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嫌いな姉が王子様に嫁ぎまして

作者: 猫宮蒼

本文

メリッサには双子の片割れがいる。名前はアリッサ。

双子なのでどちらが姉だとか妹だとか、メリッサは考えた事がなかったけれど、アリッサが姉だというので一応姉がアリッサである。

双子の片割れとは言うけれど、メリッサはアリッサの事が嫌いであった。

アリッサは自分が姉なのだからと、よく「お姉ちゃんの言う事聞きなさい!」と強引に自分の思う通りにしようとするのだ。

お菓子を半分こにして二人で仲良く分けなさいね、と貰った時も、二人で仲良く遊びなさいねと渡された玩具を使う時も、いつだってアリッサはお姉ちゃんの言う事聞きなさい、なんて言ってお菓子を多く持っていったし、玩具だって真っ先に自分が遊ぶのである。

幼い頃からそんなんで、文句を言えばお姉ちゃんの言う事聞けないの!? と理不尽に怒ってきた。

母に訴えても、母はあまり自分たちに興味がなかったのかメリッサの訴えはほぼ聞き流されてきた。

母はアリッサとメリッサがある程度物心ついてからは、二人に対して無関心だったように思う。

いつだって母は父ばかり見ていた。

父はいつも家にいるわけではなかったから、たまに家に帰ってきた時母は父にべったりだった。

父も、一応少しはアリッサとメリッサを気にかけたけれど、最初にちょっと声をかけて、お菓子などを二人に渡した後は母とべったりだった。

明らかに父の比重は母>双子である。

寂しかった、とメリッサは思わなかった。

多分最初の頃は少しくらいそんな風に思った事もあったかもしれないが、ある程度の年齢になってからはもう諦めたというか、そういうものとして受け入れたが正しい。

アリッサはどうだろうか。

双子だけれど、メリッサはアリッサが何を考えているのかさっぱりわからなかった。

いつだって自分が得をするためにメリッサを利用して踏み台にしようとする片割れの事を、理解したいとは思わなかったし。

姉を自称するアリッサだが、姉なんだから率先してやりなさい、と言われるような事があった時は双子なんだから姉も妹もないよ、なんて都合よく使い分けるのだ。

こどもながらにちゃっかりしていると言えばそうなのかもしれないが、そのせいでメリッサが一番割を食ったのは言うまでもない。

だから。

実は母が父の愛人であった、というのを知った時も。

これからは一緒に暮らせると父が言って、貴族の屋敷で暮らす事になるからと立派なお屋敷に連れていかれた時も。

メリッサにとっては面倒な事にしかならなさそうだなぁ……としか思わなかった。

母はこれから日の目を見られると思っていたのか浮かれていたし、アリッサも貴族のお嬢様になると思ってウキウキしていた。メリッサだけが冷めた目をして、そんな家族を眺めていたのである。

実際メリッサの予想は当たった。

メリッサが足を踏み入れた屋敷は、父こそが当主なのだとばかり思っていたが正妻が己の死期を悟った事で、既に娘に次の当主の座を譲る手続きをしていた。

父が当主であったのは僅かな期間だけだった。

正妻の娘であり、双子の異母姉でもある女は既に成人を迎えていたので後継者となっても何も問題のないものだった。

聞けば元々父は当主でありながら、当主としての執務の大半は正妻に任せていたので、結果として異母姉――ジャンヌにさっさと当主の座を譲る手続きをしていたのだとか。

それでもこの家は俺の家だ、と言い切ったからこそ、ジャンヌはともあれ滞在は認めた。

けれども既に父は引退したも同然の立場。

使用人たちもマトモに当主としての采配を揮わなかった父よりも、執務のほとんどをやっていた母と、その娘であるジャンヌの味方であった。

アリッサとメリッサは、一応は父の血を引いているという事もあって、貴族として何らかの使い道はあるかもしれない……なんて考えから、教育を受ける事となってしまった。

庶子として一応家にいる事は許されたようだが、ジャンヌの目は決して温かなものではない。

だからこそメリッサは教育を、と言われた時も素直に受け入れて真面目に学んだ。

貴族のお嬢様として、とはいかなくても、使用人として仕事にありつければ少なくとも生活に困る事はないと思ったからだ。

けれどもアリッサはそう考えなかったようだ。

面倒な事はやりたくないと教育を受けても適当で、だからこそ成績は奮わなかった。

そのくせ綺麗なドレスやアクセサリーを欲しがって父に強請るも、父も既に実権を手放したも同然で、家の財産を自由に使う事はできなくなってしまった。だからこそアリッサは「お姉さま~」と猫なで声でジャンヌに擦り寄っていったけれど、扇子で引っぱたかれて泣いて戻ってきた。

