軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75.迷宮を踏破する簡単なお仕事

初日から張り切り過ぎた為、ギルドの仕事がなくなった僕とスノウは迷宮の前まで来ていた。

スノウは一日空を見て過ごすとか言っていたので、僕が強制連行した。パリンクロンから、できるだけ二人一組で行動するように言われているというのもある。

「さて。迷宮攻略の時間だ」

「……うーん、面倒臭い」

「スノウ、これもギルドの仕事の一つらしいぞ。パリンクロンから『正道』を伸ばすか、 守護者(ガーディアン) を倒すように言われている」

「……期限は決まっていないから、適当に流そう?」

「適当に流すとまでは言わないけど、本気でやるつもりはないよ。基本的に、楽なモンスターを狩りながら、迷宮内でお宝を探す」

「……カナミにとって楽なモンスターは、私にとって面倒なモンスターの可能性がある」

「いや、本当にスノウは適当に流してていいよ。ほとんど僕一人でやるつもりだから。後ろで見てるだけでいい」

サボろうとするスノウを口先で納得させる。

正直なところ、物臭な彼女に過度な期待はしていない。しかし、最低限の責任感は持ち合わせているので、僕が危なくなったら手は出すだろう。言わば彼女は、もしものときのための保険だ。

「……ん、見てるだけ? それはいい。それならいい」

「うん、よかった。それじゃあ、出発」

【パーティーメンバーにスノウ・ウォーカーが参加しました】

パーティーリーダーは相川渦波です

僕はスノウと一緒に迷宮へ入る。

入り口をくぐると、じめじめとした暗い回廊が広がる。

その生臭さと、独特な発光を繰り返す道を見て、どこか懐かしさを僕は感じた。

また迷宮に帰ってきた。

その事実が、僕の心を揺らす。

なぜか、あの『火事』を挟んだだけで、迷宮は酷く懐かしいものに変わっていた。

「……カナミ、どうかした?」

いつの間にか足を止めていた僕を不思議がり、スノウは声をかける。

「いや、なんでもない。行こう」

「……うん」

僕は邪魔な感情を振り払い、前に進む。

23層までは『正道』が伸びているため、楽な道のりになるはずだ。

以前は確か……そうだ、24層まで行った記憶がある。24層での探索が辛くなり、19層でレベル上げを行ったのが、僕の最後の記憶だ。

しかし、最後の記憶は古びた白黒写真のように掠れていた。

要所要所が黒ずんでいて、上手く記憶を掘り起こせない。

『火事』に遭ったショックからか、その付近の記憶が非常に曖昧だ。

しかし、泣き言は言ってられない。

異世界に迷い込んだストレスのせいだろうと決め付けて、僕は気を取り直して今日の迷宮探索の方針を決めていく。

ちなみに、スノウのレベルは16だ。

僕よりも二つ高く、ステータスに関しては僕と大差ない。

ただ、耐久力においては何段階かは僕よりも上だろう。

修得している魔法も豊富で、底が知れない。

【ステータス】

名前:スノウ・ウォーカー HP530/533 MP229/240 クラス:スカウト

レベル16

筋力10.22 体力10.02 技量5.24 速さ5.43 賢さ7.92 魔力10.86 素質2.62

先天スキル:竜の加護1.09 最適行動1.89 古代魔法2.04

心眼1.07 鮮血魔法1.00

後天スキル:

目標は19層あたりでのレベル上げ再開と、20層での《コネクション》設置だ。

火事を挟んだせいで、僕の《コネクション》の登録は全て解除されている。

おかげで、1層からの挑戦だ。

面倒だが仕方がない。早急に20層まで向かおうと思う。

けれど、《ディメンション》でボスモンスターを見つけたら話は別だ。

強くなるためにも、ドロップする特殊な魔石のためにも、見逃す手はない。

ギルドにレアアイテムを還元すれば、メンバーたちの為になるらしい。

それとなくボスを探しながら、僕たち二人は迷宮の奥に進んでいく。

「……ん?」

その道中、自然回復するMPの範囲内で広げていた《ディメンション》が、運のいいことにボスモンスターを捕捉した。

そう遠くもないので、首を取りに行こうと思う。

ボスモンスターのエリアに近づけば近づくほど、回廊は徐々に変貌していく。

回廊に異臭が充満し始め、目鼻が痛んできた。

このエリアの環境は身体に良くないと思い、僕は足を速める。

しかし、後ろのスノウは平気そうだ。スノウは 竜人(ドラゴニュート) という種族で、人間の何倍も身体が丈夫と聞いた。どうやら、こういった悪環境にも強い種族のようだ。

