軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 天賦の才

「ふむ」

前世の記憶と経験を頼りに剣を振ってみたが、どうやらうまくいったらしい。

自分でも、かなり良い一撃だったと思う。

この体は妙に馴染む。

前世の肉体とはまるで違うはずなのに、動かしやすいのだ。

やはり、多量の魔力を持っていることが大きいのだろうか。

特別に身体強化を意識せずとも、魔力が全身へ自然に巡っている感じがある。

おかげで、頭の中の理想へかなり近い軌道を描くことができた。

「……」

騎士団長は、空になった手を見つめていた。

しばらく黙り込んでいたが、やがてこちらを見て、なんとも言えぬ表情になった。

「騎士団長、なぜ皆は驚いておるのじゃ?」

「なぜ、と……それは、本気で仰っているのですか?」

「もちろんじゃ」

「……」

ものすごく微妙な顔をされた。

「儂が言うのもなんだが」

軽く首を傾げる。

「騎士達は、ちと訓練不足ではないか? 儂程度の剣で驚くというのは、少し不安ではあるぞ?」

「いえ、私も驚きました」

「む?」

「というか……姫様の動きを基準にされてしまうと、それはそれで困るのですが」

「そうか?」

「はい。求める水準が高すぎます」

「いやいや、まさか」

思わず笑う。

「騎士団長は冗談がうまいのう」

「冗談ではないのですが……」

騎士団長が本気で困っていた。

「私は、わりと本気で受けたのですよ?」

「そうなのか?」

「はい。まさか剣を弾かれるとは思いませんでした」

「ふむ……ということは、儂は、そこそこ才能があると自惚れてもよいのかのう?」

「そこそこ、ではなくて、かなり、と言い換えるべきかと」

「ほう」

まだ三歳児。

今の一撃も基本をしっかりとなぞったものの、しかし、前世にはまだ程遠い。

それでもここまで評価されるということは、やはり日々の鍛錬は無駄ではなかったのだろう。

魔力も体もちゃんと積み上がっている。

ならば……今世の儂は、前世よりもっと高くいける。

そんな確信が、胸の奥にぽっと灯る。

「とはいえ」

騎士団長が木剣を拾い直す。

「アリエル様は驚くべき才能と力をお持ちですが、まだまだ荒いところもあります」

「うむ。それは儂も思っておる」

「自分の過不足を理解されているのですか……」

騎士団長が、わずかに目を細める。

「これは、私が思っている以上の器かもしれませんね」

「どういう意味じゃ?」

「いえ。こちらの話です」

そして、騎士団長は木剣を構えた。

「アリエル様、もう一度やりましょう」

「うむ」

儂も構える。

呼吸を整え、体の力を揃え、一気に駆けた。

「はぁっ!」

「くっ!?」

今度は、騎士団長がちゃんと受け止めた。

当然だ。

同じ手が何度も通じるほど甘い相手ではない。

だが、受け止めたとはいえ、余裕たっぷりには見えなかった。

腕へかなり力を込めておる。

「すぅ……ふっ!!!」

今度の二撃目は、あえて軽く、柔らかく。

騎士団長は強い一撃を警戒していたらしく、反応がほんの少し遅れた。

そこを逃さない。

跳躍。

儂の身長の問題で、騎士団長はずっと下を見て対応していた。

そこへ急に視点が変われば、わずかでも意識がずれる。

その瞬間を狙い、頭上から木剣を叩き込む。

「はぁあああ!!!」

「む!?」

入った……と思った。

だが、さすがは騎士団長だ。

ものすごい速度で反応し、上体を捻ってこちらの一撃を受ける。

そのまま、流れるようにカウンター。

風を巻き込むような一撃が、儂へ向かって走った。

速い!

避けきれないと判断した儂は、とっさに木剣を盾のように構え、衝撃を覚悟する。

……が。

騎士団長の木剣は、ぴたりと儂の目の前で止まった。

「……びっくりしたのじゃ」

「それはこちらの台詞です」

騎士団長は木剣を収めつつ、深く息を吐いた。

「まさか、アリエル様がここまでの力を身につけているとは」

「むぅ……しかし、儂は負けたぞ?」

「さすがに、騎士団長である自分が負けるわけにはいきません」

「そういうものか」

「そういうものです」

少しだけ笑ってから、騎士団長は真面目な顔に戻った。

「ですが、本当に危ういところでした」

「おお」

「油断もありました。ですが、それだけではありません。子どもとは思えない身体能力、それを活かした戦術……そして、鋭い剣と圧」

「圧?」

「はい。三歳児に使う言葉ではないのですが……本当にそうとしか言えません。熟練の騎士を相手にしているかのようでした」

「褒められておるのかのう?」

「もちろんです」

それは素直に嬉しい。

「本当に予想外です……いったい、どこでそのような力を?」

「成長期じゃからのう」

「……いえいえいえ。それで片づけられる話ではないのですが!?」

「努力と友情と勝利!」

「何と戦っていらっしゃるのですか!?」

さすがに、前世のおかげです、とは言えない。

別に隠し通すつもりはないが、正面から話しても信じてもらえぬだろうし、余計な騒動にもなりかねない。

今のところは様子見でいいだろう。

「とにかく」

騎士団長は気を取り直したように頷いた。

「アリエル様の大体の力はわかりました。すでに並の騎士と同じ……いえ、それ以上です」

「ほう」

「とはいえ、まだ荒いところもある。それは、ご自身でも理解されているのでしょう?」

「……そうじゃな」

その通りだ。

前世の知識と記憶……それと、今までの鍛錬のおかげで色々と動くことができている。

ただ、やはり三歳児の体は難しい。

小ささも軽さもリーチの短さも、すべてが前世とは違うため、色々なものが荒くなってしまっていた。

「そこを克服するための訓練を行いたいと思いますが、よろしいですか?」

「うむ、頼むのじゃ」

「わかりました」

騎士団長が、正式な訓練に入る時の顔になった。

「では、まずは基礎トレーニングから始めましょう」

「よろしくお願いするのじゃ!」

――――――――――

自分は騎士団長として国に剣を捧げた身だ。

その剣は国の敵を排除するために、盾は民を守るためにある。

そのために日々訓練を重ねて力をつけている。

全ては一朝一夕ではならず。

そのはずなのだけど……

「アリエル様はすさまじいな」

本当に三歳児なのだろうか?

剣を扱えるだけではなくて、並の騎士以上に動くことができる。

己の体格を活かした戦術を即座に組み立てるなど、その思考はベテランの騎士を超えているかもしれない。

さすがに、まだ三歳児なので力は我々より遥かに劣る。

体格差もあるため、競り合いになるとこちらが勝つ。

でも、それは今だけだろう。

5年後は?

10年後は?

想像すると、身震いした。

たぶん、アリエル様はとんでもない力を身に着けているだろう。

王国一。

いや。

もしかしたら、大陸一の剣士になっているかもしれない。

自分も危うい。

来年には追い抜かされているかもしれない。

笑い事ではなくて、自分は本気でそんな可能性を考えていた。

「末恐ろしい方だ……どうして、あそこまでの力を持っているのだ? いくらなんでもありえないのだが……王族の血が為せる技なのか? むぅ」

その後、しばらくの間、自分はアリエル様の力について考えて考えて考えて……

まあいい。

アリエル様が強くなることを望んでいるのならば、自分はその願いを叶えるために稽古をつけるだけだ。

そんな感じで思考放棄をする。

現実逃避とも言うかもしれないが、そうでもしないとやっていられない、というのも素直な感想だった。