軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 大収穫祭開始!

「おら、Dランク! ローラン、持ってけ!」

「げえっ! まだ先客が終わってませんぜ!」

「うるせえ! さっさと片付けろ!」

「鬼ィィィ!」

「ナイルも手伝ってやれ! 2人でやりゃあ少しは早く片付くだろう。それでまた次の獲物に取り掛かれ!」

「は、はいっす!」

「おら、サチ! またホーンラビット追加だ! チッ、どうやら群れでラディッシュベリーを狙ってたらしいな。まだまだ来るぞ!」

「ヒィィィン!」

アンと街に出かけた1週間後、大収穫祭が始まって、王都を拠点とする冒険者のほとんどがラディッシュベリーの収穫及びベリーを狙う魔物の討伐に繰り出した。

まだ昼も迎えていないというのに、運び込まれる魔物の山。

【解体】でどんどん捌いているのに魔物の山は一向に減らない。作業する側から積み上げられていくからである。

い、忙しい忙しい忙しい〜〜〜〜!!!

いつも以上にDランクやCランクの魔物も多く、ローランさんとナイルさんはそっちに手一杯。自ずとEランク以下を一任されることとなった私は、半ベソをかきながら能力を使いまくっていた。

ずっと腕を振りっぱなしだけど、不思議と【解体】を使用していると腕が疲れることはない。やってもやっても終わらない魔物の山を前に、精神的には疲弊しきっているんだけどね。ははは。

なんて、泣き言ばかり言っても仕事は減らない。

この感じ、社畜時代の繁忙期を思い出すわあ……

一番ひどい時で3徹はした。年度末と締め切りが被りまくって、さらに追加で仕事を任された時には死ぬかと思った。まあ、人間死ぬ気になればある程度のことはできると身をもって証明することになったんだけど、あんな地獄は二度とゴメンだわ。

「サチ! ワイルドブル7頭だ! いけるな?」

「はいぃぃっ!」

ひーん!

どこからこんなに魔物が湧いて出るわけ!?

もはや自暴自棄になりながらひたすらに腕を振り続ける私。

「ローラン! さっきの魔物はまだ終わらねぇのか!」

「急いでやってますって!」

『経験値を獲得しました』

「ナイル! レッドボア3頭、任せるぞ!」

「ヒィィ! Dランクを一気に3頭っすかぁ⁉︎」

『レベルアップに必要な経験値を獲得しました。能力レベル4にアップします』

「口を動かす暇があったら手を動かせ! 大収穫祭は始まったばかりだぞ! 初日から積滞させてちゃあ、この先どうなるか分かってるだろうなぁ!」

『解体対象が拡大されました』

「サチ! コカトリスだ! Eランクだから任せるぞ」

「はいぃぃぃ!」

もはや誰が発言しているのか分からなくなるほど混沌とする魔物解体カウンター。

何か大事なことを聞き逃した気もするけど、とにかく今は目の前の魔物に向き合うべし!

「く……これは……」

その時、いつものように淀みなくテキパキと魔物を振り分けていたドルドさんの手が止まった。

どうかしたのかと作業の合間に盗み見ると、初めて見る魔物がカウンターにデデンと横たわっていた。

「Cランク、双頭狼じゃねえか。こんな凶暴な魔物までラディッシュベリーを狙ってるっていうのか? こいつは毛皮がすこぶる硬い。無理に剥ごうとすりゃ、品質がガクッと落ちちまう。……はぁ、これは俺がやるしかねえな」

ドルドさんはローランさんとナイルさんに目配せしたけれど、2人とも目の前の仕事に一杯一杯でドルドさんの様子に気づいてすらいない。

「はぁ……仕方ねえ。サチ、悪いが少しの間カウンターを頼む。昼時になって少しは落ち着くだろう。なるべく早く戻るようにする」

「えっ! ちょ……ドルドさんんんん!?」

ドルドさんは一方的にそう言い残すと、私の返答を待たずに斧のように巨大な出刃包丁を担いで年季の入った作業台へと向かってしまった。

え! そんなことを言われましても!

