作品タイトル不明
36話 ドラゴンスレイヤー
「おぉおおおおおっ!!!」
「グルァアアアアアッ!!!」
真正面からドラゴンと激突した。
残る最後の一本。
それを握る手に嫌な感触が伝わる。
衝撃を受ける度、剣にひびが増えていくのがわかった。
だが、まだ折れてはいない。
儂の心と同じだ。
「いける……!」
戦いの最中で少しずつわかってきたことがある。
ドラゴンの力は確かに理不尽なほど強大だ。
まともに受ければ人間の体なんて一瞬で壊れる。
だが、力の流し方を間違えなければ、その衝撃をかなり殺すことができた。
角度、重心、ぶつかる瞬間の剣の向き……などなど。
ほんのわずかな違いで体に伝わる負担は大きく変わる。
前世の経験と、今世で得た魔力強化。
それらを重ねることで、ようやくこの怪物とも渡り合える形が見えてきた。
ドラゴンの力は絶対ではない。
やりようはある。
だからこそ……ここで止める。
これ以上、兄様や騎士達を傷つけさせやしない。
国を荒らすことも絶対に許さない。
儂は……今度こそ守るのじゃ!
「いい加減にっ!」
ドラゴンの噛みつきをかわして、高く跳ぶ。
そのまま空中で一回転し、落下の勢いも乗せて角へ蹴りを叩き込む。
メキッ、と嫌な音がした。
角にひびが入り、そのまま折れる。
よし、やはり通る!
今のは剣ではない。
身体能力強化の応用で、足へ集中的に魔力を流し、蹴撃として打ち込んだものじゃ。
名付けるなら、『魔拳』といったところかのう?
拳ではないが、細かいことは気にするな。
とはいえ、反動はきつい。
思いつきで使った技なので制御がまだ甘い。
足首から膝にかけて、じんじんと痛みが走る。
だが、今はそれでいい。
選択肢が増えたこと自体が大きい。
儂の攻撃パターンが増えるだけではなくて、相手も警戒して動きが狭くなる。
「お主もしつこいヤツではあるな!」
ドラゴンが前足を薙いでくる。
残る一本を、槍のように鋭く突き出してきた。
もし直撃すれば、鋼鉄の盾があろうと、盾ごと紙のように貫かれるだろう。
故に受けない。
回避。
空中で剣を振り、剣圧を利用して軌道を微妙に変え、安全圏へ体を流す。
地面へ着地。
その瞬間には、もう前傾姿勢で走り出していた。
這うように低く。
小さな体をさらに小さく見せるように。
ドラゴンが儂を見失う。
巨体ゆえの死角。
そして、小さな標的に対する反応の遅れ。
よい。
そこが、お主の隙じゃ。
儂は懐へ潜り込む。
「いい加減にしてほしいのじゃっ!!!」
空いた方の手へ魔力を集中。
打撃と同時に、内側へ魔力を叩き込む。
「グァアアアアッ!?」
ドラゴンが悲鳴を上げて、体を大きくよじらせた。
たしかに通っている。
だが、まだ浅い。
致命傷には程遠い。
当然、怒りはさらに増す。
憎悪は嵐のように吹き荒れ、ドラゴンの視線が儂を刺し殺さんばかりにこちらへ向けられる。
必ず殺す。
そう言わんばかりの殺意。
武器とするのは己の頭部そのもの。牙をむき出しにして、儂を噛み砕こうと一直線に突っ込んでくる。
……いいぞ。
それを、待っていた!
だからこそ、挑発となりえる攻撃を繰り返していた!
「これで……」
拳から剣へ。
最後の剣をしっかりと構える。
地面を蹴り、高く跳躍。
重力に逆らうように上へ伸び、そのまま真正面からドラゴンの口腔へ飛び込む。
牙と牙の間。
ほんのわずかな死線を見切り、喉の奥へ突っ込む。
「終わりじゃああああああああああっ!!!!!」
渾身の刺突。
刃が喉を貫く。
肉を裂き、その奥へ。さらに奥へ。
最後に脳へ届く手応え。
「……」
ぴたり、とドラゴンの動きが止まった。
咆哮も。
怒りも。
殺意も。
全部、そこで途切れる。
そして……
ゴォオオオオン!!!
巨体がゆっくりと、だが確実に、大地へ沈んだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
全身が鉛のように重い。
もう一歩たりとも動ける気がしない。
魔力もほぼ空で、体の芯まで絞り尽くした感じ。
ついでに言えば、右手……いや、右腕全体が痛い。
指先を少し動かしただけで激痛が走る。
最後の無茶の代償だろう。
ヒビが入って……いや、折れていると思う。
粉砕かも?
だが、終わった。
これでもう……
「ガァアアアアアッ!!!」
ドラゴンが立ち上がる。
「っ!?」
心臓が止まるかと思った。
やばい。
もう、本当に何もない。
剣もない、魔力もない、体力もほぼ尽きた。
こうなれば、この身を盾にしてでも兄様達を……
「……?」
だが、ドラゴンは立ち上がっただけで、それ以上動かなかった。
警戒しつつ、じり、と近づく。
そっと指先でつつく。
ちょん、ちょん。
「……」
ドラゴンは、声もなく崩れ落ちた。
今度こそ本当に終わりだ。
「はぁあああ……驚かせるでないわ」
その場で膝から崩れそうになりながら、呻く。
「寿命が十年くらい縮んだ気がするぞ……」
緊張が切れた。
ついでに、今ので体力も完全に切れた。
儂はその場に、ばたーんと大の字に倒れた。
「はー……」
見上げた空は青かった。
まるで何事もなかったかのように、どこまでも高く澄んでいる。
その空へ向かって手を伸ばす。
「母様……見ていてくれましたかのう?」
息を切らしながら、それでも笑う。
「儂、やったのじゃ」
そこが限界だった。
意識がすうっと遠のいていき、儂はそのまま深い闇へ沈んだ。