軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.奴隷市場

紛れ込んだが、すぐには競売に参加しない。

僕は冷静に、まず情報収集に徹した。

一つ目の会場では、後方で息を潜めて、競売の流れを観察した。僕の持っている情報と差異がないかの確認だ。

ただ、その間ずっと、迷宮で奴隷を見たときと同じ不快感が、僕の中に溜まっていく。しかし、今度は理性をもって、自分を律する。論理的に、僕にとって必要なものだけを選別し、情報だけを頭の中に入れていく。

慎重を期したため、一つ目の会場で奴隷を買うということはなかった。

もちろん、規格外な奴隷がいれば介入するつもりだったが、どれも平均的な奴隷ばかりだったのだ。

どうやら、奴隷市場には種類があり、この一つ目の奴隷市場はクリーンで初心者向けだったらしい。だから、何らかに秀でているであろう特殊な奴隷は出てこない。そういうのは、奴隷市場の中でも、さらに闇の濃いところで出品されるとのことだ。

ちなみに、いまの情報は全て、会場にいる参加者の雑談全てを魔法《ディメンション》で盗み聞いた成果だ。かなりの荒業だったが、MPを多めに消費することでなんとか成功した。

その情報の中には、この後に開かれるであろう特別な奴隷市場の場所と時刻もあった。

途中、年若い僕に絡んでくるならず者も多かったが、見えないところで失神してもらった。会場には護衛を連れている人が多く、一人で参加している僕は、その若さもあって少し目立っていた。