そもそもどうしてジャンヌがアリッサを甘やかしてくれると思えたのか、メリッサにはわからない。

そうでなくとも、ジャンヌは女性にしては背が高く、そして骨太なのか体格も華奢というよりはガッシリとしている。見ようによっては男性に見えるかもしれない気がしなくもないが、ジャンヌはちゃんと女性である。

メリッサの貧困な想像力で思い描いた貴婦人は風が吹いたら飛んでいきそうなか弱さだけれど、ジャンヌは強風の中でもしっかりと地に足をつけて立っていられそうだ。

病気知らずの健康体、みたいな印象なのである。

アリッサの我侭もバッサリ切って捨てていく姿を見て、メリッサは素直に「カッコイイな……」なんて思った。

メリッサは姉の我侭に振り回されて、嫌だと言っても今までの積み重ねで最終的にメリッサは自分の言う事に従うと思われているようなので、あんな風にバッサリ切り捨てるような事ができなかったのだ。

自分の言う事を聞いてもくれないジャンヌの事を、アリッサは「なんなのよあいつ!」と部屋で叫んでいたけれど。

なんなのも何もこの家の新当主様であるし、正統な血筋のお貴族様だ。むしろお前がなんなんだとメリッサは思ったが、口に出せばアリッサがうるさくなるのはわかりきっていたので何も言わなかった。

父や母はこの家で自由に振舞えると思ったのが実際はそんな事もなかったので不満そうではあるけれど、それでもこの家を出て行くつもりもないようでメリッサが見かけた時は大抵不機嫌そうで、時々小声でぶちぶちと文句を言っているのが聞こえた。

アリッサも、お嬢様としてちやほやされるのを夢見ていたせいで、ちょくちょく不満を垂れ流しているのを見た。

メリッサにとってそれでもここに来て良かった、と思えたのは、個室がもらえた事だ。

アリッサは質素な部屋だのと言っていたが、今まで暮らしていた家では自分一人の部屋なんてなかった。アリッサと同室で、メリッサの持ち物もアリッサが気に入れば勝手に持って行かれた事は数知れないし、そういう意味ではあの部屋は双子の部屋というよりは、ほぼアリッサの部屋みたいなものだった。

だからこそ鍵をかける事ができる個室を与えられたというそれだけで、メリッサはジャンヌにとても感謝していたのである。

態度は厳しい物があるけれど、でもそれってよく考えたら当然のものだしむしろジャンヌ様はとても慈悲深いのではないかしら?

そんな風に思ってしまった。

今までのような生活をしていたら、マトモな教育だって受けられなかったのだ。

読み書きくらいは一応、父がいない時に母が時々教えてくれたりはしたけれど、それだって中途半端だったので大人になって役立つかと言われると微妙だった。けれどもここで、改めて一からきっちり教えてもらえた事でメリッサは本を読むのも苦じゃなくなったし、今までは本当にこの字であっているのかと悩みながら書いていた文字だって、今では合っていると理解できているからこそ、書く事も苦じゃなくなった。

自分が知らない・わからなかった事がわかるようになっていく、というそれがメリッサにはたまらなく楽しかったのだ。

教師は厳しかったけれど、それでもやればやるだけ自分のためになるとわかっているのでメリッサはわからない事はどんどん質問したし、勉強の範囲が新しいところになれば目を輝かせて教師の話に耳を傾けた。

正直それだけでも結構疲れるものだったが、それ以外でもメリッサは自由時間ができれば使用人として仕事ができないかと、侍女頭――たまたま遭遇できた――に頼み込んだりもした。

それはジャンヌの耳に届いて、ジャンヌ自らメリッサと話をした結果、見事メリッサはこの屋敷で使用人として働く事が許されたのである。

働けば給金が出る。

ただそれは、他の家族には秘密だ。給金を貰った直後にアリッサが強奪にくる未来が簡単に想像できてしまったので。

メリッサが使用人見習いとして働くようになった事を、父や母、アリッサが何やら言っていたけれど。

メリッサは自分で選んだのだ。とやかく言われるつもりはない。

どうせ今まで父も母も気が向いた時にしかメリッサに構わなかったし、アリッサだって自分から奪うばかりで何かをしてくれた事なんてなかった。だから今更のように自分の身を案じているかのような態度に出られても、白々しいなとしか思えなかったのだ。

実際、メリッサを使用人扱いするなんてなんて酷い事を、とかなんとか言ってジャンヌに食ってかかっていたので、メリッサからするとなんて見当違いなとしか言いようがない。

ご飯だってアリッサに奪われたりせず自分の分は全部食べても許されるし、寝ている時にアリッサの腕や足が自分に向かってくる事もない。安心してぐっすり眠れる環境。アリッサはこの家に来て不幸だのと嘆いているが、メリッサにとっては幸せだった。

