軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32.剣術と、剣術無視

僕は試合場所を人の目の着かないところに指定した。

レイディアントさんたちからすれば、断る理由がないため、簡単に酒場の裏手で決闘の準備が整った。

そして、お互いの望みを街の『 魔石線(ライン) 』に誓い合い、僕らは剣を抜き合った。

ちなみに僕の剣は、周囲を囲む騎士から借りたもので、『アレイス家の宝剣』ではない。寸止めになるであろう試合で、攻撃力の高い剣を使う必要性はない。

「――魔法《ディメンション・ 決戦演算(グラディエイト) 》、魔法《フォーム》」

僕は呟いた。

拡がっていく魔法の感覚。

さらに、剣から魔法の泡が数個溢れだす。

試したい魔法戦術の一つ目――魔法《フォーム》の実践だ。

実は、迷宮内で暇があれば魔法《フォーム》を試し続けた結果、ちょっとした利用法を見つけたのだ。

迷宮内では、魔法《ディメンション》と魔法《フォーム》を併用するという場合が多かった。そうなったとき、魔法《フォーム》が魔法《ディメンション》を手助けしているということに気づいた。

魔法《フォーム》だけでは大した効果は得られない。だが、魔法を併用したとき、真価を発揮しているようだった。

つまり、この魔法の泡があれば、より強く空間を把握できる。

感覚としては、この泡に魔法《ディメンション》を宿らせることができる。そんなイメージだ。

魔法《コネクション》と合わせたところ、本来ならば時間をかけて近くにしか扉を作れないはずが、あらかじめ泡に魔法《コネクション》をこめることで、遠くに時間をかけず、扉を作ることもできた。

もちろん、今回は魔法《ディメンション》を補助させる。

まず、魔法《ディメンション》を内包した泡を僕の剣に纏わりつかせる。

これだけで、自分の剣に対する空間把握効果が跳ね上がる。剣がどのように動いているかを、より緻密に理解し、どのようなベクトルの力がかかっているかを感じられるようになる。剣が肉体の器官の一つになったかのような感覚だ。

僕は泡の纏わりついた剣を正眼に構える。

それをレイディアントさんは鼻で笑う。

「ふっ、強化魔法か……? しかし、祖の神聖魔法ではなければ、構えも亜流。浅はかな邪道など、敵ではないな」

そう言ってレイディアントさんも魔法を唱える。

「――《グロース》」

レイディアントさんの身体に白い光が灯る。

ディアが見せた神聖魔法に似ている。

おそらくは同属性なのだろう。

それを見ながら、僕は『表示』でレイディアントさんの状態を簡易的に確認する。

【ステータス】

セラ・レイディアント

レベル21

状態:身体強化1.00

わかりやすい効果で安心する。

逆に、次元魔法なんてものを初見で対処しなければならないレイディアントさんが可哀想だ。

「それじゃあ、いきます」

「いつでもくるがいい」

レイディアントさんは半身になり、右手に持つ片手剣の先を地面につける。

独特な構えだ。僕から見れば利のない構えにしか見えない。だが、高レベルの剣術スキルを保持しているのだから、見掛け倒しなはずがない。

僕は筋肉の内圧を高めるように、軸足に力を溜める。

見たところ、レイディアントさんから仕掛けてくる様子はない。胸を貸すつもりであることが推測できる。

このまま見合っていてもいいが、無駄な時間をかけるのは信条に反する。

「ふっ――!」

息を吐き、圧縮された足の力を解放し、僕は距離を一気に詰める。

それと共に動いていた僕の剣が、レイディアントさんの降ろした右手に吸い付こうとする――が、その一閃をレイディアントさんは余裕を持ってかわす。そして、避ける動作と共に、その剣を僕の首まで振るった。