できるだけ目立たないように心がけつつ、僕は次々と市場を回っていく。

それはつまり、この世界の深みに潜っていくということに他ならなかった。

徐々に奴隷市場の質が、一般的なものから違法的なものに変わっていく。

奴隷の値段が上がっていき、単純な戦争被害者でない奴隷たちも壇上に上がる。

人攫いにあっただろう令嬢や珍しい獣人。一般の奴隷市場では見られなかった幼い子供もいれば、特異体質で肌や髪の色素が抜けている人。様々だ。

「…………」

人の持つ原始的な熱気にあてられ、眩暈がする。

わかってはいた。

覚悟もしていた。

けれど、頭で考えた予測と、実際の体感では差があった。

別に僕は、自分のことを潔白な人間とは思っていない。奴隷という文化を受け入れる気概でここまで来た。

それでも、この空間に適応はできなかった。

鼻腔にまとわりつく麻薬のような香。

それに混ざる人間のあらゆる体臭。

この空間を支配する金持ちたちの下卑た笑い声。

窮めつけに、壇上に立つ悲愴な目をした奴隷たち。

僕は奴隷市場の隅の一席で、表情を隠しながらそれらを見続ける。

なによりも、奴隷の 状態(・・) が僕を削る。

僕の『表示』は、それを偽りなく、容赦なく、伝えてくるのだ。

「…………っ!」

自然と顔が歪む。

深夜、金持ちのためだけに催される奴隷の競売。

その目的にろくなものはない。

大体の客が、使い潰す目的で奴隷を探している。

僕は心を削られながら、奴隷たちの才能を確認し続ける。

奴隷の名前を認識しないように、レベルとステータスとスキルを作業のように見ていく。

絶対に名前は見ない。

それを徹底しなければ、感情移入してしまうと思ったからだ。

そして、また新しい奴隷が壇上に並び、司会をしている男が会場全体に響く大きな声をあげる。

「次の商品になります。五番から十番の奴隷を説明させてもらいます――」

僕は司会の言葉を耳に入れず、ただ『注視』し続ける。

五番、ステータスが軒並み低い、スキルは普通。

六番、ステータスは平均的、スキルが皆無。

七番、レベルも高くステータスも高い、ただしスキルが皆無。

八番、ステータスのバランスも良く、スキルも4つある。しかし、状態に欠損あり。

九番、ステータスもスキルも悪く、状態は……――

「……やめよう」

僕は自分で自分を止めた。

並々ならぬ覚悟で望んだつもりだったが、それでも駄目だった。

まだ浅いところの奴隷市場では自分を保てた。

けれど、この奴隷市場で目的のものを探し続けるのに冷静でいられそうにない。

何の抵抗もなく笑いながら奴隷に入札していく会場の大人たち。自分もここにいる金持ちたちと変わらない。そう一度でも感じてしまえば、奴隷を見続けることができなかった。

僕が心折れている間も、仮面を被った司会者が商品の奴隷を次々と紹介していく。

オークション形式なので、すぐにその奴隷たちに値段がついていく。

値段のついた奴隷たちがこれからどうなるのかを、僕は考えてしまう。

いま赤髪の少女を買った小太りの男は何の目的で彼女を買ったのかを考える。人間観察が癖になっていた僕は、それを無意識に行ってしまう。

使用人や労働力として買われるのなら、マシだろう。けれど、こんなところで奴隷を買うような客に、まともなやつはいない。その客の趣味によっては、身体のあちこちを失うことになるだろう。マイナーな悪趣味だったならば最悪だ。明日には命はない。

憂鬱になる。

ここにいるのは人間だ。僕と同じ人間だ。

異世界だからという話ではないだろう。元の世界でも、同じような人間が同じようなことをしていたはずだ。世の中には、デッドスペースなんていくらでもある。

それを今回は、魔法《ディメンション》という反則技のせいで、不幸にも見つけてしまっただけのこと――

これ以上見ていたくなかった。

「……帰ろう」

苦い経験になったが、後学にもなった。

今回はそれでいい。収穫はあった。

そう自分に言い聞かせて、ゆっくりと席を立とうとして――

「ん、兄さん。もう帰るのかい?」

声をかけられる。

唐突に席を立ったのがよくなかったのか。ただでさえ若い風貌で目立っていた僕は、一人の男の目を引いたようだ。

背の高い男だった。男は商人のような装いをしていて、客の中では珍しく精悍な顔立ちをしていた。

僕は驚きながらも、当たり障りのない言葉ですぐに離れようとする。

「……気分が優れないので」

「ああ。若い兄さんには刺激が強すぎたかねえ」

「……別に」

長話をする必要はない。

その言葉を最後に、そのまま去ろうとする。

「あっ。はは、いま買われた子は悲惨だねえ。あの貴族は、趣味が悪いことで有名だ」

男は僕に聞こえるように喋る。

その言葉に反応して、僕は足を止めてしまう。

そして、悲鳴をあげている奴隷を目にしてしまう。おそらく、その貴族の噂を知っていたのだろう。あの貴族に買われるくらいなら死ぬと奴隷は抵抗していた。

その様子から僕は目を逸らし――にやついている男の顔を見てしまう。

「……僕に何が言いたいんです?」

「いや、なに。兄さんが面白そうだったから、ちょっかいかけているだけさ」

「…………」

やはり、ろくなやつがいない。

僕はため息をついたあと、相手にしないと決めて、ここから離れようとする。

「――それでは次の商品を説明させて貰います。十三番、ファニア出身、中々に珍しい黒髪黒目の少女になります――」

離れようとして、司会の声が聞こえた。

ファニア出身……?

黒髪黒目の……?

