軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話 泣かせてしまった……

外へ出る頃には夜明けが近づいていた。

空の端がうっすらと白んでいる。

夜と朝の境目。

世界が静かに色を変える、そのわずかな時間だ。

儂は立ち止まり、大剣を軽く振って血を払った。

刃にこびりついていた赤が飛び散って、草の上に小さな点を作る。

それから、鞘へ納めた。

「……うむ。問題はないのう」

怪我はない。

多少、魔力は消耗したが、立てなくなるほどでもないし、息もまだ整っている。

今日まで地道に積んできた鍛錬の成果じゃな。

作戦は成功した。

盗賊団は今度こそ壊滅。

村への脅威も去った。

そう……結果だけを見れば上々だ。

なのに、胸の内は少しもすっきりしていない。

「……むぅ」

理由はわかっていた。

サリーだ。

天幕を抜け出した時のことを思い出す。

きっと、気づけば心配するだろうと思った。

眠れなくなるだろうとも思った。

それでも儂は行った。

前世の儂なら、それで済んでいた。

黒騎士と呼ばれていた頃は、一人で動くことも、一人で敵陣へ突っ込むことも珍しくなかった。

仲間はいたが、互いに必要以上に踏み込まぬ関係だった。

信頼はしていても干渉はしない。

心配されても、どこか煩わしく感じていた気がする。

あれは、そういうものだと思っていた。

一人で背負い、一人で戦い、一人で戻る。

それが当たり前だと。

ただ、今は違う。

「……困ったものじゃ」

サリーは違う。

儂がいなくなったと知れば、きっと顔色を変える。

儂のことを考えながら、ろくに眠れぬまま待ち続けるだろう。

それを思うと、胸の奥が妙にざわつく。

重荷というわけではない。

むしろ、その逆に近い。

申しわけない。

ごめんなさい。

心配かけたくなかった。

そんなふうに思ってしまう。

……前世にはなかった感覚だ。

「誰かに心配される、というのも……なかなか厄介じゃのう」

呟いて、小さく苦笑した。

前世では男だった。

仲間の死に動じぬための訓練も受けた。

心を閉じて、削り、鎧のように固めることが生き延びるために必要だった。

だが、今は違う。

母様に抱きしめられた。

サリーに世話を焼かれた。

王女として、人の温かさに触れながら育っている。

気づかぬうちに、心の鎧が薄くなってきているのかもしれない。

それは、弱さなのだろうか?

「……いや」

少し考えて、首を振る。

弱さ、と言い切るのは違う気がした。

こうして申しわけなく思えるのも、心配してくれる相手がいるのも、嫌ではない。

むしろ……かなり、悪くない。

自然と笑みさえ浮かぶ。

「二度目の生で、こんな発見があるとはのう」

そうして空を見上げた、その時。

「アリエル様!」

声が飛んできた。

振り向くと、サリーが走ってきていた。

夜明け前の薄明かりの中、髪を乱し、息を切らしながら。

かなりの距離を探してきたのだろう。

儂の姿を見つけた瞬間、その顔から張りつめていたものが一気にほどけたのがわかった。

「ご、ご無事で……!」

そこで一度言葉を切り、すぐに眉を吊り上げる。

「本当に、もう! なんで一人で行ってしまうのですか!? 言いましたよね!? 無茶をしてはいけませんって!」

「う、うむ……」

「うむ、じゃありません! 目が覚めたら姿が見えなくて、どれだけ驚いたか……!」

声が震えていた。

怒っている。

ただ、それ以上に泣きそうだった。

その顔を見た瞬間、言い訳をする気がなくなった。

「……すまなかったのう」

ちゃんと言えた。

盗賊の残党を放っておけなかったことに後悔はない。

行ったことそのものを、間違いだとは思わない。

だが、サリーを泣かせそうになるほど心配させた。

そこは、確かに儂が悪い。

「サリーを泣かせたくなかったのじゃが」

「泣いていません」

「目が赤いぞ」

「……」

「これからは、もう少しちゃんと相談する」

「……」

「約束じゃ」

サリーはしばらく黙っていた。

それから、ほんの少しだけ視線を逸らして、小さく言う。

「……男の人みたいなことを言いますね」

「む?」

「アリエル様は女の子なのですよ?」

「そうじゃが」

「女の子らしく、もっと頼ってください」

「……頼る、か」

その言葉は、思ったより深く胸に落ちた。

儂は少し考えて、それから苦笑する。

「……儂は、頼るのが苦手なのじゃ」

「なんとなく、そうなのかなと思っていました」

「ずっと、一人でやってきたからな」

「そのようなことはありません」

「む?」

きっぱり否定されて、儂は少し困惑した。

その隙に、サリーが一歩近づく。

そして、そっと儂の頭へ手を乗せた。

「私がいます」

やわらかく、頭を撫でられる。

「……むぅ」

「素直に甘えてください」

「……」

「それが、私への一番のご褒美です」

何も言えなかった。

ただ、その手の温かさを振り払う気には、どうしてもなれなかった