エリアの奥に進むと、濁った緑色の肌をした奇形の巨人を見つけた。

すぐに『注視』して情報を取得する。

【モンスター】ゴブリンロード:ランク3

周囲に眷属と思われるモンスターがうじゃうじゃと居たが、僕は構わずゴブリンロードに向かって一直線に近づく。

眷属の小さめのゴブリンたちが、僕に襲い掛かってくる。

しかし、その全ては僕に触れることなく、首を落とされていく。

1層のモンスターの目では、僕が剣を振っていることも理解できないだろう。

僕は眷属を迎撃しながら、ゴブリンロードに接敵する。

戦闘は一瞬だった。ゴブリンロードが手に持った棍棒を僕に振り下ろそうとした瞬間、その首と胴体は離れていた。

光となって消えていくゴブリンロードが落とす魔石を拾い、用が済んだ僕とスノウはエリアを離れていく。途中、スノウもゴブリンに襲われていたが、素手で余裕を持って迎撃していたのを見て安心する。

やはり、連れ出しさえすれば、勝手にやるようだ。

物臭ではあるが、死にたがりではない。

僕は安全な領域まで戻り、先の戦闘の結果を分析する。

『称号』を拾得していないことを不思議に思う。

ボスを倒せば『称号』の拾得が『表示』される。

しかし、いまの戦いでは得られなかった。前にゴブリンロードを倒したことがあったか思い出そうとして――ずきりと、頭が痛む。

確か、初めてボスを狙うと決めた日に、計三匹のボスを狩ったはずだ。

その中に巨大なゴブリンが居たような……気がする。

気がする(・・・・) 。

頭に霧がかかったような感覚だった。

どうも最近、記憶が曖昧だ。

異世界での緊張感が原因だとは思うが、それでも不安になる。

帰ったらパリンクロンあたりにでも相談するべきかもしれない。

倒したボスモンスターが被ったことがわかり、僕は溜息をつきながら、2層を目指していく。途中、ゴブリンロードの落とした魔石を『注視』する。

【愚緑石】

愚かなる暴虐の王の力が宿った魔法石

通常の魔石と違い、 位(ランク) が存在しない。

簡素な説明だが、あのモンスターからしか手に入らない固有ドロップであることが推察できる。

『称号』は残念だが、ギルドへのお土産が出来たと思えば気持ちも楽になる。

ギルドの鍛冶師や細工師は、この手の魔石をいつでも欲しがっている。

おそらく、喜んでくれるはずだ。

ギルドのために被っているボスモンスターを倒すのも悪くないなと思いながら、僕は2層まで歩いていく。

そして、3層に辿りつく前に、またボスを一匹見つける。

どうやら、いまのレベルの僕の《ディメンション》ならば、片手間にでもボスを見つけ放題のようだ。

僕はスノウに断ってから、またボスを狩りに行く。

ただ、見つけたボスを無造作に狩っていいわけではない。

他の探索者の位置も考慮する必要がある。

ボスを一度倒せば、再度出現するまで時間がかかる。

高レベルである僕が狩り尽くしてしまい、他の探索者に迷惑をかけるとギルドの悪評に繋がる。

できるだけ、他の探索者たちが狙っていないボスだけを倒すように心がけなければいけない。

もちろん、苦戦はない。

僕の実力ならば20層のボスまでなら問題はないだろう。

麦を刈るように軽く、巨大な魚のボスを倒した。

【称号『水の流始』を獲得しました】

体力に+0.05の補正がつきます

今度は被っていなかったようだ。

『表示』で『称号』の獲得を確認する。

自分のステータス(・・・・・・・・) は見えないが(・・・・・・) 、「体力に+0.05の補正」という文章に、僕は頬を緩ませる。

何気なく、スノウのステータスを見てみる。

彼女には補正がついていない。しかし、パーティーであるため、しっかりと経験値は分配されていた。

『称号』は異世界の人間である僕だけの恩恵なのかもしれない。

少しだけ残念に思いながら、僕は迷宮の奥へ向かって、さらに進んでいく。

ボスを倒しながらなので、歩みは遅い。

しかし、これから浅い階層を通る機会は少なくなるはずなので、できるだけボスは倒そうと思う。

こうして、3層・4層・5層と同じ作業を繰り返していく最中、《ディメンション》で探索者パーティーを一組見つける。

男女混成の三人パーティーの探索者たちだ。

しかし、三人とも歩みが遅く、表情が芳しくない。

僕は少しの間だけ、《ディメンション》を《ディメンション・ 多重展開(マルチプル) 》に切り替えて、彼らの細かな情報を拾い、『注視』する。

三人ともレベル5だった。

さらに、5層に相応しいバランスの良いパーティーであることもわかる。

しかし、状態が悪い。全員が毒にかかり、HPが危険域にある。周囲には他の探索者がおらず、このままでは最悪の状況に発展しかねない。

僕は急いで、三人パーティーたちのところに向かって駆け出す。

後ろでスノウが不思議そうな顔をしていたが、無言でついてくる。

――見捨てようとは思わない。

余力がなければ話は別だが、そうではない。

もし『実力的に救援が難しかったり』『精神的に余裕がなければ』助けには行かないだろう。しかし、いまの僕は『運良くも、この世界最高クラスの人間であり』『命よりも大切な妹は安全なところで治療を受けている』。

