軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.狩り

ディアとの迷宮探索を終えて、僕の経験値は100ほど増えていた。次のレベルアップのために必要な経験値は残り600ほど。

2時間で100の経験値……。

個人的には成長が遅すぎて、あくびがでる。

ただ、三十歳くらいの熟練の冒険者達たちがレベル10前後であるところを見ると、急成長と言えるだろう。なにせ、あと六日同じ事をすればレベル5になるのだ。このペースだと、十年以上も戦い続けた彼らに追いつくのに一年もかからない。

ただ、それは相対的に見た話であり、決して僕は満足しない。

僕の目標は迷宮を百層までクリアすることだ。

そのために僕はゲーム的な思考をフル回転させ、新たに効率的な探索プランを作成していく。

まず迷宮探索において必要なものを揃えるのが先決だろう。

経験の浅い僕ではわからないことは多いが、ディアとの探索で最初に感じたのは『継戦能力』の重要性だった。

僕はHPを全く削ることなく、MPが尽きて探索を終えた。

つまり、MPを回復する手段かMPを節約する手段があれば、延々と戦い続けることができる。経験値の取得率を高めることに繋がる。

あとは、いかに自分に見合ったランクのモンスターを狩るかだろう。

ディアの火力が有り余っている現状では、もっと強いモンスターを相手取り、経験値とお金の入りを良くするのが効率的だ。

よくある話だ。

要は、回復手段の確保と狩場の厳選。

オンラインゲームなどのレベル上げにおいては基本中の基本にあたる。

「……課題は明確だな」

その再確認と共に、僕は独り言を呟いた。

「あら、何が明確なの?」

その独り言にリィンさんが反応した。

「……いえ。また迷宮に顔を出し始めたので、どこにどんなモンスターがいるのかを知るのは大切だなーと思いまして」

この酒場の従業員は迷宮に関しての知識が深い。

何らかのアドバイスを期待して、包み隠すことなく話していく。

「へぇー。挫折したって言ってたのに、もう挑戦したんだ」

「ええ、朝が暇ですからね。時間が余ると、どうしても迷宮の方に……」

「迷宮のために、はるばるヴァルトまでやってきたんだもんね。仕方ないか」

「お店に支障がでないように、怪我はしないようにしています」

「いや、店よりも自分の夢を重視していいよ。なんだかんだで、この店は回るし。それよりもさっき、モンスターについてどうのこうの言ってたみたいだけど、そういうことは店長に聞けばいいと思うよ」

それは僕も考えていたことだ。

なにせ、店長のレベルは15。

いままで見てきた人たちの中でもトップクラスの実力者だ。

「そうですね。色々と悩みがあるので、店長に相談してみようと思います」

「うんうん。それがいいよ」

軽口を叩き合えたのはそこまで。

この後は大量のお客によって忙殺されて――

◆◆◆◆◆

――酒場での仕事を終え、翌日。

ディアとの二回目の迷宮探索が始まる。

昨夜、店長の話を聞かせてもらい、迷宮に出てくる強いモンスターについての知識を僕は揃えた。そして、僕たちの能力で対応できそうな敵の中で、できるだけ経験値の多いモンスターにあたりもつけた。準備万端だ。

