軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話『雨の日には新しい味を②』

久我は管理人室で差し入れの酒をアンドラスの前に置いていく。

人間の『食』の探求者であるアンドラスなら、酒も当然味わいたいだろうと思っての気遣いだった。気遣い兼自分が飲みたい理由付けだった。

「遠慮せず飲もうぜ。外にもいけなくて暇だしな」

久我がそういうと、アンドラスは缶のラベルに目を落とし、少し困ったような笑みを浮かべた。

「お酒ですか……ふむ」

「なんだ? もしかして飲んだことない?」

「いえ、少しだけ試したことはあります。なんでも古来より食と酒は切っても切り離せない一部だと本にも書いてありましたので。そこでお酒の中でも愛飲者の多いらしいビールというものを試してみたのですが……」

アンドラスはふるふると首を降った。

「なんとも苦くて、これは本当に美味しいのでしょうか? 本では美味しく飲んでいる様子が書いてあったのですが」

「あーー……もしかしてアンドラスって酒それが初めてだったか?」

「はい。ここに召喚される前には食べ物も酒もありませんでしたから。自分たち悪魔は魔力をエネルギー源にしていますので」

「じゃあちょっぴり厳しかったかもな、ああ。ビールはメジャーだけど初心者向けじゃないんだよ。俺も最初はにげーだけじゃんこれって思ってたし」

「そうなのですか?」

「そーだぜ、慣れてから飲むとうまいタイプだ。初心者なら、こっちのレモンサワーとかがいいと思うぜ。こいつなら炭酸飲料みたいな感覚で飲めるしウマい。まあ、飲めないやつに無理に進める気はないから無理して飲まなくてもいいぜ別に」

アンドラスはレモンサワーの缶を手に取る。

初めてのビールで懲りていたが、しかし人間の食については自分よりも人間の方が詳しいはずだ。

その人間が言っていることなら信憑性は高いと判断して良いのではないか、とレモンサワーに描かれた半分に切られて果汁が飛び散る爽やかなレモンのイラストを見ながら考える。

「いえ、自分は人間の食はなんでも試してみたいです。飲んでみましょう」

「お、マジ? まあ飲んでみてダメそうなら無理はすんなよ? 酒は酒だしな」

「お心遣い痛み入ります……ゴクッ……これは!」

アンドラスの眉間のシワが表情から吹き飛んだ。

「おいしいですね! たしかに飲みやすい、炭酸ジュースに近いです、しかし後口に普通の炭酸にはないえもいわれぬ風味がする……っといった感じでしょうか」

「お? イケた? やっぱそうだよなー、最初はサワーが飲みやすいんだって。よし! じゃあ他にも飲むか。俺の部屋なら他にも酒があるし、色々試してみるといいぞ!」

そして久我とアンドラスは105号室、久我の部屋へと一緒にやってきた。

久我が冷蔵庫を開くとそこには色とりどりのラベルの缶が出迎え、アンドラスの瞳が輝く。

「おお、こんなに色々な種類があるのですね」

「そうだ、しかもMPも安い。安くてうまい、最高だろ?」

「そうですね。これ、いただいても?」

「もちろん。おっとそうだ、酒飲むならつまみもいるよな」

久我は部屋の角にまとめて置いてあるお菓子のところに行くと、ポテトチップスとチョコレートを持ってきた。

床に紙皿を起き、そこにお菓子を広げて座って囲んだ。

アンドラスも座りつつ、

「テーブルはないのですか?」

「買うのは後回しでいいっしょ。別に床に置いても飯は食えるし」

「なるほど、久我様はワイルドでいらっしゃいますね。これらがお酒と相性がいいのですか?」

「ああ。まあ食ってみな」

アンドラスはサワーを飲み、ポテトチップスを食べる。

と、

「これは! ポテトチップスの塩気と油っこさが、サワーの風味と炭酸と化学反応をおこしているではありませんか」

「わかってるじゃん、それがいいんだよ。あとはピザなんかも最高だな。アツアツだとなおよし」

「それは想像するだけで食欲が湧き上がってきますね」

「まあうちにはピザは……あ、そうだ。冷凍のやつだけどあったな。食うか?」

「ぜひ! いただきます」

冷凍ピザをレンジで温めて食べ、酒を飲む。するとアンドラスはさらに至福の表情になる。

「なるほど酒が食と深く関わってきた理由が理解できました。この組み合わせは素晴らしい」

「初心者ならサワーとかそういうのが無難だけど、慣れて色々飲めるようになればさらに世界は広がるんだよなー」

「それは……とてつもなく楽しみです。もう一枚ピザいただいても?」

「ああ、当然だろ!」

こうやって飲み食いするなんて本当に久しぶりだな、と初めての食経験を楽しむアンドラス同様久我もまたこの時間を楽しんでいた。

(妙なマンションに妙な管理人だが、妙で良かったぜ)

それから二人は盛り上がり、空き缶はどんどん積み上がっていった。

二時間後――。

「あー、飲みまくった。さすがにもう無理だ」

耳まで赤くなった久我が笑いながらアンドラスに話しかける。

「ええ、非常に美味しかったです。それに爽快な気分ですね。新たな食の扉を開けました、ありがとうございます久我様」

「いや待てよなんでお前全然酔ってねえんだ? 顔色も変わってねえし、初めてなのにどういうことよ!?」

アンドラスは満足気に笑って言った。

「もちろん、悪魔ですから」