一瞬にして流麗な動作。

たゆまない努力の跡が垣間見える見事な『後の先』だ。

だが、それを僕の目は問題なく捉えている。魔法の特性上、僕が何かを見落とすということは起きない。

すぐに身体を後方へずらし、距離をつくることでいなす。

一瞬の接触が終わり、すぐに僕は距離を取って、最初の位置に戻る。

レイディアントさんを見ると、先の一撃を僕がいなしたことに驚いているようだ。

「……ほう。貴様、なかなかやるな」

レイディアントさんは上から目線で評価する。

それもそうだ。

先ほどのやり取り、手を抜いていたのは彼女のほうだ。

一連の動きを脳内で再生する。そして、気づく。

僕は手の甲を裂くつもりだった。だが、レイディアントさんは僕の首筋で剣を止めるつもりだった。

レイディアントさんには、それが可能な技術がある。

僕は息を呑む。

恐れではない。

憧憬で息が止まりそうになる。

ティーダのときには感じなかった感情だ。

それはティーダの技が大雑把だったからだろう。

刃を振るってはいたものの、そこに技というものはなかった。圧倒的な力と速さによる純粋な強さだけだった。

だが、今日は違う。

洗練された技による芸術品に近い強さだ。

足の運び。

腰の回し方。

肩の抜き方。

肘の柔らかさ。

手首の強靭さ。

その完成された剣術を目で追えるという事実が、僕に幸福感を与える。

それほどまでにレイディアントさんとの一合は――美しかった。

僕の根っこのところにある夢見がちでゲーム好きな性分が、僕に興奮をもたらす。

そして、その興奮を僕は、すぐさま鎮火させる。

レイディアントさんの剣術を鑑賞するのが目的ではない。

悠長な真似をすれば、後れを取ってしまう可能性がある。

逆に言ってしまえば、油断をしなければ負けない相手とも表現できる。

目的は自分の力量を測ること。そして、確実に追い返すこと。遊ぶことではない。

レイディアントさんの剣術を引き出し続けたいという気持ちを抑える。

「どうした、攻めてこないのか?」

「いえ、ちょっと考え中です」

僕が距離を取って呆けていたのを、レイディアントさんは不思議がったようだ。

咄嗟に僕は攻め方を考えていたような言い訳をしてしまった。

「ほほう……。先ほどの動きといい、そこらの馬鹿者共とは違うようだ。先の一合で私の実力を見抜いたか。お嬢様を 拐(かどわ) かしただけのことはある」

それを信じて、レイディアントさんは勝手に僕の評価をあげてくれた。

「いや、濡れ衣ですからね。それ」

「ふふ、こんなに面白い相手は久しぶりだ。そうだな。次はこちらから行かせてもらう」

僕の否定なんて聞こうともしない。

だが、怒りで聞かないわけではない。新しい興味が生まれたから、耳に入らないといったように見える。

レイディアントさんがやる気になったことを肌で感じる。

彼女の威圧感が、僕の肌を痺れさせる。

これが人類トップクラスの剣。そう思ったとき、

――レイディアントさんの身体が、ぶれる。

無駄のない身体運びによる身体移動術だ。

予期していなければ、追いつけない速さだろう。けれど、彼女が速さに特化した騎士であることを、僕はステータスで事前に知っている。その違いは大きい。

レイディアントさんの踏み込みを目で追いきる。

そして、下から剣が斬り上げられているのも、確かに見る。

僕は剣を横に倒して、それを受けた。

甲高い金属音が鳴る。

僕の剣が跳ね上がり、レイディアントさんの剣が下に弾かれる。

その瞬間、魔法《フォーム》の対象をレイディアントさんの剣に移す。

次元の泡沫が取り付く。

敵の情報の入手速度が跳ね上がっていく。

僕とレイディアントさんの剣の動きだけに特化した空間把握へ、切り替わる。

魔法《ディメンション・ 決戦演算(グラディエイト) 》が研ぎ澄まされ、両者の剣の動きをミリ単位で僕に伝えてくれる。

――よし。

実験は成功だ。

