軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話 天使の願いは叶えるべき

母が亡くなってから二年が過ぎた。

悲しみが消えたわけではない。

今でも、時々ふとした瞬間に、あの優しい笑顔を思い出して胸が締めつけられる。

けれど、泣いているだけでは母が愛したものを守れない。

だから儂は鍛えた。

赤子の体で魔力を練り、幼い手足で走り、転んでも立ち上がった。

来る日も来る日も、飽きることなく、ただひたすらに。

そして、三歳になった今日。

「よし!」

儂は、ようやく剣を握ることにした。

体はそれなりに育った。

歩けるどころか走れる。

言葉も、だいぶ流暢に話せるようになった。

魔力の鍛錬だけでは足りない。

精神だけを鍛えても、剣を振るう体がなければ意味はない。

これまでも軽く体は動かしていたが、今日からは本格的に行く。

そう決めた。

「こんにちは、アリエル様。今日はなにをして遊びましょうか? それとも、お勉強をされますか?」

「おはよう、サリー」

儂は胸を張る。

「儂は今日から訓練をしようと思うのじゃ」

「訓練……ですか?」

「うむ。身体能力向上などの各種基礎トレーニングと……やはり剣じゃな」

「えぇ!?」

サリーが、見事なほどに目を丸くした。

「そ、そのようなことをアリエル様がされるなんて……」

「儂は強くならねばならぬ。この国を守るために……そう決めたのじゃ」

「えぇ!? 前にもそのようなことを仰っていましたが、あれ、本気だったんですか!?」

「なぜ冗談だと思われておったのじゃ」

そちらの方が謎なのだが。

「アリエル様は、まだ三歳なんですよ!?」

「三つ子の魂百まで、という言葉があるからのう」

にこりと笑う。

「ベストタイミングであるな!」

「清々しい笑顔!? 訓練なんて無茶ですよ!」

「そのようなことはないぞ。すでに軽い走り込みならしておるからな」

「……ちなみに、どれくらいですか?」

「毎日三十キロくらいじゃ!」

「恐ろしい距離!?」

サリーが頭を抱えた。

「しかもそれを『軽い』とおっしゃるアリエル様の壊れた感覚! というか、今まで気づかなかった私、何をしていたの!?」

「最近は五十キロに増やしたんじゃったな」

「増えてるぅ!? もう! もうもうもうっ!」

なぜそんなに慌てるのだろう?

「王女だから、これくらいやって当然じゃな!」

「どうしてそこで『王女だから』になるんですか!?」

「民を導くため、模範とならねばならぬからのう」

「うわぁ……」

「だから、トレーニングもばっちりできるようにならねばならぬ」

「あれ?」

サリーが、真顔になる。

「もしかして、アリエル様って脳筋?」

「失礼ではないか?」

とはいえ、たしかに理屈より先に体を鍛えようとしておる自覚はある。

だが、それで何が悪い。

前世で守りきれなかったからこそ、今度は絶対に取りこぼさぬ力が欲しい。

それだけは、儂の中で揺らがぬ。

「……」

サリーが、腕を組んで悩み始めた。

よし。

ここが正念場だ。

三歳児が剣を習うなど普通なら止められて当然。

さすがに、そのようなことは儂も理解できる。

だが、儂もここで引くつもりはない。

「サリー、だめかのう?」

「ひぁ……!?」

上目遣いで尋ねてみると、サリーが赤くなった。

「あぁ、それはだめです……」

「む?」

「は、反則です……」

「なにが?」

「そんなに可愛い顔をされると、つい頷いてしまいそうになるじゃないですか……! 可愛すぎです、天使ですか!?」

おお、効いている。

だが、サリーは頑張っていた。

亡き母に代わって儂を導くと決めておる以上、簡単には折れないのだろう。

なので、さらにたたみかける。

必殺のスマイル!

「お願いなのじゃ、サリー♪」

「わかりました、いいですよ」

「やった!」

「しまった!?」

こういう演技も色々と覚えてきた。

色々と役に立つかもしれない。

ナイス、儂。

「ありがとう、サリー!」

トドメとばかりに、ぎゅうっと抱きつく。

「ふぁあああ……!」

サリーの顔が真っ赤になる。

「な、ななな、なんて……なんて尊い……!」

「サリー?」

「だ、だめ……こんなアリエル様に逆らうなんて無理……! 私には無理ですぅ!!!」

うむ。

どうやら勝負あり、のようじゃな。

「……ただし!」

サリーが、どうにか姿勢を立て直した。

「私も同席しますからね?」

「む?」

「あと、騎士団長に指南していただきましょう」

「騎士団長に?」

「はい」

「しかし、サリーも騎士団長も、それぞれ仕事があるではないか」

「私はアリエル様専属ですから、それも仕事のうちです」

サリーが胸を張る。

「騎士団長には……ちょっと負担をかけてしまいますが、たぶん喜んで引き受けてくださいます」

「むー……」

確かに、独学で進めるよりはよい。

前世の経験があるとはいえ、今は幼い体だ。

今の体に合う鍛え方を、きちんと見てもらえるなら、その方がずっと効率がいい。

「そうか。では、相談してみるか」

「はい!」

「ありがとうなのじゃ、サリー!」

「はうっ……」

また、サリーの顔が崩れた。

……儂の笑顔はそんなに効くのだろうか?

まあよい。

いずれにせよ、これで道が開けた。

今日から儂は、剣の道を本格的に歩み始める。

母との約束を果たすために。

この国を守るために。