抱きしめて腕を摩っている。お酒が入っているから、さっきから動きが大袈裟だわ。

「私も怖かったけど、マリウッツさんとピィちゃんが居てくれたから。洞窟の奥にひらけた空洞があってね、そこに灯籠草と甲冑亀の群れがいたの。あとは受付で提出した通り、しっかり素材を採取できたってわけ」

「なるほどねえ〜しっかり大冒険じゃないのよお。それで、マリウッツ様との心の距離も近づいたってことね」

むふー、と鼻の穴を膨らませながら、アンがニタニタと目元を細める。

「うーん……どうだろ? 確かに話す機会は多かったし、冒険者のこともマリウッツさんのことも色々知ることはできたかな。オリハルコンのナイフが無事に完成したら、もっともっとマリウッツさんが持ち込む魔物を解体したいと思ってるよ! それが私にできる最大限のお礼だしね」

やる気満々です、と意思表示するために腕まくりをして力こぶを作ってみせると、さっきまでニタニタしていたアンの表情が途端に崩れて呆れ顔になった。

「サチはまずその仕事脳をどうにかしないと、にっちもさっちもいかないわねえ。男性陣が不憫だわあ」

「男性陣?」

マリウッツさんにアルフレッドさん、それからドルドさん、ローランさん、ナイルさん。

いつもお世話になっている彼らに何か不便を強いているのだろうか。

「あー、ごめん。誤解しないで頂戴。何も迷惑かけてないし、むしろみんなサチの存在に救われているんだから。私も含めてねえ」

不安な気持ちが顔に出てしまったのか、アンが片手をひらひら振って否定してくれた。

「本当? それならよかった……」

元々住んでいた世界も違うから、自分だけ浮いてしまっていないか不意に心配になることがある。悩んだり不安になっている時間があれば仕事に邁進していた方がずっとマシだから、あまり深く考えないようにはしているけれど、きちんと言葉にして認めてもらえるのは本当に安心するし、心がじんわりと暖かくなる。

えへへ、と照れくさくなってはにかめば、「んもう、サチってば可愛いんだから〜!」とアンがベッタリと抱きついてきたので笑って受けとめた。

今回のクエストで得たのはオリハルコンだけではない。

改めて私は人に恵まれているなと感じることができた。

マリウッツさんのおかげで、目的のオリハルコンを手に入れて凄腕鍛治師のガンドゥさんに専用ナイフを頼むことができた。

アルフレッドさんには終始心配をかけてしまったけれど、餞別に魔除けの腕輪を貸してくれて、快く送り出してくれた。

この世界の父親のような存在のドルドさんも、クエストに出る私の背中を押してくれたし、ローランさんとナイルさんは不在時の魔物解体カウンターで頑張ってくれている。

それから、いつも困ったことがあれば笑顔でアドバイスをくれて、些細な話から大切な話まで何でも聞いてくれるアン。

みんなに恩を返すためにも、もっともっと仕事を頑張ろう! と思って、(あ、こういう思考がアンに仕事脳って言われるのか……)とひっそり苦笑いを漏らしたのだった。