作品タイトル不明
故郷へ−3
時々トレイシーの魔法で撃ち落とされる魔物を見ながらオルニス山を登っていく。
スプルギティ村から、トレイシーたちドラゴンが縄張りにしている場所はそう遠くはない。
しかし上昇気流に乗って飛ぶような事ができないので時間がかかる。
ドラゴンが縄張りにしている場所まで来ると魔物に襲われる事がなくなる。
トレイシーの横に並んでピュセーマが飛び始めた。
「トレイシーが居るから随分と飛ぶのが楽だったよ」
「ふむ。キャサリンの時も村からの移動を手伝った方が良いか?」
「村の皆に手伝って貰うつもりだけど、トレイシーが手伝ってくれれば楽かも」
「では手伝うとしよう」
そのまま飛び続け、トレイシーたちドラゴンが集まる洞窟へと向かう。
住居は別にあるのだが、大体ドラゴンたちは洞窟の中か外でくつろいでいる。
何故洞窟に集まるかというと、洞窟がダンジョン化しているからだ。
魔力が多いのでドラゴンには心地のいい場所なのだと教えられた。
洞窟に近づくと、トレイシーと同じような姿をしたドラゴンが寝そべっているのが見える。
多少の色の違いはあるが、基本的に白い見た目をしたドラゴンが多い。
洞窟の上空に来るとドラゴンたちが起き上がってこちらを見ているのが分かる。
トレイシーと共にゆっくりと地上に降りる。
「む、トレイシーか」
「ダニー長老戻りました」
「そうか」
トレイシーが話しかけたドラゴンは少し寝ぼけているようだ。
あくびをして、頭を振っている。
ドラゴンの寿命は長い為、トレイシーが数ヶ月出かけていた程度では驚きは少ないようだ。
ドラゴンのダニー長老は大きく伸びをした。
それで起きたのかトレイシーに王都はどうだったと尋ねている。
トレイシーは長老の話に付き合った後、トレイシーは始祖鳥について聞いているかと尋ねた。
「ああ。人間が始祖鳥を見に行くという話か。覚えておるぞ」
「見にいく人間を連れてきた」
「好きにすると良い。元々ドラゴンが出した課題だしの」
「「課題?」」
アレックスは思わず声を出してしまった。
アレックスが声を出したことで、ドラゴンのダニー長老はアレックスに気づいたようだ。
顔を近づけて元気だったかと挨拶をしてきた。
アレックスが挨拶をして、王都で元気にしていると伝えると、ダニー長老は頷いている。
アレックスがドラゴンが出した課題について尋ねる。
ダニー長老はかなり昔の話だと前置きして、人間にドラゴンの縄張りで活動する許可を出すために、始祖鳥を捕まえてくるようにと課題を出したのだと言う。
見事成功させた人間は大雀を相棒にオルニス山を出て行ったとも教えてくれた。
「課題を出したのが二代ほど前なので、かなり昔になる」
「ドラゴンは千年ほど生きるから、三千年前って事ですか?」
「いや、三千年までは行ってはいない。二千数百年だとは思うぞ」
始祖鳥を見に行く理由がわからないと言っていたが、王家でも失伝した理由がドラゴンに聞けば分かるのは寿命の差なのだろう。
人間が何十代と代を重ねている間も、ドラゴンは二代しか変わっていない。
トレイシーも知らない様子なので、トレイシーの代で理由は失伝していたのかもしれない。
ドラゴンが出した課題が理由なのは分かった。
しかし何故ドラゴンの縄張りで活動するために、始祖鳥を捕まえる必要があったのだろうか?
