軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37話 よくやりました

……夢を見た。

綺麗な青空。

足元には色とりどりの花が咲いていて、それが地平線の果てまで広がっている。

こんな光景見たことがない。

現実のどこを探しても、こんな場所はないと思う。

それほどまでに綺麗で神秘的な光景だった。

「もしかし、儂……死んでしもうたか?」

このような場所、死後の世界くらいしか思い浮かばない。

ドラゴンを討ち、力を使い果たし、そのまま……という可能性は十分あった。

「とはいえ……」

辺りを見回す。

「雰囲気から察するに、天の国のように見えるが……むう? 儂の死後は、地の底の底、地獄あたりかと思うておったのじゃがな」

前世を含めて、悪そのものへ堕ちたつもりはない。

だが、人を斬ってきたのは事実。

正義のためだろうが何だろうが、血にまみれた生き方をしてきた。

だから、このような綺麗な場所はどうにも落ち着かない。

場違いな気がして仕方ない。

「……ん?」

ふと、人影が見えた。

花の香りがやわらかく漂う中、白いドレスをまとった女性が一人、こちらへ背を向けて立っていた。

顔は見えない。

だが、儂にはすぐわかった。

わからないはずがない。

「かーさま……?」

声をかけると、女性はゆっくりと振り返る。

「アリエル」

「……かーさま……」

やはり、母だった。

少し若く見える。

だが、ふんわりと笑うその顔は間違いなく母様だった。

「ど、どうして、かーさまが……」

「ずっと、ここで見守っていましたよ」

母は優しく微笑んだ。

「よくがんばりましたね、アリエル」

「……っ……」

喉の奥が詰まる。

二度と聞けないと思っていた声。

二度と見られないと思っていた笑み。

そして、労いの言葉。

「儂は……守れたかのう?」

涙が滲む。

だが、今はまだこらえた。

「儂……今世こそは、と思っていたのじゃ」

「ええ」

「前世では守れなかったから……かーさまが愛した国を、今度こそ守りたかったのじゃ」

「守れましたよ」

母が歩み寄る。

そして儂の頭に、そっと手を乗せた。

ぽん、ぽん。

なでなで。

温かい。

あの日のなでなでと同じだった。

「……ですが」

母が静かに言う。

「アリエルは、アリエルの人生を生きていいのですよ?」

「え?」

「王女としての務めを一番に考えるのではなくて、時には、アリエルという女の子を一番に考えてもいいんです」

「……」

「可愛いものを身につけたいとか、恋をしてみたいとか、そういうのはありませんか?」

「いや、それはないのう」

少し考えてから首を振る。

「今のところは全く想像できぬ」

「ふふ、即答ね」

母がくすくすと笑う。

「今のあなたは……私の言葉が負担になっていませんか? 無理をしていませんか?」

「ぜんぜん!」

儂は、にかっと笑って答える。

「王族だから、というだけではないのじゃ。儂は、これがやりたい。この国の剣になって、かーさまが愛した国を守る……それが、今の儂のやるべきことじゃ」

「……」

母は、しばらく黙っていた。

それから、また優しく頭を撫でてくれる。

「おしとやかな娘に育ってほしい、と思ったこともありましたけれど」

「む」

「こうして、わんぱくな娘というのも悪くありませんね」

「……それは」

思わず顔がほころぶ。

「認めてくれた、ということでよいのかのう?」

「もちろんです」

母が笑う。

「誇りに思っています。アリエル、私の愛しい娘」

そこで、もう我慢できなかった。

「かーさまぁ……!」

涙がこぼれる。

今度は堪えきれず、そのまま、がばっと母へ抱きついた。

母は、当然のように優しく受け止めてくれた。

「ふふ、今日はずいぶん甘えん坊さんなのね」

「……かーさまのせいなのじゃ」

「あら。だとしたら責任をとらないと」

抱きしめられて、さらに頭を撫でられる。

それだけで、胸の奥にあったものが少しずつ溶けていく気がした。

そうして、どれくらい経っただろうか。

やがて、儂はそっと母から離れる。

「大丈夫ですか?」

「……うむ」

「そう」

母は穏やかに頷いた。

「では、そろそろ戻りなさい」

「戻る?」

「まだ、あなたには帰りを待っている人がいるでしょう?」

「……」

サリーの顔が浮かんだ。

兄様の顔も。

父様も、騎士達も、民も……皆の顔が自然と思い浮かぶ。

「大丈夫、これは夢のようなものです。ですから、ちゃんと戻れますよ」

「そう、なのか……」

夢。

そう言われても信じられない。

なでなでの温もりは、あまりにも本物だった。

たぶん……奇跡なのだろう。

あるいは、国を守れたことへのご褒美かもしれない。

「また、会えますかのう?」

気づけば、そんなことを口にしていた。

母は少しだけ寂しそうに、それでも笑った。

「難しいかもしれません」

「……そう、か」

「でも、いつかは……アリエルが生きている限り、いつかきっと」

「かーさま……!」

儂は、しっかりと頷いた。

今度は涙は耐える。

だって、しばらくのさようならになるから……最後が涙なんて締まらない。

だから儂は、とびっきりの笑顔を作って言う。

「いってきます、なのじゃ!」

「ええ、いってらっしゃい」