軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 葬儀と決意

空が泣いていた。

――――――――――

数日後。

母の葬儀が行われた。

母は静かな人だった。

目立つことを好まず、穏やかで、柔らかくて。

だから葬儀も、大仰ではなく慎まかに執り行われることになった。

儂はサリーに抱えられて、そこへ参列する。

「ミリアム……どうして……どうして、儂を置いていってしまうんだ……」

「ああ、なんてこと……なぜこのようなことに……」

意外、と言うべきなのかもしれない。

王と正妃が涙を流していた。

母は側室。

王家の血を残すために迎えられた存在。

だから、王との間に愛は薄く、正妃からも疎まれているのではないか……そんな噂を、儂もどこかで本当のものと受け止めていた。

でも違う。

王は本気で悲しんでいた。

正妃もまた、心から母の死を悼んでいた。

きっと、親友のような間柄だったのだろう。

少なくとも互いに深い情があったのは疑いようがない。

それだけ深く悲しんでいた。

それは二人だけではない。

メイドも、執事も、騎士も……

城で働くありとあらゆる人が。

そして民でさえも、母の旅立ちを確かに悲しんでいた。

「ああ、そうか……」

ようやく理解した。

母は、こんなにも多くの人に愛されていたのだ。

そのことが、少し嬉しくて。

でも、嬉しいだけでは終わらない。

今さらながらに、それだけの人を失ったのだと理解してしまって胸が苦しくなった。

寂しい。

悲しい。

痛い。

……つらい。

「アリエル様……お別れの時間ですよ」

サリーの声で棺の前へ出る。

「……かーさま……」

棺の中の母は静かに眠っていた。

綺麗な顔だった。

死んでいるとは思えぬほど穏やかで、今にも目を開けそうな顔だ。

でも違う。

もう二度と起き上がらない。

もう二度と笑いかけてくれない。

もう二度と頭を撫でてくれない。

もう二度と抱きしめてくれない。

何も……返ってこない。

「うぅ……」

気づけば涙がこぼれていた。

泣いてはだめだ、と思った。

儂は強くならねばならない。

そうでないと母が安心して旅立てない気がした。

儂は、前世で黒騎士と呼ばれていた。

人の死など、当たり前のように見てきた。

だからこれくらいのことで、取り乱していては……

「うぁあああああーーーんっ!!!」

だめだった。

我慢なんてできるわけがない

涙は止まらない。

胸の奥から溢れてくるものを押し込めることなど、できるはずもなかった。

「アリエル様……!」

サリーに、ぎゅっと抱きしめられる。

「あああああーーーー!!!!!」

そのまましばらく、儂は泣き続けた。

――――――――――

葬儀が終わり、自室へ戻る。

ぼんやりと座っていた。

何も考えられないようでいて、頭の中では色々なものが渦巻いていた。

「儂は、また……失ってしまったのか……」

前世では国を守れず。

今世では母を失った。

儂の人生は、ずっとこうなのだろうか?

大事なものを手に入れたと思えば、また失う。

そんなことばかりが続くのだろうか?

絶望、という言葉が頭をよぎる。

こんな儂に、生きる意味などあるのか。

そんなことまで、少しだけ思ってしまうほどに心が沈んでいく。

「アリエル様」

気づけば、サリーが隣にいた。

いつ入ってきたのかもわからない。

それほど、儂はぼんやりしていたらしい。

「私がいますからね」

「……サリー……」

「私は、ずっとずっとアリエル様と一緒ですよ」

「……ほんと?」

「約束します」

サリーの顔は真剣だった。

聞けば、サリーは母の最期に立ち会ったらしい。

もしかしたら、その時、儂のことを頼まれたのかもしれない。

そうして今、新しい決意を胸へ抱いているのだろう。

一方、儂は何をしている?

何もしていない。

ただ悲しんで、泣いて、うずくまっているだけ。

だが、それを母は望まぬはず。

打ちひしがれている姿なんて見たくないはず。

それに……そうだ。

儂は母と約束したではないか。

やるべきことを見つけて、それを貫き通す……と。

「ありがと、サリー」

「……アリエル様……」

「わしは、だいじょーぶじゃ」

そう……いつまでも、悲しみに沈んでいるわけにはいかない。

やらねばならないことがある。

ずっと迷っていた。

悩んでいた。

新しい生でなにをすればいい?

どこへ向かえばいい?

だが、それが今、ようやく見えてきた。

母は、この国を愛していた。

民を愛していた。

だからこそ、多くの者に愛されていた。

ならば、その想いを儂が継ごう。

儂が、この国を愛そう。

そして守ろう。

前世では国のために生きた。

だが、守りきれなかった。

だからこそ……今度こそ守る。

母が愛したこの国を。

この国に生きる者達を。

「……絶対に守る!」

その時、儂の中で何かが定まった気がした。

悲しみの底から、ようやく一筋の道が見えたのだ。