アレックスは課題など受けた事はないが、ドラゴンの縄張りで活動している。
「ダニー長老、私は課題など受けてないですが、良いんですか?」
「昔の話だから今は違う。当時は交流がなかったからの。ドラゴン側が何も無しではどうかと思って、比較的捕まえやすい始祖鳥にしただけだったらしいしの」
「形だけだったと言う事ですか?」
「そういう事じゃな」
始祖鳥は滑空はできるが基本飛ぶ事はできない。
五十センチほどの大きさで、牙があり爪も鋭いので少々捕まえるのが厄介ではあるが、魔物ほど凶暴ではない。
オルニス山でどうやって生き残っているのか不思議な生き物だ。
逆に考えれば始祖鳥なら地上を歩いているところを狙えば、簡単に捕まえられそうだ。
ダニー長老に教えてくれたお礼を言うと、気にするなと軽い感じで返された。
一応ダニー長老にも母やケニーが帰ってきていないか尋ねると、見ていないと言う。
やはり帰ってきてはいないようだった。
最後に雪の状態を聞いて、キャサリン殿下たちが通るのをお願いしておいた。
「前回はアレクシアとケニーだったから心配だったが、アレックスなら問題ない。一緒にいるということはトレイシーが面倒を見るのだろ?」
「そのつもり」
「それなら好きにすると良い」
ダニー長老は深く頷いている。
やはり前回は母とケニーが担当していたからか相当心配したようだ。
アレックスとトレイシーが帰ろうとすると、ダニー長老が少し待てという。
そういえばと、周囲のドラゴンに最近の縄張りについて聞き始めた。
どうやら最近何かあったようだ。
ヘルハウンドを何回か見たとドラゴンたちが話している。
ヘルハウンドは巨大な犬に似た魔物だ。
頭がよく狡猾な上に、かなりの凶暴性がある魔物で近づかれると対処するのが大変だ。
特殊な魔法を使うので気づいたら背後を取られていたという事もある。
しかも群れで行動するので、数が揃っていればドラゴン一体であれば良い勝負をする。
「見たといっても遠目に見ただけのようだ」
「もうドラゴンの縄張りから出ている可能性もありますか」
「かもしれん。注意はしておくことだ」
ダニー長老が話をまとめてヘルハウンドの事を教えてくれた。
キャサリン殿下たちに伝えて注意をしておいた方が良さそうだ。
トレイシーが居るので襲ってくることは滅多にないと思うが、ヘルハウンドだと背後から一人二人を連れ去るくらいはしそうだ。
改めてアレックスはダニー長老に頭を下げてお礼を言った。
ダニー長老は困ったら洞窟まで逃げ込めれば助けると言ってくれる。
ドラゴンが人間に深く関わろうとする事はあまりないので、かなり譲歩してくれているようだ。
そろそろゲラノスに戻るのなら出発しないと不味い時間になったきた。
また来るとダニー長老や周囲に居るドラゴンに声をかけて、アレックスとトレイシーは再びゲラノスへと戻る事にした。
アレックスがピュセーマに乗ると、再びトレイシーを先頭に飛び始める。
今回は行きとは違い下降気流に乗ってオルニス山を降りていく。
高度を一定にしてゲラノスの上空で降りた方が安全ではあるが、気流に乗った方が早く進める。
かなりの速度で降りて何とか日没前までにゲラノスの近くまで辿り着いた。
「アレックス、人に変化しておく」
「分かった」
トレイシーが人型になると、ピュセーマの背中に一緒に乗ってゲラノスまで向かう。
上空からゲラノスに入り、そのまま領主館へと飛んでいく。
領主館にピュセーマが降り立つとすぐに使用人が現れ、ピュセーマの鞍を外すのを手伝ってくれた。
ピュセーマにゆっくり休むように言ってアレックスは領主館へと入る。
アレックスはすぐにキャサリン殿下が居る部屋へと通された。
キャサリン殿下から労いの言葉を貰いつつ椅子に座るように勧められる。
アレックスは椅子に座って報告をしていく。
「天幕さえあれば騎士団も受け入れが可能な事は分かりました」
「スプルギティ村の方は問題がないのですが……」
「ヘルハウンドですね。かなり厄介な魔物だと聞いた事があります」
「騎士団にも注意をしておいた欲しいのです」
「私から伝えておきます」
報告が終わるとキャサリン殿下からゆっくり休むようにと言われた。