軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヘルハウンド−1

キャサリン殿下が始祖鳥のを観察するのを終えたようだ。

始祖鳥に手が届く距離から離れていっている。

騎士団に守られるように中心近くまで下がっていく。

大鳥が待機している場所まで戻ると近くの団員からアレックスは教わった。

行きと同じ斜面を降りるのでトレイシーとアレックスが先頭である必要はなさそうだ。

護衛の邪魔にならない位置でアレックスはトレイシーと一緒に周囲を警戒する。

ゆっくりではあるが、徐々に大鳥が集まって待機している場所に近づいてきた。

大鳥に乗って空に飛び立てばヘルハウンドに襲われる事はない。

少し気が緩んだ時にトレイシーが大声を出した。

「何かいる!」

アレックスも剣を抜いて周囲を警戒する。

騎士団も同じように剣や杖を構えている。

アレックスには違和感を感じられなかったが、すぐにトレイシーが警告した意味がわかった。

影から飛び出るようにヘルハウンドが飛び出してきた。

アレックスが見える範囲ではトレイシーの警告が効いたのか、致命傷になるような傷を負った人は居なさそうだ。

しかし傷を負っている人はいるようで、一気に周囲が騒がしくなった。

騎士団の団員はヘルハウンドを牽制したり、怪我を負った人にポーションをかけたりして処置をしている。

ヘルハウンドはやはり集団だったようだ。

狼や犬のような見た目をしており、地面から頭までの大きさが、大鳥より大きな四メートル近い。

かなり大きい魔物だ。

アレックスだと飛んでいれば問題なく相手できるが、地上で戦うとなると苦戦する。

「魔法で応戦するしかないかな」

「私もドラゴンに戻れそうな広さがない。魔法で応戦するしかなさそうだ」

トレイシーがドラゴンに戻っても、ここまで接近されていては魔法を使えば味方まで巻き込んでしまいそうだ。

騎士団は立て直してヘルハウンドを討伐しようとしている。

アレックスが見たところ、キャサリン殿下を守る必要があり、中々思うように動けないようだ。

アレックスが魔力が無くなるのを覚悟の上で、ヘルハウンドを数体倒す事を考えていると、ヘルハウンドの中でも一回り大きな個体が攻撃してきた。

随分と勘のいい個体がいるようだ。

大きさからして群れの長なのかもしれない。

魔道具や剣を使ってヘルハウンドの攻撃をいなしていく。

攻撃されていてはヘルハウンドを一撃で倒せるような魔法が使えない。

ドラゴンの鱗を使った魔道具で攻撃を返しても良いが、相手が相手が勘が良いのが気になる。

今回はトレイシーに手伝って貰った方が良さそうだ。

「トレイシー……」

「これは……」

トレイシーと声をかけた瞬間に背筋が凍るような気配を感じた。

同じようにトレイシーも感じたようだ。

この感覚は覚えがある。

母が戦闘をしている時の殺気だ。

アレックスは母のような殺気を同じように出せる人や魔物を知らない。

つまりこの殺気を出しているのは母という事になる。

気づいたら一回り大きなヘルハウンドの横に母が立っていた。

母はアレックスと同じように黒髪で、光の加減によって青や紫にも見える髪質をしている。

背はオーガにしては小さく百六十センチほどしかなかったはずだ。

手には身長と同じような金砕棒を手に持っている。

母が隣にいるヘルハウンドは尻尾を股の間に入れて震えている。

ヘルハウンドは完全に威圧されてしまっているようだ。

母の手にあった金砕棒が振られたのか、縦に持たれていた筈が横になっている。

振り抜くのが早い上に、意識がヘルハウンドに行っていたので降った所を見ることすらできなかった。

ヘルハウンドの頭部が胴体と分かれて落ちていく。

「アレックス、ただいま」

「母さん、おかえり」

今言う事ではない気はするが、母はそういう人だ。

母が声を出したからだろうか、ヘルハウンドが逃げ始めた。