アリッサは素敵なドレスやアクセサリーといったものを望んでは願いが叶わず喚き散らしているけれど。

メリッサの望みをほぼジャンヌは快く叶えてくれた。

といってもメリッサが望んだのは、書庫にある本を読んでもいいか、だとか、裁縫を覚えたいだとか、そういった細やかなものばかりだったからこそ、好きにさせてもらっているというのもあるけれど。

メリッサが得た知識や経験は、アリッサが奪おうとしても奪えない。

だからこそメリッサは、自分にできる事をどんどん増やしていった。

そんなこんなで三年が経過した。

三年も経てば、いい加減自分の立場というものを弁えるかと思ったが、父と母はさておきアリッサは相変わらずだった。

父と母はジャンヌになんでしたら領地の片隅の屋敷でのんびり過ごされては? なんて暗に追い出されたいならいつでもご自由に、なんて言っていたのもあって、そこでようやく大人しくなった。

なんでもジャンヌ曰くの領地の片隅は、田舎も田舎でロクなものがないらしい。

それなら肩身の狭い思いをしてでもこの屋敷にしがみついている方が、まだマシらしい。そんなものなのかしら、とメリッサからすると首を傾げてしまうのだが。

アリッサは、懲りなかった。

最初にジャンヌに扇子で引っぱたかれるという暴力を受けているので、逆らったらまた痛い目を見る、と理解はしているようだが、それでも未だに贅沢をするという野望を捨てきれないらしい。

使用人として働き始めたメリッサと違い、完全なる穀潰しでしかないアリッサは他の使用人たちからの評判もあまりよろしくはない。けれどもアリッサがやらかせばやらかすだけ、あれと双子で苦労したんだね……と他の使用人――特に年上の女性陣がメリッサを労わってついでに甘やかしてくれるので、屋敷内でのアリッサの評判が下がれば下がる分だけ自分の評価が上がるので、メリッサはアリッサに忠告をするだとか、そういう事もしなかった。

どうせ言ったところで妹のくせにだとか言われて聞き入れられないのがわかっているのだ。

今まで散々メリッサを利用していたのだから、今までの分として今の状態を享受したっていいだろうとメリッサは思っている。

「ところでメリッサ。貴方、結婚に興味はあるかしら?」

ジャンヌの言葉はメリッサにとっては突然すぎるものだった。

「結婚、ですか? 相手によります」

突然だとはいえ、それでもメリッサはすぐさまこたえる。

正直両親やアリッサを見ているので、結婚というものに夢も希望もない。

メリッサからすればいくら好きだからって愛人の立場に甘んじていた母はどうかと思うし、父も正直あまり好きではない。この人たちがいなかったら自分は生まれていないとはいえ、生まれた後で愛情たっぷりに育てられたと言う自覚がないのだ。

それに、もし生まれてきた子がアリッサみたいだったら、と考えると結婚に夢も希望も持てなくたって仕方がないだろう。

そんな風に思った事を伝えれば、ジャンヌは笑っていた。淑女というよりはカラッとした青年みたいな笑い方だ。けれどもそれが妙に似合っていた。

「それもそうか。では、貴族の家と裕福だけど平民の商家。どちらがより魅力を感じる?」

「えぇ……家族構成とかそこら辺わからないとなんとも……貴族だからってお金を持ってるとも限らないし、家格が高いところだと作法とか私覚えられる自信がないし。

お金持ちの平民の家って言っても、そこの人たちと仲良くできるかもわからないうちから嫁ぐつもりは流石に、ちょっと……」

「身分とか財産よりも、気心知れた末永くやっていけそうな相手の方がいい、って事?」

「そうですね」

「わかったわ」

深く頷かれて、一体何がわかったのだろうか? と思うも、ジャンヌがメリッサの事を悪く扱った事はないので特に気にしないでおく。

そんな事よりも――

「あら、メリッサに結婚相手なんてできるの? ま、できたところで大した相手じゃないでしょうけど」

その場にいたアリッサが嫌味たっぷりで言ってくる。

ジャンヌの執務室でも私室でもなく、食堂での会話である。

それもあってアリッサがジャンヌとメリッサの会話が聞こえていても何もおかしくはなかったわけだ。

「意外とメリッサは引く手あまたでしてよ。この前行ったお茶会でも、マナーが良かったのもあって色々と聞かれる事も増えてきましたし」

「はぁ!? 何それお茶会!? あたし行ってないけど!?」

「そうでしょうね。メリッサは私の使用人として連れていったの。貴方はそうじゃないんだから連れていくわけないじゃない」

「どうしてお姉ちゃんを誘わないのメリッサ! 妹の分際で自分だけ美味しい思いをしようだなんて、なんて卑しい子なの!?」

「仕事だもの。行きたかったのなら、アリッサだってここの使用人として働いて、連れて出歩いてもいいって思われるくらいになればいいじゃない」

「冗談じゃないわ、なんであたしがそんな事。

ふん、どうせ見初めたっていう相手だって大した事ないんでしょ?