余力は十分だ。ならば、目の届く範囲の人助けをするのは当然だ。

それに人助けをすることで、ギルドの評判が上がるかもしれないという打算もあった。

僕は人類最高クラスの速さで、パーティーのところまで辿りつく。

到着と同時に自己紹介を行う。

「――ギルド『エピックシーカー』のカナミです。敵意はありません。遠目で、あまり良くない状態だと思い、近づかせてもらいました」

唐突に現れた僕に、三人の男女は警戒を露にした。

しかし、ギルド名を名乗ったことで、少しだけ表情が和らいだ気がする。

リーダー格と思われる剣士の男が前に出て、話をしてくれる。

「はぁっ、はぁっ――……。俺たちは、ギルドに所属していない。俺はパーティーリーダーのカルクだ。見ての通り、状態は良くない。みんな、毒にやられている。正直に言えば、助けを求めている。無論、地上に戻れたら、礼は必ずする」

「なるほど、状況はわかりました。しかし、心配いりません。回復アイテムはたくさん持っていますので――」

僕は答えながら、腰に下げた袋から出す振りをして、『持ち物』から多くのアイテムを取り出す。

「お、おぉ……! 感謝する……!」

「一通りの解毒薬はあります。単純な回復薬も、食料もあります。落ち着いて、毒にかかった状況を教えてくれませんか? 適切な解毒薬を処置します」

「わかった……」

神聖魔法の使えるパリンクロンがいれば回復は簡単だったが、僕もスノウも攻撃か補助の魔法しか使えない。

こういったときのために『持ち物』に溜めていたアイテムを使って、三人の治療を行っていく。

僕の協力的な様子がわかってくれたようで、パーティーリーダーさんも協力的だった。

数分も立たないうちに、三人ともが危険な状態から回復する。

「助かった……。ありがとう、『エピックシーカー』のカナミ殿……」

「いえ、困ったときはお互い様ですよ」

僕はありきたりな言葉で応えた。

しかし、三人は命が助かったことで感極まったのか、何度も感謝を繰り返していく。

「ありがとう、カナミさん……」

剣を下げた女性は、目じりに涙を溜めて礼を言う。

気持ちはわかる。

毒で死にかけるのは、恐ろしく精神を削るのだ。

僕は笑顔で彼らの無事を祝福する。

「ええ、本当によかったです……」

「それで、カナミ殿。お礼の話なのだが……。いまは持ち合わせがないので、一度地上に――」

「そういうのは構いません。大したことはしていませんし」

お礼の話になりそうだったので、すぐに僕は断った。

正直、いまのアイテム分にいくらか足されたお金を貰っても仕方がない。

「いや、しかし……、同業者として何も返さないわけには……」

「お礼はして貰います。僕はギルドの者です。ギルド『エピックシーカー』に恩を感じて頂き、機会があれば『エピックシーカー』の話を好意的に人へ広めてもらえれば、それ以上のお礼はありません」

なので、宣伝をしてみる。

新米のギルドマスターには、こういった地道な作業が必要だ。……たぶん。

「そ、そうか……。本当にすまない。カナミ殿に、そして、ギルド『エピックシーカー』に、最大の感謝を……」

「ええ、それだけで十分です。利害は一致しています、よろしくお願いしますね」

それを最後に、僕は三人パーティーと別れた。

彼らは見えなくなるまで、こちらに手を振っていた。けど、迷宮では 止(や) めて欲しい。余所見をしていたせいでモンスターに不意を討たれては、こっちも色々と困る。

そして、彼らが見えなくなったところで、物陰からスノウが出てきて、一息つく。

「……ふう」

「スノウ、何で隠れてたんだ?」

「……面倒そうだった」

「あ、そう……」

聞かなくてもわかっていたことだが、確認だけ取る。

僕の予測は間違っていなかったことがわかり、僕は迷宮の奥に進もうと足を動かす。

その後ろで、疑問の声があがる。

「……なんで、お礼を貰わなかったの? 貰えるものは貰ったほうがいい」

「お礼って言っても高が知れてる。それよりも、ギルドのためになるよう仕向けたほうがいい」

「けど、ギルドのためになったからって、カナミのためになるわけじゃない」

「別に、僕のためだけにやったわけじゃない。ギルドのみんなのためだよ。それに長期的に見たら、結局は僕のためにもなる」

「……はぁ、甘い。やっぱり、甘い」

「別に甘くない。投資が上手いと言ってくれ。ああいう慈善活動も馬鹿にできない」

「……あの人たちが本当に恩を感じているか怪しい。感じていたとしても、明日には忘れるかもしれない。現実的に見える数字だけを見れば、カナミはアイテムの一部を失ったけど、何も返ってきていない。何も得ていない」

