軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「……で、そこの初年生、あなた魔力持ちなの? でもダンリ様は魔法士なのよ。意見するなんてどんなつもり?」

侯爵家令息で魔法士のダンリに媚を売っているのか、彼を持ち上げるようなヘルアントスの立ち位置が不明だ。

アステルの薄っすらした疑問はメンバーも感じたらしく、「あ」と何かに思い至ったシルファが小さく声を上げ、「彼女がブルレイ侯爵家跡取り夫人の座を狙っているってうわさがあるけど」と更に小声で続けた。

なるほど。

そういう思惑があるなら納得である。公爵令嬢の嫁ぎ先として、二級魔法士の侯爵家嫡男なら充分釣り合いが取れる。交流会で同じ班になったから、これ幸いと一気に距離を詰めるつもりかもしれない。

「俺に説教するんだから、君は魔法士だよね。魔法士協会は魔法の取り扱いに煩いからなあ」

魔法士の資格を取れば、自動的に魔法士協会所属となり名簿に名を連ねる。それは魔法士の管理のために必要な事で、所在地も申告しなければならなくて、末端魔法士のアステルも例外ではない。特級魔法士ルキアン・グラシエスと初級魔法士アステル・コンコルディの現住所が同じだなんて、余程注意深く名簿を見ないと気が付かない。

「そうなの? あなた魔法士なの? 等級は?」

ダンリがアステルに構うからか、彼女を見るヘルアントスの眼光が鋭い。

「初級です」

答えると「初級ですって? 大した事ないのね」とヘルアントスは小馬鹿にするが、内心は焦っていて声が震えた。初級と言えど、魔法が使えないと魔法士試験に受からない。魔力のないヘルアントスとアステルには明確な差がある。ヘルアントスの様子を気にも留めないダンリがアステルの正面に立ち、「ちょっとごめん」といきなり彼女の左腕を掴んだ。

「!?」

驚いたアステルは咄嗟に腕を振って彼の手を払い除けた。

女性に許可なく触れるのは、相手をどうにかしようとする傲慢さとも命令とも受け取られかねないから、高位な者ほど注意する必要がある。

「こらっ、ダンリ!」

「何してるのよ!」

アステルの非難より、ユースティとシルファがダンリを咎めるのが早かった。貴族が忌避すべき行動であるのは常識なのだ。

「あ、ごめんごめん。でも握手をお願いしても警戒されるだろ」

当然である。しかし、アステルは気がついた。

「……私の魔力量を測りましたね?」

「やっぱり分かるんだ。うん、手っ取り早いからこうするのが多いんだけど、やっぱり可憐な少女相手には失礼極まりないよね」

意外にもダンリは申し訳なさそうな顔をした。しかも〈可憐な少女〉だなんて、アステルの実態に反する表現を使われて、怒りより困惑が先にくる。ルキアンが聞けば思い切り吹き出しそうだ。

「おまえ! 分かってんなら態度を改めろ!」

ユースティがぷりぷり怒っているところを見ると、ダンリの傍若無人さは通常所作らしい。

「気分を害してごめんね。んーと……」

「アステル・コンコルディと申します」

高級貴族に素直に謝罪されると調子が狂う。

「コンコルディ嬢、君ってすごく魔力量が多いよね。初級って事はこれから上級を目指すのかい?」

「いえ、領地のために資格を取っておきたかっただけなので試験は受けません」

「ああ、咄嗟に出てしまった魔法ならともかく、農地の開墾や狩りなんかに使用する場合は、魔法士じゃなければいちいち使用申請書を出して許可がいって面倒だもんな。俺が魔法士なのも同じ理由だ」

ダンリは一気に親近感を抱いたらしい。他意のない笑顔を浮かべた。

「……嫁ぎ先を探していらっしゃるの?」

ヘルアントスの警戒が凄い。〈魔法士〉は婚姻の条件に強く、上流階級ほど魔力を求める傾向がある。旧家であるイグラス魔法伯爵家でさえ今の子供たちに魔力がない。魔力持ちが途切れてしまった家は必死である。それこそ相手が平民だろうが異国人だろうが目を瞑るほど切実なのだ。