あたしはね、アンタと違って素敵な人を捕まえてみせるんだから」

身の程知らずも相変わらずだこと……

なんて小さな呟きがジャンヌの口から零れるも、アリッサは聞こえていないようだった。メリッサにはばっちり聞こえたので、危うく吹き出すところだった。

だってそうだろう。

未だに己の立場を弁えてすらいない双子の片割れは、一体何をどう思ってそんな態度でい続けられるのか。この家は確かに父の家ではあるけれど。そのこどもであるアリッサとメリッサではあるけれど。だが正統な、高貴なる血筋かと問われれば母が平民であるが故に、それもすぐさま頷けるものではない。

言ってしまえば双子はジャンヌのお情けでこの家に置いてもらっている居候。

本当だったらアリッサなんてさっさとこの家を追い出され――いや、叩き出されたって文句の言えない立場なのに。

それなのにどうしてこんなに大きな態度でいられるのだろう?

メリッサにはそれが本当に理解できなかった。

だからジャンヌの図太いですわね、だとか、時折零される言葉に本当にそれはそう、と頷くばかりで。

ただの居候で、ロクな教育も受けてなくて。

いいのは見た目だけで中身はメリッサから見てもどうしようもないこの姉は、もしかして貴族令嬢のつもりなのだろうか? そんな事はないのに。

貴族でもなければ、平民でもこんな態度の女、面倒すぎてマトモな相手は関わりたいとも思わないだろうに。

どうしてそんなに自信満々でいられるのだろう?

メリッサには本当に理解ができなかった。

「まるで貴方には貰い手がありそうな言い方ね」

素敵な人を捕まえてみせる、とアリッサが言ったのをジャンヌはどこか馬鹿にするような声音で言った。

思うだけならタダだけど、ではその素敵な人との出会いはどこにあるのかという話である。

屋敷で働く若い男性の使用人はアリッサの言う素敵な人には該当しないだろう。

所作などはアリッサとは比べ物にならないが、それでも身分だとか資産状況だとか、そういったもので言えば間違いなくアリッサのお眼鏡にかなってはいない。

「えぇ、あたしくらいになればいつか王子様だって捕まえてみせるわ」

少しばかり馬鹿にされた雰囲気を感じ取ったのか、アリッサはその挑発に乗るように返した。

王子様、とはまた大きく出たわね。

メリッサはいっそ清々しささえ感じ始めていた。

アリッサは己の外見に相当な自信を持っているようではあるけれど。

確かにこの家に来る前だって、可愛いと近所でも言われていた。

いた、けれど。

でもそれだけで、王子様と出会って自分が選ばれると思えるのは、あまりにも。

あまりにも自信過剰すぎやしないだろうか。

平民である母が貴族の父に見初めてもらった、という身近な実例のせいかもしれない。

けれどそれにしたって……という話である。

「あら? 王子様と結婚したかったの? だったら紹介してあげましょうか?」

「えっ!?」

ジャンヌの言葉にアリッサの声がひっくり返った。

てっきり精々がんばりなさいな、なんて言葉と共に嘲笑が返ってくるとでも思っていたのかもしれない。

それなのに逆に紹介してあげようか、なんて言うものだから。

「ふん、その手には乗らないわよ。騙して喜んだ直後に嘘だって、ってオチなんでしょ?」

「まさか。そんなに疑うなら、ちゃんと貴方の事王子様に話しておいてあげるわ。

貴方の釣書も用意した上でね」

「本当にできるの? できるものならやってごらんなさいよ」

「そう。それじゃあそうさせてもらうわ」

「後になってやっぱりあれは嘘でした、なんて惨めな嘘を告白する事がなければいいわね」

そう言ってアリッサは足早に去っていった。

その光景を見ていたメリッサには、何が何だかわからなかった。

「本当に王子様にあれを紹介するんですか?」

そもそも、できるものなの?

という疑問がメリッサにもある。

王子様、と言えば王家の、それはもう高貴な存在である。下々の民草がお目にかかる機会などまずもって存在しない、言ってしまえば雲の上の存在。

ジャンヌは貴族ではあるけれど、貴族だって皆が王家の人と気軽に接する事ができないのは、メリッサにもわかっている。

「ところでメリッサ」

「はい」

「貴方の人生にアリッサは必要?」

「いいえ」

王子様を本当に紹介するのかという疑問に返ってきた言葉は全然違うものではあったけれど。

それでもメリッサはジャンヌの質問に即答した。

昔から自分が姉だと言って、妹であるメリッサを自分の子分みたいに扱ってきた相手だ。

そのくせ、いざと言う時は姉の立場を放り投げ、双子だもの、と面倒な事から逃げ出そうとするのがアリッサである。

メリッサは記憶を思い返しても、アリッサに助けてもらった覚えがとんとない。困らされてきた記憶ばかりが蘇る。

今はまだしも、この先父が死んだら母と双子はこの家に住み続けられる気がしない。

メリッサは使用人として働いているからかろうじて滞在を許されるかもしれないが、その場合アリッサがしがみついてきそうな気がしてとても憂鬱である。母はどうだろうか? 今の今までほぼ無関心でも、縋れる人間がいるのなら、縋ってくるかもしれない。

