軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話 ひとまずの解決

「い、いけ! こいつを殺せ!」

男が叫ぶと同時に、ランドクローラーの鎖が外された。

大気を揺らす咆哮。

次の瞬間には、巨体が真正面から突っ込んでくる。

重いだけではなくて、風のように速い。

人など簡単に潰せる質量だろう。

「まあ、そうなるよな」

嘆息しつつ、儂は大剣を構える。

そして、真正面から受けた。

「なぁっ!?」

男の絶叫が響く。

ランドクローラーの突進を幼女が受け止める。

普通に考えれば意味がわからぬ光景じゃろうな。

「っと……さすがに重いのう」

「重い、で済むわけないだろ!? ランドクローラーだぞ!? 地上最強クラスだぞ!?」

「この程度で最強とは笑わせてくれる」

もちろん、ただ正面から腕力で受けているわけではない。

魔力で身体能力を強化し、剣を盾のように用い、衝撃の向きをずらして力を流している。

タイミングが少しでも狂えば潰されていただろう。

だが、狂わぬ。

伊達にここまで鍛えていない。

「この程度の雑魚、問題にもならぬ」

「ざ、雑魚だと……!?」

「うむ」

力を溜める。

ランドクローラーの押し込みが、一瞬、止まる。

そこ。

「ふっ!」

蹴り飛ばす。

巨体が宙を浮き、岩壁へ叩きつけられた。

「あ、ありえねえ……」

男の顔が綺麗に青ざめる。

「ありえねえ、ありえねえ、ありえねえ……!」

「うるさいのう」

「ランドクローラーだぞ!?」

「知っておる」

「それを……!」

「だからなんじゃ? 儂の敵なら斬り伏せるまでのこと」

「……っ……」

そこで男は、ようやく本能的に悟ったのだろう。

目の前にいるのは、自分が理解できる範囲の存在ではない……と。

「ま、待て! 話せばわかる!」

「今さらか?」

「お、俺は仕方なくやっていただけで……」

「黙れ」

「ひっ……!」

脅しすぎたか、男が一気に逃げ出した。

「あっ、こら!? 逃げるな!」

面倒な。

だが、まずはこの竜を片づけねばならないか。

ランドクローラーは、岩壁へ勢いよくぶつかってなお立ち上がる。

さすがに頑丈だ。

だが、その分、狙いは単純でもある。

「来い」

再び突っ込んでくる。

今度は真正面からではなく、少しだけ横へ流した。

前脚をかわし、首の付け根へ潜り込む。

硬い鱗。

だが、通らぬわけではない。

一撃。

さらに二撃。

竜が咆哮を上げ、尾を振るう。

それを飛んでかわし、今度は眼前へ出る。

「終わりじゃ」

力任せではない。

魔力強化と踏み込み。

そして今世の軽い体だからこその角度で、一気に首筋を深く裂く。

血が噴き出す。

ランドクローラーの巨体が大きく揺れ、ついに崩れ落ちた。

今度こそ終わりだ。

「ふぅ……ちと手間取ったのう」

前世の全盛期なら、もっと楽に仕留められていたはず。

ただ、今世でも十分だ。

少なくとも、ランドクローラー程度に遅れを取るほど鈍ってはいない。

が、問題は逃げた男だ。

もちろん逃がすつもりはない。

儂はすぐに洞窟の外に出て、気配を探り、男を追いかけた。

――――――――――

「はっ……! はっ……! はっ……!」

息が切れていた。

脇腹が痛い。

肺が破けてしまいそうだ。

それでも盗賊は足を止めず、ひたすらに洞窟の中を走り続けていた。

「あいつは、あのガキは……やばい、やばすぎる!」

漆黒の牙のアジトに一人で乗り込んで。

全ての団員を斬り捨てて。

ランドクローラーと対等以上に戦う。

そんなこと普通に考えてできるわけがない。

熟練の冒険者だとしても。

数多の騎士を束ねる騎士団長だとしても。

不可能だ。

ありえない。

それなのに、あの子供はやってのけた。

しかも涼しい顔をして。

まだまだ余力を残している様子だった。

「なんだよ、なんなんだよ、あいつは!?」

まるで……伝説の黒騎士のようだ。

今から数十年前。

他国の話ではあるが、たった一人で敵国の侵攻を食い止めたという、伝説の騎士。

夢物語ではあるが、それは確かな史実であり……

それに匹敵するような力と圧を感じた。

「くそっ、こんなところで死んでたまるか……! 俺は、絶対に生き延びてやる!!!」

不幸中の幸いというべきか、調整がギリギリのところで間に合い、ランドクローラーをぶつけることができた。

あの規格外の幼女ならば、ランドクローラーでも倒せないかもしれない。

しかし、時間稼ぎにはなるだろう。

その間に、できるだけ遠く、できるだけ遠く……

全力で逃げるしかない。

走って。

走って。

走って。

体が壊れてしまうほどに走り続けて、男はようやく洞窟の外に出ることができた。

安心と疲労。

まともに立っていることができず、膝に手をついて、肩で息をする。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……こ、ここまで逃げれば大丈夫だろう」

「……知っておるか? そういう台詞、死亡フラグっていうのじゃぞ」

「ひっ!?」

その声は死神のごとく。

恐る恐る振り返ると、いつからそこにいたのか幼女の姿があった。

血で赤く濡れているが、それは自分のものではないだろう。

おそらく、ランドクローラーのものだ。

「な、なぜお前がここに……!?」

「追いかけてきたからに決まっているじゃろう? 逃さぬよ」

「ば、バカを言うな! ランドクローラーはどうした!? あいつではお前に敵わないとしても、竜種を簡単に倒せるわけが……」

「一撃で仕留めた」

「……」

男は、今度こそ言葉をなくした。

「竜種を簡単に倒せるわけがない? それは世間の常識ではあるが、儂の常識ではないのう……もっとも、まだ完全に思った通りに動けるわけではないが、ちと手間取ったが」

「な、なんだ……なんなんだ、お前は……!?」

恐ろしい。

恐ろしい。

恐ろしい。

自分は今から殺される。

しかし、男は死の恐怖よりも、目の前の幼女の得体の知れなさに恐怖を抱いていた。

「た、助けてくれ! 俺は、仕方なく連中に協力していただけで、ランドクローラーを手懐けていたから、それだけで……」

「うるさいのう……お主、今までそうやって命乞いをしてきた相手にどう応えた? 何人、殺してきた? 助けた者は一人でもいたか?」

「あ……ぅ」

「お主は救えぬよ」

「ま、まて!? 俺は……」

そこで男の言葉は途切れた。

幼女の剣によって首が切断されたからだ。

男の首が高く舞い、

「お主にも来世があるとしたら、次は真面目に生きるがよい」

そんな言葉を最後に、男の意識は消えた。