「えー。今日はランクの高いモンスター、もしくはボスモンスターを狙うことにします」

「おぉー、ボスかー。いいね、すごくいい!」

ディアと教会で落ち合い、僕の今日の方針を示したところ、かなり乗り気な反応が返ってくる。

「調べたところ、MPの問題を解決するには高額なアイテムが必要のようなので……一戦一戦の質をあげていきます」

「賛成。せっかくだから、ボスいこうぜ。ボス」

やはり昨日の一方的な虐殺は御気に召していないようだ。

より強い敵と戦いたいという欲求が、ディアにも湧いてきているのだろう。

「それじゃあ、ちょっと遠くまで行くからついてきて」

「わかった」

そして、僕はマップを『表示』させる。

この地図があることによって、僕たちは深部の探索が容易となっている。

酒場で収集した情報に従い、ボスモンスターが居るであろうエリアに足を進めていく。

道中はMPを節約することを心がける。索敵を緩めるわけにはいかないが、低ランクのモンスターとの戦闘では魔法《ディメンション》を使わないようにした。

楽に倒せるモンスターを選び、迷宮を歩いていくうちに、少しずつ回廊が変貌していく。

特徴のない石造りから、生気溢れる緑の道に。

回廊は徐々に大きさを増し、木々が生い茂る。

さらに奥へ進むと――、そこは森だった。

回廊といった道の分別はなくなり、どこまでも巨大で暗い森が広がっている。

一層の深部、特殊なエリアに入ってきた証明だ。

「えー、 昆虫(ビートル) たちの特殊エリアに入りました。それでは、このエリアの主、ボスモンスター『クイーン・オブ・フォレスト』を狙撃したいと思います」

「へ?」

僕は粛々と狙撃宣言を行う。

可能な限り安全圏からボスを狙い撃つと伝えてはいるものの、ディアは困惑している。

「いや、狙撃するよ。狙撃狙撃」

「まてまて。えっと、できそうなら狙撃――だったよな? もしかして、ここから簡単に狙い撃てるのか?」

「作戦を説明しよう」

「え、ちょ――!」

普段は強気なディアだが想像以上におろおろとしている姿が可愛かったので、このまま僕は聞く耳をもたずに説明し続ける。

「情報通りなら、僕はここからでもボスの位置を把握できる。そして、ディアは僕の指差すほうに向かって、全力で魔法を撃って欲しい。たぶん、それだけでボスは即死する。ドロップアイテムも拾いたいから、取り巻きの雑魚モンスターたちも随時、撃ち殺すよ。雑魚モンスターはこちらに向かってくると思うけど、それも遠距離から削っていく。で、もし接敵した場合は僕が囮。その場合はMPの採算は考えない。僕は全力で戦うから、ディアはその援護。――作戦は以上。僕たちの能力ならこれくらいは余裕のはず。何か、質問は?」

「ん、んー……? 本当にできるのか?」

「間違いない」

ディアにプレッシャーを与えないため大げさには言っているが、僕たちの能力ならばミッションがイージーなのは確かだ。

それほどまでに僕とディアの能力は、この世界で異常なのだ。

もしも、この場に普通の冒険者が一人でも居れば、この作戦は成立しない。

僕の才能を見抜く力によって、規格外であるディアだけを仲間にしているからこその作戦だ。改めて思う。僕の能力もそうだが、『表示』によって他者の能力が見える力は反則だ。

「わかった。キリストには恩があるし、信用するよ」

「そう気負わなくていいよ。僕の考えている通りなら、これは本当に簡単だから。終わればわかる。ディアは本当に強いんだ」

ディアの精神的な動揺を軽減するために激励する。

「……本当の本当にか?」

「本当に。……それじゃあ、索敵するから、ちょっと待って」

僕は《ディメンション・ 多重展開(マルチプル) 》を使用し、仕入れた情報の方角に意識を伸ばす。

森の木々を掻き分けていき――巨大な樹木に背中を預ける全長5メートルほどのモンスターを見つける。

蝶の様な羽と甲殻類の装甲を併せ持った二足歩行の化け物だ。

その周囲には、数匹の眷属と思われるモンスターが徘徊している。

その場所に向けて僕は指差す。

魔法によって、一ミリ単位で把握できる空間情報が頭に広がる。

着弾予定は、誤差がなければクイーン・オブ・フォレストの心臓。

「よし、把握した。僕の腕の上に、ディアの腕を乗せて。で、僕の指差す方向に魔法を放って。風とか障害物とかは気にしなくていいから。大抵のものじゃあ君の魔法に影響しないし、もし影響しそうなものがあっても、そのときは僕が修正する」

「……わかった」

ディアは戸惑いながらも、僕の指示通りに背後から肩越しに腕を乗せた。

「対象は動いていない。近づかない限り、特に行動しないんだと思う。僕の手を焼かないように、ディアのタイミングでいつでも撃って……」

「大丈夫だ。すぐに撃てる」

そう言って、ディアは目を閉じて集中し始める。

数秒の間を置いたあと、目を見開き――叫ぶ。

「いくぜ――! ――《フレイムアロー》!!」

刹那、閃光が走る。

腕の上部に強い熱を感じたので、すぐに僕は腕をディアから離す。

放たれた熱量は木々に穴を空けながら、直進していく。

それを魔法《ディメンション》が把握している。

そして、刹那の終わり、魔法《フレイムアロー》はクイーン・オブ・フォレストの喉を貫いた。

【称号『緑の相対者』を獲得しました】

体力に+0.05の補正がつきます

本当は胴体を狙っていたのだが、少々ずれが発生して喉に当たった。

それでも頭部と胴体が切り離され、対象は即死した。

どうやら、ディアの魔法は全力で放つ場合、少しばかり上ずるようだ。

僕はクイーン・オブ・フォレストが消えるのを確認しつつ、自分とディアのステータスを『表示』する。そこには膨大な経験値が足されており、その分配は半々となっていた。経験値の詳細な分配式はわからないが、協力しているパーティーは基本的に均等分配となっているようだ。

予想通りの結果にほくそ笑み、僕は次の行動へ移る。

「うん、オッケー。ボス倒したよ。あとはまわりの眷属を倒そうか。と言っても、僕たちの場所がわからずに右往左往しているだけみたい。予定を変更して、注意を払いながら最小限の敵だけを倒してドロップアイテムを確保しよう」

