軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47.正気の判断をする正気の転落

10層に辿りついた僕たちは、炎に話しかけ、アルティと連絡を取る。

その後、こちらの事情を話したところ、アルティは快く請け負ってくれた。

「――なるほど。では、溶岩を避ける魔法を教えてあげよう。ついでに、熱を避ける魔法も教えてあげるよ。あの高温は人間にとって凶器だろうからね」

目の前の炎、アルティはそう答えた。

後ろにいたラスティアラは歓喜の声をあげる。

「あっりがとー、アルティ! 熱いのに限界だったんだよ、わたし!!」

ラスティアラは何の疑問も抱かず、アルティに感謝の言葉を返す。

けれど、僕はラスティアラのように簡単に喜べない。

僕の不安は晴れていない。まだ話は終わっていない。

「アルティ、その魔法を 誰に(・・) 教えるんだ? できれば、僕に――」

「君とラスティアラ以外だね」

アルティは見事、僕の不安に応えた。

「なんで、僕とラスティアラ以外なんだ……?」

「まず君は 向いていない(・・・・・・) 。嫌がらせでも何でもなく、君は次元魔法に特化しすぎているから、無理なんだ」

僕は次元魔法に特化していると、アルティは断言した。

これは、以前の魔法屋の経験から薄々と気づいていたことだ。僕は次元魔法以外に適性はなく、次元魔法以外の魔法を覚えられない可能性がある。

僕は歯噛みしながら、次の案を答える。

「じゃあ、ラスティアラは?」

「ラスティアラは、魔法を覚える 余白がない(・・・・・) 。もう完成してしまっているから無理なんだ。それはラスティアラも、わかっているだろ?」

アルティの炎の口は、ラスティアラについても言い切る。

ラスティアラは驚きながらも、それに同意する。

「へぇー、すごい。よくわかるね。確かに、私は魔法を覚えられないよ。私の血に、新たな術式を書き込む隙はないからね」

その情報は初耳だった。

僕はラスティアラ以上に驚く。

そして、アルティは驚いている僕に追撃をかける。

「だから、私はマリアに教えようと思うが、いかがかな?」

「…………っ!!」

いいわけがない。

最悪の提案だ。

万能だと思っていた僕とラスティアラが、実は魔法面において、ここまで融通がきかないとは思わなかった。

しかし、すぐに僕は心を持ち直す。

魔法面において、信頼できる人物が他にいるからだ。

「ま、待て。マリアはやめてくれ。できるなら……ディアに教えてくれ。アルティならわかるだろ? マリアは迷宮に向いていないんだ」

僕はディアの名前を出すことに一瞬だけ迷う。しかし、ここはラスティアラにはディアのことが知られてでも、これ以上のマリアの強化は避けたかった。

本当ならばディアとラスティアラの出会いは、慎重に慎重を重ねてセッティングしたかったが、そうも言っていられない。

「それは駄目だ。私はマリアに教えるよ」

「なんで!?」

その叫びをアルティは一刀両断する。

「なぜって、そりゃ、マリアは君に恋心を抱いているからさ。私はそれを応援しないといけない。まあ、彼女の恋が純か不純かは置いておくがね」

「――え?」

一刀両断の上に、爆弾までも投下される。

僕は一瞬だけ、頭が真っ白になる。

アルティの言葉を処理し切れなくて、言葉を返すことができない。

そんな僕の混乱を無視して、アルティは話を続ける。

「私はマリアの『恋の成就』を応援する。そして、できれば、君にも協力して欲しいところだね……。協力者キリスト……」

アルティは炎を揺らめかせ、僕に笑いかける。

それどころではない。「マリアが僕に恋心を抱いている」、その一言だけで、それどころではない。

その一言を理解しようとして、それを身体が拒む。

認めたくないのだ。

マリアが僕に恋しているなんてこと信じられない。信じたくない。

初めて話したとき、マリアは僕を侮蔑しているって言った。ずっと反抗的で、僕に恋焦がれるような様子は全然なかった。ずっと僕に対して辛辣で、生意気で、決して恋する女の子の様相ではない。この中で、マリアと一番付き合いが長いのは僕だ。その僕が気取れなかったんだから、マリアが恋しているなんてそんなことはない。絶対、ない。絶対、そんなことは――

