作品タイトル不明
35話 夢?
……僕は、夢を見ているのだろうか。
戦いの最中ではあるが、本気でそう思った。
目の前で起きていることが、あまりにも現実離れしていたからだ。
ドラゴン。
史上最強の生物と呼ばれていて、食物連鎖の頂点に立つ存在。
天災と同等の扱いを受けて、人が正面から抗うことなどできないと言われている。
もちろん例外はいる。
勇者。
剣聖。
賢者。
歴史に名を刻むような偉人達なら、あるいは届くかもしれない。
だが、普通の強者は違う。
どれだけ名を馳せた騎士でも、どれだけ訓練を積んだ魔術師でも、ドラゴンの前では生き延びられたら上出来の領域を出ない。
討伐など叶わない。
進路を変えられれば奇跡。
多くの者は、嵐が過ぎ去るのと同じで、ただ祈るしかない。
しかし。
目の前の妹……アリエルは、ドラゴンと互角に戦っているどころではなかった。
翼を斬り落とし。
前足を断ち。
鱗を裂いて、あろうことか片目まで潰していた。
ありえない。
ありえない。
ありえない。
頭の中で何度も否定の言葉が回る。
だが、目の前の現実は揺るがない。
……もともと、アリエルには剣の才能があると思っていた。
本当に幼い頃から剣へ執着していて、誰よりも熱心に振り続けてきた。
わずか六歳で、僕といい勝負をするところまで来た時点で、すでに異常だった。
このまま育てば、王国一の剣士になる。
いや、いずれ僕すら超えるだろうと、本気で思っていた。
だが、それでも。
これほどの力は常識の外すぎる。
「いったい、アリエルはどうやって……」
八歳だ。
まだ、八歳の幼女だ。
いくら才能があっても。
いくら鍛錬を重ねても。
ドラゴンを圧倒する領域まで達するなど普通はありえない。
一瞬、本当に思ってしまったことがある。
アリエルは、人ではないのではないか? ……と。
「……馬鹿な」
僕は頭を振った。
確かにおかしい。
常識から外れていて、規格外もいいところだ。
でも、それがどうした?
僕にとって、アリエルは可愛い妹だ。
とても大事な妹だ。
それ以外の何者でもない。
可愛らしくて、無茶をすることが多くて、だからなのか放っておけなくて。
でも、一人の女の子でもあり、時に心細くなってしまうような。
そんな大事な妹だ。
それについて変わることなど絶対にない。
「いつの間にか……」
思わず苦笑が漏れる。
「……僕を超えていたんだね」
寂しさがある。
悔しさもある。
だが、それ以上に誇らしかった。
あそこで戦っているのは自分の妹なんだ。
国のために。
民のために。
あの小さな体でドラゴンへ立ち向かっている。
声を大にして自慢したかった。
……結局のところ。
僕は、常識外れで規格外な妹のことが大好きなのだろう。
シスコンと言われれば否定しきれないかもしれない。
「本当なら、助太刀したいけれど……」
ボロボロになっている自分の剣を見下ろす。
「今の僕では、足手まといになりかねないね」
その一点だけが、ひどく苦い。
ただ、そこで諦めて足を止めるわけにはいかない。
他にできることをしよう。
ポーションを一気に飲んで、動ける程度には回復した。
急いで立ち上がり、倒れている部下達のもとへ向かう。
「みんな、大丈夫か!?」
声を張ると、いくらかの騎士達が反応して、起き上がる。
「動ける者は動けぬ者の治療を!」
「だ、団長……!」
「それと、なるべくこの場から遠くへ移動するぞ!」
「しかし、姫様が……」
「……大丈夫だ。アリエルの邪魔をしてはいけない」
口にしてから、少しだけ笑ってしまう。
アリエルの邪魔をするな。
まったく、とんでもない話だ。
だが、それが現実だった。
今の戦場で一番強いのはアリエルだ。
ならば兄としても騎士団長としても、その現実を受け入れるしかない。
そして、最善の手を打つ……すなわち援護に徹する。
「……勝つんだよ、アリエル」
妹に託すのは少しばかり情けない。
けれど、誇らしくもあった。
あれほどの力を得るまで、どれだけ剣を振ったのだろう。
どれだけ努力し、どれだけ転び、それでも立ち上がってきたのだろう。
それは妹の成果の証であり、誇りでもあるのだから。
兄として、その背中を知っている。
だから、信じられる。
あの妹なら……きっとやってのけるだろう。
竜殺しを。