「僕は現物主義じゃない。いまので、形のない大切なものを得られる可能性ができた。それだけでいいんだ」

「『長期的に見て』、『形のない物』、『可能性』。どれもあやふや」

やけに食いついてくる。スノウらしくもない。

そう思い、もっと時間をかけて説明しようとしたところで、スノウは話を打ち切る。

「……でも、それでカナミがいいなら、いい」

僕が長話を始めることを察して、打ち切ったのかもしれない。

しかし、いまの一連の会話で、スノウのことが少しだけわかった気がする。

「ああ、僕はこれでいい。――時間をロスした。先に進もう」

そして、僕たちは迷宮の進行を再開していく。

道中、いままでと同じようにボスたちを倒しつつ、魔石を入手していく。層が深くなると探索者の数も減っていき、先ほどの三人パーティーのようなイベントはなく、無事10層まで辿りつく。途中で三体ほどボスと戦ったが、HPもMPも消費することなく倒せた。

【称号『千年甲殻』を獲得しました】

体力に+0.05の補正がつきます

【称号『羽音の進撃』を獲得しました】

速さに+0.05の補正がつきます

【称号『病み水を啜るもの』を獲得しました】

魔力に+0.05の補正がつきます

10層に入り、その殺風景さに僕たちは驚く。

「あれ? 何もないな……」

「……少し前は炎の海だった。どうやら、10層の 守護者(ガーディアン) が死んだのは本当らしい」

「そうなのか? もしそれが本当だったら、すごいな。 守護者(ガーディアン) を倒すなんて、『英雄』じゃないか。一体どんな人が倒したんだろう……?」

僕の浅い知識でも、 守護者(ガーディアン) と呼ばれる存在の凄さは知っている。

かつて、最強の探索者たちでも倒すことの出来なかったボスであり、探索者たちの語り草となっている伝説的存在だ。

「……確かにすごい。でも、どうせカナミだろうと、私は思ってるけど」

「は? 僕が?」

「……なんでもない。ただの独り言」

「いや、独り言にしては、僕に聞かせるような言い方だったじゃないか」

「……これ以上は面倒。進もう」

「……はあ。わかったよ」

僕は渋々と頷く。

スノウが声に出して「面倒」と言えば、それ以上会話は続かない。

昨日、一緒に仕事をして、それは骨身に染みている。

なので、僕は追求しなかった。内容も、おそらくだが、初日の記憶についての話に繋がるのだろう。そう何度も聞きたい話ではない。

僕たちは何もない10層を歩いていく。

以前の燃え盛る火炎は、影も形もなくなり――その落差からか、空虚さは一層と強い。

あの雄大で尊大な炎は、二度と帰ってこない。

そう思わせるに十分な空虚さだった。

僕には関係のない話なのに……。

なぜか、とても物悲しい……。

「――魔法《コネクション》」

部屋の隅に魔法の扉を設置する。

そして、『持ち物』から保護色の布をかけて、目立たないようにする。

「……これが次元魔法?」

「ああ。これで、ギルドの執務室まで行ける」

「……けど、これだと他の探索者が使えちゃうんじゃ?」

「む、確かに。じゃあ、こうしようか。――魔法《アイス》」

僕は氷結魔法で、優しく扉を凍らせる。

《コネクション》は脆く、簡単に壊れる。

本来ならば、凍らせることなんてできない。しかし、《コネクション》を構築した僕ならば、構造を完璧に把握できているので、壊さないように凍らせることは可能だった。

通常の《アイス》とは違ったイメージで魔法を編んだため、どちらかと言えば、新魔法《アイス・ 錠(ロック) 》と呼んだほうがいいかもしれない。

「……凍らせた?」

「無理に溶かそうとすれば扉は壊れる。この扉を溶かして使えるのは、術者である僕だけだよ。――名づけて、魔法《アイス・ 錠(ロック) 》かな」

「……変な名前。でも何もしないよりはマシ?」

「どちらにせよ、10層の扉は余り現実的じゃないね。早く20層に設置しよう。あそこなら並の探索者じゃ辿りつけないから、安心して設置できる」

「……今日はこれで休憩でいいのでは?」

「駄目。行くよ、スノウ」

「……むむ」

愚図るスノウを言い聞かせて、僕たちは迷宮の更に奥へと進んでいく。