対剣士において、有効な魔法運用であるということがわかった。

もう試したいことはない。

あとは、できるだけ能力を隠蔽して、短期決戦を仕掛ける。

瞬間的に膨大な魔力で、さらに魔法《ディメンション・ 決戦演算(グラディエイト) 》を強化する。

そして、刹那単位で動いていく剣を脳に刻みながら、最適な身体運びを計算していく。

三合目は互いに剣を紙一重でかわし合う。

四合目は互いの剣が掠り合い、火花を散らす。

最後に五合目。レイディアントさんの剣が宙を切り、僕の剣が彼女の喉元で静止した。

「なっ――!?」

レイディアントさんは信じられないような顔で、静止した剣を見つめる。

「僕の勝ちでいいですかね」

終わってみれば、僕の圧勝のように見える。

だが、単純な力量だけで考えるならば、僕の方が格段に劣っていただろう。

要は取得情報量の差だ。

僕はレイディアントさんの実力を細かな数値で知っていて、レイディアントさんは僕の実力がわからない。

油断や心構えの差などもあるかもしれないが、事前の情報量に格差があり過ぎた。そして、一番重要なのは、レイディアントさんはそんな格差があることに気づけもしないこと。

レイディアントさんは技を出し切る前に、緩急のついた僕の最高速度に一手遅れた。

実戦ならば、彼女の首は飛んでいる。

皮肉にも『表示』は対モンスターでなく、対人間において真価を発揮した。

決闘の結果を理解した騎士たちが、一斉にどよめく。

腰に下げた剣に手をやるものまでいた。

それを見た僕は、ゆっくりとレイディアントさんから剣を離す。何も言わず、対戦相手の言葉を待つ。

「……くっ。確かに私の負けだ。騎士は悪足掻きをしない。お前たち、絶対に剣は抜くな!」

レイディアントさんも周囲の騎士達の様子に気づき、抜刀しないように呼びかけてくれた。

「……ふう。ありがとうございます」

素直に負けを認めてくれたので、僕は一息つく。

この人数に囲まれての戦いは、残りのMP量からすると不安が残る。逃げに徹しても、いくらか傷を負う可能性があった。

「屈辱だ……。このような男に負けるとは……」

「約束どおり、撤収してくださいね。できればすぐに」

「ぐぐっ、ぐぬぬ……! くっ――、決闘の宣誓は騎士にとって絶対だ。言うとおりにしよう」

レイディアントさんは非常に物分りが良かった。

騎士という存在には詳しくないが、約束を反故にはしないようだ。他の七騎士さんたちもこうなら楽だなとは思う。だが、すぐにパリンクロンを思い出して、レイディアントさんが特別に正直な性格なだけだろうと思い直す。

「し、しかし!! 約束は二度と顔を見せないこと! そうだったな!!」

「は、はあ……。そうですけど」

「私は来れなくとも、違う七騎士を送り込んでくれるわ! 私に勝ったからと調子に乗るなよ!」

「えぇー……」

それは悪足掻きじゃないのだろうか……。

「今日のところはこのくらいにしておいてやろう!!」

そう言ってレイディアントさんは背中を向け、酒場から離れていく。

周囲の騎士達もそれにならい、お騒がせな一行が去っていく。

まだまだ次があると言わんばかりのその背中を見て、やっぱり決闘システムはあてにならないと僕は再確認した。

次は自分に関わるなとでも言えばいいのだろうか。

次があれば、条件はもっとよく考えて決めよう。そう僕は心に決める。

そして、魔法《フォーム》の泡を消していく。

これの実験が成功したのは大きい。最後の数合は、これがなければ実現しなかった。剣と剣の動きが、手に取るようにわかるのは強すぎる。こと剣の勝負において、これほどのアドバンテージはないだろう。

僕は満足しながら息をつき、額の汗を拭い―― 拍手が鳴った(・・・・・・) 。

「流石ですね、カナミ」

酒場の屋根の上。

月夜に金色の髪をなびかせる少女が、妖艶に笑っていた。

この騒ぎの原因となった少女。

ラスティアラが、そこにいた。