軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26話 一緒に

後日。

儂は再び兄様に稽古をつけてもらっていた。

「せぇいっ!!!」

「はぁああああっ!!!」

木剣がぶつかり合う。

風を裂く速度で、体が軋むほどの力で。

激しい激突を繰り返していく。

それでも楽しいと思えるのは、やはり相手が兄様だからだろう。

兄様は強く、そしてとんでもなく速い。

ただ速いだけではなくて動きに無駄がない。

どこで踏み込み、どこで抜き、どこで力を抜けばよいのかを全部わかっている剣だ。

一方の儂は、そこへ必死に食らいつく。

前回ほど無茶はしないように気をつけつつも、それでも限界の少し手前を攻める。

兄様専属の侍女は、かなりはらはらした様子でこちらを見ていた。

ただ、サリーは以前よりずっと落ち着いている。

慣れてきたのだろうか?

だとしたら、いつもいつも心配ばかりかけて申しわけない。

……そうして稽古を終えた後、軽く汗を流して、兄様と二人で庭のベンチへ腰掛けた。

庭には夕方の光がやわらかく差している。

訓練後の火照った体に外の風が心地よい。

「はい、アリエル」

「ありがとうなのじゃ!」

兄様から氷菓子を受け取る。

ひんやり冷たく、うっすら甘い。

二人で一口食べて、ほぼ同時に声が漏れた。

「「んんんーーー!」」

訓練で火照った体に最高だ。

しばらくは、それだけで十分だった。

剣を振った後の疲労と、兄様と並んで座る穏やかな時間。

夕方の光と氷菓子の甘さ。

こういうのんびりと静かな時間もまた、大事なのだろうと思う。

そんな時、兄様がふと尋ねた。

「何度も聞くけど、アリエルは……どうしてそんなに強くなりたいんだい? 守りたい、っていうのは聞いているけど、それはどうしてなのかな、って」

最近、よく聞かれる問いだった。

だから、いつものように『王女だから国を守る』と答えようとした。

だが、口を開いた時、少し違う言葉が出た。

「……儂は、昔から」

「うん」

「大事なものを守れぬ気がして、怖いのじゃ」

「……アリエル……」

言ってから、自分でも少し驚いた。

こんなこと、今まであまり口にしたことはなかったはず。

「母様が逝った時、儂は何もできなかった」

「それは……」

「剣がいくら強くても、病には意味がない……でも、それでも、剣を持っておらぬと怖いのじゃ。また、何もできぬまま失うのが……怖い」

そこで気づく。

あぁ……これは、前世から続いているものなのだ、と。

前世では守れなかった。

剣を振り続けて敵を斬り続けて、それでも国は滅んだ。

強くなるしか方法がわからなくて、強さだけを追い続けて、それでも足りなかった。

その恐怖が今もまだ胸の底に残っておるのだろう。

「だから……もっと強くならなければならぬ」

氷菓子を持つ手に少し力が入る。

「そうしないと、また失う気がするのじゃ」

兄様はしばらく何も言わなかった。

ただ静かに儂を見て、それからぽん、と頭へ手を置く。

「アリエルは強いね」

「む? なぜじゃ?」

「怖いって言えたじゃないか」

「……それは、強いと言えるのか?」

「言えるよ」

「弱さではないのか?」

「違う」

兄様はやわらかく笑う。

「自分の弱さを知って、それを言葉にできるのは強さだよ」

「そう……なのかのう?」

「そうだよ。強くなりたいことも、失うのが怖いことも、両方抱えていい。どちらかを隠さなくていいんだ」

「……にーさま……」

兄様の顔も、少しだけ遠くを見るような色をしていた。

「僕も怖いよ」

「兄様も?」

「うん」

「なにが怖いのじゃ?」

そう問うと、兄様はほんの少しだけ笑って、それから儂の頭を撫でた。

「色々あるけど……」

「うむ」

「一番は、アリエルを失うのが怖いかな」

「……」

胸が、きゅっとした。

「だから、一緒に強くなろう?」

「そう、なのかのう……?」

「一人で抱えなくていい。僕もいるから」

言葉が出なかった。

前世では、一人で抱えるのが当たり前だった。

黒騎士とは、そういうものだと思っていた。

だが、今は違う。

兄様がいて、サリーがいて。

母様との思い出があって……そして、この国がある。

なら……一人で強くなるのではなく、一緒に強くなる、という形もあるのかもしれない。

答える代わりに、儂は兄様の肩へそっと頭をもたせかけた。

夕陽が沈んでいく。

風がやわらかく吹く。

兄様は何も言わず、そのまま頭を撫でてくれた。

それだけで十分だった。