「アルティ! な、なんてことをっ!! マリアちゃん、あんなに一生懸命、隠していたのに! こんなところで、あっさりばらすなんて!!」

そんな僕の必死の抵抗は、ラスティアラの陽気な声によって打ち消される。

「しかしだよ、ラスティアラ。こういった第三者のお節介でカップルができることもある。少なくとも、一生気持ちを打ち明けるつもりもなく健気に尽くそうとする少女を、眺める趣味なんて私にはない」

「私にはあるんだよ! ああいう、居た堪れなくて、ままならなくて、もどかしくて、終わりのない恋がいいのに……」

「悪趣味だね。私とは感性が異なるようだ」

「むー」

二人の会話が耳に入ってくる。

ラスティアラもマリアの恋心について否定しようとしない。それどころか、かなり前からそれを知っていて、ずっと黙していたように聞こえる。

それは、つまり……。

ラスティアラの目から見ても、マリアの恋心は間違いないということ……?

ならば、僕はどう反応するのが正しいんだ。

どう答えるのが正解なんだ。

損得を第一に考え――いや、自分のストレスを第一に考え――いや、モラルとマリアの気持ちを第一に考え――いや、違う。違う違う。違う……!!

僕の目的は帰ることだ。

『帰還』が全てだ。

帰る理由がある。 考えないように(・・・・・・・) 、深みに入らないように、避け続けた――確かな帰る理由がある。

そうだ。

帰らないと……。

帰らないと家族が、あいつが……――

――駄目だ。これも考えるな。

これ以上(・・・・) は駄目だ。

「はぁっ――! はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

考えたら、抑えが効かなくなる。

そうなれば、初日の二の舞だ。

スキル『???』が、いくらでも発動してしまう。

もちろん、ここで一度スキルを発動させて冷静になるのも悪くない。

混乱が10.00に達するのが不安だとしても、この数日の我慢で一回の発動では10.00の大台に乗らないまで回復している。

緊急性があれば、スキル『???』の力で、この悩みも何もかもを晴らすのは悪くない。

発動すれば、全ての感情が落ち着き、合理的な答えを出してくれる。それは、『帰還』するのに悪くない。

悪くないが……身体が強張る。

それは人としてやっていいことだとは思えないのだ。

発動すれば、僕は間違いなく、マリアの恋心を受け止めようとしないだろう。合理的に考えれば、『帰還』に全く必要ないことだからだ。

こんなスキルなんて馬鹿げたもので一人の女の子の恋が終わってしまう。

それは酷く不誠実で、最低な行為だと思ってしまうのだ。

もし本当にマリアが僕に恋心を抱いているというのなら、僕が僕だけの力で考え抜いて答えないといけないことだ。

僕の十数年ほどの浅い人生経験が、そう答えを出し、これ以上の混乱を踏みとどまらせる。

耐えられなくはない。緊急性もない。 まだ(・・) 、大丈夫。

「ふぅ……」

浅い呼吸を繰り返していた僕は、大きく息を吐いて落ち着く。

その様子を見たアルティは、感心した様子で話しかけてくる。

「お。どうやら、落ち着いたようだね」

僕は冷静に努めながら言葉を返す。

「落ち着いてないよ。びっくりしてる」

「落ち着いているように見えるがね」

「とにかく、マリアが僕に恋しているかもしれないってことはわかったよ。だから、アルティに退く気はないってこともわかった。これは仕方がない。……アルティの願いを邪魔する気はないから、別にマリアに教えてもいいよ。けれど、あとでディアにも教えることを約束して欲しい。僕はマリアを迷宮に関わらせない方針なんだ」

「ふむ……。いいよ、ディアにも教えよう。私は二人の師匠だからね」

「師匠って……」

「実は、君の見えないところで、二人とはかなり会っているんだ。いまでは、師匠と呼んでもらえるほどの仲だよ」

また、知りたくなかった事実を打ち明けられ、僕は混乱しかける。けれど、しっかりと意識を保ち、話を続ける。

「あと、マリアの『恋の成就』の望みが薄いのは覚悟してくれ。フランリューレのときほど冷たく言いはしないけど……それでも、僕にその気がないのは確かなんだ。これはマリアがどうこうではなく、いま僕にそういうことをしている暇がないのが理由だ。僕は迷宮の『最深部』へ行かないといけない。何よりもまず先に」