ヘルアントスの家柄ならばそれこそ結婚相手に困らない。しかし彼女は自分の子は魔力持ちにしたいから、魔力持ちの生まれる確率が上がる魔力の高い魔法士と結婚したいのだ。姉と違い魔力なく生まれた彼女は両親や一族にがっかりされたから、彼らに対する仕返しの意味もある。

せっかくこの交流会で直接ダンリと知り合ったのだ。二級魔法士の侯爵家嫡男なんて、これ以上望めない相手だと感じ、気に入られようと頑張っているのに。

__貴族の魔法士が出てきたら勝ち目がないではないか。コンコルディの名に覚えがないから下位なのだろうが、学院に通っている以上貴族だ。侯爵家が望めば簡単に結婚に結びつく。それほど〈魔力〉は婚姻に於いて重要ファクターなのである。

公爵令嬢の敵意を真っ向から浴びてアステルは辟易する。ヘルアントスの言葉に、思い切り首を横に振って「いいえ!」ときっぱりと否定した。ダンリを巡るライバルだなんて思われるのは冗談じゃない!

「私、婚約しているので!」

アステルの伝家の宝刀、再び。

「それに跡取りだから他家には嫁ぎません!」

勢い余って左手を高く突き出してしまったが、おかげで『この証を見よ!』とばかりに、白金のブレスレットが陽光に輝いた。

「あ、あら、……そうなのね」

威圧的だったヘルアントスが脱力する。それもそうか。魔法士なら売約済みなのは納得だ。婚約者が誰なのか気になるところだが、今それは重要じゃない。ライバルでないと知った彼女は敵意を引っ込める。

「ん? その婚約ブレスレット、加護付きだね」

見せびらかすように掲げたのが恥ずかしくなり、すぐに手を下ろしたアステルだが、ダンリが目敏く気が付いた。さすがは二級魔法士である。

「ちょっと見せてもらっていいかな」

「ダンリ、だからおまえの態度は非礼すぎるぞ!」

ユースティはずっと彼に苦言を呈している。

「いや、触れはしないよ。これは純粋な好奇心だ。ぱっと見ただけでも幾つも重ね掛けしているよね」

「……基本的な防御魔法は分かるんですが、知らない魔法も付与されていて詳細は把握できていません」

正直にアステルは答え、「細かいの、分かるようでしたら鑑定してもらえませんか」と自らダンリに手を差し出した。

周囲は黙り込む。アステルが望んだのだから口は出せない。そして彼らもまた、滅多にお目にかかれない付与魔法というものに興味を持つ。まあ、目には見えないのだが。

ダンリは宣言通りブレスレットに触れない。〈婚約者の証〉に他人が触れるなんて状況は普通ないと、そのくらいの分別はダンリにもある。

「……基本の魔法・物理攻撃防御に、危険回避。毒・麻痺無効。罠探知に? これは……探知追尾魔法? なんて事だ。君は毒殺や誘拐の危険がある立場なのか!?」

王族か余程の要人レベルの加護付与にダンリは目を見張る。

「まさか! ただの子爵家の娘です。……そ、そんな加護まで……」

アステルは加護内容を知ったけれど、ルキアンが危惧したようなドン引きはしなかった。ただ『それって必要なの?』とは思った。これから先の人生で、毒殺されたり誘拐されたり、そんな危険が自分の身に起こるとは思えないからである。

「ひとつのものにこれだけ強い加護付与するとなれば、特級魔法士に依頼しなければならない。君の婚約者は途轍もない金額を払っていると思うぞ。一体どんな金持ちだよ」

「……あはは、コネがあったんでしょうかね」

アステルは誤魔化す。

婚約者の“魔法爵”本人が付与したので実質無料である。

しかしユースティのパーティもダンリのパーティも、全員がブレスレットに興味津々だ。

婚約者が学院生なら堂々とアステルの側にいて学院内で存在を知らしめるはずだし、貴族で学院生でなければアステルには手を出すなと、特に婚約者のいない男性陣には当主を通して周知させるのが普通だ。それがないから__アステルの相手は平民の富豪か、他国の者と考えられる。