そうなった時、メリッサがあの二人を養う事になるのかもしれないと考えたら、思わずゾッとした。

メリッサは別にアリッサに不幸になれとまでは思っていない。

ただ、今後の人生で自分に迷惑さえかからなければ、どこで何をしていてもいいし思わず自分が羨むくらい幸せになっていたとしても、それはそれでいいと思う。

今まで散々私に迷惑をかけておいて幸せに暮らしているとか……という思いもないわけではないが、まぁそれでも迷惑をかけ続けられるよりは距離がとれるだけマシだ。

もっとも、ジャンヌに訴えれば紹介状を貰って母とアリッサが関わってこれないよう、物理的に距離がとれる他家で働く事は可能かもしれないのだが。それでも完全に安心はできない。

だったら、自分とは関係のない場所で勝手に幸せに暮らしてもらえば、きっとアリッサの事だ。メリッサの存在なんてそうすればささっと忘れてくれるだろう。母だって大人なのだから、きっと自分の事は自分で何とかするはずだ。

そんな考えが顔に出ていたのか、ジャンヌは「ふっ」とかすかに笑った。

「そうか。じゃあ、アレにはこの家からご退場願おうか」

王子様を紹介、という言葉からは考えられないような言い方だった。

後日、屋敷に三人の男性がやって来た。

なんと三人ともが王子様である。

若く美しく権力と金もあるという、一体何なら無いのかと聞きたくなるような非の打ちどころがなさそうな、王子様が三名。

とんでもない大物が来た事で、メリッサは使用人として働くものの気が気じゃなかった。

茶会の準備を、と言われていたがその時点ではジャンヌの友人がくるものだとばかり思っていたのだ。

ジャンヌは多少のミスもまだ大目に見てくれるけれど、王子様はそうではない。

些細なミスで自分の首が飛ぶかもしれないのだ。物理的に。

だというのに。

アリッサはそんな王子様に近づいて、馴れ馴れしく話しかけていたのである。

あいつ恐れを知らないのか……!?

そう慄くのも無理のない事である。

王子様たちは一見すると言葉も態度も柔らかいし、無礼の塊であるアリッサにも真摯に接しているように見えたけれど。

離れて様子を見ていたメリッサからは、王子様の目が笑っていない事に気付いていた。

怖い。

一体いつバッサリ切り捨てられるのかわからない。血しぶき飛び散る展開は流石に見たくないから、その一秒前くらいには目を閉じる猶予が欲しい。

切実にそう願って、アリッサと似た外見である事を人生で一番恨んだ。今までもアリッサと双子で見た目が似ているせいで、アリッサに間違われた事もあるけれど、それはまだどうにかなった過去の事だ。けれど今は違う。

アリッサと似た外見のせいで、アリッサの無礼が飛び火するかもしれない恐怖がある。メリッサは何も知らない幼子ではないので、やらかし度合いによっては連座処分というものがあると知ってしまった。

恐怖で顔が青ざめているメリッサを見かねて、他の使用人がそっと別の仕事を割り振ってくれたから、それ以降はアリッサの非礼と無礼の数々を目の当たりにする事はなくなったけれど。

王子様たちがお帰りになられる、というその瞬間まで気が気じゃなかった。

アリッサは王子様たちが帰っていったあと、わざわざメリッサにいかに王子様たちが素敵で優しくて紳士的だったかを自慢げに語って聞かせた。

あの人たちのうちの誰かのお嫁さんになれるかもしれないのよ、と言っていたが、正直何一つとして羨ましくはない。だって目は絶対零度だった。

恋をする目なんかじゃなかった。むしろ品定めをしているような……何かを見定めようとしていると言われたらしっくりくる目だったというのに。

アリッサはそれに気づいていないのだろうか。

気付いていないのね、とすぐに思い直したが。

だって麗しの王子様が三人もいて、それぞれがアリッサに優しく接していたのだ。表面上とはいえ。

浮かれて、余計な部分には目がいかなかったとしても仕方がない。

どう? 羨ましいでしょう? とばかりのアリッサに、メリッサは、そうね、幸せになってね……と力の入らない声で言うのが精一杯だった。

だってジャンヌがアリッサを幸せにするために王子様と会わせたなんて、とてもじゃないが思えないのだ。

今までのアリッサのジャンヌへの態度から、そんな事をされるはずがないとわかるだろうに、しかしアリッサは周囲が自分のために動くのは当然とばかりである。

こんなに浮かれ切ったアリッサに、やめといたほうがいいよ、なんて言ったところで嫉妬してるとか、自分の方が幸せになりそうだからって足を引っ張ろうとしているとか思われるのが目に見えている。