その奇遇な経歴に、僕は後ろ髪を引かれる。

何度もここから離れようとして、自分の心の弱さから離れないでいる。そんな自分が嫌になりながらも、僕は最後だと心に決めて、壇上に少しだけ目をやった。

「……っ!」

壇上には、名前を知ってしまっている少女がいた。

数日前、名前を教えあってしまった少女だ。

――「……私は、マリアといいます。名前はマリアです」――

その声と名前を思い出してしまう。

同時に、壇上の少女マリアの虚ろな目を、僕は見てしまう。

偶然にも、彼女も僕に気づいたようだ。一度だけの出会い――それも数秒の邂逅だったが、彼女も僕のことを覚えていたらしい。

彼女の虚ろな目に僅かな光が灯り、お互いの視線が交わった。

客席と壇上。僕と少女。

見つめ合い、離すことができなかった。

「ん、兄さん? あの奴隷がどうかしたかい?」

「別に……」

男の言葉など僕の耳に入ってきてはいなかった。

「兄さぁん。別にって顔をしてないから、俺みたいなのにからかわれるんだぜ?」

僕は男の言葉をよそに、マリアという少女を見つめ続ける。

変哲もない少女だ。

ステータスは以前見たときから変わっていない。料理の得意な――少しだけ才能に恵まれた少女。このくらいのステータスなら、いくらでも他にいた。

けど、その少女とは喋ったことがあり、名前まで知ってしまっていた。

先ほど危惧していた感情移入の条件を満たしてしまっていた。

――最悪だ。

「お、競売が始まった」

男は黙り込んだ僕をはやしたてる様に喋り続ける。

同時に、胸中で溜まりに溜まった感情が渦巻き出す。

気持ちの収まりがつかなくなってきていた。

落ち着け……。落ち着くんだ。

少し前の出来事を思い出せ……。

迷宮で出会った奴隷は、結局どうしようもなかった……。

その経験から学んで、大人になるんだ。相川渦波……。

「ああ。このままだとまた、あの趣味の悪い貴族に買われちゃいそうだな……。あの貴族、今日は買い占める気なのかねえ。ねえ、兄さん」

けど……。

――けど、迷宮で出会った奴隷とは状況が違う。

それに僕は気づいてしまっている。

あの奴隷は他人のものだったから手が出せなかった。けれど、ここにいる奴隷は誰のものでもない。お金さえあれば、ここから簡単にすくい上げることができる。

ここで僕が声をあげさえすれば、あのマリアという少女の声が悲痛に染まることを防げてしまう。

逆に、ここで何もせず去るということは、あのマリアという少女を見殺しにするということだ。

僕の未熟な精神で、その罪悪感に耐え切れるだろうか。

僕は確認を取るため、男に話しかける。

「……なあ。ここの競売は、どうすれば参加できるんだ?」

「ん、兄さん。やっぱり参加するのかい? 入札するなら、手をあげて値段を言えばいい。ここも他とさほど変わらない。周りの真似で大丈夫さ」

確認は取れた。

手順は間違えようがない。

ただ、最後に僕の理性が制止しようとする。

一人助けたところで意味はない……。

醜い行為だ……。

そう、責めたててくる。

それに対して、僕は言い訳を重ねる。

ここで助ければ、少しは心が楽になる。醜い行為だとしても、スキル『???』が暴走しないように、心の安息を目的にして金を出してもいいじゃないか。幸い、所持金は普通ではないほどある。

「――進行役。僕は二倍出す」

僕は手を上げ、全員に聞こえるように言った。

奴隷の少女マリアの目が見開かれた。そして、初めて出会ったときと同じ目、何かを見つけたような目で、僕を見つめ返し続ける。

会場全体にどよめきが走った。

興味を持って僕を見る者。面白がってはやしたてる者。不思議そうに話し合いを始める者。会場の金持ちたちが、僕を見てざわめく。

「――さあっ、ここで金満家な青年の入札です! 値段は、なんと! 金貨越えしております! 青年の眼鏡に叶ったこの奴隷、他に興味を持たれた紳士はいらっしゃいませんか!?」