「そう言うと思ったよ。なに、私だって無理にキリストとマリアをくっつけようとしているわけじゃない。こういうのはお互いの気持ちが大事だからね」

「……よし、お互い無理はしない。それでいこう」

「いいとも」

よし、乗り越えた。

ここで動揺して、変に話がこじれるのだけは避けられた。

僕はアルティとの交渉を終えて、いつマリアとディアに魔法を教えてくれるかの話に移っていく。

しかし、ここまで静かにしてたラスティアラがちょっかいを出してくる。

「ふんふん。それで、結局キリストはマリアちゃんのことをどう思っているのかな?」

「どうって……。それなりに好きだよ、仲間としてね。ただ、年も離れているし、異性としては考えたこともない」

「へー、帰ったらマリアちゃんにそう言うの?」

「言わない。マリアの恋心が100パーセントあるって保障はないからね。アルティとラスティアラから見て、そう見えるって話だろ。言って、別に僕のこと好きじゃないって言われたら恥ずかしいし、気まずくなる」

「私は100パーセントだと思うけどねー」

「もしマリア本人に打ち明けられたのなら、答えは出すよ。けど、それ以外で、僕から何かを言うことはない。いままで通りの態度で、いままで通り接する」

「ふんふん……」

ラスティアラは話しかけたときと同じように、何度も頷きながら僕の話を吟味する。

そして、しばらく経ったあと、満面の笑顔で言葉を続ける。

「キリストらしい答えだね。そして、それは私にとって悪くない。美味しい……」

「……はいはい」

僕はラスティアラを放置して、アルティと話を詰める。

今日明日にでもマリアとディアに魔法を教えてくれるそうだ。二人が魔法を覚えるのに、そう時間はかからないらしい。

――そして、僕は細かな確認を行い、アルティにお礼を言って10層を後にした。

その地上に戻る途中、ラスティアラから色々と聞かれる。

マリアについてのこともだが、先ほど名前を出してしまったディアについて気になっているらしい。仕方なく、僕は仲間のディアについて説明をした。

「――へー、なるほど。マリアちゃんや私と組む前は、そのディアって人と組んでいたんだ」

「そういうことだ。別に隠していたわけじゃない。入院中で、いつ帰ってくるかわからないから、言おうか言うまいか迷っていたんだ。かなりの魔力の持ち主だぞ」

「しかし、キリストがそこまで信頼している魔法使いかぁ……」

「ああ、トップクラスだ。少しレベルは足りてないけど、そこはすぐに追いつくと思う。僕たちについてこられるほどの才能だ」

僕はディアのことを手放しに褒める。

単純な数値だけを見れば、ラスティアラをも超える人材なのだ。

それに、なにより性格が良い。

性格が良い。

とても重要なことだ。

「でも、私たちほどの才能を持つ人って、そうそういないはずなんだけどね」

「いや、本当だって」

「いやいや、キリストは査定が甘いからねぇー。……うん。ここは私が見て、きっちりと判断してあげましょう」

ラスティアラは「それがいい」と言いながら、前を歩き出す。

どうやら、今日にでもディアを紹介して欲しいようだ。

「はあ、わかったよ……」

いつかは出会う二人なのだから、僕は頷いて了承する。

丁度、時間も空いているので、これから二人でディアの入院している病院に向かうことが決まった。

道中、期待に胸を膨らませるラスティアラを落ちつかせながら、僕は案内する。

病院まではそう遠くはない。ヴァルトの迷宮入り口からならば、一時間もかからない。

迷宮から出て病院まで歩いても、まだ日は落ちていなかった。

ラスティアラを連れて、僕は以前のようにディアが入院している棟に歩いていく。そして、ふと以前の惨状を思い出す。

前に来たとき、ディアの部屋は穴だらけで、廊下にまで被害が出ていた。

この二日でどれだけ直ったかなと考えながら棟に入ると――廊下は以前と同じ惨状だった。

正確には、いくらか補修の跡はあるものの、さらなる破壊によって以前と変わらない状態となっていた。

僕は風通りの良い廊下を歩き、その破壊の犯人であろう人物の部屋に入る。後ろで破壊の惨状を面白そうに眺めていたラスティアラもそれに続く。

部屋の中は以前と変わらず――いや、こちらも以前以上の散らかり具合だった。