一体どんな裏があるのかがわからないからこそ、恐ろしい。

その後、王子様がアリッサと結婚したいと言う話が出て、アリッサは当然とばかりだった。

三人の王子様のうちの一体どなたが……とメリッサは思ったが、もう正直誰であっても怖いという感想しかでてこない。なんで見初めちゃったの王子様。もしかして女の趣味が大層悪いのかしら、とも。

アリッサが王子様と結婚すると聞いて大喜びだったのは、両親である。

この後アリッサは王室に入って結婚の準備をすると言われて、この屋敷から出て行くのだとメリッサは理解した。

両親に関しても、娘が嫁ぐのだからそれを節目に、そちらもそちらでお二人で仲良くやられては? なんてジャンヌが言って、別邸を用意されるようだ。領地の片隅などではなく、王都に。王子様に嫁ぐ娘から、これからは生活の援助をしてもらえばいい、と言われて。

父はそれもそうだなと頷いたし、母も反対はしなかった。

ただ一人、メリッサは。

「彼女はこれからもうちで働いてもらうわ」

ジャンヌがそう言ったので、メリッサは内心で安堵する。

アリッサが可哀そうだし、愛人として一緒に連れてってあげようか? なんて失礼極まりない事を言ってもメリッサは首を横に振ったし、両親が一緒に来るかと聞いた時も首を横に振った。

働かなくたって、みたいに言われてもメリッサの答えは変わらなかった。

そんなメリッサの態度を、ジャンヌだけが満足そうに見ていたのである。

「――そういえば、私たちの父と、貴方の母、どうやら生活が立ちいかなくなって王都の屋敷を売りに出したみたいよ」

ジャンヌがそう言ったのは、昼下がりのお茶を飲んでいた時だった。

まるで明日の天気は晴れるかしら? みたいな軽い口調だったのもあって、メリッサは最初何を言われたのかよくわからなかったが、一瞬遅れて理解してから「えっ!?」と思わず大声を出してしまう。

意気揚々とこの家を出ていった両親。

確かに既にこの家の当主はジャンヌとなれば、肩身の狭い生活だったのは確かな事で。

けれども出ていこうにも、ロクな行くアテもなかったから、かつての当主だったという立場だけでこの家に居座り続けていたようなもの。

その気になればジャンヌにいつ追い出されたっておかしくはなかった、というのを父も薄々感じてはいたのだろう。流石にそれくらいは理解できていないと困る。

「アリッサが援助をしなかった、って事ですか?」

「そもそも援助なんてできやしないわ」

貴方も座りなさい、と言われて、メリッサはおずおずとジャンヌの向かいの椅子に腰を下ろした。

別の使用人が、メリッサの分の紅茶を用意する。

「アレはさておき、私はね、貴方の事は妹として見ているのよ。これでも」

「……ありがとう、ございます……?」

「だから貴方の幸せには手を貸したいと思っているの」

そう言われても、メリッサにはそこまで目をかけてもらえる理由がわからない。

けれども、わざわざ使用人としてではなく、メリッサとしてこの席につけ、と言われたのだからそれはこれから語られるのだろう。

そう思ったのは間違いではなかったようで、ジャンヌは言葉を紡ぎ始めた。

「まず、国王陛下には息子が二人いるの。そのうち一人は結婚して子が生まれた。三人の息子がね」

「あれ?」

「えぇ、以前訪れた方々がそうよ。で、アリッサが嫁いでいったのは、結婚していない方の王子。

そもそもあの三名にはちゃんとした婚約者がいるもの。アリッサを見初めて結婚なんてするわけがない」

「えっと……つまりそれって」

「えぇ、アリッサが嫁いだ先の相手は、自分の父親よりも年上の男よ。即位していないから王子という身分ではあるわね。臣籍降下もしていないもの」

「なんでしてないんですか」

「そこは色々な確執と柵ってやつね。臣籍降下させるにも嫁いでいきたいという令嬢はなく、また他国へ婿として出すにも少々……というね、少しばかり問題のある方なの。

でも、毒杯を与える程の悪事を働いたわけでもなければ、幽閉も難しい……グレーゾーンなのよね。

このままずっと独り身にしておくにも、そのせいで下手に身軽なのも困りもの。だからね、ちょうどいい生贄がいれば少しは大人しくさせられるかも……と王家は考えていたようなの。

……でも犠牲になる人が出るわけでしょう? それは流石に、と陛下も考えていた。いっそ処分できる正当な理由があればいいけれど、そこまではやらかしていないとはいえ問題がないわけじゃないもの」