「え? もう、終わりか?」

余りにあっけなく終わった戦いに、ディアは信じられないといった顔をしている。

「終わり終わり。さあ、ゆっくり進もう。敵を避けていくけど、少しは戦うと思うから準備しといて」

そう言って僕は、ドロップアイテム周辺の状況を探る。

眷属のモンスターたちの半分は、 主(あるじ) を狙撃した敵を探しに動いている。ただ、半分ほどは、その場に残っている。

僕とディアは敵を避けながら、十数分ほどかけて、ボスのドロップアイテムが落ちている場所の近くまでやってくる。

ドロップアイテムまでの距離は数百メートルほど。

迂回を重ねたため思ったよりも時間がかかった。そして、十分な安全確認を行い、ドロップアイテム周辺で待ち伏せている三体の眷属のモンスターたちに狙いをつけ――僕とディアはアイコンタクトで狙撃を行う。

まず一体が何もできず、撃ち殺された。

残り二体。ここで眷属たちは、魔法が飛来して来る方角に気づいたようだ。

残った二体共、一直線に僕たちの場所に向かってくる。

その様子を見て、僕はディアにもう一度、同じ事を行わせる。直線的に迫ってくるモンスターに狙いをつけさせ――撃つ。

道半ばで、もう一体のモンスターにも穴が空いた。

そして、最後の一体。これに対しては僕が剣で対峙する。眷属モンスターは、通常のモンスターより高ランクであるためMPを節約せずに戦う。

僕にとって、この最後の一体との接近戦がボス戦の全てだ。

そのモンスターはカマキリに似ていた。両の腕が鋭い刃物になっており、それを素早く僕に振り下ろす。それを僕は目で見て、身体をずらしてかわす。息をつく前に、カマキリのもう一つの腕の刃が、下方から斬り上げられる。それを僕は剣の腹を使って受け流し、カマキリの胴体に蹴りを入れて距離をとる。

そこで僕は勝ちを確信する。

裏を掻いてくるような特殊な攻撃はなく、斬撃の一辺倒。

後方のディアを狙う様子はなく、僕に特攻してくるだけ。

僕は受けに徹して、時間を稼ぎ――

「――《フレイムアロー》!」

もう一度距離が開いた瞬間、カマキリの頭は吹き飛んでいた。

「ふう……」

「大丈夫か、キリスト。すっげえ速い虫だったけど」

いままで相対したモンスターの中で最も速く、鋭い攻撃をするモンスターだった。けれど、正直なところ、一対一ならば後れをとる気はしなかった。

それほどまでに魔法の力は絶大だ。僕の空間を把握する魔法《ディメンション》は、近接戦闘でも無類の強さを発揮している。

「あのくらいなら、まだ余裕あるよ。それより、これで本当に終わりだ」

「そっか。なら、よかった」

僕とディアは二人でドロップアイテムの回収を始める。

ボスモンスターの魔法石と固有ドロップアイテムを確保したあと、他の眷属モンスターと鉢合わせしないように特殊エリアから脱出していく。

『正道』まで慎重に移動し、安全を確保し、MPの残量を確認する。

まだ半分以上残っていたのを見て、僕はディアに話しかける。

「それじゃあ、ディア。次のボスモンスターを倒しに行こうか」

「え、次があるのか?」

「ここから近いところなら、ゴブリンの集落かな。二足歩行の人型モンスターで、その中に巨大なゴブリンがいるらしいから倒そう」

「……ああ、わかった。望むところだ」

ディアはクイーン・オブ・フォレストがドロップした魔法石を手のひらで転がしながら賛同した。

僕は噂に聞いたエリアまで向かい、先ほどの手順を繰り返していく。

当然、ゴブリンが相手だろうが、結果は変わらない。

たった数十分で、またボスを撃破したところで、ディアは不満そうに呟く。

「――なんか俺の思ってた迷宮探索と何か違うな……。いや、悪くはないんだけど。なんかな……」

「僕もそう思うよ。だけど、僕らの能力で最も安全で効率が良いのはこの方法だから……」

特殊能力と異常な魔力に頼り切った戦いは、通常の戦いとはかけはなれていた。

それでも、僕とディアはこの方法を繰り返した。

なにせ、通常ならば命をかけて倒すボスモンスターを戦うことなく撃破していけるのだから、何の文句も言いようがない。

――その日、僕とディアは計三体のボスモンスターを倒し、迷宮から出た。

【称号『小心の膂力』を獲得しました】

筋力に+0.05の補正がつきます

【称号『踏み荒らし』を獲得しました】

筋力に+0.05の補正がつきます