「なあ、ディア。前より部屋が壊れてないか……?」

僕の第一声は挨拶でなく、この状態に陥った理由への追求だった。

「あ、キリスト……! こ、これには深い理由があってだな……!」

ベッドの上であぐらをかいていたディアが、僕に気づいて慌てて言葉を返す。

僕の突然の登場に焦るディアを他所に、僕とラスティアラは病室に入っていく。そして、そのまま僕はラスティアラの紹介をしようとして、ディアの言葉に遮られる。

「――っ!? なんで、ここに!?」

ディアは僕の後ろにいたラスティアラを見つけて、驚愕の表情を浮かべる。

それに対して、ラスティアラは手をひらひらと振りながら挨拶をしていく。

「お久しぶりです。シスさん」

ラスティアラはディアに対して「久しぶり」と言った。そして、騎士たちを相手にするような落ち着いた物腰に変わっている。どうやら、二人は知り合いのようだ。

僕は予想外のことに驚いて、言葉をなくす。

ディアも同じほどに驚き――しかし、僕と違って返答をしていく。

「え……? な、なんで、ラスティアラさんがここにいるんだ?」

ラスティアラは落ち着いた様子で猫をかぶって話しかけるが、ディアはその正反対だ。慌てふためき、混乱しながらベッドの上に立ち上がり、臨戦態勢をとっている。

「私こそ驚きました。シスさんとこんなところでお会いするなんて」

「まさか! ラスティアラさんが俺を連れ戻しにきたのか!?」

「落ち着いて下さい。私はキリストの仲間として、ここに来ただけです。それ以上でもそれ以下でもありません」

「へ? ラスティアラさんがキリストの仲間?」

いまにも攻撃魔法を唱えそうなディアに対して、ラスティアラは優しい声で近づき、柔らかな動きで手を取った。

「ええ。ですから、シスさんの思っているようなことにはなりません。ご安心を」

「ほ、本当に……?」

「本当です」

ラスティアラは柔和に微笑み、それに釣られてディアは身体の力を抜いていく。

相変わらず、ラスティアラは猫かぶりの演技は上手い。あっという間にディアの警戒を解いた。

二人の話が一段落ついたのを見て、僕は会話に入っていく。

「ディア、ラスティアラが僕の仲間なのは本当だ。……それよりも、僕は二人が知り合いなのに、びっくりだ。どこで知り合ったんだ?」

僕は二人の顔を見ながら聞く。

それにラスティアラが答えようとしたのを、ディアが慌てて遮る。

「――こ、故郷の知り合いなんだ! そんなに深い知り合いじゃないけどな!」

その遮りが余りにも不自然だったため、僕はラスティアラの顔を見て確認を取る。

ラスティアラは一瞬だけ妙な表情をして、すぐにいつもの陽気な笑顔になる。そして、ディアの話に同調する。

「そうですね。ちょっとした知り合いなんですよ。シスさんとは」

「ああ、ちょっとした知り合いだ。けど、ラスティアラさん。ここではディアって名乗ってるから、そっちで呼んでくれ」

「なるほど。わかりました、ディアさん」

僕は二人の会話に違和感を覚える。けれど、それを追求することはしない。見たところ、それはディアにとって知られたくないもののようだ。

できれば僕は、ディアを困らせるようなことはしたくなかった。

「知り合いならよかった。これから、一緒に迷宮探索する仲間になると思うからね」

僕は気づかない振りをして、話を進める。

ディアは仲間と聞いて、声を上ずらせながら手を差し出して、ラスティアラに握手を求める。

「……キリストの仲間なら、俺の仲間と一緒だ。俺のことは気にせず、ディアって呼び捨てにしてくれていいぞ」

「そうですね。仲間なら、この堅苦しい物言いもやめましょうか。――これからよろしく、ディアちゃん」

ラスティアラはそう答え返して、握手をする。

ぎゅっと強く握って離そうとしない。

「ちゃ、ちゃんはやめてくれ……。お、俺は俺だから、できれば呼び捨てで……!」

「ああ、ごめんね。余りにも顔が綺麗だから、ついつい。それじゃあ、――ディア君にしようかな。いや、それとも……」

「呼び捨てで頼む!」

「ふふっ。わかったよ、ディア」

二人は握手をしたまま、呼び名について言い争う。

ラスティアラの態度を見る限り、ディアの自称「少女じゃない」発言は疑わしさを増すばかりだ。しかし、僕はディアを男扱いで通すつもりだから、この言い合いに割り込むつもりはなかった。