困ったように小首を傾げたジャンヌに、メリッサも考えた。

生贄のように嫁がせた相手に何かがあったとして、そうなればその家と王家との仲に亀裂が入るのは恐らく確実で。その家に対して王家が何らかの補償をしたとしても、禍根が残る可能性はある。

かといって平民を嫁にするわけにもいかない。むしろ相手が平民となれば、どんな扱いを受けるかもわからないし、万が一の事があってももみ消される可能性がとても高いからだ。

考えていくうちに思考が同じところを巡っている感じがして、メリッサは思わず俯いていた。

平民は無理。そうなると嫁ぐのは貴族の血を引く娘になるわけで。

「あ」

同じようにまた思考がループしかけたところで、メリッサはようやく気付いて顔を上げた。

「そうね。一応貴族の血を引いているから体裁は整わなくもないし、仮に酷い目に遭わされても特に文句がくるでもない。妻と言う名の生贄を、きっと彼だってすぐに壊しはしないでしょう。

だって、次はないかもしれないものね?」

「わ。わぁ……」

処分に至る問題がないのなら、問題を起こさせればいい、とまではいっていないのかもしれないが。

だが、アリッサが仮に死んだところで、次の嫁が来る事はない。

「えっと、つまり両親の生活が立ちいかなくなったのは、援助がなかったから」

「そうね」

「でもそれなら私の方に連絡がきそうなのに」

「父は仮にも貴族よ。娘が王家に嫁いだと言っておきながら、使用人をしている娘に生活の支援をしてくれ、なんて言えるわけないじゃない。ましてや私になんて絶対に縋ってこないでしょうし」

「でも屋敷を売ったんですよね? 住む場所に困ってこっちに来たりは」

「しても追い払うに決まってるでしょ。一応身内のよしみで領地の片隅くらいなら滞在を許可するけど、そこに行く事もないでしょうし」

それでなくとも、とジャンヌは言う。

王都の屋敷を売るというところまでやらかしている。その上ですごすごとここに戻ってきたら、この先ずっとジャンヌにチクチクとこき下ろされるのが目に見えているのだ。父がそれを良しとできるはずもない。

そう言われてしまえば、メリッサも一応納得はできた。

今まで育ててやった恩を~、だとか、そんな風に言ってくる可能性もあったのだけれど、それよりもプライドが勝ったというのなら。

そうなのだと思う事にする。

同時に、実はそういった救援要請が来たかもしれないけれど、ジャンヌが何か、裏で手を回したのかもしれない、とも。メリッサにそういった事はできなくても、ジャンヌならできる。

何もしていなくて、勝手に向こうが落ちぶれたかもしれない。

でも、何かしたかもしれない。

「……ありがとう、ございます」

確証はない。けれども、それでもメリッサは自分が守られたのだと感じて。

何に対してかは言わずにただ謝辞を述べた。

ジャンヌもそれが何を意味しているのか、特に聞き返したりはしてこなかった。

ただ一言。

「どういたしまして」

そう言って、笑ったのである。

――ジャンヌにとってメリッサは、可愛い妹分である。

母が亡くなった後で父が連れてきた娘。二人いて、顔はそっくりで。双子であるとはすぐに理解できたけれど、メリッサだけが。

あの中で彼女だけが浮かない表情をしていたのだ。まるでここに足を運ぶのは気が進まない……とばかりに。

現実が見えていない愚かな父と、その愛人。そしてもう一人の娘。

娘はまだこどもだからわかっていないのかもしれないけれど、だとしたらもう一人だって同じはずだ。

彼女だけが、現実を見据え現状を把握していた。

ジャンヌはこどもが嫌いではない。賢いこどもであるのなら好ましいとも思っている。

一応半分は父の血を引いているのだから、と教育を施してみればメリッサは素直に、真面目に学び始めた。わからない事は率先して質問し、着実に己の糧としている。それだけではない。自分から使用人として働きたいと言い出したのだ。働くようになったからといって、学ぶ事もやめなかった。

できる事を着実に増やして、自分の足場を固めていく様を見てジャンヌは彼女だけは認めたのである。

表向きの体裁を整えるためだけのポーズではない。

いつここを追い出されても大丈夫なように、一人でも生きていけるように。

そんなメリッサの奮闘ぶりを見て、ジャンヌはメリッサを自分の近くに置く事に決めた。

貴族の娘としての暮らしは無理でも、それでも生活に困らないだけの援助はしたい、と素直に思ったのだ。

そうして身近に置く事で、彼女の優秀さは友人たちにも知られる形となったけれど。

結果として、彼女を嫁にしたい、という者も出てきた事には少しばかり頭を悩ませたけれど。

彼女が生活に困らなくて、それでいて幸せになるのなら。

そんな風に思うくらいには、ジャンヌはメリッサの事をすっかりと気に入っていた。

だが彼女をどこかに嫁がせるにしても、邪魔な存在がいる。

双子の片割れのアリッサはもしメリッサの結婚相手がいいと思えば割り込んで邪魔をしかねないし、父もメリッサの結婚相手次第ではそちらにタカる可能性も有り得た。メリッサの母に関してはどう動くかよくわからなかったが、恐らく父に付随するだろうなと。

