軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アンダーグラウンドモール

「おお! おお! いいですねえ!」

ショッピングモールの広い通路の両サイドに並ぶ店舗を左右に首を振りながら見る雪代が歓声をあげている。

右手には衣料品店、左手にはキッズスペース、前方右手には輸入食料品店、前方左手にはコスメショップ、さらにその前にはエスカレーターがあり、上階にも店があるはずだ。

壁が一部崩れたり土砂が一部流れ込んだりしているが、それでもかなり建物の状態はいいまま残っている。

魔獣もいないようだし、落ち着いてショッピングができそうだ。

「あ、これは暖かいウェアじゃないか」まず衣料品店を見ていると、世界がこうなる前に愛用してた衣服を見つけた。「それに肌触りのいい下着に、伸縮性のいい部屋着、昔よく着てたのが残ってるとはいいな」

試着室も残っていたので着てみると、うん、マンション通販のより着心地がいいな。あっちも悪くはないが、企業努力の賜物だ。

「うっわー! これまだあるんだ。高校生の頃使ってたなー」と雪代もコスメショップで楽しそうに商品を見ている。マンション通販は便利だけど、やっぱり自分が知ってる品っていうのはまた違うものなんだよな。特別愛着があったってわけでもないけれど、それでも思い出がある。

さて、アンドラスはというと。

「ドーナツ……美味しかったんでしょうね……」

もう商品の札しか残っていないドーナツ屋でたそがれていた。

まるで雨に濡れた捨て犬のように寂しげな目をしている。

「ああ、美味しかった。だがもう過去の話だ、こればかりはしかたないさ」

「そのとおりです、自分もわかっています。ですが、想像は止められません。きっとどれも甘く、これはサクサクでこっちはモッチリ、色々な食感に香り、えもいわれぬ美味しさが舌を喜ばせてくれたのでしょう」

かつては棚に多種多様なドーナツが並んでいたドーナツショップも、ネズミか何かにきれいに食べられたかはたまた風化したのか、棚にはもうドーナツはなく、商品名を書いた札だけが残っている。

あとはトングとトレーだけが往年のドーナツ屋の面影を残すのみだ。

あ、アンドラスがトングをカチカチさせてる。

というように思い思いにショッピングモールを見て回っていると、ひときわ大きな販売エリア――スーパーマーケットがあった。

冷蔵庫や普通の棚が広々とした空間にいくつも並んでいて、もう電気が止まり溶けたアイスやチーズのようになっている元ヨーグルトや、目を背けたくなるドロドロした何かに変貌したお惣菜など、残っているからこそ恐ろしいものがいくつもある。

そんなものを見てうなだれるアンドラスを見ているとかわいそうになるが、さっきも言った通りこればかりはどうしようもない。

もとより予想できていたことだ。腐らないものだけ回収して満足するしかない。

ソースやスパイス、ふりかけ、瓶詰め、レトルト食品や缶詰は今でもまだ食べられる。

俺達はそこから自分がよく食べていたブランドのものを持っていった。

一口にソースや醤油と言っても、製品が違えば味は結構違うので、自分のお気に入りのメーカーのものを買えるのはいいことだ。

特に嬉しいのはレトルトカレー。

スーパーマーケットには本当に多くの種類のカレーがあり、グリーンカレーやビーフカレー、チキンカレーにスープカレーと毎日違うカレーを楽しめそうなほどだ。

俺達三人が一番テンション上がっていたのもカレー売り場。

崩壊前じゃ滅多に買わなかったお高いレトルトカレーも、今の世の中なら遠慮なく食べられる。

崩壊世界にもいいことあるんだな。

「カレーライスへの造詣が深まりそうですね」

アンドラスも少しは元気を取り戻したようだ。

そうしてスーパーマーケットのエリアを見てまわったあとは、エスカレーターを登り二階へ――といっても二階も地下に埋まっているが――行ったのだが、そこにはまた別の店があった。

まず一番目を引いたのは百均。

「うおおお! 百均がある! これ絶対欲しいものが見つかるやつ!」

と雪代のテンションがマックスになっていた。

だが実際百均ってなんでもあるから便利でいいよな。

水回りに掃除用具、食器に雑貨にゴミ箱にお菓子に。

まあメーカーにこだわらないなら通販でもいいけれど、これだけ広いところに多くの物がある光景は、今の世の中ではテンションが上がる。

俺達は百均で目についたものを次々ともっていった。さらに二階には、回転寿司や和食屋などの飲食店、アイスクリーム屋、寝具、家具の店、などがあり、俺達は必要なものをいくつも手に入れることができた。

結局今日は暗くなるまで一日中ショッピングモールを歩き回った。

それでもまだ全部は回りきれなかったくらいだし、もう十分収穫があったけどまだまだ何日か通ってもいいな。

かなりの収穫にホクホクでショッピングモールから地上へ戻った俺達は帰路についた。かつての愛用品について思い出話なんかをしつつマンションへ戻り雪代とアンドラスに別れを告げ、俺は101号室に戻った。

今日の戦利品を整理しつつ、いつものように手癖でマンション通販のディスプレイをオンにする。

「……『+』?」

この前、マンション通販が進化した。

それによって製品ごとに細かな種類が追加されたのは以前にも利用したとおりだ。

たとえばチョコレートの通販をしようとすると、ミルクチョコレートやアーモンドチョコレートなど細かい種別も買えるようになっていた。

実際今表示されている画面では、チョコレートを選ぶと次により細かい種類を選べるようになっている。

その細分化された項目の最後に『+』という記号が書いてあることに気づいたんだ。

通販の進化、増えた種類に気を取られていて、そんな記号にはただのレイアウト上の何かだと思って気を払っていなかったけど、時間がたって落ち着いてから見ると何か意味ありげに見えて気になってきた。

いったい何がプラスされるんだ?

俺は『+』をタップしてみた。

『商品の全部または一部をリサイクルボックスに投入することで、通販ラインナップの細分化された種別として追加できます』

画面に表示された説明文は、アンドラスへのこの上ない朗報だった。