いまさら、性別を変えて接しろと言われても……困る。

二人の性格の違いから反発し合うかと思ったが、それも杞憂に終わった。

僕は安心して椅子の一つに座り、話し合う二人を見守る。

その後、アルティが魔法を教えに来ることをディアに伝えた。

それと合わせて、迷宮24層の状況も説明した。すると、ラスティアラとディアは扱っている魔法が似通っているためか、二人で魔法談義に花を咲かせ始める。24層の攻略を二人で考えてくれるようだ。

僕は二人の使う魔法のことはよくわからないので、後ろで聞いていることしかできない。

ただ、聞いていてもよくわからない。聞いたことのない単語ばかりでてくるので、僕は一人で帰ったあとのことを考える。

おそらく、マリアは食事を作り終えて僕たちを待っていてくれることだろう。しかし、いままでとは、少し事情が変わった。アルティの問題発言のせいで、僕はマリアに対して、いままでと同じように接することができるか――自信がない。いまのうちにイメージトレーニングしておかないと、態度からボロが出てしまうかもしれない。

僕は一人、魔法談義に花を咲かせる二人の後ろで、延々とマリアとの会話をシミュレートし続けた。

◆◆◆◆◆

ディアのお見舞いを終えた僕たちは、次の探索準備も終わったので家に帰った。

そして、いつも通り、家でマリアの準備した食事を三人で食べた。だが、アルティの問題発言もあるので、いくらか不自然なところもあったかもしれない。

ラスティアラの薄ら笑いが三割増しだったり、そこはかとなく僕がマリアに対して余所余所しかったり、その理由をマリアが看破しようと油断なく目を光らせていたり――色々とあった。

マリアがこっちを見つめるたびに、僕は顔を背けることしかできない。

マリアは幼く背が低いものの、顔は整っている方だ。出会ったときは環境のせいで見栄えが悪かったものの、清潔さを保てば、可愛い女の子に分類しても問題はない。それにディアやラスティアラと違い、現実感のある可愛さだ。黒髪であることも僕に親近感を沸かせ、身近な女の子であることを意識させる。

一度、恋云々を考えてしまえば、その魅力を無視するのは難しかった。

しかし、僕は魔法《ディメンション・ 決戦演算(グラディエイト) 》を使って、マリアと視線を合わせることを回避し――なんとか何事もなく食事を終わらせることに成功する。

その後、いつも通りの流れで各々は自室で眠りについていく。マリアに恋心があると知っても、これから何とかやっていけそうな自信がついた。

――その夜、妙に 風が騒がしかった(・・・・・・・・) 気がした。

そして、翌日。

「――ご主人様、行ってらっしゃいです」

「うん。行ってくるよ……」

昨日の話を引きずっているせいか、マリアの「行ってらっしゃい」の一言だけで僕は落ち着かなくなる。できるだけマリアの顔を見ないようにして、僕は魔法《コネクション》で20層に向かう。それにラスティアラも続く。

ラスティアラの装いは昨日と比べ重装備だ。

軽装で走り回るのが好きなラスティアラだが、今日は熱を防ぐための外套を何重にも着込んでいる。腰には、いつでも飲めるようにしてある水と解毒薬がぶらさがっている。

薄紫の魔法の扉をくぐりぬけ、何もない冷たい空間に出る。

そして、21層への階段に進もうとして、その階段を背に佇む人がいることに気づく。

金髪の美男子騎士ハインさんだった。

今日はホープスさんはおらず、一人のようだ。

そして、以前とは違い服装が物々しい。前は銀の剣を一本だけの装備だったが、今日は二本も腰に差している。さらには、大きめの銀の篭手を左手につけている。重そうな装備はつけていないものの、細かな武具を揃えてきたようだ。特に目立つのは、指に嵌めてある十個の指輪だ。男性が大量の指輪を嵌めていると目立って仕方がない。

「お待ちしていました……。お嬢様……」

前のときと同じように、ハインさんはこちらに一礼する。

その仕草に僕は寒気を感じた。

何かが違う。

人数や装いではなく、決定的な何かが違う。

そう思った。

そして、その違和感に気づけないまま、ハインさんとラスティアラは喋り始める。