であれば、まずは邪魔者を排除しなければならない。

そう考えて、ジャンヌはこっそりと己の婚約者と計画を練ったのだ。

こちらの関係に割り込まれても面倒だから、父が愛人を連れて戻ってきてからは一度も彼は屋敷に足を運ぶ事はなくなったけれど、連絡の取りようはいくらでもある。何も困らなかった。

そもそもの話、王家にいながら臣籍降下するでもなく、ずっと王子としての立場にある存在を周囲が持て余していたのは暗黙の了解とも言えるべき事で。

国王陛下が年老いてもなお現役だといって未だ退位していないからこそ、というのもあるのかもしれないが、ともあれいい加減未婚のままで彼をおいておくのも……と色々言われているのもジャンヌは把握していた。

何せ自分の友人たちは、王子の婚約者である。現王が退位したとしても、次の王は未婚のまま年を重ねたあの男には決してならないし、結婚し三人こどもを持っている王子でもない。

三人の王子の中から一人が選ばれるのは既に確定していたし、誰が即位するかも既に決められている。

けれども不測の事態を招きかねない男をそのままにもしておけない。

アリッサと王子との結婚は三人の王子が見定めたうえで決定された。

彼女のような無礼者なら別にどうなったって構いやしない、と三人一致で決められたとは、あの時のアリッサには夢にも思わなかっただろう。

あの三人の中の誰かと結婚すると思っていたのに、結婚相手が自分の父親よりも年上の男とくれば、さぞ嫌がったに違いない。

けれどもこの結婚は、王子にとっては避けられないものになってしまったし、アリッサとて王子様と結婚したいと言っていたのだから、別に何も問題はない。

ジャンヌはアリッサの希望を叶えてあげただけだ。

王子様に紹介だってした。

紹介した王子以外の王子と結婚する事になったが、それでも結果としてアリッサは王子様と結婚するのだから別に嘘は吐いていない。

むしろ別段目をかけていたわけでもないアリッサに、ジャンヌがそんな風に言って本当に王子様と会わせる機会を作った時点でおかしいと思わなかったのがどうかしている。

それとももしかして、一応半分は血の繋がりがあるのだから、ジャンヌがアリッサの事を慈しむのが当然だとでも思っていたのだろうか?

メリッサならともかくアリッサとの思い出なんてロクなものがないというのに。

今更こどもが生まれても困る事にしかならないだろうから、とアリッサには避妊薬――どころか不妊になる薬を盛った、と報告は受けている。

自分の子を持てず、それどころか年の離れた男に弄ばれるのが確定した結婚、と言われると不幸の気配しかしないけれどでもアリッサの望みは叶っているのでジャンヌは罪悪感すら湧いてこなかった。

若い娘が生贄になった、と聞けばジャンヌの心も少しは痛むが、しかしその若い娘がアリッサというだけで心の痛みは消える。屋敷を売り払って住む場所を無くした後の父はメリッサの母を連れてどこぞへと行ってしまったが、まぁ、それもジャンヌにとってはどうでもいい事だ。

今はまだでも、そのうちアリッサと出会える日もくるだろう。

それが、空の上か地の底かまでかは知った事ではないが。

残ったのはメリッサだけ。

様々なものを学んできたメリッサは、いずれここを出る事も考えていたようではあるけれど、ジャンヌは手放すつもりがない。メリッサはジャンヌの事を姉というよりは雇用主と見ているようだが、ジャンヌはメリッサの事だけは妹だと思っているのだ。

必要なら養子に迎えたって構わない。

メリッサが貴族としての生活を望まないのなら、無理にするつもりもないけれど。

とりあえずは、メリッサに想いを寄せている数名の相手の情報をメリッサに流して、彼女の反応を見るところから始めよう。

いずれはコイバナなんてものを気軽にできるくらいになれればいいな、なんて。

それを言えばきっとメリッサは戸惑う気がしたので、心の中だけに留めておく。

「メリッサ。とりあえず気が向いたらでいいのだけれど」

「なんでしょうか?」

「私の事はお姉さまって呼んでくれてもいいのよ?」

「姉、ですか」

「そう。困った事とかあったら何でも相談してちょうだい。全部を解決できるかはわからないけれど……でも姉を名乗るのだもの。頼ってもらえたら嬉しいわ」

メリッサにとっては突拍子もない言葉だったのだろう。

どこか戸惑った目を向けられたけれど。

「えぇと……前向きに、善処します……?」

とても困惑気味な口調だったけれど、それでもジャンヌは構わなかった。

何事も最初の一歩が肝心なのだから。