司会の男は演説を加速させる。

この熱を失わせないように、声を張りあげて会場を盛り上げる。

それを隣の男は笑う。

「ははっ、兄さん、急に吊り上げすぎだぜ。そんな真似すると、ほら」

男は笑いながら指差す。指の先に居たのは僕の前に入札していた貴族だ。

貴族は会場の雑音に負けないほど大きな声をあげる。

「さらに二倍だ!」

「おっと、ここでフェブル卿の入札です! 青年と同じく二倍! ここに来て値段は一級も、超一級。相場の五倍まで跳ね上がりました!」

さらに値段を吊り上げ、貴族はこちらを見る。

席は遠いが、僕に対して良い印象を持っていないのはわかる。

司会者は興奮した様子で、予想外に値段の上がった商品に喜んでいる。

隣の男は肩をすくめて、僕に話しかける。

「ほら、ムキになったぜ」

「う……」

確かに軽率だった。

衝動にかられて馬鹿な真似をしてしまった。

僕のせいで、何の変哲もない少女に興味を持った人が出てきた。それによって、値段も徐々に上がっていく。あの少女には何の才能もないのに馬鹿な奴らだ。

会場が熱狂していくのに反比例して、僕は冷静になっていき――

「困ってるようだなあ、兄さん。よければ、俺が上手く落札してやろうか?」

――しかし、男の甘言が、その冷静さを失わせる。

「……上手く? どうして、おまえが僕に手を貸す?」

僕は舐められないように言葉遣いを荒くして、男に答える。

対して、にやりと男は笑う。

「いや、なに。面白そうだからさ」

「……できるものならな。そんなに予算はないぞ」

「できるさ。どのくらいが限界かい?」

男は簡単そうに「できる」と言って、僕の予算を尋ねる。

その簡単そうな口ぶりに僕は揺るがされ、頭の中で捻出できるお金を算出してしまう。

「……金貨三。金貨三枚までだ」

「ふむ。金貨四くらいは出せそうだな。ちょっと、待ってろ」

「僕は別に信用していないからな」

「いいっていいって。いいから、待ってろな」

そう言って男は競売に参加する。

手を上げて、僅かに値段をあげて入札していく。

それを僕は呆然と見続ける。

細かく値段に口を挟んでいるものの、さほど目立った様子は見られない。

だが、時々、競売相手に手を振ったりしている。競売相手も、この男を見て手を振る。どうやらこの男、顔が広いようだ。

最後にはフェブル卿と競り合ったが、大事になることなく金貨三枚と少しで男は落札してみせた。

「落札したぜ」

男は簡単に奴隷のマリアを落札した。

ただ、落札価格は僕の提示した価格を少しばかり上回っている。

「……僕は金貨三までと言った」

「ありゃ。なら、この話はフェブル卿にでも持ちかけるかな」

「言ったが、僕が頼んだのは確かだ。それを僕は反故にしない」

「くくっ、面白いねえ。じゃ、金貨四で」

男は腹を抱えながら、取り分を要求してくる。

その要求に僕は眉をひそめるが、すぐに嘆息して諦める。

「別にかまわない」

「あれ? いいのかい?」

「どう足掻いても、あんたの手のひらの上だとわかった」

「諦めて貰ったら面白くないな。くくっ、もう少し遊ばせてくれよ」

男は底意地の悪い顔で笑いながら、席を立つ。そして、僕を手招きする。

「兄さん、見るに耐えないんだろう? 会場を出て、先に商品を受け取ろうじゃないか」

「……いま行く」

男は僕の感情もお見通しのようだ。

僕はどうしようもないと感じ、言われるがままについていく。

僕と男は会場を出ていく。その先にいた係りの者に案内されて、会場の裏手のほうに回っていく。

そこには落札された奴隷たちが所狭しと並んでいた。

その中にマリアは立っていた。

彼女の目は、ずっと僕の目を射抜き続けている。

男は係りの者と手続きを終わらせ、マリアを引き取る。

そして、僕のほうに歩み寄り、手のひらを出す。僕は懐から金貨四枚を出して、男の手のひらに弾いて渡した。

「ん、確かに金貨四枚だ。奴隷の首輪の登録は白紙だから、自由にしてくれ」

男は金貨を懐に納め、素直にマリアを僕に差し出す。

癖のある男だったので、僕は何らかの交渉があるかと思っていたが拍子抜けだ。すぐに僕はマリアを引き寄せ、思ったことをそのまま男に伝える。

「あんたのことだから、ここで条件を足してくると思ったよ」

「いや、俺は兄さんの狼狽する様を見れて大満足だ。だから、意地悪はしない。むしろ、兄さんを気に入ってさえいる」

