軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第117話 マリウッツの過去① ◆マリウッツ視点

「どうしてそんなこともできない。無駄な動きが多すぎる」

所属するパーティのリーダーを前に、俺は腕組みをして進言した。

先日の戦闘で、クルトはCランクの魔物を相手に怪我をした。

鋭い爪が肩を擦り、深い傷ではないが肩に巻かれた包帯がその怪我が完治していないことを表している。

どうもクルトは振りが大きすぎて攻撃の後に隙を生じさせやすい。

それは致命的な弱点だ。

知能が高い魔物を相手取ると、きっとクルトの弱点はあっという間に看破されるだろう。そうなると命に関わる。

だからこうして弱点克服の鍛錬に付き合っているのだが――

「あのなあ、お前が要領良すぎるんだっての。簡単に言うけどよ、俺らみたいな一般人には難しいの!」

そう言ってクルトは仰向けになって地面に転がった。これ以上鍛錬はしたくないと態度で示してくる。不貞腐れた様子がまるで子供のようだ。

「そうなのか」

鍛錬といっても、少し剣を交え、クルトが自ら生み出す死角を狙ってひたすら切り込んでいただけなのだが。

ピンと来ない俺の態度が気に食わないらしいクルトの唇が一層尖っていく。

「くっそー! いつかギャフンと言わせてやるからな!」

起き上がってビシリと指を突きつけてくるあたりがまた子供のようだ。

だが、思ったままを口にするとますますクルトは不機嫌になるということは流石に分かるので、喉元まで出かかった言葉は胸の奥にしまいこんだ。

◇◇◇

「はあ〜、それにしても本当にお前は強いなあ。でもよ、もう少し周りを見てみたらどうだ? なんでも一人でやろうとするのはお前の悪い癖だぜ」

その日の夜、焚き火を囲みながら昼間に仕留めた魔物の肉を焼いていると、クルトが思い出したように話題を振ってきた。

「? なぜだ。一人ですべて事足りるに越したことはないだろう。その分浮いた人員を他のクエストに回すことも叶う」

クルトの言わんとすることが分からない。

昼間の戦闘は俺一人で十分だと判断したため、クルトがパーティに指示を出すよりも早くに魔物を切り伏せた。

魔物の数が多い場合、俺が魔物を引き付けている間に、後衛が魔法系の【 天恵(ギフト) 】の発動準備ができる。それに、もし一般人が魔物に襲われていて避難を優先する必要がある場合、俺が囮になることで悠々と人命救助ができるというもの。

表情を変えずに首を傾けると、クルトが呆れたように肩をすくめた。他の二人も困ったように微笑んでいる。同じパーティメンバーで、クルトと同郷のリーリアとソリドだ。

「まったく、そういうところだぜ」

そう言ったクルトの目は、僅かに寂しそうに見えた。

◇◇◇

ある日、立ち寄った町で各々自由に散策している時、アクセサリー店の前で店内を食い入るように覗き込んでいるクルトを見つけた。

「クルト」

「うおう!? ああ、なんだマリウッツか。驚かせんなよ」

「声をかけただけだが」

名前を呼んだだけなのに、クルトは飛び上がって驚いていた。よほど集中していたのだろう。

「何か欲しいものでもあるのか? 随分熱心に見ていたようだが」

クルトの横に立ち、ガラス張りの店内を覗く。

ガラスに映ったクルトはバツが悪そうに頭を掻いている。

「なあ、マリウッツって歳いくつだっけ」

「なんだ、いきなり。…………十七だが」

俺は少し逡巡してから答えた。自分の年齢にはあまり関心がないため、すぐに答えることができなかったのだ。

だが、クルトはそんなことを気にする素振りもなく天を仰いだ。

「俺と同じか〜! 同い年でこの違い、なんなんだろうな。育ちの違いか?」

遠慮を知らないクルトは、俺を上から下までしげしげと観察してくる。不思議と嫌な気持ちにはならないが、少し居心地が悪い。

「大して変わらんだろう」

クルトこそ、俺に持っていないものをたくさん持っていると思うのだが。

気心の知れた幼馴染、何事にも前向きな姿勢、飽くなき探究心と向上心。

クルトという男は、とにかく前向きで底抜けに明るい。喜怒哀楽がすぐ顔に出るので分かりやすい。そして、こうと決めたことにはとことん強情になり、諦めることを知らない。日々、「いつかドラゴンを倒すような冒険者になってやる!」と息巻いている。