急に陰になったと思ったら、空からドラゴンが降ってきた。

「トレイシーに何をしている!」

どうやらケニーが降りてきたようだ。

ケニーによって何体かのヘルハウンドが踏み潰された。

他の逃げ惑っているヘルハウンドがどうしているかと確認すると、近くには気づいたら母が迫っており、一体ずつ処されている。

怒っているケニーを宥めるのはトレイシーにお願いをする。

距離を取ってドラゴンに戻ったトレイシーがケニーを落ち着かせている。

母の殺気に当てられたであろうメグやキャサリン殿下が心配で、アレックスは騎士団が囲んでいる中心へと向かう。

「アレックス、今のは何だったの?」

「母が来たんだ」

「母? アレクシア伯爵?」

「そう。それとケニーも」

アレックスが近づくと、青い顔でメグが尋ねてきた。

キャサリン殿下が本当にアレクシア伯爵だったのかと驚いている。

本当とは、どういう事かと尋ねると、騎士団の中で百年前の戦争を知っている者が状況を理解していたようだ。

キャサリン殿下は母の気配で動けなくなったが、騎士団から敵ではないと聞いて動けるようになったと言う。

それでもキャサリン殿下の顔色は随分と悪い。

戦えるメグでも顔色が悪いのだから、キャサリン殿下が平気は筈がないか。

「ヘルハウンドは母とケニーが倒していると思います」

「騎士団に確認させます」

アレックスが母を連れてきた方が良いだろう。

キャサリン殿下に相談すると、お願いをされたので母を探すために騎士団に囲まれた場所から起動する。

母はまだ殺気を出したままなので、存在感がはっきりしており探しやすい。

騎士たちの間を通って存在感がする方向へと進んでいく。

母は倒したヘルハウンドの隣に居た。

騎士たちは声をかけられないのか遠巻きに見ている。

「母さん、終わった?」

「ん」

「それなら紹介したい人がいるんだけど」

「ん」

母は返事をすると言うより、頷いて返答をしている。

戦闘状態だと母はあまり喋らない。

母が出していた殺気が徐々になくなっていった。

どうやら周りに敵らしい敵は居なくなったようだ。

母はどこかぼんやりとした雰囲気と表情になった。

「案内して」

「キャサリン殿下を紹介するよ」

「モイラから聞いてる」

どうやら母は一度スプルギティ村へ戻っているようだ。

どこまで聞いているのか分からないので、王太子になる為に始祖鳥を見に来たと説明すると頷いている。

戦う事はできないのであまり驚かさないように言うと、母は素直に頷いた。

これで腕試ししようなどとは言わないだろう。

メグについても聞いているか分からないので、一応彼女が出来たと言うと母がアレックスの顔を覗き込んできた。

「モイラも言っていたけど、本当に?」

「うん」

母は少し固まった後に祝福してくれた。

一応母にメグは戦えるが、アレックスと同じ程度の強さしかないので腕試しはしないようにと注意する。

母は分かったと頷いてくれた。

ある程度説明できたのでキャサリン殿下の元へ向かう。

母を連れて歩いていると騎士団の団員が道を開けてくれる。

キャサリン殿下の近くにまですぐに辿り着いた。

「アレクシア伯爵。私はキャサリン・ド・オルニス」

「私はアレクシア」

キャサリン殿下に母が饒舌ではない事を伝えると、聞いていると言う。

「アレクシア伯爵、助けて頂き感謝します」

「気にしなくていい。この人数がいれば倒せた」

確かに時間はかかるが倒す事はできただろう。

トレイシーの警告がなければもっと大変な状態ではあったが、アレックスの周囲では軽傷者しか出ていなかった。

キャサリン殿下に騎士団で重傷を負った者はいるのか尋ねると、ポーションと魔法で治る程度の傷しか負っていないと言う。

今問題になっているのは、大鳥が固まってしまったのだとキャサリン殿下が教えてくれた。

慣れていない大鳥は母の殺気で固まってしまう。