「……悪趣味だ」

「けど、助かったろ? ……いや、俺がいなければ、そもそも迷わなかったか?」

男は僕の内心を見通しているかのような物言いで、僕をからかい続ける。

「もういいだろ。僕はこの子を連れて行く」

これ以上の接触はよくないと僕は思い、男から離れようとする。

それを男は引き止める。

「まてまて、そう急ぐなよ。最後に自己紹介しておこうぜ。後でクレームも受け付けるからよ」

「……名乗るなら勝手に名乗ればいい。僕は名乗らない」

僕の名前を教える気はないが、そっちの名前を聞くのは構わないと判断する。

それに対して、にやりと男は笑って自己紹介を始める。

「俺の名前はパリンクロン・レガシィ。北のフーズヤーズの騎士、これでも 『天上の七騎士』(セレスティアル・ナイツ) って役職の一人だ」

そう言って、パリンクロンは何も持っていない手で剣を振る仕草をした。

その仕草は流麗過ぎた。何も持っていないのに、そこに剣があるかと錯覚するほどの自然な動きだった。たゆまない反復練習の末に身につくであろう技であると、直感的に理解させられる。

それに脅威を感じ、僕は後退りながらパリンクロンのステータスを確認する。

【ステータス】

名前:パリンクロン・レガシィ HP301/312 MP59/62 クラス:騎士

レベル22

筋力7.89 体力9.87 技量11.89 速さ5.67 賢さ7.34 魔力4.77 素質1.80

先天スキル:観察眼1.45

後天スキル:剣術1.89 神聖魔法1.23

体術1.87 呪術0.54

人間最高クラスのレベル。

並ではない素質。

実践的で数値の高いスキル。

パリンクロンという男が、只者ではないことを理解する。

僕の身体は強張り、魔法《ディメンション》を無詠唱で簡易的に展開する。そして、右手を後ろに回し、いつでも『持ち物』から剣を抜けるようにする。

「くくっ。そう緊張しないでくれよ。今日は見に来ただけさ」

パリンクロンは僕の対応を面白がり、両の手のひらをこちらに向けて敵意がないことを示した。

「見にきたって、奴隷を……?」

「いや、兄さんをだ。兄さんにばれないよう尾けて、近くの席を取るのは苦労したぜ」

何でもないようにパリンクロンは尾行していたことを語る。

その事実に僕は驚愕し、それが嘘ではないことを確信する。それほどまでにパリンクロンのステータスは高く、その物腰は普通でない。

「なんで……、僕を尾けていた?」

「我が主の想い人と聞いてね。誰よりも早く見にきたんだ」

『我が主の想い人』?

「何を言っているのかわからない。その主ってのはフランリューレのことか?」

思い当たるのは一人だけ。

迷宮で出会ったフランリューレだ。

「フランリューレ? いいや、違う。……しかし、そこでヘルヴィルシャインの娘の名前が出るとはねえ。やっぱり面白いなぁ、兄さん」

パリンクロンはフランリューレは違うと言った。

だが、彼女以外に心当たりはない。

「あんたの主が誰なのかわからない。身に覚えがない」

「へえ、そうかい。まあ、それならそれでいいさ。今回は、俺が気になって早めに来ただけだ。様子見だから、そっちは気にしなくていい」

そう言ってパリンクロンは背を向ける。

「じゃあな、兄さん」

手を上げて別れを告げる。パリンクロンは出口に歩いていく。そのまま去っていくつもりのようだ。

僕にはわからないことばかりだ、できれば追いかけて問いただしたい。だが、パリンクロンのレベルが、それを許さない。まともに戦えばどうなるかわからない。去ってくれると言うのなら深追いをしないほうがいいと考えてしまう。

迷っている内にパリンクロンの姿が見えなくなり、僕とマリアが残る。

マリアに目を向けると、彼女は僕を見続けていた。パリンクロンに引き取られる間も、いまのやり取りの間も、ずっと彼女は僕を見続けていたのだと気づく。

マリアに潜む異常性を感じ、面倒事ばかりだと僕は肩を落とし――彼女の手を取る。

「ついてきて……」

「はい」

マリアは小さく頷いた。

結局は、感情に任せて身請けした奴隷が一人。

理解した。

僕の精神力では、絶対に奴隷の問題には打ち克てない。

それが、いま、完全に証明された。

僕は二度と奴隷市場には来ないことを心に誓い、マリアの冷たい手を引きながら帰路を歩いていった。