ドルドさんに縋るように伸ばした手は空を掴むばかり。

私は諦めて直前まで受けていた魔物をシュパパパパァン! と一掃すると、急いでカウンターに出た。

と、その時。

ドカッと少し乱暴にカウンターに魔物が置かれた。Dランクのブラックスパイダーだ。

「貴様、解体担当だったのか」

「え……ま、マリウッツ様!?」

頭上から降ってきた氷のような声に、弾かれたように顔上げると、そこには無表情な美貌を携えたマリウッツ様がいた。

受付カウンターで少し顔を合わせただけなのに、私のことを覚えているらしく、サッと顔が青ざめる。

「ドルドはどうした。依頼主は早急にこいつの糸を欲している。悪いが至急解体してくれ」

そうは言われましても、ドルドさんはCランクの双頭狼にかかりっきりだし、ローランさんとナイルさんも山積みの魔物を前に悲鳴を上げている。

「え、えっと……すみません、大収穫祭の影響で魔物解体カウンターは多忙を極めておりまして……ドルドさんも作業に入っておりますので、終わり次第解体させていただきますので……」

おずおずと事実を伝えるも、マリウッツ様の怜悧な瞳がスウッと細められる。ひいっ! 怖い!

「それだと間に合わん。……ふん、仕方がない。ドルドの腕には劣るだろうが、貴様も そ(・) こ(・) にいるということは魔物解体ができるのだろう」

「は、はい……一応は」

ヤダヤダ、すっごく嫌な予感がする。

「この際、担当は誰でもいい。ドルドを待っている時間が惜しい。急ぎで解体してくれ」

ですよねー! そう来ますよねー!

でもブラックスパイダーはDランクなんですよ!

私の担当はEランクまでで……ん?

と、そこで私はふと思い出した。

そういえば、ドルドさんやローランさんたちの怒号にかき消されて聞き取れなかったけど、天の声が何か言ってたような……

私はチラリとブラックスパイダーに視線をやる。

Dランクの魔物。今朝までの私では【解体】対象外のランクである。

よし、もし本当に天の声が何か言っていたとすれば、それは恐らく能力レベルアップのお知らせ。もしかするともしかするかもしれない。ここで押し問答をしていても何も生まれないし、やってみるしかないのでは?

「わ、わかりました! 少々お待ちください!」

私は意を決してブラックスパイダーを荷台に乗せて空いている作業台に運んだ。マリウッツ様の後ろにはすでに次の魔物を抱えた冒険者たちが列を作っている。急がなきゃ。

「ふぅぅ……頼むわよ。【解体】!」

言うや否や、カッと身体が熱くなる感覚に襲われ、頭の中にブラックスパイダーの情報が流れ込んできた。分かる。いける!

私は導かれるがままにナイフを入れ続ける。

ブラックスパイダーのことは魔物図鑑を熟読しているので、基本情報は頭に入っている。確か、胃の少し下に糸をつくる器官があったはず。マリウッツ様は糸が必要だと言っていた。ブラックスパイダーの糸は銀糸のように光を反射して美しく輝き、その強度も一般的な絹糸とは比べ物にならないほどの強さを誇っている。にも拘わらず加工がしやすく、服飾店から時折討伐依頼のクエストが入ってくる魔物である。

本当、魔物図鑑をまとめてくれたアルフレッドさんに感謝だわ。

拝むのは心の中にとどめつつ、手を止めることなくブラックスパイダーを捌き、糸をつくる器官を傷つけないように丁寧に取り出す。

「よし……! できたわ!」

『経験値を獲得しました』

『ブラックスパイダーの解体結果を記録しました』

『解体結果の記録により、以降、同種個体の【解体再現】が可能となります」

よしよし! 無事にブラックスパイダーの解体記録も取れたみたい。

きっと能力レベルが4に上がって、対象のレベルもDランクまで引き上げられたのね。

ホッと安堵したのも束の間、「終わったのなら素材を持ってこい」と冷たい声を背中に受け、慌てて荷台に積み直してカウンターに戻る。

「お、お待たせしました……!」

急いでブラックスパイダーの素材を布に包んで差し出すと、マリウッツ様はなぜかじっと私の顔を見ていた。何!? 何か粗相をしましたでしょうか!?

内心すくみ上がっていると、マリウッツ様が僅かに口角を上げた、ように見えた。

「随分と早いな。驚いた。早さでいうとドルドにも勝る。それに断面も美しい。糸も綺麗に取り出してくれたようだな」

「え……あ、ありがとうございます?」

えっと、もしかして、褒められてる?

相変わらず表情は硬いけど、満足げな顔をしているようにも見えなくはない。

「……次もまた頼む」

「はい! ……ん? えっ!?」

反射的に返事をした私を残し、マリウッツ様は解体素材を担いで颯爽と去っていってしまった。