同郷のリーリアとソリドによくフォローされているが、二人はパーティのリーダーとして、クルトを心底信頼している様子だ。

クルトのそばにいると、たまに自分との違いをまざまざと思い知らされて、眩しくて仕方がない時がある。

幼い頃から信頼できる人間が近くにおらず、常に猜疑心を抱いて生きてきた俺にとって、言葉なしに通じ合う仲間の存在はどんな希少な鉱石や武器よりも手に入れ難いものだ。

そのことは心のうちに秘めているため、クルトに話したことはない。

猪突猛進で危なっかしいところがあるが、俺もそれなりにこの男を信頼しているのだと思う。

これも何だか癪に障るので口には出さないが。

「ま、見られたなら仕方ない。腹を括るか。よし、ここで会ったのも何かの縁だ! 付き合えよ、マリウッツ!」

「何にだ? お、おい」

クルトはどこか開き直った様子で俺の腕を掴むと、「すみませーん」と声を上げながら店内に続く扉を開けた。まさか店内に連れ込まれるとは思ってもみなかったので、反応が遅れてしまう。

クルトは真っ直ぐに耳飾りのもとへと向かった。俺も諦めてついていく。

「ああ、やっぱり。リーリアの瞳の色そっくりだ」

恐らく、店の前から見ていたのはそのアクセサリーだったのだろう。クルトはとある耳飾りを指さして、店員に頼んで出してもらっていた。

その耳飾りは、桃色の花弁が美しく加工されており、細かな宝石が嵌め込まれていた。

クルトは穴が開くのではないかと思うほど、出された耳飾りを凝視していた。その目はとても優しくて、耳飾りを通して誰を想っているのかは想像に易い。

やがて、クルトは俺に意見を求めてきた。

「なあ、お前だったらこれを贈られて嬉しいと思うか?」

「俺が? 贈り物を貰う……?」

考えてみるが、これまで経験したことがないのでよく分からない。

そもそも、女性への贈り物の是非を男の俺に聞くのもどうかと思うのだが。

「……分からん。俺には贈り物をしてくれる優しい家族も友人もいなかったからな。それに、これは女物だろう。女への贈り物を男の俺に聞いても意味がないのではないか? リーリアもクルトが選んだものなら無下にはしないだろう」

事実を言っただけなのだが、またクルトは苦悶の表情を浮かべた。

どうしてそんな顔をするのか、やはり俺には分からない。

「まあ、確かに。ビックリするぐらい整った顔をしているってのに、お前は女にこれっぽっちも興味ないもんなあ。……よし! 決めた。俺はこれを買う! それと、次の誕生日にでも俺がマリウッツに何か贈り物をしてやるからよ、欲しいものでも考えとけよ」

クルトは理解し難いことを口にしてから、耳飾りを贈り物用に包んでほしいと店員を呼んだ。

「……お前が俺に贈り物を? どうしてだ?」

俺はどうしても理解が追いつかずにクルトに尋ねた。

クルトは心底呆れた顔をしてから答えてくれる。

「お前なあ……それぐらい分かれよ。俺とお前が友達だからだろ」

「……友、なのか?」

「うーわっ、それは流石の俺も傷つきまーす!」

ふざけた態度で肩をすくめるクルト。

友というものが、どういうものか俺にはよく分からない。だが、そう呼ばれて「悪くない」と思っている自分がいるのもまた事実だ。

「そうか、俺はお前の友なのか」

「おうよ。同じパーティの仲間でもあり、友達だ!」

「……そうか」

恥ずかしげもなく胸を張るクルト。

ほわりと胸が温かくなるのを感じ、思わず表情が綻んだ。

「…………へえ、初めて笑ったところを見たな」

珍しいものを見るように、クルトはポカンと口を開けて呟いた。

「俺は今、笑っていたのか?」

自分の口元を指でなぞるも、それだけではどんな顔をしているのかは確認できない。

もう随分と笑っていなかった気がする。笑い方すら忘れてしまうほど、長い間ずっと。

「お前はいつも仏頂面で目つきも悪いし、何考えてるか分かんねえけどよ、少しずつでも笑える日が増えるといいな!」

そう言ってニカッと歯を見せたクルトの笑顔は、とても眩しかった。